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児童剣士の混沌士(カオティッカー)  作者: 黒沢 竜
第四章~愛憎の狂者~
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第四十九話  集う強者たち


 三大国家の会談から三日後、メルディエズ学園にはいつもどおり生徒たちが登校して授業や依頼を受けている。三日前に三大国家の会談が行われていたことは生徒たちも会談の前日に教師たちから聞かされていたため知っていた。

 だが、内容がどんなものなのかは教えてもらえず、王族たちが何の話をしていた気にしている生徒もいる。しかし、知りたがっている生徒は僅かで、大半の生徒は興味が無いのか気にすることなく授業や依頼に取り組んでいた。

 中庭の中を生徒たちが歩いていると、正門が開いて数人の生徒が学園内に入ってくる。その生徒の中にはユーキの姿があり、その後ろを槍と杖を持った二人の男子生徒、剣を持った女子生徒がついて行く。そして、最後尾にはグラトンの姿があった。


「フゥ、やっと学園に戻って来れたか」

「今回の依頼も大変だったわね」


 杖を持つ男子生徒と剣を持つ女子生徒はメルディエズ学園に戻って来れたことに安心の笑みを浮かべ、槍を持った男子生徒も二人の話を聞いて小さく頷く。先頭を歩くユーキも前を向いたまま生徒たちの会話を聞いた。

 中庭の真ん中あたりまで移動するとユーキは立ち止まり、それにつられるように生徒たちとグラトンも立ち止まる。ユーキは振り返って後ろにいた生徒たちの方を向いた。


「よし、此処で解散しよう。依頼完遂の報告を俺がやっておくから、皆は休んでくれ」

「悪いな、ルナパレス」

「気にしないでくれ。これも中級生の仕事だからな」


 杖を持つ男子生徒を見ながらユーキは小さく笑い、ユーキを見た男子生徒もつられて笑みを浮かべた。

 中級生になって学園の授業を任意で受けられるようになったユーキは空いた時間を依頼を受けることに回せるようになり、下級生だった頃よりも多くの依頼を受けるようになった。

 他にも下級生の依頼の付き添いを任されるようにもなってユーキはこれまで以上に忙しくなったが、ユーキは仕事が増えたことを苦とは思っていなかった。

 今回は中級生として下級生の生徒たちの付き添いと指揮を執るために同じ依頼を受けており、その依頼を終えて先程戻って来たところだ。


「今回のマッドベアの討伐依頼、ルナパレス君が的確に指示を出してくれたおかげで誰も怪我をせずに戻ってくることができたわね」

「ああ、しかも剣士として無茶苦茶強かったからビックリしたぜ」


 剣を持つ女子生徒と杖を持つ男子生徒は依頼中に見たユーキの勇姿を思い出し、若干興奮したような口調で話す。二人の会話を聞いてユーキは少し照れているような反応を見せた。

 幼いのに実力があり、入学してから僅かな期間で中級生になったユーキはメルディエズ学園で注目されるようになり、そのユーキと共に依頼を受けられることを楽しみにする生徒もいた。ユーキの前にいる男子生徒と女子生徒もその楽しみにしていた生徒である。


「だけど、今回は相手がベーゼみたいな手強い敵じゃなくて下級モンスターのマッドベアだったから運よく完遂できたかもしれねぇぞ? 相手が手強い敵だったらどうなってたか……」


 男子生徒と女子生徒が話していると槍を持った男子生徒がユーキたちから目を逸らして不満そうな口調で語り、ユーキたちは槍を持つ男子生徒に視線を向ける。

 生徒たちの中にはユーキを認める生徒もいるが、中には幼いのに中級生になったことを妬む生徒も少なからずいる。特にユーキと同時期に入学した生徒はユーキが自分たちよりも早く中級生になったことを悔しく思っていた。

