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第八話 あなたに届ける幸せを

ラピスは今日もフィリア派の主催の舞台に参加している


ラピスは今では舞も歌も人気の

押しも押されぬ「聖歌姫アイドル」として

皆に愛されている。


舞を奉納する時は

顔は薄いベールで覆われ、

服装は水着を思わせる動きやすいデザインで、

全身には煌びやかな宝石があしらわれ、

光を受けて舞をさらに美しく見せてくれる。


歌を奉納する時は

舞姫衣装を制服風にアレンジして

仕立てた服を着こなしている

青と白のフリルと宝石が可愛さと華やかさを両立して

演出している


皆からの声援を力に変えて笑顔の魔法で

舞台を見る人々を魅了した。


「皆〜応援ありがとう〜。

楽しんでくれたかな?

あたしの幸せな気持ち届いたかな?

それじゃ、次の舞台でお会いしましょう。

またね〜」


舞台を降りるとファンという女の子がそばに来て

「どうしたらラピスちゃんみたいになれますか?」


そうだねえと言いながらあたしは昔のことを思い出していた。



5歳の頃、町で「デート」の話を聞いたあたしは、


「おじさま! ラピスもデートしたい!」


と目を輝かせておねだりしていた。


おじさまはそのお願いに笑顔で頷き、


「もちろん。今日はラピスとデートしよう。」


と言ってくれて

二人でハースベルへ出かける。



クロワッサンにて


ルナさんが採寸をしながら笑う。


「今日は可愛いお姫様のデートだものね。」


新しい服を作ってもらい

あたしは嬉しそうにくるりと回った。


「楽しんできてね。」


とルナさんは優しく送り出してくれた。


次は木漏れ日に向かってデザートタイム。


普段は隣同士だったけど、今日は違う。


おじさまは椅子を引き、


「どうぞ、お姫様。」


とエスコートしてくれたのが嬉しくて

少し照れながら座る。


ケーキも今日は特別でいつもは高くて選ばなかった

パフェを頼んでも


「今日は遠慮しなくていいよ。」


と言ってくれた。


そして


「あーん。」と食べさせてもらいあたしは幸せそうにパフェを満喫した。



町で2人手を繋いで歩いていると

ハースベルの町の人はみんな微笑んでいた。


「今日も仲良しだね。」


「アルフォンスさんとラピスちゃん。」


あたしは少し不満だった。


「カップルって思われてない……。」


でもおじさまは気づかないのかいつも通り笑っている。




帰り道、あたしは気になったことをおじさまに尋ねた。


「ねえ、おじさま。」


「なんで今日はこんなに特別なデートをしてくれたの?」


おじさまは少し照れながら笑う。


「今日はラピスの誕生日だから。」


「我が家のお姫様には、

今日は思いっきり楽しんでほしかったんだ。」


その一言で、あたしの嬉しさがあふれて

勢いよく抱きつく。


「ありがとう!」



今日のお返しに、巡りの大樹の下で


あたしは最近覚えたばかりの聖歌を歌う。


お世辞にも上手ではない歌だったけど

誰でもないたった一人のおじさまのためだけに

心を込めて歌っていた


歌い終わると静かな拍手。


おじさまは微笑んで


「ありがとう。」


「すごく素敵だったよ。」


その笑顔だけで、世界一幸せだった。


その日はあたしにとって特別な1日になった


大好きな人と手をつなぎ、笑い合い、歌を届け、

喜んでもらえた幸せを知った。


「大好きな人と繋がることは、とても幸せ。

なら、その幸せをもっとたくさんの人へ届けたい」


という想いが芽生えた。




シエスタへの帰り道


手を繋いで歩く。


いっぱい遊んだ。


いっぱい笑った。


眠たくなる。


歩きながら、


こてん。


アルフォンスは笑って背負う。


「今日はいっぱい遊んだからね。」


ラピスは眠ったまま、


小さく呟く。


「……おじさま、だいすき。」


アルフォンスはその寝言を聞いて、


優しく微笑みながら、


夕焼けに染まるハースベルをゆっくり歩いて帰っていった。




あれから時間が経ち10歳になったあたしは

フィリア派の神官見習いとなった。


毎日、歌、踊り、お祈り、勉強と

忙しい日々を送っていた。


でも不思議と、町を歩いていると

たくさんの人が笑顔で声をかけてくれるようになった。


どうしてなのかは、あたしにはよく分からなかった。


ただ、あたしが笑うと、みんなも笑ってくれる。


それが嬉しくて、あたしももっと笑顔になった。


そうして、気がつけばーー

一緒に笑ってくれる人も、少しずつ増えていった。



今日は楽しみにしていた

おじさまとの久しぶりのデート。


……のはずが。


町を歩けば、


「ラピスちゃん!」


「歌のお姉ちゃん!」


「ちょっと来て!」


あっちこっちから声がかかる。


誰かが聞く。


「その人、お父さん?」


あたしは笑って、

おじさまの腕にぎゅっと抱きつく。


ウインクしながら


「ぶぶー♪」

「あたしの大切な人でーす!」


というと

町のみんなは思わず笑ってくれた。



小さな子と遊んで歌をせがまれたり。


市場のおばちゃんと立ち話して歌を褒められたり。


おじいちゃんの荷物をお家まで運んだり


気付けば夕方で予定していた場所には行けず、

デートらしい時間はほとんどなかった。



「ごめんね、おじさま……今日はデートだったのに」


と謝ると


「どうして謝るの?

