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児童剣士の混沌士(カオティッカー)  作者: 黒沢 竜
第二章~強豪の剣士~
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第三十一話  魔を切り裂く刃


 走って来るフェグッターたちを見つめながらアイカとパーシュも走る速度を落とさずに距離を縮めていき、間合いに入った瞬間に二人は攻撃を仕掛ける。フェグッターたちも同時に大剣を振り、双方の剣がぶつかると周囲に剣戟の音が響く。

 鍔迫り合いをしながらアイカとパーシュはフェグッターたちを押し戻そうとする。だが、中位ベーゼであるフェグッターの力は強く、押し戻すことはできない。逆に二人の方がフェグッターたちに押されていた。

 このまま鍔迫り合いを続けても自分たちの方が不利だと感じたアイカとパーシュは態勢を立て直すために大剣を払い、大きく跳んでフェグッターたちから離れる。アイカは左後ろへ跳び、パーシュは右後ろに跳んでお互いに距離を取り、自分たちが戦いやすい状況を作った。

 フェグッターたちも獲物を逃がすまいと二手に分かれてアイカとパーシュを追う。距離を取った二人は剣を構え直して近づいて来るフェグッターを睨み付ける。


「貴方たちを倒せば他のベーゼたちも混乱し、こちらが有利になるはずです。これ以上犠牲を出さないためにも、此処で貴方たちを倒します!」


 アイカは目の前にいるフェグッターに討伐することを宣言し、フェグッターは無言で大剣を構えながら目を赤く光らせる。先程の鍔迫り合いの時にアイカは力では勝目が無いと悟り、攻撃を防がずに回避しながら戦うしかないと考えていた。

 膝を軽く曲げ、アイカはフェグッターがいつ攻撃してきても回避できる体勢を取りながら相手の出方を窺う。そんな中、フェグッターが先制攻撃を仕掛けてきた。

 フェグッターは大剣を振り上げると大きく前に踏み込んでアイカに近づき、大剣を勢いよく振り下ろす。アイカは頭上から迫ってくる大剣を右へ跳んでかわし、フェグッターの左側面に回り込んでプラジュとスピキュを連続で振って反撃した。プラジュとスピキュはフェグッターの左腕と左足を斬りつけ、フェグッターは痛みを感じて小さく声を漏らす。

 しかし、ベーゼであるフェグッターは腕と足を斬られたくらいでは戦意は失わず、左手だけで大剣を持ち、左側にいるアイカの横切りを放つ。アイカは後ろに跳んでフェグッターの攻撃をかわし、再び反撃するためにフェグッターに近づこうとする。

 アイカが前に出ようとした時、フェグッターはアイカの方を向いて八相の構えを取っていた。大剣の剣身は薄っすらと紫色に光っており、アイカはフェグッターが斬撃を放ってくると気付いて目を見開く。その直後、フェグッターは大剣を横に振り、アイカに向けて斬撃を放った。

 勢いよく迫ってくる斬撃を見たアイカは咄嗟に右へ跳んだ。ギリギリで直線状から移動したため、なんとか胴体を両断されるのだけは避けられたが、斬撃の端が左脇腹を掠り、アイカは脇腹を斬られてしまう。


「ううぅっ!」


 脇腹の痛みにアイカは表情を歪めて声を漏らす。しかし、アイカは倒れたりせずにプラジュとスピキュを強く握りながら痛みに耐えてフェグッターを睨む。

 普通の少女なら脇腹を斬られれば痛みに耐えられずに泣き叫んだりするかもしれないが、メルディエズ学園の生徒であるアイカは負傷しても痛みに耐えられるだけの体力と精神力を得ていた。そもそも、それだけの体力と精神力が無ければベーゼやモンスターと戦うなんてことなどできない。

 アイカはフェグッターの次の攻撃を警戒しながら反撃の隙を窺う。斬られた箇所からは出血しているが、今のアイカはそんなことを気にしてなどいられない。目の前のベーゼを倒すことだけ考えて構えていた。

 フェグッターは中段構えを取りながらアイカにゆっくりと近づいて行き、アイカが間合いに入った瞬間に袈裟切りを放つ。アイカは素早く後ろに下がって袈裟切りをかわすと素早く前に踏み込み、プラジュで袈裟切り、スピキュで横切りを放って反撃する。

 袈裟切りと横切りは攻撃の直後で隙ができていたフェグッターの右腕と右肩を切り裂き、攻撃を受けたフェグッターは怯んで僅かに体勢を崩す。アイカはその隙を見逃さなかった。


「サンロード二刀流、太陽十字斬!」


 アイカはスピキュで横切りを放ち、続けてプラジュを振り下ろして正面からフェグッターを攻撃する。フェグッターは胴体を十字に斬られ、声を上げながら後ろに数歩下がった。

 しかし、フェグッターは倒れず、斬られた箇所から人間と同じ赤い血を流しながら大剣を構え直す。自分の技の直撃を受けても倒れないフェグッターを見たアイカは一瞬驚きの反応を見せるがすぐに表情を鋭くし、後ろに軽く跳んで距離を取った。


「太陽十字斬を受けても倒れない。手応えはあったはずなのに……流石は中位ベーゼね」


 自分の技を受けても倒れないフェグッターを見ながらアイカは下位ベーゼと中位ベーゼの体力の違いを改めて理解する。同時にこれ程の敵に時間を掛けすぎてしまうと自分が先に倒れてしまうかもしれないと感じ、急いで倒さなくてはならないと考えた。

