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終話 セディ

 クレア姉様に突然「口づけ禁止」を言い渡されて、僕は焦った。


「クレア姉様、もしかして僕に飽きたの? だとしても、僕は婚約破棄なんて絶対にしないからね」


「私がセディに飽きるわけないじゃない」


 そう言いながら、クレア姉様は僕の頭をやわやわと撫でた。昔からクレア姉様がよくしてくれたこと。落ち着く。


「じゃあ、何で?」


「何でじゃないわよ。隙あらばするんだから。私はもっとセディの顔を見て、たくさん話をしたいのに」


 クレア姉様の言葉を聞いて、僕は最近のことを振り返った。


 クレア姉様と正式な婚約者になったのが半月前。

 その直後の週末には父上、母上と一緒にバートン家に挨拶に行った。

 なぜかヘンリーには昔みたいに睨まれた。でも、ヘンリーはクレア姉様が出る夜会を教えてくれたりして僕に協力してくれたから、しっかりお礼を言った。


 その翌日からは、クレア姉様が花嫁修業で僕の家に通って来るようになったので、僕は昼休みに帰宅してクレア姉様に会っている。

 お屋敷に着くとクレア姉様が僕を出迎えてくれるので、僕はいつものようにクレア姉様を抱きしめて、それから一緒に昼食を食べて、残りの時間は居間でクレア姉様に口づけして、クレア姉様に見送られてまた宮廷に向かう。


 言われてみれば、あんまりクレア姉様と話してないかな。今も居間でふたりきりになれたので、口づけしようとしたところだった。

 そう、ふたりきりになるまで我慢してるんだから、褒めてほしいくらいだよ。


「何を話すの?」


 僕は、僕の腕の中に収まっているクレア姉様の顔を覗き込んで尋ねた。

 6年振りに会ったクレア姉様は昔より大人っぽく綺麗になっていたんだけど、この頃はなぜかすごく可愛く見える。僕のほうが体が大きくなったからかな。

 こんな可愛いクレア姉様に口づけしたら駄目なんて言われても困る。


「そんなのいくらでもあるでしょう。私たちはまだ再会したばかりでお互いに知らないこともあるはずだし、もうすぐ結婚するのだから話し合うべきことだってあるわ。だいたい、普通1年くらいは婚約期間を設けて、その間に気持ちの擦り合わせをしたりするものなのよ。まあ、何年婚約してても擦り合えない場合もあるけど……」


 確かに僕たちは6年も会えなかったんだから、手紙には書ききれなかったこともたくさんあった。クレア姉様のことも、もっともっと知りたい。

 だけど、そのために1年も待てない。


「1年なんて長すぎるよ。昼休みしか会えなくて全然足りてないのに」


「だからって、婚約から2か月で結婚なんて聞いたことないわ」


 僕は婚約期間なんて跳ばしてすぐに結婚したかった。でも、ウェディングドレスが出来上がるのに2か月かかると言われたので諦めた。

 クレア姉様にはとびきり素晴らしいウェディングドレスを着てほしくて、ドレスの仕立て屋が描いた何枚ものデザイン画の中から僕がこれぞというものを選んで、そこに僕の意見も取り入れてもらったから、クレア姉様によく似合うウェディングドレスが出来るはず。すごく楽しみ。


 ちなみに、来月、王宮で開かれる夜会では僕が婚約者として初めてクレア姉様をエスコートするんだけど、その時にクレア姉様が着るドレスももちろん僕が決めた。

 最初の夜会で見た若草色のドレスや、この前のラベンダー色のドレスも良かったけど、僕が選んだものには敵わないと思う。ごめんね、ヘンリー。

 でも、クレア姉様が他の男の人から注目されちゃったら嫌だな。僕は夜会の間、クレア姉様から離れるつもりはないけど。


「とにかく、夫婦になるまで口づけはなしよ」


「そんなの無理。これからは話もするから、ちょっとくらいならいいでしょう?」


「あなたがちょっとで止まるはずないわ」


 信用ないな。止まれる自信もないけど。

 でも、僕だけが悪いわけじゃないと思う。


「クレア姉様だって、口づけすると僕にしがみついてくるくせに。それに、離れた時あんな顔してたら、もっとしたくなって当然だよ」


「へ、変なこと言わないでちょうだい」


「ほら、この顔」


 僕はクレア姉様の赤く染まった頬に触れながら、首を傾げた。


「ねえ、クレア、駄目?」


「駄目よ」


 クレア姉様は僕の手から逃れるように顔を背けてしまった。さっきは僕の顔を見たいなんて言ってたくせに。


「わかった。唇にはしない」


 僕はそう言うと、クレア姉様に顔を寄せてその頬に口づけた。そのまま唇でハムハムと食んだり、舌でペロペロ舐めたりした。

 クレア姉様の口から小さく「ひゃっ」と悲鳴が漏れた。


「セディ、何してるのよ」


「クレア姉様の頬っぺ美味しい。結婚式までこっちで我慢する」


 クレア姉様、耳や首筋まで赤くなった。そっちもハムハムペロペロしたい。でも、本当に止まらなくなりそうだからやめとく。


「クレア姉様、お話しして。僕、ちゃんと聞いてるから」


「そのまま喋らないで、少し離れてよ。これでは話せないわ」


「嫌だ」


「……まったくもう、仕方ないわね」


 クレア姉様、大好き。もうずっと一緒だよ。ハムハム。

お読みいただきどうもありがとうございます。

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