ラピスが楽しそうで、僕も楽しかったよ」


とおじさまは返す。


デートらしいことは、

あまりできなかったかもしれない。


でも――

あたしは、おじさまと一緒に歩いている時間も

楽しかった。


たくさん話して、たくさん笑って。


おじさまも同じように

楽しいと思ってくれていたら嬉しいな。

そう思った。



夕暮れになり、子どもの頃に

初めて歌を歌った場所にあたしは静かに立った。


「ねぇ、おじさま。」


「あの時より、上手くなったかな?」


そして歌い始める。


昔よりずっと綺麗な声。


想いの乗った歌。


その歌は、


今日は町のみんなのためじゃない。


たった一人。


おじさまだけに届ける歌。



歌い終わる。


静寂。


そして、おじさまの拍手。


その音を聞いた瞬間、あたしの顔がぱあっと輝く。



「嬉しい。」


「おじさまに褒めてもらえるのって……」


「やっぱり特別。」


少し照れながら笑う。


「みんなにも、こんな気持ちを届けたい。」


「だからフィリア様にお仕えしてる。」


少し間を置いて。


「でも。」


おじさまを見る。


「やっぱり、おじさまが褒めてくれるのは格別だよ。」


笑顔。


「だって。」


「おじさまは、あたしの初めてのファンなんだから♪」


そして最後。少しだけ背伸びをして、

いたずらっぽく笑う。


「これからもっと綺麗になるから。」

「ずーっと、あたしから目を離しちゃだめだからね」


あたしはこの日再度実感した


大好きな人と繋がるって、こんなに幸せなんだ。


じゃあ、


もっとたくさんの人と繋がれたら……


もっとたくさんの人が笑顔になれたら……


きっと、


世界はもっと幸せになる。


たくさんの人たちに幸せを繋げられるような

アイドルとなりたいという夢が出来た。



15歳の頃の初舞台の開演直前。


舞台袖。


この日のあたしは初舞台に緊張して、

この日だけは静かで手が少し震えていた。


その震えに気付いたおじさまは


何も言わず、そっとその手を包んでくれた。


あたしが顔を上げると


「……おじさま。」


おじさまは優しく笑って、


「一番前で見てる。」


少し間を置いて、


「ラピスの可愛い笑顔で、

いつも通り好きなことを楽しんでおいで。」


その一言で肩の力が抜ける。


手をぎゅっと握り返して、


「うん!」


「行ってきます!」


笑顔で舞台へ走っていく。


そして舞台が始まる。


最初の一歩を踏み出した瞬間、思い出した。


「そうだ。」

「あたし、歌うの好きだった。」


その瞬間から、


“初舞台”じゃなくなる。


いつものように歌っているあたしになる。


だから自然と笑顔になれる。


あたし自身が心から楽しいと、

その気持ちが客席へ伝わる。


まるで笑顔が鐘の音のように広がっていく。


歌が終わると静寂。


あたしは一瞬、


「……あれ?」

「失敗しちゃったのかな……。」

と思い初舞台だから、不安になった。



その時。


パチン、パチンと


客席最前列の

おじさまが一番最初に拍手をする。


優しい笑顔で、何も言わずに、ただ心から。



その拍手につられて、


一人。


また一人。


その拍手が鐘の音みたいに会場中へ広がっていく。


会場中が拍手に包まれる。


そして、大歓声。


「ブラボー!」