 だが、急がねばならないといって焦ってしまうと隙ができて返り討ちに遭う可能性があるため、アイカは冷静さを失ってはならないと自分に言い聞かせながらプラジュとスピキュを構えた。

 アイカが構えた直後、フェグッターは大剣で突きを放ちアイカを攻撃した。アイカはスピキュで大剣を横に払って突きをかわし、フェグッターに急接近する。フェグッターに近づくとアイカは素早くスピキュで横切りを放ってフェグッターの腹部を斬った。

 フェグッターは腹部の痛みで一瞬怯むがすぐに体勢を直し、懐にいるアイカに右足で膝蹴りを放つ。膝蹴りに気付いたアイカは右へ移動してフェグッターの攻撃をかわす。だが、かわした直後にフェグッターは袈裟切りを放った。

 アイカは咄嗟にプラジュとスピキュを交差させて大剣を防ぐが膝蹴りをかわした直後で体勢が整っていたなかったため、フェグッターの攻撃に耐えられずに大きく後ろに飛ばされてしまう。飛ばされたアイカは背中から地面に叩きつけられた。


「ううっ、本当に凄い力だわ……」


 仰向けに倒れるアイカが背中の痛みに耐えながら起き上がってフェグッターを確認する。フェグッターは大剣を構えながら座り込んでいるアイカに向かって走ってきており、それを見たアイカも急いで立ち上がってスピキュを握る左手をフェグッターに向けた。


光の矢ライトアロー!」


 アイカが叫ぶと左手の前に白い光が集まり、その光は矢のように先端の尖った形となる。アイカは光の矢をフェグッターの足元に向かって放ち、光の矢はフェグッターの左足に命中した。

 足に攻撃を受けたフェグッターは走る速度を僅かに落とす。その隙にアイカは体勢を整え、フェグッターの左側に回り込むように走り出す。その間、アイカは左手から光の矢を連続で撃ち続け、フェグッターに魔法で攻撃を仕掛けた。

 フェグッターは足を止めてアイカが放った光の矢を全て大剣で叩き落とす。アイカはフェグッターが光の矢を防ぐのを見ても驚いたりせずに光の矢を放ち続ける。その間にアイカは少しずつフェグッターに近づいて行き、フェグッターが間合いに入ると魔法攻撃を止めて高くジャンプし、プラジュとスピキュを振り上げた。


「サンロード二刀流、陽光剣ようこうけん!」


 アイカは声を上げながらプラジュとスピキュをフェグッターに向かって同時に振り下ろす。二本の剣はフェグッターの体を切り裂き、フェグッターは断末魔を上げる。流石のこの攻撃はフェグッターに決定的なダメージを与えたようだ。

 フェグッターは大剣を握ったままゆっくりと後ろに倒れて仰向けの状態になり、黒い靄となって消滅した。着地したアイカはフェグッターが消滅したのを確認すると深く息を吐く。


「何とか倒せたわね。流石に手強い相手だったわ……」


 今までの下位ベーゼとは比べ物にならない強さにアイカは低い声で呟く。今回は勝てたがギリギリの戦いだったため、勝利を喜ぶべきか複雑な心境だった。


「これからもフェグッターのような中位ベーゼと何度も戦うことになるかもしれないし、今回のような戦いにならないよう、日々の鍛錬を力を入れないといけないわね」


 自分はまだまだ未熟だと実感しながらアイカはより強くなろうと心の中で強く決意する。


――――――


 パーシュもフェグッターを相手に激しい戦いを繰り広げている。ただ、アイカと違ってパーシュは余裕のある戦いをしていた。

 フェグッターから離れた場所に立つパーシュはヴォルカニックを持たない左手をフェグッターに向け、手から火球を放ち攻撃する。フェグッターは飛んできた火球を叩き落そうと大剣を振り下ろすが、大剣が火球に触れた瞬間に爆発し、その衝撃と爆風でフェグッターは体勢を崩した。

 パーシュはフェグッターが怯んだのを見るとニッと笑いながら火球を連続で放つ。パーシュは爆破バーストの能力を付与した火球を放って攻撃しており、火球がフェグッターの足元や肩、足に命中すると爆発してフェグッターにダメージを与えた。

 爆発の威力は抑えているため、フェグッターに大きなダメージを与えてはいない。短時間で倒すのであれば爆発は大きくするべきだと思われるが、下手に爆発を大きくしてしまうと周りにいる警備兵や冒険者たちを巻き込む可能性があったので、パーシュは敢えて爆発力を抑えていたのだ。だが、それでも十分なダメージを与えることができていた。


「この調子だと、あたしが直接攻撃しなくても倒せそうだね」


 余裕の笑みを浮かべながらパーシュは楽な戦いだと感じる。彼女にとって中位ベーゼとの戦いは今回が初めてではなく、過去に何度も中位ベーゼと戦った経験があるため、中位ベーゼが相手でも何の問題も無かった。

 同時にどのように戦うのが一番楽で効率がいいのか知っているため、パーシュ自身、苦戦するとは思っていない。しかし、油断はしておらず、パーシュは意識をフェグッターから外したり、よそ見などをせずに戦っている。

 パーシュはフェグッターに反撃の隙を与えまいと火球を放ち続ける。すると、フェグッターはパーシュから見て左に素早く移動して火球をかわす。パーシュはフェグッターを追撃するために左手を移動したフェグッターに向けて再び火球を放とうとするが、パーシュが火球を放つ前にフェグッターは大剣を紫色に光らせ、勢いよく斜めに振ってパーシュに斬撃を放った。