 槍を持つ男子生徒もユーキと同時期に入学した生徒で未だに下級生のままであるため、遠回しにユーキに対する嫌味を口にしたのだ。


「おい、そんな言い方は無いんじゃないか?」

「そうよ、ルナパレス君は運だけで中級生になった訳じゃないわ。それは今回の依頼で彼の戦いを見ていた貴方も分かってるはずよ?」


 杖を持つ男子生徒と剣を持つ女子生徒はユーキの実力が本物だと語りながら槍を持つ男子生徒に注意をする。

 二人もユーキと同時期にメルディエズ学園に入学した生徒だが、槍を持つ男子生徒と違ってユーキの実力を認めているため、自分たちよりも先に中級生になったユーキを妬んだりせずに頼りになる存在だと思っていた。

 槍を持つ男子生徒は僅かに目を鋭くする杖を持つ男子生徒と剣を持つ女子生徒は見ながら黙り込む。依頼中、ユーキは自ら前に出てマッドベアと戦い、苦戦することなく襲ってきたマッドベアを討伐した。

 男子生徒もユーキの戦う姿を見て彼が優れた戦闘能力を持っていることは認めている。そのため、妬みで嫌味を言った自分の立場が悪いと感じてすぐに言い返すことができなかった。


「喧嘩はそれぐらいにしなよ」


 口論する生徒たちをユーキはが止め、生徒たちは一斉にユーキに視線を向ける。


「ルナパレス、でもコイツは……」

「同期が自分よりも早く中級生になれば妬んでもおかしくないさ」


 軽く俯きながらユーキは静かに語り、見た目と違って大人の対応をするユーキを見た杖を持つ男子生徒と剣を持つ女子生徒は意外そうな顔をする。逆に槍を持つ男子生徒は自分を子供扱いしていると感じたのか不満そうな表情を浮かべていた。

 ユーキは自分の思ったことを口にした後、真剣な表情を浮かべながら顔を上げ、生徒たちはユーキの表情が変わったのを見て軽く目を見開く。


「……妬んだり悔しがったりするのはソイツの自由だ。だけど、妬むだけで何もしないのはただの馬鹿がやることだ。妬みや悔しさを踏み台にし、何時か超えてやろうという気持ちを胸に努力することが大切だと俺は思っている」


 若干低めの声で語るユーキを見て、槍を持つ男子生徒はまばたきをする。さっきまで嫌味を言っていた自分にアドバイスのような言葉を投げかけるユーキに対して男子生徒は不思議な気持ちになっていた。

 ユーキは槍を持つ男子生徒の方を向き、ユーキと目が合った男子生徒は驚いたような反応を見せる。


「アンタはただ俺を妬んで嫌味を言うだけで満足か? 俺を超えてやろうっていう気持ちは無いのか?」

「そ、そんなの。あるに決まってるじゃねぇか」

「それなら、もっと努力して俺よりも強くなりな。アンタが他人を妬むだけの馬鹿じゃないんならな」

「……フ、フン! 言われなくても強くなってやらぁ」


 槍を持つ男子生徒はそっぽを向いて学生寮の方へ歩き去って行く。その後ろ姿をユーキは黙って見ており、杖を持つ男子生徒と剣を持つ女子生徒はまばたきをしながら槍を持つ男子生徒を見ていた。


「行っちゃった……よかったの、あんなこと言って? もしかしたら変な嫌がらせとかしてくるかもしれないわよ」


 剣を持つ女子生徒が不安そうな顔をしながらユーキに尋ねるとユーキは離れている槍を持つ男子生徒を見ながら小さく笑う。


「心配ないと思うよ。ああいう性格の奴は少しプライドを刺激すれば闘争心に火がついて相手を見返してやりたいって気持ちが強くなる。きっとアイツは俺を超えるために必死で勉強や訓練に励むと思う」

「そんなものかしら?」

「ああ、俺はそんな奴を何度も見てきたからな」


 楽しそうな口調でユーキは語り、男子生徒と女子生徒はユーキを不思議そうに見ている。まだ幼いユーキが昔を懐かしんでいるような様子を見せるので変に思っていた。


 ユーキは転生する前、月宮新陰流師範の孫としてその才能を開花させ、若くして免許皆伝となった。そんなユーキを同じ月宮新陰流の兄弟弟子たちは自慢に思い、憧れる者も多く存在していたが、その一方でユーキの才能と実力を妬む弟子も存在していたのことも事実だ。

