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RPGの世界で生き残れ! 恋愛下手のバトルフィールド  作者: 甘人カナメ
第五章 見たことのない明日へ、いってきます
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95.紫音の遠慮ない質問攻め



 そこらに転がっていた大きな石――どうやら石造りのベンチの名残らしい――をロイが運んで、即席の机を作った。紫音はそこに筆記具を広げる。


「最初の質問。邪神の倒し方は?」


 前置きも何もなしにズバッと切り込んでいく紫音だけど、特に気分を害されてはいないらしい。何やら書き留めていく。


「次。聖女の役割は? ……ラルドくんの役割は?」


 一つ一つの質問の後にはたっぷりと空白が開き、紫音のペンの音だけが微かに聞こえる。簡単な質問だけど返ってくる内容はなかなか多いらしい。


「美和ちゃんの役割は?」


 私の名前が出てきてドキリとする。胸元に手を当てて緊張を抑えつつ、紫音の表情を窺う。

 神の言葉を聞いてメモを取る紫音の顔は、他の質問をした時とさほど変わらない。少しだけ口元が緩んでいるような気もする。


「次。前回……はともかく、前々回とかその前とかが失敗している理由は?」


 シヴァやロイと顔を見合わせた。失敗? 封印には成功していたはず。


「あたしたちは勝てる?」


 その場にいる全員が息を凝らす。

 神の返答を聞いている紫音は少し口を尖らせて不服そうにしている。悲しんではいないから、絶望的な答ではなかったんだろう。


「はー……こっちから質問しなきゃダメっていうのは難しいねぇ」


 ペンを置き、大きく伸びをする紫音。


「おっけー神様、また今度ここに来てもあたしは神様と話ができる? それとも今しか聞けない?」


 すぐに笑顔を浮かべて、でも次の瞬間には難しい顔になる。


「それなら、ティアラはどうしよう? ……え、そうなの?」


 目を丸くした紫音が祭壇に歩み寄って観察を始める。いくらも経たぬうちに今度はティアラを外して細かく観察し始める。


「誰かー、細い紐とか鎖とかないですか? ネックレスにできそうなやつ」


 残念、部屋に戻れば簡単なソーイングセットがあるんだけど。

 誰も手を挙げないのを見て、ロイが自分のIDタグを外す。


「俺ので悪いが、使えるか?」

「バッチリ! 確認したらすぐ返しますね」


 細い鎖を受け取った紫音が、ティアラの飾り玉を外し始める。


「待てシオン」

「だーいじょうぶ大丈夫、他ならぬ神様からOK貰ってるからさ」


 喋りながらも作業は止まらず、結局五つの宝石を外したところで鎖に通した。


「はいエマちゃん、これ着けて魔術使ってみて」

「は、はい」


 ネックレスを素直に受け取ったエマちゃんに、わざと自分で傷を付けたらしい先遣隊の隊員さんが歩み寄る。二の腕の傷が、回復魔術で瞬時に癒える。


「はい、ティアラを着けた時と一緒です。普段の私より強い力ですね」


 よしよしと腕を組んで満足げに頷いた紫音は、手早くティアラを元に戻した。鎖もロイに返却される。……何故か何となくほっとした。

 紫音が立ち上がる。


「それじゃ、とりあえず今は重要そうなことだけにしとこっかな。またね神様」

「神との交信は恒常的だと考えても?」


 シヴァが紫音に手を貸しながら確認する。紫音の様子から読み取ったのだろう。


「うん。いつでもおいでって言ってくれたよ」


 息を詰めていた空気が緩み、安堵が広がった。

 入れ代わるように紫音の顔が引き締まる。


「重要な情報がたくさんありました。すぐに城へ戻って会議を開いてもらいます。

 戻る前に一つ。エマちゃんとラルドくんは最重要人物です。絶対に何もないように守ってください」


 紫音がティアラをエマちゃんへと手渡し、ぐるりと場を見渡した。

 私は黙って目を閉じる。ここはゲームと同じピース。ヒーローとヒロインはやっぱりラルドとエマちゃんなんだ。




 ******




 翌日、緊急会議が開かれた。

 ラヴィソフィとフェイファーの要人が集まる。


 まずは、先遣隊の皆さんからの報告。

 イベント通りに魔物がいた。登場人物ではなかった先遣隊でも倒せた。事前に弾き出しておいた予測と同程度の強さだと考えられる。神殿内には魔物は一切いなかった。あらかじめ渡された地図と同じ構造だった。廊下の行き止まりには特に何もなかった。ただしとある場所にあった槍は指示通り取り外すことが出来た。


