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RPGの世界で生き残れ! 恋愛下手のバトルフィールド  作者: 甘人カナメ
第五章 見たことのない明日へ、いってきます
100/132

100.昼食を挟んで



「――っとまあ、神様からあたしたちの役割を教えてもらったんです」


 感慨に耽りかけたけれど、紫音の仕切り直しで意識が戻ってくる。

 そうだった、まだ聖女の報告の途中だ。


「美和ちゃんの情報を元に、どうやったら邪神を倒せるのか考える。

 エマちゃんは邪神戦に向けて訓練。ラルドくんのサポートとかもだね。

 あたしは、あたしたちじゃ分からない情報を神様に聞きに行く」


 分からないことはこちらから尋ねないと答えてもらえない。膨大なデータベースを検索かけるような感じかな。こっちでも検索使うとは思わなかった。ググるでもタグるでもないから、神託受ける……タクる? うん、自分でもセンスないと思うよ。


「で、さっきマーカスさんが『神様も未来は分からない』って言ってくれたけど、その通りで、神様も万能じゃないんだって。絶対あたしたちが勝てるかどうかは分からない。美和ちゃんの知識があってもどうなるか分からない。だから頑張ってね、って」


 うん、と頷く。知識があるだけで勝てるなら苦労はない。

 その知識じゃ足りない部分も含めて、神様から情報を引っ張ってくる。

 あるいは逆か。神様に全部が全部を聞いていると時間切れになるから、それを補うのが私の知識。うん、こっちのような気がしてきた。


「ただ、あたしが神様と話をするにも、エマちゃんが強い魔術を使うにも、どっちもティアラが必要」


 それもそうだ、と何人かがハッとした顔になる。


「どうしたらいいか聞いたら、祭壇かち割ってその欠片をペンダントにでもすればいいよ、って」

「はぁっ!?」


 フェイファー側から悲鳴のような声が漏れる。絶句して目を剥いている人もいる。

 元の世界でいう「罰当たりな!」って感情なんだろうなぁ……。


「他にもね」


 そんな場を意にも介さず、話を続ける紫音。


「ティアラを分解しちゃってもOK、って」

「ひっ!?」


 やっぱりフェイファーの人たちは青くなり、ラヴィソフィの面々もさすがに顔が強張った。


「で、それぞれ観察してみたの。

 祭壇で色々と飾りが彫られている部分ね。そこが一番脆いと思うんだけど、あの場でノミ持ってくることもできなかったし、さすがに手でへし折るのは無理そうだったし、断念。

 ティアラは、飾り玉のいくつかが付け外しできそうで、実際やってみたら簡単にできた」


 それであの時のあの動きになったのか。

 ロイのIDタグの鎖を見る。このくらいの細さの鎖なら飾り玉に通るってことだね。

 ティアラを分解するという状況には変わりないからか、主にフェイファー側の動揺が続いている。

 その場にいたからか平然としているシヴァが、周囲を見渡す。


「大切なのはティアラの形ではない。

 ティアラの存在意義を考えたまえ。聖女の選定だけではない、その力を解放するための物だ。聖女が二人いる以上、双方共に力を解放してもらわなければならない。

 そして聖女の存在意義を考えたまえ。彼女たちはフェイファーの政治の道具ではない。邪神を消滅させるのに必要な因子、それが絶対的な役割だ」


 フェイファー皇室は聖女を外交カードとしても使おうと考えていた。……いや、シヴァ以外は未だに考えているのだろう。

 けれど、ここにいる人たちはシヴァと紫音に同調して、国の政策よりも対邪神を重視している。

 シヴァの言葉に、場は落ち着きを取り戻した。


「はい、これであたしからの報告はおしまいです」

「では一旦休憩としよう。今の報告を元に今後の動きを検討する。昼食を挟んで二時間後に集合してほしい」


 レオナルド様の散会の宣言で、出席者はバラバラと動き出す。

 レオナルド様やマーク、シヴァとハーミッドが早速ミーティングを始めている。シヴァに呼ばれた紫音へ手を振って、私とロイは食堂へと向かった。




 ******




 食堂で、トニーさんが私たちを待っていた。特に約束はなかったはずだけど、どうしたんだろう。

 とりあえずいつも通り、一緒にテーブルを囲んでランチ兼ミーティング。

 何枚かの書類を渡されたけれど、本題はそっちではないらしい。


「魔除けの香を焚いてたのに、魔物に襲われたんだよ」


 食後のレモネードを握る手に力が入った。それってつまり、エリアボスじゃ……!?

