クリティドと二人で視察 ⑫
「ウェリタ、無茶はしないように言っただろう?」
帰ってきたクリティドは、私を抱きしめながらそう言った。少し恥ずかしい。しかしどうしてこんな状況なのかと言えば、私が長時間勉強をしていたからだ。
クリティドは私のことを心配してならないので、そのことを咎めるような言葉であった。
もっとクリティドは私にゆっくりしてほしいんだろうな。
「そうですけれど……勉強していただけなので、無茶なんてしてませんよ?」
「そう言って無茶をしそうだから、心配なんだ」
クリティドの私を抱きしめる力が強くなる。とっても安心して、ぽかぽかした気持ちになって、安心する。
「ふふっ、クリティドを心配させたくないので、私は自分が無茶しないように気をつけますよ。周りのためにって自分が倒れたら駄目だって私も分かっていますから」
誰かのためにと頑張る気持ちを否定しようなんて思わない。それも素敵だと思う。私も自分が生きることを諦めてしまっていた。私が死んだ方がいいと思っていた。
でもクリティド達に救われて、私は自分の命を大事にしようとそう決意した。
だから私はもう、自分が死んだ方がいいなんて思わない。私が居なくなったら悲しむ人がいるのだから。
無茶をして倒れたら子供達だってどれだけ悲しむだろう。考えただけで胸が痛くなる。
「クリティドも、倒れないようにしてください。クリティドはこうして私のことを沢山甘やかしますけれど、あなただって私に甘えてください」
私の疲れがとれるようにって、クリティドはよく私を甘やかす。無茶ばかりして、疲れているなら甘えて欲しいってそう言う態度ばかり。
でも私はクリティドにも甘えて欲しいなと思う。クリティドは私の言葉を聞いて、小さく微笑む。
「なら、膝枕でもしてもらおうか」
「ふふっ、どうぞ!」
私が元気よくそう言うと、クリティドは私を抱きしめるのをやめる。ソファに腰かけて、クリティドに寝転がってもらう。
「視察はどうでしたか? 何かありました?」
「いや、特に何もなかった。領民達の暮らしにも問題はなかった」
「それならよかったですわ。それにしてもこうして視察に来ると沢山の学びがありますね」
そう言いながら私はクリティドの頭を撫でる。触り心地が良くて、撫でまわしてしまう。クリティドは嫌がった様子はない。
こうして頭を撫でられるのも妻の特権だ。
「この視察が君のためになったならよかった」
「薬について学べて、私は凄く嬉しいんです。今まで出来なかったことが出来るようになることがただ楽しいですし、これから先何かあった時に薬を作ってあなたや公爵領のためになれたらなと思います」
いつかそうやって学んだことを役立てることが出来たなら、私はそれだけで嬉しいなと思うのだ。
まだまだ公爵夫人としては至らない部分も多い私だけれども、そうなれたら嬉しいから。
「頑張ってくれるのは嬉しいが、頑張りすぎないように」
「分かってますよ。疲れたら私も、クリティドの傍で休むことにしようと思ってます。少し学んでみても、調合や薬関係のことは奥深いのだと改めて実感しました。薬師の方々ほど特化して学ぶことは出来なくても出来るだけ勉強したいものです」
私はそう言いながら、ずっとクリティドの頭を撫でている。
「ただ……やっぱり魔力回路を回復させる方法は今の所なさそうです」
私がそう言うと、膝の上のクリティドがぴくりっと反応を示す。私のことを心配そうに見ている様子を見て私は笑いかけた。
「クリティド、そんな顔はしないでください。元々からそんな薬は見つからないかもしれないとは思っていたので、のんびりと探していくことにしますよ」
すぐに以前のように魔法が使えるようになるとは思っていない。ただいつか、魔法をまた使えたら嬉しいとそう思っているだけ。
もし私はこのまま二度と魔法が使えなかったとしても、クリティドや子供達が居るから幸せであることには変わりないのだから。
ただ魔法をまた使えるようになったなら、クリティド達の前で魔法を披露したいな。それが出来たら嬉しいなとそればかりを私は思う。
私達は視察先で、しばらくの間過ごした。
私は薬草や調合のことを学びながら、領民達との交流を沢山することにした。領民達とは仲良くなれたとは思う。
今回はこのあたりの地域の領民達としか交流をもてなかったけれど、他の地域にも視察に行きたいな。
領主夫妻が領民や領地を気に掛けているということは、それだけで彼らとの信頼関係を築くことに繋がるはずだもの。
思った通り、魔力回路を回復させる薬は見つからなかった。ただ出会った薬師達は私の魔力回路を治すために尽力してくれると言ってくれた。
私も屋敷に戻ってからも、薬のことを学び続けようと思った。
屋敷に戻ったら久しぶりに子供達に会える。もちろん、お土産もいくつも準備した。帰って、視察の話をするのが楽しみだな。




