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第7章:貴方は誰?先生の何?

【SIDE:桐原梨紅】


 大河先生が見知らぬ女性と一緒にいる所を発見!?

 私はショックで動揺しまくっていたの。

 

「せ、先生……?」

 

 恐る恐る声をかけると先生は私に気づく。

 

「あっ、梨紅ちゃんか。スーパーで会うなんて珍しいね。お使いかな?」

 

 私から言わせてもらえば先生がここにいることこそ、確率が低いと思う。

 独り暮らしをしているんじゃなかったの?

 

「私はママ達が出かけるから夕食の材料を買いに来たの」

 

「買い物?梨紅ちゃんって料理できるんだ?」

 

「それくらいは当然よ。自分で料理するのもよくあることなの。それよりも、大河先生は?」

 

「俺も買い物の付き添いだな」

 

 付き添い!?

 

「いつも買い物とか任せっきりにするのも悪いかなって」

 

 任せっきり!?

 それが意図すること……つまりは同棲!?

 なんて安直な事を考えてはいけない。

 あのヘタレな大河先生が同棲なんてしてるわけないじゃない。

 ここは落ち着いて冷静にならなくちゃ……。

 私は混乱気味になりつつも、先生の隣に立つ女性に目を向ける。

 身長も高くてモデル体型、スタイル抜群な美人のこのお姉さんは誰?

 彼女は私の視線に気づくとにこっと笑顔を見せる。

 

「楽しそうね、大河。彼女は誰なの?」

 

「俺が家庭教師をしている桐原梨紅ちゃん。中学生の子なんだ」

 

「へぇ、彼女が……。初めまして。話は大河から聞いているわ。私は美鶴よ」

 

 ふーん、美鶴さんっていうんだ。

 名前まで美人っぽいじゃない。

 ……ていうか、大河って呼び捨てですか?

 つまりは深い仲だったりするんですか?

 

「大河、悪いんだけどこのメモの通りに材料をそろえておいて?」

 

「は?何で俺が?」

 

「少し彼女とお話がしたいの。男の子でしょ、文句言わずに行ってきなさい」

 

「そこに男がどう関係するのが分からないな。って、カゴにエビが入ってるし!?こいつを急いで戻してこねば……梨紅ちゃん、悪い。少し待っていて」

 

 美鶴さんに言われて渋々彼はカゴとメモを片手に持ちながら行ってしまう。

 先生、既に立場関係がダメじゃん。

 尻に敷かれている、もとい、立場関係では美鶴さんの方が上と見た。

 

「さて、余計なのもいなくなったし。梨紅さんとは一度話して見たかったのよ」

 

「……はぁ。別にいいですけど」

 

 私としては先生の特別な相手っぽいこの人の正体を知りたいのでかまわない。

 

「大河が最近、妙に浮かれた感じなのよね。それって、やっぱり梨紅さんが絡んでいるとみていいのかしら?」

 

 いきなり私の男に手を出すなよ、的な発言で牽制してくる。

 ここでひるむわけにもいかずに私は対抗する。

 

「私達は家庭教師と生徒の関係です」

 

「……この間、デートしたって話は?」

 

「あれは参考書を買いに行っただけです」

 

 先生を連れて遊びに出かけた時の話だろう。

 私は最初から参考書なんて買うつもりもなくて、先生の事を知りたかっただけなんだ。

 そうだ、あの時、確か先生のお友達が誰かの名前を言ってたような気する。

 

「もしかして、沢崎さんですか?」

 

 そう、沢崎とかいう美人のお姉さんと大河先生は合コンで知り合っている。

 美人というキーワードもついでに思い出したのでほぼ確信だ。

 私が尋ねると彼女は何やら考える仕草をして、

 

「なるほど。そう言う事ね。ふーん。あの子も結構やるじゃない」

 

 と、ひとりで納得した様子をみせる。

 彼女は軽く腕を組みながら私に余裕の微笑を見せつける。

 

「そうよ。私は“沢崎千鶴”と言うの。私の大河が最近、やけに年下の女の子に興味があるみたいで気になっていたのよね。どこの女の子と思ってたの。貴方だったのね」

 

「わ、私の大河って……先生とはどういう関係なんですか?」

 

「どういう関係だと思う?貴方の想像通りの関係よ」

 

 やっぱり、この人が先生の恋人!?

 大河先生の嘘つきっ!

 ヘタレのくせにこの私に嘘をつくなんて!

 

「……で、だとしたらどうする?」

 

「え?どうするって?」

 

「梨紅さんは私に何か言いたい事でもあるの?それとも私と彼の関係に不満でもある?顔にそう書いてあるわ」

 

 思いっきり不満ですが何か?

