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RPGの世界で生き残れ! 恋愛下手のバトルフィールド  作者: 甘人カナメ
第五章 見たことのない明日へ、いってきます
105/132

105.苦い 【ロイ視点】

今回長めです。



 会議ってヤツは面倒だし疲れるモンだと決まっているが、今日はいつも以上に疲れた。

 裏で進めていた俺のフェイファー行きが、師匠のせいであっさりと表面化したからだ。いや、表面化ってのも変か。行くかもしれない、その程度だったから。

 だけど現状はその方向で話が進んでいる。


 話し合いの最中、ミワの表情は色々と変わった。主に顔色が悪くなる方向で、だ。

 それを見て、黙っていて悪かったという気持ちと、やはり黙ったまま様子を見て話すべきだったんじゃないかという思いと、俺のことをそこまで思ってくれて嬉しい感情と、全てが溶け合って口を開けない。

 ……格好付けて言ったが、単にどうしたらいいか頭が追いついていないって話だ。


 シオンの機転――あれはミワの様子を見かねた上での機転だと思っている――で話が終わり、残りの細々したことを検討してから会議は終わった。

 シオンと「質問事項を急いで纏めるね」と約束したミワは、俺と別れて足早に執務室へと戻っていった。

 俺は俺でレオ様やマークに呼ばれていたから、後も追えず見送るだけしかできなかった。




 ******




「ミワの憂い顔は晴らさないでいいのか?」


 必要事項の打ち合わせの後、誰もいなくなった部屋でマークが口を開く。

 何だよお前、まだミワのことを見てるのか。


「つーか、いい加減諦めたらどうだよ」

「諦めるも何も、心は簡単に動かないからな。私はまだ彼女が好きだ」

「相変わらず根に持つとしつこいな」


 暫く目を伏せたマークは、「それだけじゃないさ」と、珍しく弱気な顔で自嘲の笑みを浮かべた。


「お前にとって非常に腹立たしいことを言うぞ。殴るなら殴れ。

 この先、お前が生きて帰ってこられない可能性は少なからずある。その時に、彼女を支えられる人間でありたいと思っている」


 頭に血が上り、ガンッとローテーブルを蹴りつけた。


 分かっている。分かっているさ。今日だってまさにその話題だったんだ。嫌でも思い知らされる。

 後々、俺は前線に出る。戦いを無視してミワの元に居続けるなんてできやしない。

 戦いになれば、当然死ぬ可能性だってある。まして、相手は人間じゃない。今までの戦い方が通用するかどうかも分からない。

 常に意識している死が、今回は更に色濃い。

 分かっていて受け入れなければならない現状も悔しいし、

 あいつを一人にするかもしれない不安もあるし、

 そうなった時に一番に託せる相手がマークなのも、それをマーク自身に指摘されたのも悔しいし、

 他に手が見つからないのも悔しいし、

 ミワがショックを受けても何も言ってやれないのが悔しいし、

 そんな俺が不甲斐ないのが一番癪に障る。

 俺がお前を守ってやる。どんなことをしてもお前を守る。だから生きて帰ってくる。

 言葉だけならいくらでも言える。


 どれだけ俺が悔しいか。どれだけ俺が情けないか。




 俺は孤児だが、そうは言っても、ここで培ってきた人脈も経験もある。


 親は亡くしたが孤児院に預けられ。

 預けられたからマークと出会い。

 マークに出会えたから院を出てギルド員になり。

 ギルド員になったから師匠に出会い。

 師匠に教わったからギルドランクが上がり。

 ギルドランクが上がったから色んな戦いを経験し。

 戦いを経験してきたから傭兵として稼ぐこともできるようになり。

 傭兵として力量が付いたからクルスト軍に志願し。

 クルスト軍に入ったからミワに出会えた。


