表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いまは緑色の芝生  作者: 三号


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

93/97

ハイゼンベルクの完全

「昨日なんていらない」

 言ってから、わたしはウインドウを下げた。流れていく景色から空気が手を伸ばして車内に入ってきた。郊外の山中に作られた造成地を走っているせいか、心なしか都会よりも涼しく感じられるのは、気のせいだと思う。下げきらなかったウインドウの間から外を見た。それから運転席でハンドルを握っている竜也に視線を投げた。

「どうして。昨日のこと覚えてなかったら困るだろ」

 彼は当たり前のことを言った。

「困らない」

「可笑しなこと、言うね」

「いいの、いらないの。昔のことばっかり覚えてたって、いま、わたしが、すべきことには、関係あるわけないんだ」

「ほらほら、それは昨日がいらないってことにはならないよ」

 深海にいるウツボが笑ったような、感じがした。

 そして、わたしと竜也を乗せた車はわたしの住む家に着いた。わたしはドアを開けて車から出る。竜也も降りて、車をまわって、わたしに近づいてきた。どうして世界はこんな矛盾を許すのか。

「乗ったままでいい」

「どうもね、こういうのは、さ」

「こういうのは?」

 わたしが問い返しても竜也は微笑んだままの表情を変えなかった。

 そんな彼を置き去りにして、わたしは家に入った。

 外から車のエンジンの音が聞こえて、遠ざかって、やがて聞こえなくなった。やがて、わたしの耳には、わたしが歩く音も空気の話し声も、わたしの心臓が動く音も聞こえなくなった。わたしは手首を切って自殺した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