 師範の孫であり、若くして実力を認められたユーキを忌み嫌っていた弟子たちはユーキの陰口を言ったり、試合を挑んで負かそうとしたりと色々な行動を取った。しかし、ユーキは陰口を無視し、挑んできた相手を楽々と返り討ちする。

 正面から挑んでも勝てないと考えた者たちは数人で挑んだり、嫌がらせと言った度を越した行動を取ったりしたが、それらは全てユーキの祖父である師範やユーキを慕う弟子たちに止められ、何もすることはできなかった。

 妬む弟子たちはユーキを超えられず、鼻を明かすこともこともできずに落ち込んでいたが、そんな弟子たちにユーキは「妬むのは勝手だが、嫌がらせをする暇があるなら稽古をして腕を磨いたらどうだ」と軽く挑発をした。

 ユーキの言葉を妬んでいた弟子たちは悔しく思ったのか、嫌がらせなどを止めてユーキを超えるために必死に稽古に励んだ。

 その後、ユーキは嫌がらせや意味のない勝負を挑まれることも無くなり、普通の生活を送ることができた。


 槍を持つ男子生徒が過去に自分を妬んでいた兄弟弟子と似た性格をしていることからユーキは同じ対応をすればムキになって自分を強くすることに集中するのではと考えて挑発した。結果、ユーキの思惑どおりになり、男子生徒は強くなると言い残して去って行ったのだ。

 ユーキ自身も男子生徒が嫌がらせでしか相手を見返すことのできない小さな存在だとは思っておらず、嫌がらせをしてくる可能性は低いと考えている。仮に嫌がらせをしてきたとしても、ユーキには対処方法があるため問題は無かった。


「……さて、それじゃあ、俺たちも此処で解散しよう」

「ああ、そうだな」

「お疲れ様」


 解散を宣言されると男子生徒と女子生徒は休むために学生寮の方へ歩いて行く。残ったユーキも依頼完遂の報告とグラトンをうまやに連れて行くために歩き出す。グラトンは歩き出すユーキの後をゆっくりとついて行った。


「お前も今回は頑張ったな。ゆっくり休めよ?」

「ブォ~」


 ユーキは歩きながらグラトンを労り、グラトンはそんなユーキに返事をするかのように鳴き声を出す。ユーキとグラトンは中庭の中を移動し、その姿を中庭にいた生徒たちは見つめている。生徒たちはすっかりグラトンの存在に慣れたため、驚きの反応などは見せなかった。

 厩に到着するとユーキはグラトン用に作られた特別なスペースに入れてグラトンを休ませる。それが済むと依頼完遂を報告するために校舎の依頼ロビーへと向かった。

 依頼ロビーにやって来ると、いつもどおりロビーには大勢の生徒がおり、受付嬢と話したり掲示板に貼り出された依頼書を見たりしている。ユーキは騒いでいる生徒たちの中を通って受付に向かった。


「受付に行ったら、まず今回の依頼の結果と負傷者が出ていないことを報告して、報酬の分け前の確認しないとな。半分は学園に回されて、残った半分を俺たちで分ける。同行した俺の報酬は一番少ないとして、残りは……」


 ユーキは受付に移動しながら受付嬢に知らせることを確認する。独り言をブツブツ言っているのを聞かれれば周りからは変な存在だと思われるかもしれない。しかし、今いる依頼ロビーは騒がしく、誰もユーキの独り言を聞いていなかった。

 仮に独り言を聞かれていても依頼の内容などを確認するために独り言を言うのはメルディエズ学園ではそれほど珍しいことではないので、聞かれても変に思われることは殆どない。

 ユーキは受付を見て誰にも応対していない受付嬢を見つけるとその受付嬢の下へ向かおうとする。すると、ユーキの背後から男子生徒の声が聞こえてきた。


「ユーキ・ルナパレス君だな?」


 声を掛けられたユーキは立ち止まり、前を見ながらジト目になる。


(依頼ロビーで声を掛けられる、何か前にもこんなことがあったような……)


 過去の経験から声を掛けてきたのが誰なのか想像がつき、ユーキは複雑な気持ちになりながらゆっくりと振り返る。そこには周りの生徒とは雰囲気の違う男子生徒が立っており、両手を後ろに回しながらユーキを見ていた。


