99.矛盾があるのかないのか
やっぱり自分で書いていてもよく分かっていない。
いやいや、私の知識が間違いとか。前提崩れるよね。
頭使いすぎて疲れてきた。
マークの講義を聴いている面々にも疲労が滲んできている。一部は居眠りしているよ。起きてラルド! 主人公でしょ!
ああ、マークが甘い物たくさん食べる理由が分かった気がする……。私もさっき飴を舐めてちょっと復活したもの。
今日はちっとも甘味を口にしていないはずのマークは涼しい顔。
それにしたって、よく分かんない。
よし、ちょっと脳内整理の時間を貰おうか。
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タイムパラドックス。つまり時間を飛び越えることによる矛盾だ。
この場合、私が時間を飛び越えた。
それによって関係する未来は二種類。つまり、私の世界と、この世界。
私のいた世界で問題になるのは、ブルフィアシリーズというゲームに関して。
私はここがゲームの世界だと思っていた。ゲームを作った会社があって、ストーリーがあって、それが基準だった。
ところが、ゲームの内容はこの世界の事実が滲み出たものから作られていた。つまり、実際にはこの世界が先で、ゲーム制作は後。
だから、ここに私がいることで変化するのは、ゲームの内容。
ところが、この世界が変化することで、その先にある「私の知っているゲーム」はもう存在しないことになる。皆の知るゲームには最初から私がいるから、誰も話が変わったと思わない。
変わったと知っているのは、情報を持ったままここへ来た私だけ。
自分の知るゲームがなくなったことで、私の知識との矛盾が起きている。
だけど、記憶は物じゃないから書き換えることができる。何ならその知識自体が全て私の妄想としてしまうのもアリ。
最悪、神によってゲームの話を脳内に送り込まれていたとしても私が知覚できなければ『自分はブルフィアシリーズというゲームを遊んでいた』と自分自身が思い込む。元の世界に存在しない物なんだから、矛盾はない。
そう、ブルフィアシリーズを知っているのは私だけ。私が納得してしまえば、その矛盾は矛盾ではなくなる。
この世界で問題になるのは、私が未来から来たことで歴史が変わること。
ところが、私はこの世界の人間ではない。
親の出会い邪魔しようパターンで考えると、自分のいない世界……つまり親の出会わない世界が元々の正しい世界だった。そこに、自分が産まれたパラレルワールドから、正しい未来にはいるはずのない自分が飛んできた。
その矛盾を解消するために、自分の存在する世界が作られる。――えーと、自分で自分の存在を作り出したって感じ?
今回のパターンに当て嵌めてみる。
諸々の変化をまとめて、私の存在の有無に置き換えて考えよう。
私の『いない』世界が元々の未来だった。私は魔術のない世界に生きていたのだから、普通はこちらだったと考えられる。
そこに私が来て、色々歴史が変わって、その結果、私のいる未来が作られる。つまり私が私の存在を作り出した。
私の『いる』この世界が元々の未来だった。
私は隣の世界から飛んで来たけれど、飛んでくること自体が未来に必要な因子だった。それによって私のいない未来は消えるから。
卵が先か、鶏が先か。ううむ。
とにかく。
どちらが正しい未来なのか、どちらが正しい世界なのか、それは現時点では分からない。
過去から未来は見えない。未来から見ないことには正しい歴史は分からない。分岐した後の世界にいたから、過去へ来ることによって矛盾が発生し(あるいは発生せず)パラレルワールドが作られる(あるいは作られない)。
けれど、未来を知っている私は異世界から来ているから、未来における私の存在に関する矛盾は起きていない。来ている時点でどう転んでも私の『いる』世界となるからだ。
えぇと。
結論としては、矛盾は起きない、だからタイムパラドックスは起こっていない?
