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まったく、私って奴は。
色んな人から背中を押してもらわないと、手を引いてもらわないと、ぐるぐる考えて足が止まるばかり。
自己嫌悪に陥るけれど、それも私で、それでもいいと笑ってくれたのがロイだから、脳裏に浮かぶ彼の笑顔に少し救われる。
神殿の窓から外を眺める。私に割り当てられた部屋は、一泊だけだというのにとても豪華な客室だった。私の身分が高くなったというトムの言葉を思い出す。
ゲームでは、窓のある描写はあってもそこから見える景色はほとんど描かれていなかった。ここでは勿論、フル3DCGでは表現されなかった細かい部分まで良く見える。
窓際のテーブルに頬杖をつき、視線を巡らす。
神殿の中庭には、急いで整えられた下草、剪定された木々、埃の払われた燭台が見える。木にはちらほらと花が咲いている。その向こうには、拭き清められた石柱の回廊、行き交う護衛や文官、急遽内密に呼ばれた聖女派のフェイファー神官もいる。
活気を取り戻した神殿は、つい先日まで廃墟だったとは思えない。きっと神も喜んでいるだろう。
もう少し休憩したら、紫音の仕事が始まる。
マークも来ているし祭壇広間にはのんびり来れば良いよ……って言われているけれど、さすがにそういう訳にはいかないだろう。
それでも少し、ぼんやりと外を見る。長距離の馬車移動だったのに、珍しく全く寝ないまま到着した。紫音と色々話していたからだけれど、普段は乗り物移動時に昼寝をする習慣がある分、今少し眠くなってきている。
紫音は「自分を頼れ」と言ってくれたけれど、全てを押し付けるのは違う。全部やってー、とお願いするのは甘えで、これこれこういうことを知りたいから助けて、というのが頼るということだと思っている。
だからまずは、ゲームとの共通点探しから一歩進んで、閃きを大事にしてみる。疑問点を見つけた、違和感を感じた、閃いた、それを捏ねくり回してみる。ゲームを知り尽くした私なりのアプローチ。
そこまでやって、皆で考える。それが周囲を頼ること。
例えば、既にやっていることがある。
今回の攻撃アイテムについてもそうだし、フェイファーの脱出イベント防止の手回しもそう。レベリングやスキル取得の動きもそうかな。
攻撃アイテムに関してはトニーさんたちと共同作業になっているし、暴動の起こる市への根回しはソニア様に一つの案として提出してみた。レベリングの仮説はレオナルド様たちと共有され、それを踏まえた五人は首都へ出発した。
それは全部、トニーさんだったりロイだったりと話し合って形になったことだ。私の勘だけでは進まなかったもの。
今回の聖水についての勘も、上手くいくかどうかなんて分からない。けれど、誰かの手を経ることによって形になるかもしれない。その誰かが、今回は紫音を通じた神だった。
それでいいじゃないの。
――少しだけ、うとうとしていたらしい。
船を漕いだ勢いで意識が戻った。光の加減からさして時間は経っていないように見えるけれど、急いで支度をして部屋を出る。
「や、おはよう」
部屋の真ん前の壁に凭れたトムが、にこやかに手を振っていた。
「起こしてくれても良かったんじゃ」
「だって、疲れていたようだから。最近忙しくて睡眠時間減ってたでしょ。書記官兼護衛だからね、その辺りも把握しているよ。悪しからず」
……仕方ないこととはいえ、ちょっとモヤモヤする。ここに来た当初、マークに監視をつけられていた時の気分に似ているけれど、今回は私を守るためだと理解できる分、どうにも気持ちの持って行き場がない。
あ、そういえば、ロイならそんな気分にならなかったね。
「それに、起こすために部屋に入るのは、ねぇ。ロイに殺されちゃいそうだ」
「あり得るかもね」
私の考えを読んだのでもないだろうけれど、タイミング良くロイの名前が出てきて苦笑いしてしまう。
ちなみに、トムへの敬語は、私の身分問題によってなし崩し的に止めさせられた。いいけど。逆にトムからの敬語がないのは何故か分からない。いいけど。
祭り上げられるより、こうしてフラットに接してくれる方がよっぽど良い。
「さ、それじゃあお仕事お仕事」
トムに背中を押され、祭壇へと向かった。
******
そっと部屋に身体を滑り込ませた私たちに、マークや他の文官さんたちが静かに頷く。
マークに指で呼ばれ、彼の隣へ座る。
「邪神に関する細かい部分は後ほど。君の質問に絡む点から要約する」
小声で説明が始まる。
最重要事項は既に各地へ連絡が飛んでいったらしい。
で、比較的最初に確認しなければならなくて、かつ私の質問に絡む話というと……?
「今さっき、シャイン・ユジールについての情報が出た」
早っ。もうその質問まで到達したのか。いや、私が来るのが遅れただけか。
「ひとつめ。魔除けの香の考案者はシャイン殿だ」
なるほど。薄々そうじゃないかと睨んでいたけれど、確定したか。
魔除けの香の話は、前回の邪神戦より前の文献には一度も現れてこなかった。
その後になって徐々に記述が見え始めたけれど、現在と同様、普及率は相当低かったらしい。となると、一人ないし数人での作業なのだろうと予測できる。
その人物はシャイニー様だろうと想定していた。何と言っても、魔物の親分とも言える邪神と戦っている人だ。
だとしたら、香に関してはシャイニー様にレシピを聞けばいい。
マークも同じように判断したらしく、香の詳しい中身は質問しなかったようだ。
「ふたつめ。邪神戦に参加できる資質はあるが、参加できない。
彼は利き足を失っている」
え。
「……そんな描写……」
なかった。青い鳥の受け渡しの時も、普通に歩いて。
まさか。
「義足?」
「とのことだ。普通に生活はできても、戦うことはできないだろう」
いつか見た夢、軽やかに飛び跳ねながら戦うシャイニー様の幻が脳裏に再生される。
いや、あれは前回の戦いをイメージしたもので、ただの妄想で、でも。当時はまともに戦えたのはシャイニー様と聖女だけ。だから、重傷を負っていた可能性も考えておかなければならなかった。
すっと背筋が寒くなる。だったらロイだってそういう可能性が……。
ううん、そうはさせない。一つ深呼吸して考えを振り払う。
「義足だって広まっていないのはどうして?」
「かなり精巧にできたものだから余程のことがない限り気付かれないとのことだが、詳しくはシャイン殿に確認してほしい」
とにかく、今回の邪神戦には戦力としての参加が望めないと確定した。
……あれ?
「参加する資質、って、何のこと?」