「……え~っと、もしかして、生徒会の方ですか?」

「そのとおりだ。よく分かったな?」

(やっぱりな……)


 予想が当たり、ユーキは男子生徒を見ながら心の中で呟く。自分が依頼ロビーで声を掛けられる時は高い確率で生徒会の生徒なので今回も生徒会の生徒の可能性が高いとユーキは考えていた。


「……生徒会の方がどうして此処に?」

「君が受けた依頼を終わらせ、そろそろ戻ってくると思ってずっと待っていたんだ」

「そうでしたか……で、また会長から呼び出しですか?」

「理解が早くて助かる。依頼から戻ったばかりで悪いが、至急生徒会室に向かってくれ。他の生徒にも既に声を掛けてある」


 カムネスから呼び出され、更に他にも生徒が呼び出されていると聞かされたユーキはまた何か依頼を任されるのではと想像した。


「詳しい話は会長と副会長から直接聞いてくれ。……では、確かに伝えたぞ?」


 そう言うと男子生徒はユーキに背を向けて去って行く。残ったユーキは離れている男子生徒の姿を無言で見つめていた。


「流れからして、依頼の話である可能性が高いな。……とりあえず行ってみよう」


 呼び出された以上、行かないわけにはいかないため、ユーキは依頼完遂の報告を後回しにしてまずは生徒会室へ向かうことにした。

 依頼を任されることはユーキにとって都合の悪いことではない。依頼を任されるのはそれだけ学園側や依頼人から信頼されているということだからだ。更に依頼を完遂すれば報酬も入り、ユーキには寧ろ都合のいいことだと言える。

 生徒会から仕事を頼まれるのも生徒会から信頼されていることを意味するので、メルディエズ学園の生徒としては願っても無いことだと言える。だが、ユーキとしては少々複雑な心境と言えた。


「生徒会から任される仕事は報酬はいいけど、内容が難しい仕事や面倒な仕事が多いんだよなぁ。俺、そう言った仕事は苦手なのに……」


 自分の苦手な仕事を任されることから、生徒会に仕事を頼まれることに対してユーキは小さな抵抗を感じている。苦手な仕事でなければ問題無いのだが、生徒会は普通の生徒では受けられない難しい仕事を回してくるため、簡単な仕事が回ってくることはあまり期待できなかった。

 ユーキはもし依頼を頼まれるために呼び出されたのであれば、できるだけ難しくない依頼であることを祈りながら生徒会室へ向かう。

 校舎の中を移動し、ユーキは生徒会室の前までやって来る。最初の頃は生徒会室の前に来ると少し緊張していたが、今ではすっかり慣れてしまっていた。


「よぉ、ルナパレスじゃねぇか」


 ユーキが生徒会室に入るために扉をノックしようとした時、左の方から声が聞こえてくる。ユーキが声のした方を見ると、そこにはズボンのポケットの手を入れながら歩いて来るフレードの姿があった。


「フレード先輩、どうして此処に?」

「生徒会に呼ばれたんだよ。大事な話があるからすぐに生徒会室に来いってな。ったく、こっちはさっき依頼を終わらせて帰って来たばかりなのによぉ」

「ア、アハハハ……」


 愚痴をこぼすフレードを見てユーキは思わず苦笑いを浮かべる。自分も帰ってきてすぐに呼び出しを受けたので同じ立場のフレードに同情していた。

 ユーキの前までやって来たフレードは生徒会室の前に立つユーキと生徒会室の扉を見て状況を把握した。


「……もしかして、お前も生徒会に呼び出されたのか?」

「ええ、少し前に依頼から戻ってきたんですけど、生徒会の人に呼び止められて生徒会室に行けと……」

「お前もか……お互い苦労するなぁ」


 フレードは振り回されることを嘆くかのように語り、ユーキはフレードの言葉に再び苦笑いを浮かべた。

 ユーキとフレードが生徒会室前で喋って言うとフレードの後方から二人の女子生徒が歩いて来る。女子生徒たちに気付いたユーキが確認すると、アイカとパーシュが並んで歩いて来るのが目に入った。


