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RPGの世界で生き残れ! 恋愛下手のバトルフィールド  作者: 甘人カナメ
第五章 見たことのない明日へ、いってきます
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106.夜の会話



 部屋に急襲を受けた。敵じゃない、ロイなんだけど。

 えーと、夜に異性の部屋に行くのはダメなんだよね? ん? 付き合ってたらOKって話だっけ? 怒られた印象が強すぎて、えーと。

 とりあえずデスクセットから椅子を運んできて座ってもらって、私はベッドに腰掛ける。最初にベッドを勧めたら鼻を摘ままれたんだよ。

 向かい合う形になっているんだけど、何となくロイの目を見られない。何だろう。何の用があって来たんだろう。


「怖がるなよ。傷付くだろ」


 ロイの戯けた言葉に、ちょっと笑ってしまった。

 怖くないよ。ロイを怖いと思ったのは、あの夜だけだもの。

 顔を上げたら、少し口を尖らせて拗ねた顔をしていた。


「さて、別に夜這いに来た訳じゃなくてだな」

「夜這い……」

「だから違うっつの」


 人差し指でおでこを軽く突かれ、顎が上がってしまう。そのまま顎を固定される。

 これはもしやキス……


「腹を割って話をするぞ。逃げるなよ?」


 ……でもなかった。

 両頬を片手でムニムニと揉まれてから、アッサリと手を離された。


「逃げたくなるような話とは」

「俺のフェイファー行きだ」


 こくりと喉が鳴る。薄々分かっていたけれど、こうも正面切って話をしに来るとはね。少し顔が引き攣っているのが自分でも分かる。


「もう決定なの?」

「いや。だが、決まっていた部分はある。昨日チラッと言っただろ、お前と別行動を取る時がある、って」


 ユタル神殿に行く前のことだね。

 護衛を外されるのではないって言っていたけれど。


「昨日の時点で話が出ていたのは、俺がゲーム通りに斥候工作員の仕事をして情報を集めてくるって案だ。その中にはフェイファーも入っていた」

「何でロイが今更?」

「俺だから、だよ。ミワは情報官として全ての情報を扱っている。ところがな、その役職を持っていない俺もそうだろ?」


 肩書きは私の護衛、実質私の書記官。確かに、実務を考えると私以上に情報を知っていると言っても過言じゃない。だって、私が原文を読むより早いスピードで書類を読んでいる訳だから。


「書類じゃ分からないこともある。もちろんミワが出向くのが一番だろうが、そうもいかない」


 うん、と頷いて先を促す。


「特に見て回るのは魔物の出現するポイント。情報を持っているから、ある程度までなら現場で俺が判断できる。例えば、中ボスレベルの敵の弱点はゲーム通りか、とかな」


 属性攻撃に弱点のある敵も多い。それに、複数体が同時に出てくる場合、倒す順序が分かっていた方がやりやすいこともある。

 戦えるからこその実地検分。


「ダンジョン攻略なんかは人海戦術で進めているから、その取りこぼしも攫っていく予定だった。

 で、まだ正式な提携ができていないフェイファーへ行くには、どうしても少人数となる。ここに来ているフェイファー側と似たような感じ、とでも言うか。うちと違ってどこぞの町で歓待受けるとかじゃないが」

「ゲーム通り五人で?」

「いや。ゲームと同じなのは俺だけだ」


 ラルドとケインとエマちゃんは先に青い鳥を何とかするからかな。


「セリアは?」

「俺の代わりにお前の護衛だな」


 国境会議場でのことを思い出す。たぶんロイにとって……もしかしたらレオナルド様やマークにとっても、安心して護衛に任ずることができるのがセリアなんだろう。

 強さも勿論のこと、ゲームでの役割が影響していると思う。すなわち、私自身が信頼できる人。


「ってことで、だ。昨日まではそういう方向で話が進んでたんだよ」


 一度グリンと首を回してから、腿に肘を突く前傾姿勢になるロイ。


「だがまぁ、今日の話はまた別なんだよな」

「情報収集じゃなくて、アルバーノの封じ込めとか、邪神の……」


 言葉が引っかかる。

 真面目な顔のロイが後を引き継ぐ。


「邪神と実際に戦うかどうか、だな」


 両手を組み合わせながら話を続けるロイ。


「どうなるかはまだ保留だ。作戦決定まで数日の猶予はある。

 でだ。ミワ、お前の今の気持ちを教えてくれ」


 今の気持ち?