 斬撃が飛んできたのを見たパーシュは左に移動して斬撃をかわす。斬撃は飛んで行った先にある民家の壁に命中し、壁に大きな切傷を付けた。

 上手く回避したパーシュがフェグッターの方を向くと、フェグッターは再び剣身が光る大剣を振って斬撃を放ってきた。パーシュは軽く目を見開いて驚くが冷静に右へ跳んで斬撃を回避する。だがフェグッターはまたパーシュに向けて大剣を振って斬撃を放ち、パーシュはその斬撃もかわす。先程と一転して今度はフェグッターが一方的にパーシュを攻撃する状態になった。


「さっきの仕返しのつもりかい? アンタって結構根に持つタイプなんだね」


 フェグッターを小馬鹿にするように笑いながらパーシュは斬撃をかわしていく。フェグッターは斬撃を全てかわすパーシュに対して不満や苛立ちなどを感じていないのか、ただただ大剣を振って斬撃を放ち続ける。

 パーシュがかわした斬撃は民家の壁や地面に切傷を付け、広場の端に積まれている樽や木箱を破壊する。中には警備兵や冒険者たちの近くを通過する斬撃もあり、飛んできた斬撃を見て驚く者たちも大勢いた。


「……あまり時間を掛けると他の連中に被害が出ちまうね。こりゃあ、遊んでないでさっさと片付けた方がよさそうだ」


 自分がかわした斬撃のせいで周囲に被害が出ているのを見たパーシュは急いで決着をつけることにし、姿勢を若干低くしてフェグッターの右側に回るこむように走り出す。フェグッターは走るパーシュを見て大剣を振り、パーシュに向けて斬撃を放つ。

 斬撃は走るパーシュの後ろを通過したり、足元に命中して大きな切傷を付ける。パーシュは飛んでくる斬撃を警戒しながら走り続けた。そんな時、パーシュは走る先に小石が三つ落ちているのを見つけ、走りながら素早く左手でその小石を拾う。

 パーシュは手の中の小石を見ると強く握り閉める。同時に右手の甲の混沌紋も光り出し、混沌紋の光が消えるとパーシュは小石をフェグッターに向かって投げつけた。

 投げられた小石は地面を跳ねたり転がったりして移動し、フェグッターの足元で止まる。小石が小さいからかフェグッターは小石に気付かずに斬撃を放ち続けていた。小石がフェグッターの足元で止まったのを見たパーシュは小さく笑う。


爆破石ブラスト・ストーン


 パーシュは呟きながら左手の指を鳴らす。すると、パーシュが投げた三つの小石が一斉に光り出し、フェグッターの足元で爆発した。爆発によってフェグッターの両足は傷つき、フェグッターは倒れないよう咄嗟に大剣を杖代わりにする。パーシュはフェグッターの姿を見ると「よし!」と笑みを浮かべた。

 フェグッターを止めるために攻撃するのなら火球ファイヤーボールを使うべきなのだが、火球ファイヤーボールは目立つため、フェグッターが斬撃を放って相殺する可能性があった。それを防ぐためにパーシュは火球ファイヤーボールは使わず、爆破バーストの能力を付与した小石を使って攻撃したのだ。

 傷ついた両足を上手く使ってフェグッターは体勢を直し、再びパーシュに攻撃しようとする。だが、既にパーシュはフェグッターの目の前まで近づいていた。


「足が使えないんじゃ、もうまともに戦うことはできないよ。無駄な抵抗はやめて大人しくしな?」


 小さく笑いながらパーシュはフェグッターに投降を勧める。だが、そんなことでベーゼが戦いを放棄するはずもなく、フェグッターは杖代わりにしていた大剣を持ち直してパーシュに袈裟切りを放つ。

 フェグッターがどんな反応をするか分かっていたのか、パーシュは落ち着いた様子で姿勢を低くして袈裟切りを回避する。攻撃をかわすとパーシュはヴォルカニックの剣身に炎を纏わせ、フェグッターの右側を通過しながら素早くヴォルカニックでフェグッターを斬った。

 パーシュがフェグッターの背後に回り込んだ直後、フェグッターの体は炎に呑まれて焼き尽くされる。炎が消えるとそこには何も残っておらず、煤のような物だけが山となっており、フェグッターが消滅したのを確認したパーシュはヴォルカニックを振って剣身の炎を消した。


「よし、これで一体は片付いた。残る三体はどうなってるかな~?」


 ユーキたちが相手をしているフェグッターがどうなったのか気になり、パーシュは周囲を見回す。すると、アイカがフェグッターを倒した姿が目に入り、パーシュは小さく笑う。可愛い後輩が中位ベーゼを倒したことを嬉しく思っているようだ。

 パーシュはアイカがフェグッターとの戦いで傷ついていないか気になり、彼女の下に向かって走った。


――――――


 広場の中央辺りではユーキとフレードがフェグッターたちと交戦している。ユーキは月下と月影を交互に振って連続攻撃を仕掛け、フェグッターは大剣でそれを全て防ぐ。攻撃はまだ一度も命中しておらず、ユーキは中位ベーゼの強さが下位ベーゼと明らかに違うと実感した。

 少し離れた所ではフレードがもう一体のフェグッターと鍔迫り合いをしている。フレードはそれなりに力が強く、中位ベーゼであるフェグッターと鍔迫り合いをしても一方的に押されることはなかった。フレードはフェグッターとの戦いを楽しんでいるのか笑みを浮かべている。

