54.部隊長への説明
マークの執務室に戻った途端、会議室へと促された。
やっぱり私も参加しなきゃダメですか。そうですか。
「ミワはひとまず、俺の隣で澄ました顔でもしていればいい」
「それは助かる。自分の仕事でもないのに堂々と発言する勇気はないからねぇ」
「登城早々、俺やレオナルド様に向かって啖呵切った人間とは思えない言葉だな」
「いやいや! この前の、ケインやマリクさんとの話し合いだって、内心めちゃくちゃビビってたんだからね!?」
「だと思っていた」
「だってさ。最初は、自分の命しかかかってなかったから。……今度のは、兵の皆さんや、下手したら多くの一般人の命運もかかってくる、重要な作戦会議だし」
「だから、俺がいる。ミワが気負う必要はない」
並んで歩くマークを見上げる。
それに合わせてこちらを向いたマークは、少し目元を緩めて微笑んでいた。
――だからっ! 不意に向けられるイケメンの微笑みは、心臓に悪いんだってば!!
ドギマギしてさっと顔を反らせたのに、今度は手を繋がれて、耳元で囁かれた。
「大丈夫だから。俺を信じろ」
私の処理能力を超えました。
と、その手がチョップで引き離され、肩をぐいっと抱き寄せられた。
「ったく、油断も隙もねぇな」
「戻ったか、ロイ。ところでその手は何だ?」
「お前に言われたかねぇよ」
私をマークから引き剥がしたのは、今まさに帰城したばかりだというロイだった。
私の頭越しにポンポンと会話が飛び交う。
その隙を突いて、何とか口を挟む。
「ロイ、おかえり。何もなくて良かった」
「おう、ただいま。何もしないうちに戻ってきたぞ」
あれだけ気負って送り出したのに拍子抜けだね。でも、何もないのが一番なんだよ。
私にかけた手をマークに静かに引き剥がされたけれど、それにはもう文句を言わず、私に穏やかな笑みを向けてくれる。
「で、マークとミワが連れ立って会議室に向かってるってことは……今回の会議、まさかミワも参加するのか? 部隊長クラスが呼ばれてるって話だが?」
せっかくだから三人揃って会議室へ向かう。
「詳しい話は後。だがミワも関係する」
「それ以上は話せないか」
「ああ。いくつか爆弾を抱えているからな」
「だろうよ」
二人から一歩退いて歩いていた私は、別のことで悩んでいる。
悩み? いちいち頭フリーズしてたらお友達問題を考えられないってことだよ! まずは落ち着こうか、二人とも。
ま、お陰で、会議に対する緊張は消えたんだけどね。
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部屋には、既に到着していた国軍7番隊隊長さんの他、ラルド、エマちゃん、ケイン、赤女史セリアが揃っていた。
ラルドとセリアは私の顔を見て怪訝な顔をしたし、エマちゃんに至っては「ミワさん? どうしてここに?」と直球で質問してきた。私にとってはセリアがどうしてここに、だよ。ゲームメインキャラだけど、部隊長じゃないよね。
エマちゃんの疑問は曖昧に笑って誤魔化し、マークの横へ座る。席次としては末席でもいいんだけど、今回は話の中心になるからと、軍師に並んだ形。
私が着席した後に入室したキャスパー王子は、私を見て僅かに眉を上げたものの、すぐに穏やかな笑みに戻って着席した。彼は私が異世界人だってことまでは知っているから、その辺に理由があると判断したのかもしれない。
最後に到着したのが、マリクさん。身綺麗にして堂々としているのがちょっと意外。
全員揃ったのを確認して、レオナルド様が口を開いた。
「揃ったな。
ビエスタ国王へは早馬を走らせているが、時間がないため、国軍隊長のロバート殿に名代となってもらう。
キャスパー王子も同様。デイ王に知らせは持って行っているが、この場では王の代理として参加してもらう。
セリアも、本来ならウォーカー家当主のサミュエル殿か、セリアの兄上のディーン殿に出席してもらいたかったが、時間がない」
名指しされた三人が、何となく視線を交わしている。
なるほど。彼らには、旧国四家と国王に早馬で知らされた内容を補完するため、ここで話し合った内容を伝えてもらう役割があるんだね。
ぐるりと場を見渡したレオナルド様が、結論を言い放つ。
「作戦を大幅に変更だ。我々は、今のフェイファーと事を構えるのが不可能となった」
各々から、声にならない息が漏れる。
「理由は聖女の存在だ」
レオナルド様が話し出す。
フェイファー国とビエスタ国に封じられた邪神のこと。