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「じゃあ、なんで私はここに来たんだろう。情報担当って言われたのにその情報が間違っているとか言い出されると、もうどうしようもないんだけど。
やっぱり卵が先か、鶏が先か論争なのかな」
勘弁してほしい。
ところで私は鶏が先派だよ。遺伝子が他のものから鶏へと変わっていくタイミングがどこにあるかって話だよね。……どうでもいい。
私の言葉に一瞬眉を寄せたマークだけど、「なるほど、どちらが起点となるかか」と頷いた。あ、言い回しが聞き慣れなかったのね。
「私の仮定だが。
君のいた時間がゲーム発売から時間が経っていることがポイントだと思う」
「つまり?」
「この世界の元々の歴史は、恐らく君の知るゲーム通りなんだ。それを変えると決められたから、君たちがここへ来た」
ほうほう。私の『いない』世界、そちらを正しい世界だとしたのか。そうなると、やっぱり私のゲーム知識は正しい物だったと言える。
で、その世界をわざと変えるために、大きな因子である私たちを放り込んだ、と。誰がって、どう考えても神様だよね。
「ミワたちが来る直前、こちらの世界に何らかの不都合が起きたのではないだろうか。これではいけない、過去を変えるべきだ、と思われる程の何かが」
不都合とな。
例えば、封印したはずの邪神が時を経たずに復活しちゃったとか、そういう一大事?
「それじゃあ、私たちの役割は、ゲームの話からわざと逸脱させること?」
私の言葉に、紫音が目を丸くして長い睫毛をパチパチと瞬かせている。
「ただ単に変えるだけなら、シオン一人でも構わない。
前回の聖女といい、今回の君といい、情報を持っていることが重要だとされているな?」
そう、そうだった。前の聖女も夢でこの世界の過去を見ていたんだ。ただし彼女は世界の未来を知らなかった。そして情報の多さに混乱した。
私は世界の行く末を知った上でそれを変える役割があり、それに加えて情報に専念しろと言われている。正しい情報かどうか、もう分からないけれど。
「未来を変えるのに、その変えるべき世界の情報がいるの? 同じ轍を踏むな的な?」
「前回の聖女と違い、辿るはずだった未来の情報を持ってミワはやってきた。変わる未来だろうと何だろうと、『それでもいいから情報を持ってこい』という話だろう」
――お前の知っていた物語のあらすじなんて、ただの参考程度のものになってるんじゃないのか?
いつかのロイの言葉が蘇る。
ストーリーは外れようが何だろうが構わない。むしろ外れていい。単なる参考でも構わない。
一方で細かい部分までも覚えたままで来ている。たくさんの情報のピース。つまり、欲しいのはそちら?
過去だけじゃなく、これから起きる出来事――おそらくブルフィアシリーズ全てに亘る情報を持ってこい、と?
「ミワたちの役割は、ゲームの結末を変えること。
つまり、絶対にこの戦いで邪神を倒せ、と、そう言いたいんだと思う」
疲れが見えていた会議室の空気が少し引き締まった。
「タイムパラドックスで私を悩ませたのが、神の誤算だったっていうのは?」
「最初から今のように開き直ることを予想していたのだろうな。『ここに来たのなら自分も邪神討伐に加わろうじゃないか』と動くと思っていた」
ロイの言葉で視界が開けたけれど、そうじゃなかった。
私は頭でっかちで、ぐるぐる余計に考えてしまって、それで身動きが取れなくなっていた。
横を見ると、ニッと笑っているロイと目が合った。
ああ、この人に甘えて良かった。ドキドキするのに安心する。もう大丈夫だって思える。
その笑顔に勇気付けられて、私は一番気になっていたことを問いかける。
「今まで私がやってきたことは、正しかった?」
情報を持っているから、それを使え。使える情報を洗い出せ。
その仕事は、間違っていなかった?
ゲームにないアイテムを作り出した。フラグイベントを潰した。
その動きは、問題なかった?
マークがふっと肩の力を抜く横で、レオナルド様が優しい顔で頷いてくれた。




