53.改良品が出来ました
城へ最初に戻ってきたのは、国軍隊長さん。ロバートさんというらしい。ゲームでは完全モブで名前すら出ていなかった人だけど、そりゃあ現実では名前もありますよね。
彼以外は、帰ってくるのにもう少し時間がかかるとか。
とにかく急いで策を出せ、というレオナルド様からの指示で、マークはだいぶ根を詰めて仕事をしている。そもそも忙しかったのに、相当な無茶ぶりだよね。
そのせいで、酷い頭痛が再発しているらしい。
さすがにマッサージだけに頼ることは厳しいらしく、頭痛薬を貰いに行ってほしい、と頼まれてしまった。
そもそも、オイルもほぼ底を突いてきてるんだよね。
実は、ソニア様には「今の試作品がなくなる頃までに詳しい話を聞かせろ」って言われている。
ソニア様は現在、内政のトップ。
オイルの話を聞きつけて(というか、最初は私が情報を貰いに行ったのが発端だったんだけど)、商品としての流通を計画しているらしい。
だけど、私自身も忙しくなったせいで、オイルに関しては完全に足踏み状態。
気になってはいたんだけど、どうしようかな……。
考え込みながら、マークの頭痛薬を貰うために医務室へ。
と、先生と看護師のココさんの他に、私と同年代の青年がいた。
「すみません、患者さんでしたか?」
私は薬が欲しいだけだから、後からゆっくりでいいですよ、と言いかけたんだけど。
「ちょうど良い所に来た。トニー、この子が例の依頼者だよ。
ミワ、アロマオイルを担当している薬師だ」
と紹介された。
試作品一号をあっという間に作り上げてくれた薬師さんか! 慌ててお礼をする。
「その節はお世話になりました」
「いえいえ、こちらも楽しいので。はい、改良品です」
改良品? え、私、あれから特に頼んでいなかったよね……?
「どうやら、アンタよりも周りの方が乗り気になっちまったようだね。
奥様があちこちに圧力かけてるよ」
「ひぃっ」
思わず小さな悲鳴が出た。
通常業務やOJTで忙しい中、部長直々のプロジェクトを追加で担当させられた、社会人二年目の秋を思い出す。
先輩も何人かプロジェクトメンバーに入っていたとはいえ、あれはなかなかキツかった。
「私個人の生活の質の向上が目的だったのに……ソニア様、もう動き出してるなんて……」
「あの人は本気だよ。ついでに薬師室も本気だ」
「ひゅっ!?」
また変な声が出てしまった。
しかし、そこまで動き出しちゃったなら、もうしょうがない。
ココさんがお茶を淹れてくれたので、私も椅子を引っ張ってきて机を囲んだ。
マーク、ごめん。頭痛薬はもうしばらく待ってて。
******
まずは渡された改良品の確認から。
「これ、どういう改良をされたんですか?」
「うん。実際に手に出してみてください」
ん? 前よりも少しさらっとしている?
あ、肌に馴染むのが早い。だけどちゃんと滑らか。うん、これもマッサージにはいい感じ。
「これ、いいですね。確かに前のよりも使いやすそう」
「でしょう!」
おぉ、ドヤ顔出ました。
改良品が褒められると嬉しいよね。分かる分かる。
「だけど、エルフの皆さんも出陣されましたよね。今後の原料はどうしましょう」
「あの子たちが既に森に使いを出してくれてるらしい。追加で持ってきてくれる手筈だよ。既に兵士を抜いたやりとりを何度かしているから、向こうも手慣れたモンだ」
「うわ、本気で外堀埋められている感がある」
「薬師室にも予算下りてますから。おそらく、他の部署にも出てるんじゃないですかね」
この薬師さん……トニーさん。試作品を楽しく作るどころか、完全に話に関わってるってことですね。
「で、我々薬師室としては、最終的に薬効を謳える物を作りたいと思っているんです。例えば、使うと怪我が治る、とか」
薬を作る人たちだもんね。そう思うのが普通か。
でもこれって、ちょっと難しい問題。
元の世界、日本においては、アロマオイルは薬じゃない。病気や怪我が治るんじゃないもんね。
せいぜいが、民間療法的な「○○に効果がある」「○○にお薦め」って程度だったように思う。
そんなオイルなのに、薬効まで出るんだろうか。
それに、薬だと、気軽に使えなさそうなイメージじゃない? 怪我や病気の人じゃないと使っちゃいけないような。
だけど、薬効まではいかなくても「どんな症状にお薦めなのか」は表示したいところ。
というか、私の覚えていない効能のあるアロマオイルだってたくさんあったんだから、どうせなら色んな種類のものを、オススメ効果ごとに作ってもらいたい。
私にとってのアロマオイルは、香りのあるマッサージで身も心も解れて、ついでに頭がスッキリしたり、風邪っぽいのが少し楽になったり、日焼けのヒリヒリがマシになったり、そういうプラスアルファがあればいいよね、くらいの物なんだ。
私の使い方と同様、手軽で、一般の人も遠慮なく使える。ローズオイルとはちょっと違う位置付け。
ソニア様はそういう物を流通させたいんじゃないかな?
――という考えを話してみた。
「……そうですかぁ」
ちょっとショボンとした様子のトニーさん。
でも何かを思い付いたのか、急に目を光らせてブツブツ呟きながら手帳に何やら書き込みだした。
何杯目かの紅茶を飲み干した先生が、呆れたような目で見ている。
何だかこの人、私と同類な気がするぞ? 気に入ったものはトコトンやりこむ的な。
「まずは色んな種類を作って、で、効き目を探るところが俺たちの仕事かな。で、並行して費用の検討か」
夢中になってるからか、トニーさんはだいぶ気楽な口調に変わっている。
うん、大丈夫、私なら気にしないから。
******
少し話が盛り上がってきたところなんだけど、私には大きな懸念事項がありましてね。
「私、今、軍属なんですよ」
三人が動きを止め、目を瞬かせる。
「で、軍属ってことは、今、ほら……戦の真っ最中じゃないですか」
「え、この話、ミワさんは下りるってことですか?」
それはそれで、放り出す形になっちゃうし、心苦しい。
だけどね、私の一存で何とかなる話でもないんだよね。
「上司……マークとレオナルド様。それから今回の件のトップであるソニア様。皆さんに一度、どうしたらいいか確認してみます。
それまで、トニーさんと先生で何とかしておいてもらえますか?」
「あたしゃ嫌だよ、ンな面倒なこと。トニー、アンタだけで頑張んな」
間髪入れず断りを入れた先生に、トニーさんが泣きつく。
「手伝ってくださいよ! せめてミワさんが合流するまで!」
え、私がチームに加わること前提なんです? 今さっきレオナルド様とソニア様に聞かなきゃ分からないって断ったばっかりですよ?
「大丈夫です! ソニア様には俺たちから嘆願書出しますから!」
やめて。
後から必ず連絡するから、とトニーさんに言い含めて、薬を貰って医務室を出る。
うん、まあ。当初の目的の頭痛薬の他に、新しい試作品が貰えたのは良かったよね。
またマッサージに使ってあげよう。
さて、こめかみを揉んでいるはずの上司に早く薬を持って行かなきゃ。




