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 戦いを忌避していたあれは、死を忌避していたのかもしれないな、とナセはぼんやり思った。きっと知らぬ間にナセは気づいていたのだ。いつでも死ぬ可能性があるということに。

 けれど、モモが死ぬ前にはっきりそのことを悟ることはできなかった。

「このたびはご愁傷さまです。心からお悔やみ申し上げます。モモさんの遺体は引き取らせていただきました。町の管理施設で保管しております。近日葬儀をあげたいと思うのですが、いつがよろしいですか?」

 玄関を開けたら、実直そうな役所の男がいた。

「……ちょっと待って」

 ホドに聞かないと、とナセは寝室を見に行くが、いまだホドは隅の角から動いていなかった。ベッドで眠らないし食事もろくに取らない。これではホドも死んでしまう。

 あれじゃ葬儀になんか行けないな、とナセはホドの都合を聞くことを諦めた。玄関に戻って、男に尋ねる。

「あの、俺達はいつでもいいです。役所としてはいつごろがいいんですか?」

「そうですね、あまり時間がたつと遺体の状態が悪くなりますので、早めになさった方がよろしいかと思います。しかし準備もありますので、明後日でいかがでしょうか」

「じゃあそれでお願いします。あの、遺体ってどうなるんですか」

「火葬です。残った骨はお渡しできます」

「はぁ……」

 骨をもらってもどうしようもない。モモは生き返らないのだ。しかし、モモの一部だったものを手元に置きたい気もした。

「あ、申し遅れました、わたくしカワと申します。葬儀のことで疑問などがおありでしたら、わたくしの名前を出してお問い合わせください」

 カワは懐から名刺を取り出し、ナセに渡した。

『カワ  町役場慶弔課 係長  6253-094-33-3249』

「あぁ、はい……ありがとうございます。あ、俺はナセです」

 ナセが名乗ると、カワは少し微笑んだ。

「知ってます、有名ですから。実は私、あなたがたのファンだったんです。モモさんが亡くなって本当に悲しいです」

 カワは一礼して、小屋から離れた。

 小さくなっていくカワの後頭部を眺めながら、ナセは感慨に浸る。

 あの人も、あの熱狂の渦の中にいたのか。拳を突き上げて叫んでいたのか。町の三分の一の人間の中の一人だったのか。

 ――でももう無理だ。

 もうあの空間は生まれない。楽しかった時間は戻らない。永遠に。

 ――モモが、いないから。

 ナセは玄関の扉にもたれながら、ずるずるとずり落ち、地面に尻をついたところで深いため息をついた。何もかも放りだしてひたすら地に伏していたい倦怠感と、滅茶苦茶に叫んでどこかに飛び出したくなるような衝動が一挙にやってくる。

 それらを座ってやりすごして、ナセは静かに立ち上がった。

 沈んでいる場合ではないのだ。自分よりどうしようもなく傷ついている人間がいるのだから。

 ホドは、明らかに良くない状態だった。

 モモが死んでから二日。今立ち直れというのは酷だ。しかし、一週間後もこの状態でないという保証はない。遠慮してそっとしておいたら大変なことになる。無理矢理でも食べなさせなければ。

 片手鍋でおかゆを作りながら、ナセは考える。もしかしたらホドは、自分が剣を落としたせいでモモが死んでしまったと思っているのかもしれない。実際はあの剣がなくとも、モモは影人の拳か棍棒で殺されていただろうが。ただちょっとタイミングが悪かっただけなのだ。今まで何事も無かった方が奇跡というぐらい、簡単に、本当に簡単に死ぬことができる。

 ――なんで、平気でいられたんだろう。

 改めて不思議に思いながら、ナセはできあがったおかゆをスープ皿に入れ、寝室に運んだ。

 戸を開けると、見上げたホドの瞳が居間の灯りに反射して、ぎらりと光った。

 ホドの快活で気のいい部分はモモの首と一緒に切り落とされてしまったのだと、ナセは悟った。





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