「マイナスの感情を引き起こされたのは横で見ていても分かった。

 だがな、俺はミワじゃないから、何がどう不安で、どうしたいのか、どうしたくないのか、ハッキリとは分からないんだ。

 聞かせてくれ」


 そっか。だから「腹を割って話すぞ」なのか。

 私は両手で頬を覆って深く溜息を吐いてから、ロイの足に視線を固定した。




 ******




「分かってるんだ。

 ロイは強い。こんなに強い人をいつまでも私が独占するなんて駄目だ。

 今は少しでも邪神に対抗する戦力が欲しい。ロイは戦場に行ってもらわなきゃ」


 ぽつぽつと語る言葉は、遮られないまま。


「分かってるけど、怖い。

 何かあったら。ロイのIDタグが私の元に戻ってきたら、って」


 鍛冶屋さんに連れて行ってもらった時に感じた恐怖が、またぶり返してくる。


「覚悟しなきゃって分かってる。タグの話を聞かせてくれた時、覚悟を後回しにしたんだもん。いい加減気持ちにケリを付けなきゃって分かってる」


 まだいいよ、って笑ってくれたロイに甘えていた。だけどこれはロイに甘えるだけじゃどうにもできない事。覚悟は、決意は、自分がしなければ。


「本当はね」


 自分でもびっくりするほど頼りない声が出た。


「送り出したくない。

 でもね、私は見送らなきゃならない。ロイに戦いをお願いしなきゃならない。ここにいてって我が儘なんて言えない」


 そんな我が儘を言ってしまったら、自己嫌悪で押し潰されそうだ。

 そうだ。私はやっぱり心のどこかで「ロイは出て行くもの」だと考えていたんだ。


「せめてアルバーノの封じ込めに専念して、危険度の低い仕事に。そう思う自分もいるけれど、ゲームをやっていた自分が『それでいいのか?』って責めてくる。ロイは邪神との戦いに行った方がいいんじゃないの、って」


 でも、どこまでゲーム通りがいいのか、分からない。


「紫音が神様に聞いて、もし本当にゲーム通りの五人で戦え、って言われたら。

 怖い。怖いんだ。ゲームには『ゲームオーバー』って概念だってあるんだから」


 そんなこと、ロイに聞かせちゃいけなかったかもしれない。しまったな、と思うけれど、私の口は止まらない。


「シヴァは、紫音が聖女として邪神を封じる仕事をすると決まったら、あの子の生存確率を上げるために兵を大量投入しようと考えていた……って言ってたよね。

 気持ちは分かるし、私はそれに近いことを考えていた。たくさんの戦闘員で戦ったらいいでしょ、って。だって、神殿の中ボスも、一般兵が数人がかりで退治できたんだもん」


 そうなんだ。あれはダンジョン攻略の人海戦術に必要な情報だったけれど、同時に邪神対策にも関わる話でもあったんだ。


「分からないことだらけだから余計に覚悟が決められない」


 急に、鼻の奥がツンとした。


「何で、私には力がないんだろう? 何で私はプレイヤーじゃないんだろう。

 ゲームみたいに地道にレベル上げして数値カンストさせて、場合によってはセーブ&ロードして。私が皆を操って、楽々クリアできたらいいのに。

 そんなこと、この世界に生きているんだから、もう無理だって分かってるのに」


 ゲーム上で重要な「経験値」「レベル」は現実では見えない。それさえあればどういう物語であろうとクリアできるだろう、って確信がない。

 もちろん、それが当然なんだけど。


 息の震えを無理やり押さえ込む。


「プレイヤーじゃないって分かっていても、つい思っちゃう。

 何で私は力がないの? 何で私はただの人間なの? 何で私は何もできないの?

 何で、私は、ロイに何もしてあげられないの?」


 そっか。全ての怖い気持ちの根幹は、これだ。


 私は、戦うロイに対して、何もできない。レベル上げもできなければ、アイテムを買い込むこともできない。


 ロイが私を守ろうと努力してくれて、私はそれに甘え続けるだけ。彼の腕の中で災いが過ぎ去るのを待っているだけ。その温かい腕がなくなるのは嫌。

 ロイがいなくなるのは嫌だ。……うん、怖い気持ちは含まれているけど、たぶん開き直っても嫌だとは思うんだろう。


 じゃあ、何が怖い?

 私がその腕を助ける手段が見つからないこと。それが、全ての恐怖を増長させているんだ。




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