 しばらくフェグッターに攻撃をしていたユーキは普通に攻撃しても無駄だと感じ、一度攻撃の手を止めて後ろに跳んで距離を取る。すると、今まで防御していたフェグッターがユーキを追うように前に踏み込んで大剣をユーキに向かって振り下ろした。

 ユーキは混沌紋を光らせて頭上で月下と月影を交差させ、振り下ろされた大剣を止める。強化ブーストの能力で腕力と脚力を強化したため、力の強いフェグッターの振り下ろしも難なく止めることができた。

 フェグッターは体の小さなユーキが振り下ろしを止めたのを見て少し驚いたような反応を見せるが、すぐに大剣を振り上げ、今度はユーキから見て左側から横切りを放ち攻撃してきた。ユーキは交差させていた月下と月影を素早く動かして大剣を止める。刀と大剣がぶつかったことで周囲に火花が飛び散った。

 大剣を防いだユーキはもう一度後ろに跳んで距離を取る。すると、離れた所で戦っていたフレードも合流し、二人はお互いに背を向ける形で得物を構えた。


「よぉ、ユーキ。手こずってるようだな?」

「別に手こずってはいませんよ。様子を見ながら戦ってただけです。先輩こそ、押されてるんじゃないですか?」

「馬鹿言うな、俺は戦いを楽しんでんだよ」


 お互いに苦戦していないことを主張しながらユーキとフレードは目の前の敵を見つめる。フェグッターたちは中段構えを取りながらゆっくりと二人に近づいて距離を縮めてきていた。

 ユーキは近づいて来るフェグッターを見つめながらどこかに隙が無いか、どう攻めた方がいいか考える。フレードは隙を窺うつもりは無いのか、笑みを浮かべながらフェグッターに向かって走り出し、リヴァイクスで袈裟切りを放った。

 フェグッターはフレードの袈裟切りを大剣で防ぐとリヴァイクスを払い、逆袈裟切りで反撃する。フレードは軽く後ろに跳んで大剣をかわすとリヴァイクスの切っ先をフェグッターの向けて混沌紋を光らせた。その直後、リヴァイクスの剣身が伸びてフェグッターの右脇腹を貫く。

 脇腹を刺されたフェグッターは苦痛の声を漏らしながら左手で刺さているリヴァイクスを抜こうとするが、脇腹を貫通しているリヴァイクスは抜けず、それを見たフレードは鼻で笑う。すると、リヴァイクスを抜くのを諦めたフェグッターは八相の構えを取って大剣の剣身を紫色に光らせる。

 フレードは光る大剣を見て斬撃を放つと気付き、伸ばしていたリヴァイクスの剣身を下に戻す。剣身を抜いた時に痛みを感じたフェグッターは一瞬怯むが、体勢を崩さずに大剣を横に振って斬撃を放った。

 飛んでくる斬撃を見てフレードは回避行動を取ろうとする。だが、後ろではユーキがもう一体のフェグッターと戦っているため、回避するとユーキに斬撃が当たる可能性があったので回避できない。

 回避が難しい状態にフレードは面倒そうな顔をし、仕方なく斬撃を防ぐことにした。フレードはリヴァイクスを両手で握り、中段構えを取ると刃の部分を水で包み、そのまま刃に沿って高速回転させる。そして、飛んできた斬撃に向かってリヴァイクスを振り、水を回転させるリヴァイクスで斬撃を止めた。

 斬撃と回転する水がぶつかることで周囲にしぶきが飛び、フレードはしぶきを受けながら腕と足に力を入れて斬撃を止める。そして、リヴァイクスを大きく振り上げて斬撃の軌道を反らした。斬撃は正門の近くの城壁に当たり、近くにいた警備兵たちは城壁に当たった斬撃を見て驚く。


「……思った以上に重てぇ攻撃じゃねぇか。おかげで腕が少し痺れちまった」


 フレードは不満そうな顔をしながら小さく震える自分の腕を見つめる。フレードは今までに何体ものフェグッターと戦って勝利してきたが、フェグッターが放つ斬撃を止めたことは今までなかったので斬撃の重さに驚いていた。


「こんな重てぇ攻撃を防ぐのはもう御免だ。また斬撃を放たれて防ぐことになるのも嫌だし、さっさと終わらせてもらうぞ」


 現状から再び斬撃を防ぐ可能性があると予想したフレードは早急に決着をつけることを決め、水を回転させるリヴァイクスを脇構えに持ってフェグッターに突っ込む。

 フェグッターは向かって来るフレードを迎え撃つために中段構えを取り、フレードが間合いに入るのを待つ。そして、フレードが間合いに入った瞬間に大剣を勢いよく振った。

 フレードは大剣が当たる瞬間、前にスライディングをしてフェグッターの剣をかわしフェグッターの背後に滑り込む。後ろに回り込んだフレードは素早く立ち上がって上段構えを取り、同時に伸縮エラスティックの能力を発動させてリヴァイクスの剣身を2mほどに伸ばす。剣身が伸びたことで刃に沿って回転している水も伸び、リヴァイクスは水を回転させた状態のまま長くなった。


大海両断オーシャン・バイセクト!」


 背中を向けているフェグッターに向けてフレードはリヴァイクスを振り下ろす。リヴァイクスは刃に沿って水が高速回転していることで切れ味が鋭くなっている上に剣身が伸びているため、フェグッターを頭頂から簡単に両断した。