 アイテム『魔除けの香』を使うと雑魚敵に遭遇しなくなる。あるいは、馬車を利用すると料金がかかる代わりに雑魚敵とのエンカウント無く別の町に移動できる。フィールド移動で雑魚が面倒臭くなってきた時に使う手だ。それぞれお金がかかるから、ざぶざぶ湯水のように使うのはしばらく経ってから。

 けれど、両方ともエリアボスだけは出てくる。だから現実でも香を焚いていたのに襲われてしまったのか。


 エリアボスはレアエネミーで、実際に出会う確率は相当低いために対処は後回しになっていた。情報だけは出してあるけれど、優先順位は下の方。

 トニーさんは見たところ無事そうだけど、サッシュさんは?


「あぁ来た来た、サッシュー、こっちだこっちー」


 トニーさんが手を振る先には、これまた無事に見えるサッシュさん。

 非戦闘員がエリアボスに遭遇してしまったという衝撃と、二人とも無事だった謎とで、眉間に皺が寄る。

 これは詳しく事情聴取をせねばなるまい。

 早速、私の情報が役立つ時が来た。




 急いで食べたこともあり、まだ昼食後の会議再開までは時間がある。四人揃ったところで場所を医務室へと移した。

 オイルの仕事を食事時以外に行う時には、先生の医務室を使わせてもらうことにしたんだ。患者じゃないけれど守秘義務を守ってやる、という先生の言葉に甘えた形だ。


「で、何がどうなってるの」

「昨日、デイ森に出掛けてたんだ。その帰りに馬車の馬が騒ぎ出して、すぐに嫌な気配が流れてきた」


 馬車の窓から外を見ると、見たことのない魔物がこちらへ向かってくる。

 本能で危険を察知した二人は、とにかく馬で逃げようと飛び出した。けれど、逃げ切る前に馬車を壊されてしまった。


「そこで不思議なことが起こったんだ」

「この時点でだいぶ不思議だけどね。香を焚いていたんだろう?」


 いつの間にか、先生が私たちの横で話を聞いていた。珍しく紅茶を飲む手を止めている。

 私がゲームの描写を説明する。先生とココさんには私の知識の話はしていないけれど、特に深く追求しないで話を受け入れてくれている。

 とにかく、エリアボスには魔除けの香は効かない。

 で、不思議なこととは?


「魔物がね、馬車からぶちまけられた荷物に足がかかった段階で動きが止まって、そこから少しずつ影が薄くなって、そこから飛び退いてすっと消えた」

「消えた?」


 オウム返しに私が尋ねる横で、ロイも「消えた、ねぇ」と呟いて腕を組む。


「そうっすね。消えて見えなくなっても怖いままだったから、荷物放置してそのまま馬で駆けてきたけど」


 そりゃそうだろう。ゲームを知っている私でもそうする。

 それにしても、気になるのは『荷物で動きが止まった』という点だよね。


「何を運んでたの?」

「そうだよな、やっぱりそこ気になるよな。

 でもな、大したものはなかったんだよ。実験で足りなくなったり今後たくさん使うと分かってるものを森に分けてもらいに行った帰りだったから」

「劇薬の類は?」

「ない。エタノールだとかアガーだとかを大量に積んできた。あと、森の清流から精製した水かな」


 エタノールは要するにアルコール。揮発したものを大量に吸い込んだり、直接飲んだり、素手でじゃぶじゃぶ触ったり、そんな無茶な扱いをしない限りはさほど危険ではない。

 アガーは寒天みたいなものだし、これに至ってはもうほぼ無害としてしまってもいいか。

 精製水はその名の通り、水。飲んで美味しいものではないけれど、これに攻撃性があるとはとてもじゃないけど思えない。


 簡単に言うと、奴が足を踏み入れた時には危険な物はなかったという話。


「他に積み荷は?」

「オイルやジェルに使う植物だな。ゼラニウムとか」


 やっぱり特段危険な物はない。


「でさ、ミワさんが知ってるっていうヤツの情報は?

 森との往復は今後もあるだろうし、いくらなかなか出会わない相手とはいえ、知ってるのと知らないのとでは心の準備が違う」


 トニーさんの言葉にサッシュさんも頷いている。

 うむ、任せたまえ。




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