「アイカ、パーシュ先輩」


 ユーキが二人の名を口にするとフレードは軽く目を見開きながら振り返り、アイカとパーシュの姿を目にした。

 アイカはユーキとフレードを見ながら微笑みを浮かべるが、パーシュはフレードと目が合うと嫌そうな表情を浮かべる。フレードもパーシュを見て機嫌を悪くしたのか目を鋭くしながらパーシュを睨んだ。二人は相変わらず仲が悪いようだ。


「もしかして、貴方と先輩も生徒会に呼ばれたの?」

「貴方も、と言うことは君も?」

「ええ、少し前に生徒会の人から大切な話があるから生徒会室に来てほしいって言われたの。その途中でパーシュ先輩に会って、先輩も生徒会に呼ばれたそうだから一緒に来たの」


 自分とフレードだけでなく、アイカとパーシュも呼び出されたことを聞かされたユーキは僅かに目を鋭くする。

 上級生であるパーシュとフレードの二人も呼び出されたことから、生徒会は何か重大な話をしようとしているのではとユーキは感じた。

 ユーキが考え込んでいると、パーシュとフレードが嫌そうな顔をしながらお互いを見ている。そんな二人を見たアイカはまた喧嘩を始めるのではと感じて不安そうな顔をしていた。


「まさか、アンタも呼ばれてたとはね。大方、依頼も受けずにグータラしてたから生徒会から呼び出されたんじゃないのかい?」

「勝手に決めつけんじゃねぇ。俺はガルゼム帝国からの依頼を終えてさっき帰ってきたところなんだよ。お前と違ってこっちは忙しい身なんだ」

「おや、そうだったのかい? てっきり仕事を任してもらえずに学園内で食って寝るを繰り返してるんだと思ってたよ」

「仕事が無い時は学園内で戦闘訓練をして体を鍛えてるんだよ。お前みたいに体に無駄な肉がついてトロくなりたくねぇからな」

「それ、あたしが太ってるって言いたいのかい?」

「別にそんなこと言ってねぇだろう? それとも自覚してたのか?」


 挑発するフレードをパーシュは険しい顔で睨み、フレードもパーシュを睨み返す。アイカは予想どおり喧嘩を始めた二人を見てあたふたし始めた。

 生徒会が呼び出した理由を考えていたユーキも睨み合うパーシュとフレードを見てマズいと感じ、二人の仲裁に入ろうとする。すると、生徒会室の扉が僅かに開いてロギュンが顔を出した。


「騒がしいと思ったら、貴方たちですか」

「副会長……」


 ロギュンの顔を見たユーキは助かったと感じ、アイカも軽く息を吐いて安心する。

 副会長のロギュンが現れれば流石のパーシュとフレードも口論を止めて大人しくなるとユーキとアイカは考えていた。現に二人の予想どおり、パーシュとフレードはロギュンの顔を見ると口論を止めて大人しくなっている。

 ロギュンはユーキたちの様子と生徒会室に聞こえてきた騒ぎから何があったのか察し、呆れた顔で溜め息を付く。そんなロギュンの反応を見たユーキとアイカはただ苦笑いを浮かべることしかできなかった。


「生徒会室に来たのならすぐに入ればいいのに何をしているのですか?」

「別に、コイツが喧嘩を売ってきたから買ってやっただけだよ」

「何言ってんだ、先に喧嘩を売ったのはお前だろうが!」


 パーシュとフレードは再び口論を始めて睨み合い、そんな二人を見たユーキとアイカは「また?」と言いたそうな顔で二人を見る。するとロギュンは僅かに目を鋭くし、パーシュとフレードを睨みながら扉を大きく開けて外に出てきた。


「いい加減にしてください。貴方たちが不仲なのは知っていますが、そうやって会うたびに喧嘩をされては周りにいる人たちの迷惑です。もう少し周りのことを考えて行動してください」


 ロギュンの言葉で自分たちが見っともない姿を見せていると教えられたのか、パーシュとフレードは睨み合うのを止めて大人しくなる。パーシュとフレードを止めたロギュンを見てユーキとアイカは流石は副会長と心の中で感心した。