 真っ二つにされたフェグッターは半分に割れ、そのまま黒い靄と化して消滅する。フェグッターが消滅するとフレードはリヴァイクスの長さを戻し、剣身の水も消滅させた。


「チッ、こんな奴に大技の一つを使っちまうと……まぁ、現状じゃ仕方ねぇか」


 勝ち方に納得できないのかフレードは若干不満そうな顔をしているが、無傷で勝利することができたのでそれ以上文句は言わなかった。


――――――


 ユーキはフェグッターと激しい攻防を繰り広げていた。月下と月影を器用に操りながら攻撃し、フェグッターはその攻撃を大剣で防いだ。

 隙ができればフェグッターも大剣を振り下ろしたり、振り回したりして反撃するが、ユーキにとってはフェグッターの攻撃はそれほど速くないので難なくかわすことができた。

 攻撃をかわした直後、ユーキはすぐにフェグッターに攻撃を仕掛けるが、フェグッターはユーキの攻撃を素早く大剣を動かして防ぐ。攻撃している時と比べて防御の速度は若干速かった。


「コイツ、本当に見た目と違って速いな。こりゃあ、もう少し速く攻撃しないと倒せないな」


 確実にフェグッターを倒すため、ユーキは双月の構えを取り、更に強化ブーストの能力で自身を再び強化する。準備が整うとユーキは前に踏み込んで攻撃を再開した。

 ユーキは最初に月影で袈裟切りを放ち、フェグッターを攻撃する。フェグッターはユーキの攻撃を大剣で難なく防いだが、攻撃を防いだ直後にユーキは月下で横切りを放ってフェグッターに連続で攻撃した。最初の攻撃を防いだ直後の攻撃だったため、フェグッターは反応が遅れてしまい、防御できずに右上腕部を斬られる。

 腕を斬られたフェグッターは僅かに声を漏らしながら後ろに下がる。その隙にユーキは姿勢を低くし、今度は月影を横に振ってフェグッターの腹部を斬った。

 強化ブーストで身体能力を強化しているユーキは先程よりも動きが速くなっており、フェグッターが反応する前に攻撃を与えることができた。しかも腕力も強化しているため、フェグッターに与えるダメージも大きくなっている。

 ユーキは腹部を斬られて更に体勢を崩すフェグッターを追撃するため、月下と月影で同時に袈裟切りを放つ。二本の刀はフェグッターの胴体に切傷を付け、斬られた箇所からは僅かに出血した。

 連続で攻撃を受けたフェグッターは流石に自分が押されていると感じ取り、後ろに大きく跳んでユーキから離れる。距離を取ったフェグッターは大剣の剣身を紫色に光らせると大きく横に振り、ユーキに向かって斬撃を放つ。

 ユーキは飛んでくる斬撃を見ると月下と月影を交差させ、真正面から飛んでくる斬撃を止める。斬撃を止めたユーキの顔からは辛さなどは見られず、斬撃に押されることなく踏み止まっていた。

 普段のユーキならフェグッターの斬撃を止めるのは難しいかもしれないが、今のユーキは強化ブーストで身体能力が強化されているため、斬撃を止めることができた。

 しばらく月下と月影で斬撃を止めていると斬撃は次第に薄くなり、やがて霧が掻き消されるように消滅した。斬撃が消えるとユーキは月下と月影を外側に軽く振ってから構え直し、遠くにいるフェグッターを睨む。フェグッターは斬撃を防ぎ切ったユーキを見ながら再び大剣を紫色に光らせる。


「また斬撃を放つ気か。そうはさせねぇよ!」


 斬撃を撃たせまいと、ユーキはフェグッターに向かって走り出す。強化ブーストで強化されたユーキは一瞬でフェグッターの目の前まで近づき、がら空きになっている胴体に月下で攻撃する。だが、フェグッターは後ろに下がってユーキの攻撃をギリギリでかわし、倒し損ねたユーキは悔しそうにフェグッターを見た。

 攻撃をかわしたフェグッターは大剣を振ってユーキに攻撃する。ユーキは迫ってきた大剣を月影で防ぎ、月下で横切りを放ち反撃した。フェグッターは後ろに下がって横切りをかわすとユーキに向かって大剣を振り下ろす。頭上から迫ってくる大剣をユーキは後ろに軽く跳んでかわした。

 ユーキはフェグッターが次の攻撃を仕掛けてくる前に先手を打とうと前に出てフェグッターの顔と同じ高さまでジャンプした。フェグッターと目が合うと、ユーキはジャンプした状態で月下と月影を横に構える。


「ルナパレス新陰流、満月!」


 月下と月影を強く握りながらユーキか体を左に回転させ、そのまま月下と月影を横に振ってフェグッターの頭部を攻撃する。月下と月影はフェグッターの鉄仮面に命中し、鉄仮面の一部を切り裂いた。

 鉄仮面の下にある顔を斬られたのかフェグッターは声を上げながらふらつく。ユーキはそのまま360度回りながら月下と月影を振り、一回転すると着地して素早く双月の構えを取った。


朏魄ひはく!」


 ユーキは前に踏み込んで月下と月影で袈裟切りを放ちフェグッターの体を切り裂き、続けて二本を左から右に向かって横に振り、フェグッターに大ダメージを与える。今の攻撃が致命傷となったのか、フェグッターは断末魔を上げながら大剣を落とし、仰向けに倒れると静かに黒い靄となって消えた。

 フェグッターが消えるとユーキは息を吐きながら月下と月影を軽く振る。少々苦戦したが初めて中位ベーゼを倒すことができたので内心では勝利を喜んでいた。そんな時、後ろからフレードが近づいて来て、フレードの存在に気付いたユーキはゆっくり振り返る。