 だって、先生の事を好きなのは私くらいだって思ってたんだもの。

 それがいきなり恋人がいましたって聞かされたら誰だって怒るわよ。

 本人は恋人は今はいないと言ってた。

 あの反応からして本当だと信じていたのに騙されていたの。

 

「可愛いねぇ。もしかして、妬いてたりする?」

 

「――や、妬いてなんかいません」

 

 ちょっと声を大きくしすぎたせいで何事かと周囲の視線を集めることに。

 うぅ、恥ずかしいわ。

 あーっ、早く戻ってきてよ、先生。

 気まずいってば、この人といるの、ものすごく気まずいんだって。

 ここで、「はい。さよなら」が言える人間ではない自分が悔しい。

 逃げたくなる気持ちを抑え込みながら私は美鶴さんから精神攻撃を加えられる。

 

「……梨紅さんは大河の事が好きなんだ?」

 

「ぐっ!?別に。好きとかじゃありませんからっ」

 

「そうなんだ。それなら安心したわ」

 

 どういう意味の安心?

 先生に騙されていた私は内心は怒りまくってる状態。

 大河先生めっ、私の純情を弄んだ事は絶対に許さない。

 彼女がいるならいるって言えばいいじゃない。

 そりゃ、いるかもしれないと疑った事はあるけど。

 ヘタレ先生のバカッ!!

 

「それなら別に私と大河がどんな関係でもいいわよね。私達、同棲しているのよ」

 

「ど、同棲……同棲というのは、つまり、その、えっと……」

 

「同じ部屋で毎日寝食を共にしているという意味ね」

 

 ガーンっ、もうダメ……。

 その一言は私に止めを刺すのに十分なダメージを与えた。

 がっくりとうなだれる私に美鶴さんは追い打ちをかけてくる。

 

「あははっ。ショック受けてる?梨紅さん、見た目は大人びているけど中身は子供のようね。年相応で本当に可愛らしい」

 

 手強いよ、この人。

 この私が言い返すこともできないなんて。

 

「お待たせ、ふたりとも。メモに書いてあった食材はいれてきたぞ。あと、エビは宇宙の彼方に置いてきた。もうエビはみたくもない。ていうか、アレはバル●ン星人だと思うんだ」

 

「何をわけのわからないことを?ありがとう、大河。カゴは私が持つわ。」

 

「ん?何で?いつもなら持たせっぱなしのくせに」

 

 あぁ、空気読んでくれているんだ、美鶴さん。

 私がここまで不機嫌なのは貴方が原因だっていうのに。

 でも、これで遠慮なくやれる。

 

「――大河先生の浮気者っ!!」

 

「――ぐはっ!?」

 

 私は思いっきり先生の腹部にパンチする。

 と言っても、元々、そんなに力の強い方じゃないので威力はない。

 先生はお腹を押さえながら「い、いきなり何をするんだ」ともだえる。

 

「先生、美鶴さんと付き合ってたんだ。ひどいよ、私の気持ち知ってるくせに。私の事を弄んでいたのね。最低っ!!」

 

「……は、はい?意味が分からん。俺が何で姉ちゃんと付き合わないといけないんだ?」

 

「何を言い訳するっての。……姉ちゃん?」

 

「そうだよ。これは俺の実姉であって恋人などという甘ったるい類の人ではないぞ」

 

「う、嘘だ。だって沢崎美鶴さんって言うんでしょ?沢崎さんって先生の合コンで気に入ってた巨乳美女じゃない。つまらない嘘で誤魔化す気?!騙されないからね、乙女の純情を弄んだ罪は重いわよ」

 

 私はそんな手には乗らないからね。

 大河先生は美鶴さんの顔を見てため息をつく。

 

「美鶴姉ちゃん、やりやがったな。いいかい、梨紅ちゃん。彼女は沢崎さんじゃない。この人、日野美鶴って名前だ」

 

「……え?」

 

 私が美鶴さんの方を唖然とした顔で見ると抑えきれなくなったのか、大笑いする彼女。

 

「ふふっ、あははっ。ごめんねぇ、梨紅さん。貴方があまりにも可愛いからついからかいたくなって。私は大河の姉で、恋人ではないから安心して。同棲ではなく、同居をしているから一緒に部屋に住んでいるのは事実だけど」

 

 だ、騙された!?

 私は美鶴さんにからかわれていたんだとようやく理解する。

 

「梨紅ちゃんに何を吹き込んだ、姉ちゃん」

 

「基本的に嘘は言ってないわ。沢崎って子が私だと言う嘘はついたけども。それから、勝手にいろいろと誤解したのは彼女よ」

 

 思い返してみると、彼女は名前を沢崎と名乗った以外の嘘はついてない。

 勝手に恋人だと勘違いしたのは私だもの……めっちゃ悔しい~っ!!

 でも、逆にホッとしたのも事実なんだ。

 先生には付き合ってる彼女がいないってこと。

 私にもまだチャンスは残されているってことだもの。

 

「梨紅さんをからかってごめんね。うちの弟が興味ある子がどんな子か知りたくて。そうだ、梨紅さんもひとりで夕食なのよね。それじゃ、これからうちで晩御飯を一緒に食べましょう。いいでしょう、もう少し話がしたいもの。ね?」

 

 私は話をしたくないけど、断れる状況でもなさそうだ。

 静かにうなずいた私は彼女から隠れるように、大河先生の後ろを歩く。

 うぅ、大河先生のお姉さんか……私にとって苦手な人になりそうだ。

 

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