 パーシュとフレードが静かになるとロギュンは軽く咳をして気持ちを切り替え、集まっているユーキたちを確認する。


「とりあえず、中に入ってください。会長から皆さんにお話がありますから」


 そう言ってロギュンは生徒会室に入り、ユーキたちもそれに続いて生徒会室に入った。中に入るとカムネスが自分の席についてユーキたちを見る姿があり、カムネスの机の前にはフィランが立っており、入室したユーキたちを見ている。


「あれ、フィランも呼ばれていたのか?」

「……ん」


 ユーキを見ながらフィランは小さな声を出して頷く。相変わらず感情を表に出さず、人形のように無表情でユーキたちを見ていた。

 フィランまで生徒会に呼ばれていたことにユーキだけでなく、アイカたちも驚いて意外そうな顔をする。

 神刀剣の使い手が三人も生徒会室に集まり、ユーキは自分たちがどんな理由で呼び出されたのかますます不思議に思った。

 ユーキたちは既に来ていたフィランと合流し、横一列に並んでカムネスの方を向く。カムネスは無言で並ぶ五人をしばらく見つめると静かに口を動かした。


「忙しいところを集まってもらって済まない」

「まったくだ。こっちは依頼を終えたばかりで疲れてるって言うのによぉ」


 フレードは肩を竦めながら愚痴をこぼし、ロギュンはそんなフレードを鋭い目でジッと見つめる。これから大切な話をすると言うのに場の空気を乱すフレードの態度にロギュンは僅かに腹を立てた。

 ユーキとアイカはフレードの態度でロギュンが機嫌を損ねたことに気付き、気まずい顔でフレードを見る。パーシュは呆れ顔で首を横に振り、フィランは無表情のまま視線だけを動かしてフレードを見ていた。

 カムネスはフレードの態度を気にすることなく話を続ける。


「疲れているところを悪いが、新たに依頼を受けてもらう。此処にいる五人でね」


 カムネスの言葉にフレードは「はあ?」と言う顔をし、ユーキ、アイカ、パーシュも目を見開いてカムネスを見る。

 生徒会からの呼び出しなので重要な依頼を任されるのではと予想はしていたが、神刀剣の使い手を三人も就かせる依頼だと聞いてユーキは衝撃を受ける。勿論、アイカも驚いていた。


「ま、待ってください、会長。神刀剣の使い手である先輩たちとフィランが参加するって、どんな依頼なんですか? まさか、強力なベーゼの討伐依頼じゃ……」


 上位ベーゼのような手強い敵と戦う依頼なのかと予想してユーキはカムネスに尋ねる。それなら神刀剣の使い手を三人も参加させることにも納得ができた。

 

「残念だが、討伐依頼ではない」

「じゃあ、何だって言うんだい?」


 パーシュは腕を組みながらカムネスに尋ねる。今のパーシュはカムネスが依頼内容を詳しく教えないことと、仲の悪いフレードと同じ依頼を受けさせられようとしていることで機嫌を悪くしているのか表情が僅かに険しく、声も低めになっていた。

 機嫌を悪くしているのはパーシュだけでなく、フレードも不満そうな顔をしながらカムネスを睨んでいる。二人の反応を見たロギュンは「やれやれ」と言いたそうな顔をしており、カムネスは落ち着いた様子で険しい顔の二人を見ていた。


「今回の依頼はある家族の警護だ」

「警護だぁ? たかが警護に神刀剣の使い手を三人も就かせるのかよ?」


 ベーゼやモンスターの討伐ではなく、警護が依頼だと知ったフレードは驚きながら再確認した。話を聞いたユーキたちもフィランを除いて意外そうな反応を見せる。

 神刀剣の使い手はメルディエズ学園でも一二を争うほどの実力の持ち主だ。それほどの実力者に警護を依頼すると言うのだからユーキたちが驚くのも無理は無い。しかもその神刀剣の使い手を三人も派遣するというのだからより驚かされた。


「お前たちが驚くのもよく分かる。だが、神刀剣の使い手を派遣するのは依頼主からの希望だから仕方がないんだ」

「依頼主?」

「どんな人なのですか?」


 ユーキとアイカが不思議そうな顔でカムネスを見ていると、カムネスの隣に立っていたロギュンが前に出て持っている羊皮紙を見つめる。


「依頼主はラステクト王国の子爵でるジーゴ・ロンダス殿。この学園の南西にあるルーマンズの町の管理を任されている方です」

「貴族の方ですか」

「ええ。依頼してきたのはロンダス殿に仕える執事で、彼の話によると警護対象はロンダス殿とその家族だそうです。そして、報酬はいくらでも出すので神刀剣の使い手と優秀な生徒を大勢派遣してほしいと仰ったそうですよ」