 ミワと中庭で会った時「寄る辺のなさが少しは分かる」とか大口を叩いたが、俺にとっての寄る辺のなさなんて彼女に比べればとても小さい。

 ミワは、全てを断ち切られてここへ来た。自分の知識と技術だけが武器。

 支えてやりたいと思った。

 守りたいと思った。全てを守ってやる、と。


 守る、って、何だろうな。


 小さい頃の俺は、孤児院のチビ共を嫌な大人から隠すことだと思っていた。

 マークと出会った頃の俺は、チビ共のような人間――将来の孤児予備軍――を減らすようなことだと思っていた。

 師匠と出会った頃の俺は、できるだけたくさんの人々が傷付かずに済むように動くことだと思っていた。

 クルスト軍に参加した頃の俺は、傭兵隊やマークたち、そして俺自身を含めたラヴィソフィの人々を戦争から無事に生かすことだと思っていた。

 そして今の俺は、俺の選んだただ一人、ミワが、笑顔でいてもらうことだと思っているんだ。


 お前の笑顔がなくなるなら、それは許せない。

 許せないんだ。それをするのが俺自身だったら尚更、俺は俺を許さない。




 そうだよ、八つ当たりだよ。マークは殴れと言ったし、実際殴ってやろうかと一瞬考えたが、それでも俺はテーブルに当たった。どんな気持ちでそれを言ったのか、マークの顔を見りゃ分かる。

 ミワを諦めていないのは本当だろうが、自分の策で俺を確実に生きて戻すから、って言えないのが悔しいんだろ。

 くそったれ。俺もマークも馬鹿野郎だ。

 ガシガシと頭を掻き回す。気持ちがぐちゃぐちゃになって、マークのようにスラスラと言葉が出てこない。


「自分で現状を何とかしたいなら手を考えろ。手が無いなら無いで話し合え」


 今日のマークはやたらと絡んでくる。

 マークの秘書官が部屋に入ってきたのをきっかけに、俺は黙ってミワの元へ向かった。




 ******




 オイルの仕事で真剣に話し合っているミワの姿を見て、またモヤモヤしてくる。

 仕事の話が始まると恋愛沙汰なんて目に入らなくなる。それは前に俺が言った言葉だ。相変わらずそうだよな、と、トニーたちを見る。

 イラッとした。

 何でお前らがミワの平静を引き出すんだよ。


 横のシオンがスプーンの持ち手でつんつん突いて俺の注意を向けさせた。


「(後で飲みません?)」


 こっそり小声で伝えられたのは、きっとミワに聞かせたくない話だからだ。

 俺は真顔を保ったまま、僅かに頷いた。




 上手いことミワを言いくるめたシオン。ミワを先に帰し、二人で酒場に残る。


「こんなトコ見られたらシヴァに殺されねぇか? 俺」


 大きいジョッキを二つ抱えてテーブルに戻ってきたシオンは、何てこと無いように笑う。


「シヴァは察すると思いますよー? 今日の美和ちゃん見てれば、ほら」


 かんぱーい、と明るい声でジョッキを掲げたミワの親友。何をどうしたらそこまで明るいままでいられるんだ。

 片肘で頬杖を突きながら、ビールの泡が立ち上るのをボンヤリ眺める。何を言おうかと悩んだが、シオンが先に口を開いた。


「あのですね。美和ちゃんは、隠れロマンチストなんです」


 頬杖をやめた。シオンは何を言い出したんだ?


「これバラしたって知られたらめっちゃ怒られるけど。前に惚気られた時に、ロイさんのこと、運命の人だって言ってたんですよ」


 ぷくく、と思い出し笑いをしている向かいで、俺は頭を掻き回した。耳が熱い。マジかよ、何て話をしてるんだ。いや、悪い気はしないが。


「強いし、優しいし、カッコいいし、心の中を見せられる安心できる相手だし、ロイさんがいるからこの世界に留まろうと思えたし」


 さすがにいたたまれなくなって、額に手を当てて下を向く。

 つーか、その話、本当に俺が聞いていいのか? 本人から言われていないってことは、俺に聞かせたくないってことじゃないのか?


