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第五十一話 再会と成長

「ねえ、みんな」


ギルドで次の依頼を相談していたとき、アルフォンスがふと思い出したように口を開いた。


「今度、北のノルドグラムに行こうと思うんです」


「北か。ずいぶん久しぶりだな」


ゲイルが頷く。


「はい。実は、会いに行きたい友達がいるんです」


アルフォンスは、懐かしそうに笑った。


「マーガレットさんとデイジーちゃん。前にお世話になったんですけど、また会いに行くって約束していたんですよ」


「そうだったわね」


リリエルが優しく微笑む。


「デイジーちゃん、元気にしているかしら」


「……大きくなってるだろうね」


ヘカテーも、少し楽しそうに呟いた。


「それに、森の主人たちにも、また会えるかもしれません」


「おう! そいつは面白そうじゃねえか!」


ガルドが豪快に笑う。


ゲイルも口元を緩めた。


「なるほどな。友達に会いに行く旅か。いいじゃねえか」


アルフォンスは、みんなの顔を見回した。


「だから……みんなも一緒に行きませんか?」


ほんの少しだけ、照れくさそうに。


「せっかくなら、みんなの友達に会いに行こうと思って」


「……ふふっ」


リリエルが嬉しそうに笑った。


「もちろん。一緒に行きましょう」


「うん……行く」


ヘカテーも、迷うことなく頷く。


「決まりだな!」


ガルドが立ち上がり、ゲイルは肩をすくめた。


「ま、そういうことなら付き合いますかね」


みんなの返事を聞いて、アルフォンスは嬉しそうに笑った。


「ありがとうございます!」


こうして五人は、北の町ノルドグラムへ向かうことになった。


大切な友達に、もう一度会うために。


ノルドグラムへ向かう道のりで


「そういやアルフォンス、お前の二つ名、最近また聞くようになったぞ」


ゲイルが、アルフォンスの胸元を指さした。


「蝶の導き手、だったか?」


「ああ……それ、まだ呼ばれているんですか?」


アルフォンスは、少し困ったように笑う。


「そりゃ呼ばれるだろ。お前に道案内を頼んだ奴らが、みんな満足にたどり着けてるんだからな」


「いや、僕だけの力じゃありませんよ。

みんなが協力してくれるからです」


「そういうところだぞ、お前は」


ガルドが呆れたように笑った。


「自分の手柄だって、少しは胸を張れ」


アルフォンスは、胸元の蝶のブローチにそっと触れる。


「……このブローチをくれた友達がいるんです。だから、ちゃんとその想いに応えられる人でいたいんですよ」


そんな彼を、リリエルとヘカテーは優しく見つめていた。



ノルドグラムに数年ぶりにたどり着いた時

こちらを見つけて声に気がついた。


「あら……」


マーガレットは、懐かしい顔を見つけると、優雅に微笑んだ。


「お久しぶりです、アルフォンスさん」


「マーガレットさん! お久しぶりです!」


アルフォンスも嬉しそうに駆け寄る。


すると、マーガレットは彼の胸元に目を向けた。


そこには、今も大切に身につけられている青い蝶のブローチ。


彼女は目を細め、口元にそっと手を添えた。


「ふふっ……噂はかねがねですわ」


そして、少しだけいたずらっぽく微笑む。


「蝶の導き手(コンダクター)様」


「……えっ?」


アルフォンスは、きょとんと目を瞬かせた。


「そ、その呼び方は……」


「あら。今では冒険者の間でも有名なお名前だと伺っていますけれど?」


「いや、そんな大したものじゃありませんよ。僕はただ、みんなを目的地まで案内しているだけですから」


「ええ。存じておりますわ」


マーガレットは、胸元の蝶を見つめた。


「だからこそ、嬉しいのです」


「……マーガレットさん?」


「以前お会いしたとき、私はこの蝶に、これからも誰かを導いてほしいと願いました」


柔らかな微笑みが、彼女の顔に広がる。


「それが今では、たくさんの方々から信頼されるお名前になったのですもの」


そして、まっすぐにアルフォンスを見つめた。


「……本当に、立派になられましたね」


「……いえ、そんな……」


