96.聖女からの報告
まずエマちゃんが報告をする。
ほぼゲーム通りに進んだこと、回復魔術の力が強まったこと。
「ただ、復活魔術などの強力なものはまだ分かりません。どう確認すればいいのか……」
私もブレーンに丸投げした問題だ。
わざと瀕死の人間を作り出すのも問題だし、HP0がゲーム通りの描写だとは限らないし、本当に回復させられるかも分からない。
「出来ると断言できないから、ラルドやケインと一緒にシャイン様の所へ行くのも怖くて」
さっきも出た話だけれど、『青い鳥』を馴染ませるためには時間がかかる。とにかくできるだけ早く受け取って邪神戦へ備えたい。
だけど、『青い鳥』を受け取る際には二人に大きな負荷がかかる。エマちゃんが魔術でサポートしないと危険なのだ。
ラルドの命を助けられる。けれど本当に上手く行くのか分からない。
エマちゃんは二つの思いで揺れている。
「あ、それなんだけどね」
両手を握り合わせて手元へ視線が落ちていたエマちゃんが、紫音の言葉で顔を上げる。
「神様曰く、ばっちり出来るようになってるって」
昨日メモしまくった紙の束をヒラヒラ揺らしながら、綺麗に笑う紫音。
「次はあたしが報告しまーす」
呑気な声の紫音とは反対に、場の空気が引き締まった。
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「まず、大前提。私は神様とお話が出来ます。
ティアラを使うと、エマちゃんは強い回復魔術が使えるようになりました。復活レベルの強力なものも、広範囲に亘る回復も、それから邪神に効く『浄化』も使えるって、神様からの連絡です」
出席者の面々は筆記速度がバラバラだから、大部分が追いつくまで言葉を切って待ってくれている。私? 日本語で書いてるよ。
紫音の報告は続く。
神との対話が出来るのは紫音だけ。その代わり、エマちゃんは対話できないし、紫音は回復魔術は使えない。
対話をする際は、こちらから呼びかけ、質問をしないと答えてもらえない。
質問はいつでもユタル神殿で受け付けてもらえる。
「なるほど、こちらの知りたいことをいつでも尋ねられるのは大きいな」
「しかも神直々の言葉ですからね」
「ですが、情報統制しないと厄介なことになりますな。神の言葉が分かるとなると、聖女殿の奪い合いともなりかねない」
フェイファーのトップ3だか4だかのおじさんが口元に手をやっている。
「確かに情報はセーブしないとダメでしょうけど。身柄の安全に関しては、そのための水魔術と土魔術だそうです。……ま、気休め程度らしいですけど」
火のように飛び火してくるものではなく、風や雷のように関係ない広範囲にまで被害が及ぶものでもなく、多少なりとも自衛が可能な魔術。それを授けてくれたらしい。
水魔術は氷を作ることもできるからピンポイントで攻撃できるし、いざという時の飲み水にもなる。土魔術は岩を作って攻撃ができるし、どこかに閉じ込められても壁が木や岩ならある程度操作もできる。そうか、そんな理由が。
「それらは授けられたのに、回復魔術が授けられなかった理由は?」
「まーまー、順番に話しますから。えっと……まずは、邪神の倒し方について」
簡単に言うと、邪神とは神のアンデッドのようなもの。
邪神が存在することで魔物が発生する。邪神復活の時に魔物が増えるのは瘴気が増えるせい。邪神や魔物によって世界がメチャクチャにされるから、神は邪神を何とかしたい。
ただ神は直接手が出せない。双方が反発し合うせいで、邪神から神への干渉がない代わりに、神からの干渉も出来ない。
だから人にやってもらうことにした。丁度良く、神と契約したいという男が現れた。だから聖女を遣わせた。
けれど、その時の契約者と聖女では邪神を倒せなかった。仕方なく封印という形で手を打った。
「え、封印って代案だったの?」
「そうらしいよ。とにかく神様は邪神を消したいんだって」
ゲームと同じ……なのか、これは?
「我々では倒せない、封印しかできない、と伝わっていたのだがね」
そうそう、レオナルド様は最初にそうやって説明してくれた。
「失敗した人たちが言い訳に使ってたみたいなんですよ。
あと、聖女さんには毎回『倒してね』って言っていたけれど、それが『封印してね』の意味に取られることもあったって」
「ええぇ……」
思わず声に出てしまった。皆も同じように複雑な顔をしている。
ここは現実とゲームで違う情報だったけれど、ゲームが正しかったのか。
「だから前回までは全て失敗扱い。で、そのせいで、あたしや美和ちゃんが呼ばれたわけです」
いきなりの話題にどくんと心臓が跳ねた。そのままドキドキと鼓動が大きくなり、息をするのを忘れていたら、隣のロイに頬を突かれた。
あ、うん、皆の前でその行動はどうかと思うの。
恥ずかしさで正気に戻った。
「失敗した理由は、ザックリ言っちゃうと、神様の準備不足。敵が強すぎたとも言えるかな。
さてさて、それは後に置いといて、邪神を倒す方法の説明に戻りますね」
紫音や私のトリップの原因も気になるけれど、もっと大事なのはそこだよね。
両手を擦り合わせて手汗を散らせ、改めてペンを握った。
邪神の中心は『コア』とでもいうべき物体がある。――ま、コアって核って意味だからね。要は邪神の中心、本体ってことか。心臓みたいな物なんだろうか。
コアだけになると力をなくして活動停止。今まではここで終わっていた。
本当はコアを破壊して邪神を消滅させたい。コアの破壊ができるのが王杖。
「えーと、ゲームの表現とは一部違うね。
最初に一体目を『浄化』、その後二体目を斃す。これだと失敗扱いってことになるのかな?」
「多分そう。片方が生きているともう片方も復活しちゃうんだって。どっちも消さないとダメらしいよ」
私と紫音の会話に、シヴァが待ったをかける。
「ゲーム通りではない、とも言えない。数百年後のことは語られていないのだろう?」
あ、そっか、ゲームでは「斃せた、めでたしめでたし」の表現だけど、また後々復活する可能性はあるのか。
「とにかく、今回の目標は、両方を倒すこと。どっちもコアを破壊するのが目指すところなのね。
そこで出てくるのが『浄化』って魔術」
エマちゃんが背筋を伸ばした。
聖女の使う『浄化』とは、コア周辺を綺麗にする魔術のこと。――そういえば、邪神は神のアンデッド、って説明があった。まさにそのための手段なのか。
ただし単に『浄化』をかけるだけではさすがに邪神の外殻を除けない。だからあらかじめ攻撃を仕掛けて、外側を破壊していく。ある程度まで削れたら『浄化』でコアを剥き出しにする。
そこでようやく王杖の攻撃がコアに届くようになる。
「ゲームではフェイファー邪神の段階で王杖がなかったから、封印しかできなかった……」
「そういうことになるな」
レオナルド様が頷いてくれる。ゲームでもとりあえず筋は通っていたのか。
「では、これを前提に、過去の失敗について説明します」
過去の失敗。それによって私や紫音がトリップした。
そろそろ自分の話題が出てきそう。一際大きく深呼吸した。