「ミワの情報はだいぶ有意義だな。宝箱やセーブポイントはない、それ以外は同じ。これで必要なダンジョンはすぐに攻略にかかれる」


 そう、大事なのは最後の一つ。宝箱はないけれど、そのダンジョンやマップに固有のアイテムは入手できる。

 メンバーの最終武器や最終防具を作るために、ダンジョンから入手する素材が必要になることがある。例えば、ラルドの最終防具は『耐魔防具』。大きな純粋魔結晶をいくつも集めることで作れるようになる。その魔結晶は大抵があちこちのダンジョン内にあるんだな。

 強力な武器防具になると分かっているなら、なるべくなら作ってしまいたい。材料が実在するなら試してみる価値はある。中ボスレベルの魔物も一般人で対処できるなら、人海戦術が可能となるのだ。

 私はすぐに該当ダンジョンの地図を作成すると請け負った。




 次に、レオナルド様たちによるゲーム外の動きについて。


「ミワの出してくれたストーリー展開のうち、邪神戦前に注意すべきことが大きく三つある」


 ひとつ、フェイファーとラヴィソフィの合併に反対していた過激派神官。

 ふたつ、ラルドとケインに『青い鳥』を完全に馴染ませるために必要な時間。

 みっつ、フェイファーとラヴィソフィの合併によるビエスタ国内乱。


「そもそも、フェイファー皇帝が存命であることで合併の動きそのものを見直す必要がある。現状での合併はほぼ不可能だ」

「そうだな。基本的にあの人は武力派だ。聖女と国軍の離反、神官たちの沈黙、経済援助によって何とか動きを押さえ込めているが、いつまでも保つものではない。いくつか手は考えているが」


 シヴァが憂いに満ちた目を伏せる。


「一部の神官に関しては、我々が足並みを揃えた時点で注視している。神官長や皇帝に直接反抗せずとも、例えばこちら側の頭を叩いて話を頓挫させる等の動きは考えられる」


 合併しなくても和平を結んだ時点で気に食わない人は出てくるよね。その筆頭が皇帝、そして過激派神官。


「こちらの内乱に関しても陛下に疑念を奏上している。先日の騒動もあり、監視は強めてくださっているようだ」


 先日の騒動……つまりブルイチの内乱もどき。この世界でも実際に起こっている。ブルサンではそれ以上の規模で、フェイファー派貴族が国へ楯突くんだよね。

 フェイファーがビエスタに吸収されたのが気に食わなかったみたいだけど、現段階から気にしておこうというのか。


「では結局のところ、合併はゲーム通りにならないと考えていいんですか?」


 私が気になるのはそこだ。合併することでスムーズになることもあれば、かえって拗れることも出てくる。

 スムーズになるのは、両地域の行き来と邪神戦に向けての準備。そしてゲーム終了後の新国設立。

 拗れるのは、国の外交問題と両国内の勢力バランス。下手すると周辺国まで巻き込む騒動になる。

 今何より気にしなければならないのは邪神への対応。これが問題なく進むのであれば、新国の話は後回しにできる? レオナルド様は、ラヴィソフィ国が邪神を封じる役目を担っていたって言っていたけれど、それはどうなるんだろう。


「ゲームでは、皇帝が亡くなり私も敗れることで皇室が解体、それによって合併の話が進んだのだったな。混乱続く地を早めに収束させるために一旦ビエスタの国内自治区とした、と」

「そう。自治区とは言ってもトップがいないから、実質ラヴィソフィと一緒になった感じ」

「だが現実では、皇太子たちが皇室として残る」


 そういえばそうだね。ゲーム中に描写がなかったからあまり気にしていなかったけれど、皇帝倒してシヴァ倒してと進めてもそのまま簡単に合併はできない。


「合併に力を回すより、それ以外に注力した方が建設的だ。皇室に関しては私とハーミッドが担当する。助力が必要となれば要求を出させてもらう」


 シヴァの言葉に出席者全員が頷いた。




 さて、その次。

 いよいよ、聖女の報告だ。




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