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RPGの世界で生き残れ! 恋愛下手のバトルフィールド  作者: 甘人カナメ
第五章 見たことのない明日へ、いってきます
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94.お茶目さんですか



 寝そうで、寝ない。いや、眠りかけているのかもしれない。それでも思考は出来ているから、不思議な感覚。

 今考えるのは、私の二つの仕事のこと。




 オイル関連で私が出来ることは、手を動かして研究すること。だけど現状それは難しい。

 手を動かせないなら、口を動かす? いや、ソニア様とトニーさんたちのメッセンジャーなら、私である必要はない。

 現段階でハッキリしている私の仕事は、全ての情報に触れてゲームと照らし合わせ、双方の違いを確認すること。それをどう使うかは他人……レオナルド様やマークたちの仕事。情報を出すのは私、使うのは他人。

 私は口を動かせる。頭を動かせる。私はオイルの情報をゲームの情報と照らし合わせることが出来る。


 オイルは100%ゲーム外の情報。それをゲームと照らし合わせるならどこをチェックする?

 ソニア様は外交や内政に使いたい、シヴァはフェイファーで人民や情報の操作に使いたい。

 外交、内政。フェイファー、ビエスタ。

 シヴァが生きたままラヴィソフィ側について、倒されるはずのフェイファー皇帝は存命。合併はするのか、しないのか。合併しないのならビエスタ国内の反乱はどうなるのか。

 なるほど、そこに関わってくるか。


 それじゃあ、他には?

 オイルもジェルも薬ではないけれど予防医学に近い。そもそもリラクゼーション自体がストレスを減少させる効果があって、リフレッシュもそれと似たようなもの。今回は穏やかな方面をリラクゼーション、活力的な方面をリフレッシュと定義しているだけ。

 ゲーム中の回復アイテムで似たような物はない。予防という意味では、あらかじめHPやMPに気を配るとか、回復薬や状態異常解除薬を準備するとか、プレイヤーの仕事がそれに当たる。

 いや、一般人向けに出すんだから、回復薬というよりむしろ食堂の料理アイテムに近いのかも。誰でも使える、戦闘メンバーも使える。

 料理アイテムは、回復効果があってもその効果が微量なものがほとんど。隠しパラメーターの幸運値に関わってくるという噂はあったけれど、検証はできなかった。単なるコレクターアイテムの扱いに近い。それでも装備はできた。オイルも装備できる?


 実際にメインキャラは何を装備している? ロイは最初、私に乾パンと水を出してくれた。つまり装備していた。ゲーム通り。

 ラルドたちが何を装備しているのかは分からない。エマちゃんはさっき酔い止め薬を取り出して飲んでいた。だから馬で行きたがったのか。違う、薬の話。酔い止め薬は状態異常解除に当たるんだろうか。ゲーム内では乗り物酔いの話は出てこなかったから不明。とにかく薬の類も装備できる。ゲーム通り。

 私がここに来た時のキャスパー王子と従者さんも、どこやらからエルフの薬を取り出していた。パーティーキャラじゃなくても装備……というか、携行品は持てる。服のポケット、あるいはボディバッグやポーチといった小物用の鞄を使っているんだろう。

 瓶の大きさを調節して、オイルかジェルを装備してもらう。プレイヤーが担っていた予防医学の側面を本人たちで行ってもらうことは可能? この場合はジェルの方が使いやすいか。


 私は口を動かせる。頭を動かせる。ゲームと現状を照らし合わせて得た情報を元に、仮説を立てる。実験してもらう。皆に使ってみてもらう。フィードバック。

 実際にどう使うかはレオナルド様やソニア様が考える……――




 気の向くままに思考を巡らせていたら、紫音に肩を叩かれた。


「途中から半分寝てたから声かけなかったけど。着いたって」


 いつの間にやら馬車が止まっている。

 窓から外を見ると、見たことのある石造りの広場。どうやら先遣隊は無事に中ボス退治を終えていたようだ。

 書類をエマちゃんが手渡してくれる。手から滑り落ちていたらしい。やっぱりうとうと寝てたんだね、私。強く瞬きして書類を荷物に戻してから、馬車を降りる。ああ、ゲームで見た通りの景色、ユタル神殿前。