 依頼主が貴族だと知ったアイカは納得の反応を見せた。貴族なら優秀な生徒を指名して依頼を受けさせるほどの金があるため、神刀剣の使い手を警護に雇うこともできる。ユーキも依頼主が神刀剣の使い手を指名した理由を知って納得の表情を浮かべていた。

 ユーキとアイカが納得する中、パーシュとフレードはまだ納得できないのか真剣な顔でロギュンの話を聞いていた。


「……依頼主が金持ちだから神刀剣の使い手を雇えるっていうのは分かったがよ、それでもどうして俺らに警護を依頼するのかが分かんねぇ」

「警護と言うからにはその子爵さんの家族が誰かに狙われてるってことなんだろう? その家族を狙う連中はあたしらが相手にしなくちゃいけないくらい手強いのかい?」

「依頼を受けた受付の人も詳しくは聞いていないそうですが、既にロンダス殿の屋敷で雇っていたメイドや使用人が数人犠牲になっているそうです」


 貴族の屋敷で働く者が殺されたと聞いたユーキたちは一斉に反応する。屋敷の使用人たちを殺す、それはつまり、貴族の家族を狙う者は屋敷に侵入することができるほどの能力を持っている言うことを意味していた。

 大陸に存在するどの国でも同じだが、貴族が住んでいる屋敷は警備が厳重で普通の盗賊などは侵入するのが難しい。中には私兵部隊を持つ貴族もおり、そう言った者たちは兵士に屋敷の周囲や中を見張らせている。そのため、私兵部隊を持たない貴族の屋敷よりも侵入や襲撃が難しくなっているのだ。

 ジーゴ・ロンダスが私兵部隊を持っているかどうかは分からないが、メルディエズ学園に依頼を出す点から私兵部隊を持っていないとユーキたちは考えていた。そんな中、ロギュンは依頼の話を続ける。


「ロイダス殿は最初、自分が管理する町で活動する冒険者チームに警護を依頼したそうですが、何度も失敗したためこの学園に警護を依頼したそうです」

「チッ、また冒険者どもの代わりかよ」


 以前も失敗した冒険者の代わりに仕事を回されたことがあるため、今回も同じ状況だと知ったフレードは不満に思って舌打ちをする。ユーキも以前経験したことを思い出して少し複雑そうな顔をしていた。


「学園に依頼する際、執事の方は神刀剣の使い手を全員、そして十人以上優秀な生徒を派遣してほしいと仰ったそうです」

「しかし、我が学園では警護や護衛と言った依頼ではよほどの事情でない限り、生徒は最大で五人までしか派遣できない決まりになっている。神刀剣の使い手も莫大な報酬を出されようが、警護依頼には三人までしか派遣することができない。一つの依頼に生徒を回しすぎてしまうと他の依頼を受けられなくなってしまうからな」

「それで、あたしらが選ばれたってわけだね?」


 自分たちが呼び出された理由を聞かされたパーシュが再確認するとカムネスはパーシュを見ながら頷く。

 貴族からの依頼とは言え、一つの依頼に神刀剣の使い手を三人も派遣するのはどうかと思われるが、依頼主が貴族で莫大な報酬を出すというのなら引き受けるしかなかった。


「改めて指令を出す。ルーマンズルの町へ向かい、ジーゴ・ロンダス子爵とその家族の警護に就いてもらいたい」


 カムネスは真剣な表情を浮かべてユーキたちにロイダン家の警護を命じる。フィラン以外の四人はカムネスの指示を聞くと一斉に目を鋭くした。


「今回の依頼は貴族からの依頼ですので、皆さんには依頼を拒否することはできませんし、新たに人員を送ることもできません。ですから皆さんだけで依頼を引き受けてください。例え、仲の悪い相手が一緒だとしても……」