アルフォンスは照れくさそうに頬を掻いた。


「でも……ありがとうございます。そう言ってもらえると、嬉しいです」


マーガレットは、そんな彼を見て、懐かしそうに微笑んだ。


「ふふっ。お変わりありませんね、アルフォンスさん」


「マーガレットさんも、変わらずお綺麗ですよ」


「まあ……」


マーガレットは、嬉しそうに目を細めた。


「こんなおばさんを褒めても、何にも出ませんよ?」


「いやいや、僕にとっても綺麗なお姉さんですし。

素敵な女性とお話しできる貴重なお時間がいただけるじゃないですか」


「もう、お上手ですね」


マーガレットは頬を赤らめ、微笑んだ。


「……晩御飯、食べていきます?」


「わあ、嬉しいです! マーガレットさんのお料理、久しぶりに食べたいと思っていたんですよ」


「……ふふっ。もう、本当に……」


マーガレットは口元を手で隠しながら、楽しそうに笑った。


「そういうところは、少しも変わりませんのね」


「え? 何か変でしたか?」


「いいえ。何も」


マーガレットは、優しく微笑んだ。


「今夜は腕によりをかけて、ご馳走を用意いたしますわ」


「本当ですか? ありがとうございます!」


満面の笑みを浮かべるアルフォンス。


その姿を見つめながら、マーガレットは胸元にそっと手を添えた。


――ああ。


やっぱり、この人は。


昔と変わらず、私を一人の人間として見てくださる。


綺麗だと言ってくれることも嬉しい。


けれど、それ以上に。


私の作る食事を、心から楽しみにしてくれることが嬉しかった。


「……お帰りなさい、アルフォンスさん」


マーガレットは、改めてそう告げた。


「また、我が家でゆっくりしていってくださいね」


「はい! お世話になります!」


アルフォンスが笑顔で答えた、そのときだった。


「……えっ?」


廊下の向こうから、ぱたぱたと足音が聞こえてくる。


「今の声……もしかして!」


ひょっこりと顔を出したのは、一人の少女だった。


成長した金色の髪が揺れる。


けれど、その瞳がアルフォンスを捉えた瞬間――


「アルフォンスお兄ちゃんだー!」


「デイジーちゃん?」


次の瞬間、少女は満面の笑みで駆け出した。


「どーん!」


「うわっ!?」


勢いよく飛びついてきたデイジーを、アルフォンスは慌てて両腕で受け止める。


「わあっ、デイジーちゃん! 大きくなったねえ!」


「えへへっ! 会いたかったー!」


ぎゅうっと抱きつくデイジー。


その姿はすっかり成長した少女なのに、アルフォンスを見つけたときの笑顔も、飛びついてくる勢いも、昔のままだった。


「私も会いたかったよ!」


アルフォンスは、嬉しそうに笑ってデイジーの頭を撫でた。


「……ふふっ」


そんな二人を見つめながら、マーガレットが微笑む。


「本当に……あの頃と変わりませんわね」


「うん! アルフォンスお兄ちゃんだもん!」


デイジーは当然のように答える。


「どれだけ大きくなっても、アルフォンスお兄ちゃんはアルフォンスお兄ちゃんだよ!」


「ははっ、そうだね」


アルフォンスは、少し照れくさそうに笑った。


「僕にとっても、デイジーちゃんは変わらず大切な友達だよ」


「私もだよーっ!」


デイジーは、もう一度ぎゅっと抱きついた。


「……ふふっ」


デイジーを受け止めたアルフォンスは、懐かしそうに笑った。


「綺麗になったね、デイジーちゃん」


「えへへっ、ありがとう!」


はにかみながらお礼を言う。


「アルフォンスお兄ちゃんも、もっとかっこよくなった!」


「そうかな?」


「うん!」


元気よく頷くデイジーに、アルフォンスは思わず笑みをこぼす。


そして、そっと彼女を離すと、今度は正面から向き合った。


「デイジーちゃん」


「なあに?」


「約束を果たしにきたよ」


デイジーの瞳が、ぱっと輝いた。


アルフォンスは、彼女に向かって手を差し出す。


「一緒にお友達を増やしにいこう」


「……!」


デイジーは差し出された手を見つめた。


幼い頃、初めて出会ったときも。


寂しくて泣いていたときも。


旅の終わりが悲しくて、涙をこぼしたときも。