「よお、何とか倒せたみたいだな?」

「ええ、少し苦労しましたけど……」


 苦笑いを浮かべるユーキを見たフレードはユーキの状態を確認する。ユーキは大きな傷は負っておらず、軽い掠り傷などを負っていただけだった。そんなユーキを見たフレードは小さく笑う。


「重傷を負ってもいねぇのに何が苦労しただ。本当か結構余裕だったんじゃねぇのか?」

「そんなことはありませんよ。本当に手こずってたんですから」

「へぇ~」


 笑いながらコクコクと頷くフレードを見て、ユーキは「絶対信用していない」と思いながら若干複雑そうな表情を浮かべる。すると今度はアイカとパーシュが二人の下にやって来た。


「ユーキ、大丈夫かい?」

「パーシュ先輩……ええ、何とか勝てました」

「そうかい、アンタなら勝つと思ってたよ。……んで、そっちも無事だったみたいだね?」


 パーシュは目を細くしながらフレードに視線を向ける。まるでフレードが勝ったことを残念に思っているような表情だった。そんなパーシュを見てフレードは僅かに目を鋭くする。


「何だよ、俺が勝っちゃ困んのかよ?」

「別に。ただ、相変わらず悪運だけはいいんだなって思っただけだよ」

「ケッ、そうかよ! 俺もお前が死ぬとは思ってなかったが、その無駄な乳をベーゼに切り落とされたんじゃねぇかって思ってたぜ」


 フェグッターを倒した直後に口論を始めるパーシュとフレードを見てユーキは目を細くしながら呆れ、アイカも苦笑いを浮かべながら二人を見ていた。すると、ユーキはアイカが脇腹に傷を負っているのに気付いて軽く目を見開いた。


「おい、アイカ、その傷……」

「え? ……ああぁ、さっきフェグッターと戦った時にちょっとね」

「大丈夫か? 支給されたポーションを使った方がいいんじゃないか?」

「ありがとう。でも、大丈夫。この程度の傷ならポーションを使うまでもないわ」

「そうか。君がそう言うならいいんだけど、無理はするなよ?」

「ええ」


 ユーキを見ながらアイカは満面の笑みを浮かべる。そんなアイカの顔を見てユーキは思わず頬を赤くした。今まで感じたことのない感情にユーキは困惑して軽く俯く。

 俯くユーキを見てアイカは不思議そうな顔をしながら小首を傾げる。そんな時、周りにいる警備兵たちや一部の冒険者たちがユーキたちを見ながら声を上げた。四人が中位ベーゼであるフェグッターを倒す姿を目にして歓喜しているようだ。

 警備兵は全員が喜んでいるが、冒険者の一部は悔しそうな顔をしている。メルディエズ学園の生徒が活躍する姿が面白くないのだろう。しかし、ユーキたちのおかげで中位ベーゼが倒されたので、心の中では彼らの実力を認めていた。

 周囲の声を聞いたユーキとアイカは軽く目を見開き、口論していたパーシュとフレードも意外そうな顔で周りを見回す。最初は何が起きたのか理解できなかったが、フェグッターを倒した直後に周りの者たちが騒ぎ出したのでユーキたちは理由を知って納得し、同時に仲間たちの士気が高まったのを見て笑みを浮かべた。


「……まだ広場にはベーゼが残っています。フェグッターを倒したことでこちらの士気は高まり、ベーゼたちは混乱するはずです。今の内に叩きましょう!」

「……そうだね。まずは広場に残ているベーゼどもを片付けないとね」


 フレードと口論していたパーシュはやるべきことを思い出してヴォルカニックを構える。フレードも「仕方がねぇな」と言いたそうな顔をしながらリヴァイクスを構え直した。ユーキとアイカも得物を握り、広場の中に残っているベーゼに視線を向ける。


「中位ベーゼがいなくなったことで敵の中に脅威と言える存在はいなくなった。あとは残っている奴を片付ければこの戦いはあたしらの勝ちだ。最後まで気を抜かずに行きな!?」


 パーシュの力の入った言葉を聞いてユーキとアイカは頷き、フレードも無言で近くにいるベーゼを睨む。そして、四人はバラバラになり、残っているベーゼの討伐に向かった。

 その後、ユーキたちは指揮官を失って混乱するベーゼたちを警備兵や冒険者たちと力を合わせて倒していく。既に下位ベーゼは僅かしか残っていなかったため、苦戦することなく倒すことができ、警備兵や冒険者たちも恐れることなく戦うことができた。

 ユーキたちが分かれてから僅か十数分後、広場に侵入したベーゼは全て倒され、ユーキたちは侵攻してきたベーゼたちに勝利した。戦いが終わった直後、その場にいた警備兵と冒険者たちは喜びの声を上げ、ユーキも笑みを浮かべながら勝利を喜んだ。


――――――


 正門前の広場から少し離れた所に建っている教会、周りの民家よりも高く、屋根の上に乗れば正門と広場を見下ろすことができた。そんな高い教会の屋根の上に二人の人間の姿がある。

 一人は二十代半ばくらいの若い男で身長は170cm強ほど、薄い紫色の髪をしており、目は青く、左目は前髪で隠している。格好は灰色の長袖と長ズボンで黒いハーフアーマーを身に付け、腰には短剣を佩し、革製のロングブーツを穿いたアサシンのような格好をしていた。男は屋根の上に立ち、腕を組みながら正門前の広場を見ている。