「美和ちゃんの親御さんが事故で亡くなった話、知ってます?」

「ああ」

「ロイさんは、美和ちゃんにはもう誰もいない『家族』になれる……かもしれない人だ、って」


 顔を上げる。


「もう大事な人を亡くしたくないのは当たり前で、その上での話をしますね。

 ゲームの情報を集めて書き出してる時、美和ちゃんがポロッと零したんです。『ロイのこと孤児だって知ってたけど、その気持ちがようやく少し分かった。ゲームでロイが年下四人のまとめ役になっていることとか、誰かが病みそうだったら助けてくれることとか、きっとそういう思いから来てたんだな』って」


 誰かを守りたい気持ち。それは俺の根っこだから、行動のあちこちに出ていたんだろう。


「その気持ちが分かった、って言ったんですよね。口振りから、孤独とか苦労とか、そういう部分に共感したんじゃないんです。

 美和ちゃんも、誰かを守りたいんですよ。それはこの城の人たちだったし、この世界の人たちだった」


 ああ、そう聞いた。だから行動したんだって教えてくれた。


「たぶんね、美和ちゃん、自覚してないですけど。普段守ってもらっているロイさんだって、守りたい対象なんだと思うんですよね」


 目を細くして、シオンの話の続きを待つ。


「何も手を出さずにいて、誰かがいなくなったら。それが美和ちゃんの責任じゃなくても、自分で自分を責めるタイプの子です。

 自分が動くことで事態がもっと悪くなったら、って恐れはあるけど、それでも黙って見てるのはヤなんですよ」


 十年来の親友は、ミワのことをよく見て知っている。シオンの言うことは当たっているんだろう。


「ロイさんがここに留まっていようが、アルバーノに行こうが、邪神の前に出ようが、どうであれ美和ちゃんは凹みます。これでいいのかな、ってずーっと気に病みます。

 だったら、美和ちゃんの隠された本音を引き出して、好きに守らせる、手を出させるのが一番の薬だと思うんですよ」


 半分残っていたジョッキを豪快に空けて、もう一杯お代わりもらってきますねー、と席を立つシオン。




 守る、か。


 俺の「守る」と、ミワの「守る」は、たぶんちょっと違っている。似たような物でも違う。そりゃ、別々の人間なんだからそういうモンだ。

 俺はミワの笑顔を守りたい。

 ミワは、俺の命を、俺の存在を、守りたいのか? もう誰も亡くしたくない、その中心に俺がいるんだろうか。

 俺がそれに応えられるかどうか。戦いの結果に絶対はない。生きて帰ってくると約束したって、それはただの口約束でしかない。


 俺がミワの笑顔をどうやったら守り抜けるのか上手く考えられないように、ミワも俺を生かす方法を上手く考えられていない。


 ――手が無いなら無いで話し合え。


 マークの一言が蘇る。あいつみたいに頭の良くない俺は、ミワと話し合うことで答を見つける。

 ヒントは、シオンがくれた。じゃ、早いとこやっつけるだけだ。




 だいぶ温くなったビールは苦くて、残りを一気に流し込まなかったのを少し後悔した。新しいジョッキを持ってきたシオンが「苦いのなんてこれで押し流しちゃいましょー」と笑う。


「一つ聞いていいか?」

「はい、何です?」

「シオンはシヴァと離れることをどう思ってる」


 俺の質問が予想外だったようで、くりっとした目をパチパチさせてから、お代わりをぐーーーっと一気に空ける。いい飲みっぷりだ。


「そりゃあ離れるのはヤですよー。そもそも離れたくないから従軍したくらいで、シヴァが危険な場所に行くのは嫌だから無理やり付いてきたんですもん」


 その割に、今回の動きに関してはやけにサッパリしている。開き直ったか?


「だから今、一生懸命駄々捏ねてます。シヴァは死んだことにしてこっちに残れないかなー、それならアルバーノに行く必要ないんじゃないかなー、むしろ一緒にユタルに行って手伝ってくれないかなー、聖女権限でどうにかできないかなー、って」


 は? それこそ予想外の話が出て、ポカンと口を開けてしまった。


「その辺のね、やること考えること手を打つこと、ぜーんぶやってから、打ちひしがれることにしてます」


 そうか、そういうことか。

 俺も一気にジョッキを空けた。




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