邪神の復活が近いこと。
それに合わせて、邪神に対抗できる聖女が現れること。
聖女と、ビエスタ国に保管されている杖が、邪神の封印に必要なこと。
聖女なしでは、戦の結果がどうであれ、早々に皆が滅ぶこと。
だから、聖女が戦場に出てきているのであれば、万が一を避けるためにも、戦いを回避する必要があること。
そして、民の不安を煽らないためにも、この話はそれぞれの当主以外には口外しないこと。
ビエスタ国王、デイ王、ウォーカー家当主は、邪神の存在を知っているため、この決定を知らせて、今後の協力を仰ぎたいこと。
――ラルドやクルスト王家の話を上手く誤魔化しながら、レオナルド様は話し終えた。その辺りはまだ内々でも公表できないという判断か。
さわり、と部屋の空気が静かに揺れている。邪神の存在は公になっていない。初めて聞かされれば動揺もするだろう。
「具体的な策は、私から説明します」
レオナルド様の後を引き取って、マークがスッと立ち上がって話し出す。
話されている内容は、現場に出たこともない、軍の動きを知らない私には、大部分がよく分からなかった。机上に広げられた地図と会議メンバーを交互に見る。この話に付いていけないのは、エマちゃんくらいかな。ラルドもしっかり理解しているのが凄い。さすが主人公。
一通りマークの説明が終わった後、再度レオナルド様が口を開く。
「今までの私の予想では、エマが聖女だった。確信に近かったと言ってもいい」
「私!? ……ですか?」
慌ててエマちゃんが語尾を整える。最近はラルドたちと行動することが増えていて、口調が砕けたままだったんだね。
「聖女の条件に、回復魔術を扱えることが挙げられる。
邪神の封印に回復魔術の一つが必要となる、と伝えられているからだ」
コクリ、とエマちゃんの喉が鳴る。
エマちゃんにとっては青天の霹靂だよね。いきなり自分が、世界を救う重要人物だと知らされたんだから。それも、共に戦う、ラルドという存在を知らされないまま。
大きな脅威に一人で立ち向かわなければならないと思っているはずだ。
ラルド自身はどうだろう。ケインからもう事情は聞いたのかな。
私にはそこまで分からないけれど、彼らの対面に座っている私には、机の下でラルドがエマちゃんの手を握っているのが見えた。
「それでは、フェイファー軍にいる聖女とやらは、偽物なのですかな」
国軍隊長さんが、皆を代表するかのように質問する。
「それは分からない。だが、エマの他にも聖女が存在する可能性は捨てきれない。エマが聖女ではない可能性だってある。
だからこそ、現時点では双方の聖女候補の安全を確保した上で、聖女の証であるティアラの見極めが必要となる。
――そこで重要な役割を果たすのが、この、軍師補佐官のミワ・ワタナベだ」
場の視線が、一気に私に刺さった。
着席していたマークが、ラルドと同じように、そしていつかの会議の時と同じように、机の下でこっそり手を重ねてポンポンと勇気付けてくれる。
ロイを見ると……半目になってムッとしている。あの顔、話の内容が気になってるだけじゃないね。今のマークの行動だね。あの席からだと机の下が見えるもんね。
マークの気遣いで心強いけど。心強いのは確かなんだけど!
やっぱりさっき、釘を刺しておけば良かったな。
私が遠い異国から来たこと。
そこでは聖女に関する寓話が広く知られていること。
聖女が使うティアラに関しても細かい点まで伝わっており、ティアラが本物かどうか判断できるのは、現在この国には私とシャイニー様くらいしかいないと思われること。
首都にいるシャイニー様に動いてもらうためには、国王の許可がいる。現時点でそれは難しい。
だから、相手の聖女が本物かどうかを見極めるためには、ティアラを着けた聖女と私を引き合わせる必要がある。
――やっぱりレオナルド様は上手いこと誤魔化しつつ、私の経緯を説明した。一応、嘘は言っていない。
シャイニー様には、首都にいてラルドの『青い鳥』を守っていてもらわねばならない。結局、動けるのは私のみ。
そこまでの事情は話さないまま、レオナルド様の説明は終わった。
そしてありがたいことに、ケインとマリクさんが上手く合いの手を入れてくれたお陰で、私はほとんど口を開かずに済んだ。挨拶のみ。若干肩透かしを食らったね。
私に関して予想以上にすんなり受け入れられたのは一安心。
その他諸々の情報を共有して、会議は終了。
こうして、クルスト軍の新たな目標に向かって、作戦が動き出した。




