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RPGの世界で生き残れ! 恋愛下手のバトルフィールド  作者: 甘人カナメ
第五章 見たことのない明日へ、いってきます
118/132

118.情報は続々と



「んー、じゃあ、聖水ってものはこの世界にある? 美和ちゃんの知ってる他のゲームには、そういうアイテムがあったらしいけど。――えーと、具体的にはこんな感じの物……――」


 紫音の声が届いてきた。ここからは完全に私の領域の質問だ。マークとの会話を一旦切り上げ、紫音の横へと進む。

 フェイファーのお偉いさんが椅子を準備してくれた。遠慮せず座って、紫音のメモ書きを覗き込む。マークとトムも背後から覗いてくる。

 メモは日本語ではなかったけれど、紫音の筆記速度に追い付ける程度にはリーディング能力が上がっている。

 何々?


 ――聖水に相当する物は、ミワも知っているはずだ。ゲームにも出てきている。


「いや、知らないけど」


 思わずツッコミを入れてしまった。


 ――神の涙。


「……あれか……」

「あれか」


 私の後ろからマークの声が重なる。


 神の涙。全員のHP・MPをフル回復するアイテム。

 購入アイテムやドロップアイテム、宝箱アイテムではなく、邪神を封じている二箇所の神殿ダンジョンにある固有アイテムだ。一見小さな泉、そこで空き瓶を「使う」と、一度だけ獲得できる。つまり世界で二つしかない。


「いやいや、そんな貴重アイテムなんて最後の奥の手にしか使えないよね」

「待って、美和ちゃん。ねぇ神様、他にはそういうアイテムないの?」


 ――同等の効果が出る程に凝縮された水分はない。けれど、もっと低い効果で良ければ、神殿内の泉や、デイ森の清流から汲み上げることができる。


 息を呑む私の横で、「どんな効果があるの?」と紫音が質問を続けている。


 ――回復効果はほぼない。ただし、神の恵みであるため、魔物への効果はある。


「よしきた、望んでた聖水だ!」


 ガッツポーズした。横で紫音もパチパチ手を叩いている。


「で、神様。そのアイテム、魔物への攻撃には使えるの?」


 ――攻撃の定義が生物へのダメージということであれば、効果は低い。


「やっぱり魔物が逃げる程度の威力しかないのか……」


 ――ただし、


 神の回答には続きがあった。


 ――生物ではない魔物には効果が高いはずだ。奴らはより邪神に近い存在だから、私の力には弱い。


 瞳孔が開くって、自覚できるんだね。やばい、興奮してきた。

 一方、紫音は冷静なままだった。


「ん? 神様って、邪神には直接手出しができないんじゃないの? それならむしろ効果が低くなりそうだけど」


 ――神の力を与えた聖女は戦えるだろう? 恵みの水も同じだ。


 純粋な力としては対抗できるけれど、本体そのものが力を行使しようとすると反発しちゃうのか。

 そういうことなら対アンデッドにデイ森の水が使える可能性が高くなった。

 けれど。

 トニーさんに何度も身体を張ってもらい、スケルトンで実験をしている。スケルトンは弱っちいから、特に注意して水分だけの攻撃をお願いした。……要は、水分を含んだフランスパンを使ってしまうと、その物理ダメージだけでスケルトンがバラバラになってしまうのだ。良いアイデアだと思ったのに、これでは結果が曖昧だ。

 とにかく、水分のみでの効果を見ている。消毒液もデイ森の水も、かかったら慌てて逃げて消えたらしい。崩れ落ちる程ではなく、ダメージが入ったのかどうか判断が難しいところだ。


 ――効果は高い。ただしそれだけではダメージ源として弱いだろう。


「じゃあ、例えば、ゼラニウムとかどう? 相乗作用で攻撃力上がったりとか」


 ヴァンパイアが逃げた場にあったのは、消毒液、デイ森の水、そしてゼラニウムだ。

 紫音はそれを尋ねている。

 暫く間があった。


 ――攻撃力の相乗効果はあるだろう。だが、世界中全ての物質に存在する効果は私も把握しきれない。ただし明確に恵みを与えたものはある。リューク大山脈の地脈、ユニの木、銀鉱石。


「ユニの木って何?」


 マークを振り返って尋ねるけれど、答えは紫音から返ってきた。


「神殿に植えられている常緑樹だって。ここにも植わってた。良い香りの木だよ」


 聖女教育で教えられたらしい。そうか、中庭で花が咲いていたあの木か。


「神も把握しきれていないということは、ゼラニウムみたいな例もあるよね。民間伝承の魔除け関連の情報を纏めてみようか」


 トムが真面目な顔で頷いている。伝承だって、経験則由来のものもあるのだから馬鹿にできない。何か書き付けた紙を持って部屋を出て行くトム。早速指示を出すらしい。


「んーと、次ね。生物じゃない魔物に攻撃できるアイテムができたら、邪神にも使える?」


 ――おそらくは。


「っし!」


 再びガッツポーズ。それならアンデッド系魔物でひたすら実験するまでだ。

 新たなヒントは既に貰った。銀とユニの木。これはすぐに手に入る。抜かりのないトムは、その報告も一緒にしたはずだ。城に戻ったらすぐさま作業に入ろう。




 ******




 手が痛くなってきた、という紫音の言葉で、一旦休憩となった。

 その間に私とトムはマークから話を聞く。


「邪神に明確な弱点はない。先程の質問を絡めると、アンデッドに効果のある攻撃は邪神にも通るようだが、弱点という程ではないだろう」


 やっぱり、その辺はゲームと一緒か。特攻があれば使っていたけれど、武器にも技にもなかったんだよね。

 唯一の特攻が『浄化』なんだろうけれど、それも外殻が分厚ければ届かないみたいだし。


「二体の邪神についての追加情報は、具体的な大きさや分割割合などの情報が主だ。口頭で説明するよりも、報告書で数値を見てもらった方が早いだろう」


 書類をトムに渡すマーク。ざっと目を走らせたトムは「ミワちゃんにはまた後でね」と舌を出してしまい込んでしまった。……くそう、私では流し読みできない内容がズラズラ連なっているってことだな。


「さて、今回の対話で最も重要とも言える質問だ。

 邪神の戦いに制限はあるのか。人物、物質、その他全ての制限について質問した」


 深く息を吸う。そう、これは私の仕事だけじゃない、ロイの無事にも関わる話。


「一つ重大な条件がある。

 邪神神殿の封印の間、その場で戦える人数は四・五人程度だ」


 ……そこがボトルネックだったか。




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