 ロギュンはチラッとパーシュとフレードの方を向き、遠回しに喧嘩をするなと忠告する。ロギュンの言葉を聞いたパーシュとフレードはお互いの顔を見ると再び不満を露わにした。


「なぁ、神刀剣の使い手を三人派遣するってことになったんなら、どうして俺とパーシュが一緒に行かなきゃいけねぇんだよ? カムネスが俺とパーシュのどちらかと変わればいいじゃねぇか」

「そこはあたしも同感だよ。あたしとフレードが仲が悪いって知ってて何でわざわざ一緒に依頼を受けさせるんだい?」


 フレードとパーシュはカムネスを見ながら納得のできない点を尋ねる。カムネスは机に両肘を立てて手を顔の前に持って来ると二人に視線を向けた。


「勿論、僕もそれは考えた。だが運悪く、僕も外せない依頼を受けているんだ。しかも僕を指名した依頼でね、この後すぐに出かけなくてはいけないんだ」


 変わりたくても変われないとカムネスは説明し、それを聞かされたパーシュとフレードは不服そうな顔をするが、カムネスを指名した依頼では仕方がないと渋々納得した。


「あのぉ、会長」


 カムネスがパーシュとフレードへの説明を終えると、アイカが軽く手を上げてカムネスに声を掛けた。


「何だい?」

「どうして貴族の警護依頼に私が選ばれたのでしょうか? 先輩たちやフィランは神刀剣の使い手ですし、ユーキも優れた剣士ですから選ばれたのは分かるのですが、私はそんなに優れた剣士じゃ……」


 自分はロイダス子爵の依頼を受けるにふさわしくないのではとアイカは語り、話を聞いていたユーキ、パーシュ、フレードは意外に思ったのか軽く目を見開いてアイカを見た。

 アイカはメルディエズ学園の中級生の中でも優れた実力を持っている。しかし、本人はユーキや神刀剣の使い手と比べてまだ未熟だと思っているらしく、重要な依頼を受けるような存在ではないと感じていたのだ。

 

「……サンロード、君は自分のことを過小評価している。君は自分が思っているほど弱い剣士ではない。現在、メルディエズ学園に在学している剣士の生徒の中でも君は優れた戦いの技術を持っている。更に君は誰かを護るために強くなることを望んでいるとパーシュから聞いた。力をつけるだけでなく、誰かを護りたいと願うこともメルディエズ学園の生徒には必要なものだ。だから僕たちは君を選んだんだ」

「そ、そんな、私は会長が思っているほど……」

「謙遜するなよ」


 アイカが恥ずかしそうにしながら喋っているとユーキが声を掛けていた。アイカがユーキの方を見ると彼は笑いながらアイカを見ている。


「会長の言うとおり、君は優れた剣士だ。この前だって上位ベーゼのケンプファルを倒したじゃないか」

「それは貴方と会長が一緒に戦ってくれたから……」

「いや、君がいなければあんなに早くケンプファルを倒せなかった。謙遜なんてせず、もっと自分に自信を持った方がいい。そうすれば君はもっと強くなれるはずだ」


 微笑むユーキを見たアイカは小さく俯いてユーキとカムネスの言葉について考えた。自信を持つことは力だけでなく、心が成長することにも繋がる。アイカは二人の言葉から自信を持つことの大切さを知った。

 アイカは顔を上げて自信に満ちたような顔で前を見る。ユーキはアイカが自信が持ったと感じて小さく笑い、パーシュとフレードも二ッと笑みを浮かべた。カムネスも「もう問題無い」と感じながらアイカを見ている。


「改めて、ジーゴ・ロイダス子爵からの警護依頼、お前たちに任せたぞ」

「あいよ」


 パーシュは軽く手を上げながら返事をし、フレードも「仕方ねぇな」と言いたそうな顔で後頭部を掻く。フィランは相変わらず無表情のままで、ユーキとアイカは真面目な表情を浮かべていた。


「ところで会長、ルーマンズの町にはいつ出発すればいいんですか?」

「今すぐだ」


 ユーキの問いにカムネスは即答する。答えを聞いたユーキたちは黙り込み、しばらくするとユーキとフレードは目を大きく見開いた。


『はああぁっ!?』


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