アルフォンスは、いつだって手を差し伸べてくれた。


そして今も――。


「……はい!」


デイジーは、その手を取った。


けれど、すぐには歩き出さなかった。


アルフォンスの前に立つと、片手でスカートの裾をそっとつまむ。


そして、優雅に一礼した。


「よろしくお願いしますわ、アルフォンスお兄様」


その仕草は、すっかり成長した一人の淑女のものだった。


アルフォンスは一瞬、目を丸くした。


それから、ふわりと笑う。


「こちらこそ、よろしくね。デイジーちゃん」


アルフォンスが微笑むと、デイジーも嬉しそうに笑った。


けれど、二人が歩き出した途端――


「えへへっ、アルフォンスお兄ちゃん!」


デイジーは、繋いだ手を嬉しそうに揺らした。


「また一緒に冒険できるね!」


「うん。これからよろしくね、デイジーちゃん」


「はいっ!」


その様子を見送るマーガレットは、微笑ましそうに目を細める。


「……ふふっ。お外では淑女でも、アルフォンスさんの前では昔のままですのね」


その笑顔は、昔と変わらない。

でも、ただのもう幼い少女ではない。


自分の足で歩き、大切な人と一緒に新しい世界へ踏み出せる、一人の冒険者になろうとしていた。


そんな二人を見つめながら、

マーガレットは静かに微笑んだ。


「……いってらっしゃい、デイジー」


「うん! お母さん!」


デイジーはアルフォンスの手を握り直す。


「それじゃあ、アルフォンスお兄ちゃん!」


「うん?」


「まずは、みんなに会いにいこう!」


「そうだね。みんなも、デイジーちゃんに会えるのを楽しみにしているよ」


二人は並んで歩き出した。


かつて、迷子の少女と出会った一人の冒険者。


そして今、その冒険者の手を取って、新たな旅へと踏み出す少女。


あの日に結ばれた縁は、途切れることなく、ここまで続いていた。


久しぶりに会った仲間たちも

大きくなったデイジーに驚き、

楽しそうに再会した小さな友人を暖かく迎え入れた。



皆との再会を終え、翌日。


アルフォンスたちは、

マーガレットとデイジーに案内され、

ノルドグラムの森へ向かう。


「この森も、久しぶりだなぁ」


アルフォンスが懐かしそうに周囲を見回す。


「アルフォンスお兄様、前に来たときのこと、

覚えていらっしゃいますか?」


デイジーは外向きの丁寧な口調で尋ねる。


「もちろんだよ。あのときは、

デイジーちゃんが先に森に入っちゃって

、びっくりしたんだから」


「も、もう! あのときは仕方なかったんです!」


頬を膨らませるデイジーに

アルフォンスは楽しそうに笑う。


「ははっ、ごめんごめん」


そのやり取りを見て、マーガレットも微笑んだ。


やがて、一行は森の奥へと進んでいく。


すると――。

一匹の青い蝶が、ひらひらとアルフォンスたちの前を横切った。


「あ……」


アルフォンスは、胸元の蝶のブローチにそっと触れる。


「この蝶……」


まるで、こちらへおいでと導くように

蝶は少し先で待ち、皆が近づくと再び飛び立った。


そして、開けた場所にたどり着いたとき

木漏れ日の向こうに、翡翠色の輝きが見えた。


「……お久しぶりです、グランベリルモス様」


アルフォンスが頭を下げる。


巨大な翅をゆっくりと広げ、

翠蚕の女王は穏やかな瞳で彼らを見つめた。


「ええ。久しぶりですね、アルフォンス」


そして、その視線が隣の少女へと移る。


「デイジーも、立派になりましたね」


「……お久しぶりでございます、グランベリルモス様」


デイジーは一歩前に進み出た。


背筋をすっと伸ばし、両手でスカートの裾をそっとつまむ。


そして、裾を左右に美しく広げながら、膝を折り、深々と頭を下げた。


その所作には、一つひとつ無駄がない。


幼いながらも、相手への敬意を込めた、見事なカーテシーだった。


「本日はお目にかかれましたこと、心より光栄に存じます」


静かな森に、デイジーの澄んだ声が響く。


グランベリルモスは、しばらく少女の姿を見つめていた。


やがて、その翡翠の瞳が柔らかく細められる。


「……まあ」


優しい声に、わずかな感嘆が混じった。