「アンコール!」


笑顔が広がっていく。



あたしは客席を見る。


一番前のおじさまは嬉しそうに拍手している。


目が合うと思わず笑みが溢れる


その笑顔は、

さっきまでの緊張した笑顔じゃない

心から楽しい笑顔。


客席に広がる拍手の音。

その始まりは、いつだって一番前にいる

”初めてのファン”だった



終演後。


「どうだった!?」


とおじさまに飛びついた。


おじさまは、


少し考えてから、


「ラピスが楽しんで歌っているから僕も楽しかった。」


と言う。


ラピスは一瞬きょとんとして、


すぐに笑う。


「えへへ♪」


この一言が、


ラピスにとって最高の褒め言葉。


技術でも、歌唱力でもなく、


「楽しさが伝わった。」ことがわかったから。


だから、この日あたしの夢は現実になった。


あたしはそこで

歌は人を幸せにするんじゃなくて

自分が幸せだから、

その幸せが歌になって伝わるんだって経験をした。


だからあたしが誰よりも

舞台を楽しもうと思うようになった。


あたしは歌を歌うのが好きだった


大好きな人が笑顔になってくれたことが嬉しかった


あたしが幸せな気持ちでいることで

たくさんの人を笑顔にできることを教えてくれた


笑顔や幸せは音のように伝播していくから



あたしがどれだけ人気になっても

舞台の最前列を見る癖だけはきっと治らない。


おじさまがが最前列にいないか

無意識に探してしまう。


そして見つけると、

ほんの少しだけ笑顔が柔らかくなる。


それは幼い頃から変わらない、


あたしだけの「安心の場所」なんだ。



笑顔を向けて、ファンの女の子に語りかける。


「あたしがアドバイスするなら……」


「まずは、自分が一番楽しむことかな。」


「それから、自分だけの幸せを見つけること。」


「その幸せを、誰かに届けたいって想いを込めるの。」


「誰かの真似をする必要なんてないよ。」


「あなたにしか見つけられない幸せがあるから。」


「それがきっと、あなたにしかできない

アイドルの形になると思うよ。」

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


第八話は、ラピスがなぜ歌い、なぜ人を笑顔にすることを目指したのか。

その原点のお話でした。


ラピスにとって歌は、最初から誰かに届けるためのものではありませんでした。


初めて歌った相手は、たった一人。


大好きなおじさま。


上手い歌だったから喜んでもらえたのではなく、

一生懸命に想いを込めたから、その気持ちが届いた。


その経験が、今のラピスの「幸せを届ける」という考え方につながっています。


自分が幸せだから、その幸せが誰かへ伝わっていく。


ラピスにとってのアイドルとは、

誰かを照らす特別な存在ではなく、

自分自身が輝くことで、周りにも笑顔が広がっていく存在なのだと思います。


シアが「寄り添う優しさ」を見つけたように、

ラピスもまた「幸せを分け合う形」を見つけました。


次回は、もう一人の姉妹のお話へ続きます。


それぞれ違う形の優しさを持つ三人が、

どのように今の自分になったのか。


最後まで楽しんでいただけたら嬉しいです。


次回もよろしくお願いします。

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