 シヴァとロイが先遣隊から聞き取りをしてくれているのが見える。神殿内の様子も先に見に行ってくれているみたいだ。事前の準備通り、一直線に祭壇まで進めそうだね。


 一行はスムーズに廊下を進んでいく。私も周囲を見回しながら続くけれど、やっぱりゲーム通りでちょっとワクワクしてきた。

 どことなく緊張している様子のエマちゃん、目をキラキラさせてシヴァと楽しそうに話しながら歩く紫音。ゲームとは違う二人の聖女。ここからはどんな展開になるんだろう。




 ******




 何事もなく祈りの間に到着した。

 見た目はゲームと一緒。けれど感じる空気は画面越しでは分からなかった情報。まるで木々の繁る神社にいるかのように清々しい。思い込みによるものかもしれないけれど、それでも深呼吸したくなる。

 私が語った通り、エマちゃんがティアラを着けて祈りを捧げる。光が溢れて収束して、先遣隊の皆さんに回復をかけて、そして笑顔で頷く。


「ゲーム通りとみていいね」


 私の言葉に、ラルドがホッと息を吐く。嬉しそうにラルドの元へ駆け寄るエマちゃん。

 今度は紫音の番だ。




 ティアラを渡され、慣れた様子で頭に乗せる。スタスタと祭壇前まで歩み寄り、エマちゃんと同じように膝をついて、


「神様、あたしにも回復魔術くださいな」


 と一言。

 確かにそれを確認しようとは言っていたけれど、言い方。シヴァも呆れた顔をしている。

 十秒くらい待っていたけれど何も起こらず、ちょっと肩をすくめてから目を閉じて手を組み合わせた紫音。

 が、


「……あれ?」


 すぐに目を開けて口を尖らせた。訝しげな顔で首を傾げる。


「どうしたの?」

「いや、一度声が聞こえたんだよ、『待っていたよ』って。で、そこから声がしない。聞き間違い? 気のせい?」


 ここにいる全員が、そんな声は聞いていないと口にする。勿論私も聞いていない。エマちゃんですら首を横に振っている。

 でもこれは、もしかするともしかするのでは? 神との対話が可能とか?

 もう一度手を組んで目を閉じて、さっきよりも真面目な顔で祈り始める紫音。


「ダメだ、やっぱり気のせいかなぁ? 結構ハッキリ聞こえたんだけど。あれ、神様だと思うんだよなー」


 少し思案してから顔を上げた紫音は、


「おっけーシィリィー」


 とか言い出した。ベタな呼びかけだとか二つ交じってないかとかそれで神が反応するのかとか、最早どこから突っ込めばいいのか分からない。

 けれど。


「おっ!?」


 紫音に笑みが浮かぶ。え、本当に何か反応あったの?


「やっぱり神様だー。この神様お茶目だね! で、あたしは神様と話せるらしいよ?」

「えぇと、それは……」


 付き添ってきた護衛さんがエマちゃんと紫音を交互に見ながら言い淀む。


「そうだよね、エマちゃんは何も聞こえなかったんだよね。あたしは聞こえる、けど、エマちゃんみたいな回復魔術は相変わらず使えそうにない。

 つまり、今までの能力が強まったってことかな?

 …………ん?」


 キョロキョロしてから適当な場所にスペースを開けて床に座り込む紫音。エマちゃんを手招きして、横をポンポンと叩く。一緒に座れということらしい。

 シヴァと私、ロイも二人の傍に近付く。


「なるほど。確認ね、エマちゃんは回復魔術と浄化? で、あたしはこうやって神様と話して情報を引き出せる。合ってる? ……うんうん」


 コクコク頷いてから、


「やっぱり聞こえるのはあたしだけらしいよ。だから神様の言葉を書き起こすね。誰か、あたしの質問を書き留めておいて! そこまで書くの面倒だから!」


 筆記具を準備しながら皆を見渡す。見守っていた周囲がパタパタと動き出す。

 ところで、気になる言葉があったね。


「情報を引き出す?」

「うん。こっちから質問しないと殆ど答えられないんだって。やっぱり『へぃグーゴォ』と似てるねぇ。

 よし、それじゃ、『おっけー神様』」


 意味の分からない皆は困惑しているし、唯一意味の分かる私もどうすればいいのか困った。もういいや、諦めよう。本題はそこじゃない。




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