「マーガレットから、しっかりと教わったのですね」


デイジーは顔を上げると、少しだけ誇らしげに微笑んだ。


「はい。お母様のように、どなたに対しても失礼のない振る舞いができるようになりたいのです」


「そう……」


グランベリルモスは、慈しむように目を細めた。


「素敵な心がけですね、デイジー」


その言葉を聞いて、デイジーの頬が嬉しそうに緩む。


少し離れたところでは、マーガレットもまた、娘の成長を誇らしげに見守っていた。


グランベリルモスとの挨拶を終えたデイジーに、

アルフォンスが微笑みかけた。


「素敵なお辞儀だね」


「えっ?」


デイジーが振り返る。


アルフォンスは、いつもの穏やかな笑顔で続けた。


「形だけを整えてるんじゃなくて、

相手を大切に思っているからこそ、

見惚れるほど自然で綺麗なお辞儀になったんだと思う」


「……っ」


デイジーは、ぱちぱちと目を瞬かせた。


それから、じわじわと頬を赤くする。


「ほ、本当ですか……?」


「うん。本当だよ」


アルフォンスは迷いなく頷いた。


「もう立派な淑女だね」


「…………」


デイジーは両手でスカートの裾を握りしめた。


せっかく完璧なカーテシーができたのに、今度はアルフォンスの言葉に照れてしまう。


「……ありがとうございます、アルフォンスお兄様」


なんとか淑女らしく答えたものの、声は少しだけ弾んでいた。


その様子を見て、マーガレットがくすりと笑う。


「ふふっ。デイジー、よかったですね」


「お、お母様……!」


「褒めていただけて嬉しいのでしょう?」


「……はい」


デイジーは小さく頷いた。


そして、アルフォンスを見上げる。


「……えへへっ」


結局、最後にはいつもの笑顔がこぼれてしまった。



「それでは……約束の続きを始めましょうか」


「デイジー、それでは手を出してください」


グランベリルモスに促され、デイジーは両手を前に差し出した。


小さな手のひらを、そっと上に向ける。


すると――。


どこからともなく、緑色の宝玉が舞い降りてきた。


翡翠のように透き通った宝玉は、デイジーの両手の上で静かに浮かんでいる。


「わぁ……」


デイジーが目を輝かせる。


「デイジー。それを手のひらで包んでいてください」


「はい」


デイジーは両手をそっと閉じ、宝玉を大切に包み込んだ。


その瞬間、グランベリルモスの翅が淡い緑色に輝いた。


「かの者、我が名代として、我らが主人の御許へ集うことを許さん」


静かな森に、凛とした声が響き渡る。


「グランベリル、承認」


デイジーの両手の隙間から、緑色の光が溢れ出した。


そして、宝玉の表面に、見たことのない文字がゆっくりと浮かび上がる。


光が収まると、グランベリルモスは穏やかに告げた。


「これは、私とあなたの契約の証です」


デイジーは、手の中の宝玉をそっと見つめた。


「契約……?」


「ええ。あなたが困ったとき、危険に遭ったとき――私たちはあなたに手を貸します」


グランベリルモスは、翡翠の瞳を優しく細めた。


「あなたは、これから私たちの大切な縁を結ぶ方。

ですから、あなたが助けを必要とするときは、

どうか遠慮なく私たちを頼ってくださいね」


「……はい!」


デイジーは、宝玉を胸元に抱くようにして、

力強く頷いた。


これが少女の初めての冒険の始まりだった。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


今回は、成長したデイジーとの再会のお話でした。


久しぶりに会ったアルフォンスに飛びつくデイジー。

大きくなっても変わらない二人の関係と、少しずつお姉さんらしく成長していくデイジーの姿を描いてみました。


そして、北の森の主グランベリルモスから認められ、初めての宝石を受け取ったデイジー。


これから彼女がどんな出会いを重ね、どんなふうに成長していくのか。

温かく見守っていただけたら嬉しいです。


それでは、旅人の皆様、次の物語でお会いしましょう。

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