 もう一人は十代後半ぐらいの美少女だ。身長は男と同じ170cmほどで赤い目とアイカやパーシュに負けず劣らずの巨乳を持っている。髪は濃い橙色のショートボブヘアーをしており、後頭部に赤い大きなリボンを付けていた。白、黄色、橙色の三色の肩出しドレス姿で薄い黄色の日傘が握りながら男の隣で座りながら広場を見つめている。

 二人は町がベーゼに襲撃されたにもかかわらず、落ち着いた様子で広場を見つめている。そんな二人の右手の甲には混沌士カオティッカーの証である混沌紋が入っていた。


「あ~あ、結局全滅しちゃったぁ」


 少女は気の抜けるような口調で語りながら広場で騒ぐ町の住民たちを見ている。彼女の口調から、少女と男はずっと屋根の上でベーゼとの戦いを見物していたようだ。


「全滅したところで問題はない。今回は編成した部隊がどれ程の力を持っているかを確かめるのが目的だからな」

「でもでもぉ~、どうせ町を攻めるのなら、町を制圧して手に入れちゃった方がいいんじゃなぁい?」


 男の答えに対して美少女は納得できないような顔をしながら男の方を見る。どうやらこの二人はモルキンの町を襲撃したベーゼと係りがあるようだ。それも会話の内容から、ベーゼに味方をするような存在と思われる。


「今、町を制圧するのは我々にとって都合の悪いことだ。目立つ行動を取れば警戒されて活動し難くなる可能性があるからな」

「ちぇ、つまんないのぉ~」


 少女は頬を軽く膨らませながら両足を上下に動かして不満を露わにする。そんな少女を見て男は呆れたのか小さく鼻を鳴らす。


「それで、この後はどうするのぉ?」

「勿論、すぐに引き上げる。送り込んだ部隊の戦力がどれ程のものなのかをベギアーデ殿に報告しなくてはならないからな」

「あ~あ、このお仕事が終わったらまた退屈な日々に戻るのかぁ~。……チョー残念」

「よく言う。お前は暇さえあれば捕らえた人間や亜人を拷問してるだろう。どうせこの後も拷問するつもりなのだろう?」

「あ、バレちゃった? ……テヘッ♪」


 少女は可愛らしさを見せようとしているのか、男を見ながらウインクをして舌を出す。男は少女の反応を見ると興味の無さそうな様子で広場の方を見た。


「とにかく、戻って皆に報告するぞ。今回の部隊は町に侵入し、警備をしていた敵をある程度倒すことができる戦力があるとな」

「りょ~かい。……それで、フェグッターたちを倒したメルディエズ学園の生徒たちのことも報告するのぉ?」

「ああ、勿論だ」


 男が広場を見つめながら返事をすると彼の足元に紫の魔法陣が展開され、光に包まれると男はそのまま姿を消した。同時に展開していた魔法陣も消滅する。

 残された少女は立ち上がって広場を見つめ、広場の中にいるユーキたちを見つめた。


「……面白そうな子たち。何時かあの顔を苦痛で歪ませてみたいなぁ。ウフフフ♪」


 ユーキたちを見ながら少女が不気味な笑みを浮かべると、彼女の足元にも紫の魔法陣が展開され、少女は男のようにその場から消えた。


――――――


 夜が明け、モルキンの町に朝が訪れる。町の住民たちは朝食を取ったり、外に出て仕事の準備をしたりなどしている。その中には夜中のベーゼとの戦いで戦死した者たちの遺体を運ぶ警備兵の姿もあった。

 ベーゼとの戦闘で正門前の広場は破損し、警備兵や冒険者にも犠牲者が出たため、何も知らない住民たちは初めて広場の状態や戦死者たちの遺体を目にして驚き、町は若干騒がしくなっていた。だが、ロイガントや警備兵たちが説明しながら騒ぐ者たちを落ち着かせ、住民たちは冷静になり、夜中に何が起きたのか知る。

 住民たちの中にはベーゼと戦った警備兵や冒険者の中に家族がいる者もいたため、生き残った家族からベーゼとの戦いのことを聞かされて既に知っている者もいる。中には戦いに参加して戦死した者の家族もおり、家族の遺体を前にして泣き崩れていた。

 ベーゼに勝利したことを喜ぶ者、家族の死を悲しむ者、無事に朝を迎えられて安心する者など、住民たちは様々な反応を見せる。ロイガントは住民たちの様子を窺いながら色々な感情を抱いた。

 住民たちが仕事の準備などを始める頃、ユーキたちはモルキンの町にやって来る時に乗ってきた荷馬車に乗り、正門の前にやって来ていた。ロイガントたちへの挨拶は既に済ませているため、ユーキたちは正門が開くとすぐに出発する。そして、ユーキたちの荷馬車の後をヒポラングが静かについて行く。

 出発する際、正門の見張りをしていた警備兵たちはユーキたちに感謝しながら見送り、ユーキとアイカは見送る警備兵たちに笑顔で挨拶をする。ヒポラングが通過する際、最初は警戒していた警備兵たちもヒポラングが危険ではないと確信したのか慌てずにヒポラングのことも見送っていた。


――――――


 ユーキたちが乗る荷馬車は草原の中の道を通ってバウダリーの町へ向かう。既に周りは明るくなっており、草原の遠くも見えるようになっていた。


「静かですね」

「ああ、あの戦いが嘘みてぇだ」


 そよ風を受けながらユーキは気持ちよさそうな顔をし、フレードも目を閉じて同意する。御者席のパーシュやその隣に座るアイカも風を感じながら笑みを浮かべていた。

 荷馬車は道なりにゆっくりと移動する。その後ろをヒポラングが同じ速度でついて行き、ユーキたちは後ろにいるヒポラングに視線を向けた。


「本当に大人しいですね、あの子?」

「ああ、これじゃあ飼い慣らされた馬や牛と同じだな」


 アイカとフレードはヒポラングを見ながら語り、ユーキもヒポラングを無言で見つめる。

 モルキンの町を出る直前、パーシュたちはユーキに懐いているヒポラングをどうするか考えていた。懐いているとはいえ、モンスターをバウダリーの町に連れて帰ると何かと面倒なことになるのではとパーシュは予想していたのだ。

 パーシュはヒポラングを置いてバウダリーの町に戻ろうと考えていたが、ユーキがこのヒポラングは危険な存在ではないから連れて帰りたいとパーシュを説得し、アイカもユーキと共にヒポラングを連れいくことに賛成した。

 確かにヒポラングはベーゼとの戦いで自分たちと共にベーゼと戦い、警備兵や冒険者たちに危害を加えなかった。その点を考えればバウダリーの町に連れて行っても暴れたり、迷惑をかける可能性が低く色々と役立つかもしれないとパーシュは考えた。

 パーシュが考える中、フレードもヒポラングを連れて帰れば戦力として役に立つとユーキとアイカの背中を押すように連れて行くことに賛同した。

 三人の答えを聞いたパーシュはしばらく考え込み、その結果、パーシュもヒポラングを連れて帰ることにして現在に至るのだ。


「町に連れて帰ったら、あの子は学園が面倒を見ることになるのでしょうか?」

「分からないね。とりあえずは学園に連れてって学園長やカムネスに訊くしかない。ユーキの言うことを聞くから大丈夫、戦力として役に立つって説明しても、学園で管理することを許可してくれないかもしれない」

「その場合、あの子はどうなるのでしょう?」

「さあね? 何しろモンスターを連れて帰るなんて、メルディエズ学園が作られてから初めてのことだから」


 どうなるか分からないと語るパーシュにアイカは若干不安そうな顔をする。もし、ヒポラングが危険な存在と見られて討伐されるようなことになってしまったら、とアイカは最悪の結果を想像しながらついて来るヒポラングを見つめた。


「……ユーキ、貴方はどう思う?」


 アイカはヒポラングに懐かれているユーキの考えが気になり声を掛ける。ユーキはしばらくヒポラングを見つめてからゆっくりとアイカの方を向いた。


「もしも、ヒポラングを受け入れることを反対した場合は、俺が全力で学園長や会長を説得する。もっとも、人間に危害を加えず、戦力として役に立つと説明すれば、学園長たちも少しは考えてくれるはずだよ」

「だな。学園長や他の教師はともかく、あの会長様は役に立つ存在と知れば仲間にすることを許可すると思うぜ」


 カムネスの性格を知っているフレードはカムネスが何も考えずに反対することは無いと語り、アイカはフレードの話を聞いて受け入れられる可能性はゼロではないと感じた。

 ユーキはフェスティからヒポラングは心強い仲間になると聞かされており、女神であるフェスティが言うのなら必ず良い仲間になると感じている。だから、なんとしてもヒポラングをメルディエズ学園の仲間にしたいと思っていた。


「もし、学園長たちが反対したら俺も一緒に説得してやるよ。俺もコイツの強さにはちーと興味があるからな」

「フン、また戦いが関係する話かい。……まぁ、確かにその子は強いし、ベーゼからモルキンの町の人たちを護った功績があるからね。討伐したり自然に返したりするのは勿体ないと思うよ」


 ユーキはパーシュの言葉を聞き、彼女が遠回しに一緒に説得してくれると言ったのを聞いて一瞬意外そうな顔をするが、すぐに笑みを浮かべてパーシュを見つめながら心の中で感謝した。

 アイカもパーシュがヒポラングを仲間と見ていると知って嬉しそうな顔をし、フレードはニヤリとからかうような顔をしてパーシュを見ている。


「な、何だい? 三人ともそんな顔をして……」

「いえ、なんでもないです」


 嬉しそうにしながらユーキはついて来るヒポラングの方を向き、アイカもクスクスと笑う。パーシュはユーキたちが何を考えているのか分からずに小首を傾げる。

 様々な思いを抱きながら、ユーキたちはメルディエズ学園に戻るためにバウダリーの町ヘ向かう。ヒポラングもユーキたちの後を静かについて行った。


今回で二章は終了です。

三章はしばらくしてから投稿しますので、お待ちください。


ところで、気付いていらっしゃる方もいると思いますが、この作品の主要人物の名前は人間が持つ感情や性格、信教的なものが関係しています。


ユーキは本来の名前である勇樹の漢字を変えて「勇気」。

アイカは名前を漢字に変えて愛力、愛の力から「愛」。

パーシュは「情熱」を意味するパッションからきています。

フレードはフレンド、つまり友人からきており、そこから「友情」が関係するものとなっています。

カムネスはカームネスからきており、意味は「冷静」。

フィランはフィランソロフィー、「慈悲」からきています。


ユーキとアイカは日本語繋がりですが、他のキャラクターたちは英語繋がりとなっています。

感情や性格が関係している名前を持つのは一部の存在だけですので、全てのキャラクターがそのような名前という訳ではありません。


今後も登場人物の名前などを後書きに書いていこうと思っています。興味のある方は覗いてみてください。

では、今後もよろしくお願いいたします。

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