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第5章:一目惚れって信じる?

【SIDE:桐原梨紅】


 ねぇ、一目惚れって信じる?

 私、桐原梨紅は信じている。

 そういうモノがあるんだと実感しているから。

 一目見た時から“この人”だって思ったの。

 私、梨紅はこれまでいくつかの恋愛をしてきた。

 恋人として付き合うまではいかなかったけど、恋をしてきたのは全部年上の人。

 同年代は子供過ぎてつまらない。

 よく告白されたりするけど、同年と言う時点でまず拒否する。

 年上にも子供っぽい人間はいるけど、私の好みの絶対的条件は年上。

 だって、好きなように甘えられるじゃない。

 私は他人に甘えるのが好きだ。

 好きなようにさせてくれる、そういう相手を常に求めている。

 そして、私は自分が好きになれる相手に出会えた。

 親が勝手に家庭教師の話を進めた時にはムカついていた。

 私も成績が数学は致命的だったから仕方ない。

 けれど、本人が嫌がってる事をさせるのは正直どうなのよ。

 嫌がらせでもして相手をやめさせてやろうか。

 そんな卑屈な事さえ考えていた私の考えは彼にあった瞬間に変わった。

 

「初めまして、梨紅ちゃん」

 

 身長は180センチを超えているくらいの長身。

 茶髪のイケメンが優しげな表情を私に向けている。

 日野大河、それが私の家庭教師の男の名前だった。

 大学生である彼は私の好みである年上であると同時に、見惚れるくらいの整った顔立ちでカッコいい人だった。

 でも、それだけじゃないの。

 彼には私を惹きつけるモノを持っていた。

 今まで何人もの年上の男を好きになって来た(片思いばかり)。

 好きになる事はあっても、告白とか恋人になりたいとか思う事は実はあんまりなくて、ある程度親しくなったら興味が薄れてお終いと言う恋ばかり……。

 そんな私が出会った男の中でも特別に思える相手。 

 本気で彼を私の恋人にしたいって思えた。

 彼の事を知れば知るほど、惹かれていく自分。

 私が好きな大河先生はヘタレっぽい。

 容姿はかなりいいけど、中身がヘタレ属性ありと気づいたのは冬休みの後半で一緒に出かけた時だった。

 私がちょっと触っただけでも反応が可愛い。

 なんていうんだろう、とても遊びがいのある人だ。

 彼には恋人がいた経験があるというけど私的には嘘だと思う。

 だって明らかに女の子慣れしていないもの。

 見え見えの嘘、それは反応を見ているだけで分かる気がする。

 恋人はおろか女性経験もないに違いない。

 そこがたまらなく可愛くて仕方がない。

 過剰反応、見栄っ張り、それは今までの私が年上男子に求めていたモノと少し違う。

 私が年上にこだわっていたのは落着いた感や頼りがいがあるなどの精神的なものだ。

 だから、こんな気持ちになれたのは私自身も驚いてる。

 本気で人を好きになるとこういう風になるんだ。

 理想は所詮、理想でしかない。

 本当に人を好きになるとそんなことどーでもよくなってしまう。

 自分が彼にハマっていくのはいいけれど、先生は私に興味をあまり持ってくれない。

 残念ながら彼には年下属性はないらしい。

 私に迫らせて動揺するものの、つられたりはしないんだ。

 すぐに私を子供扱いするから、絶対に振り向かせたくなる。

 大河先生に振り向いてもらえるようにするにはどうすればいいんだろう?

 

 

 

 

「先生、私に興味をもってくれない?」

 

 家庭教師をしている最中に私は思い切ってストレートにそう告げた。

 

「……はい?」

 

 唖然とした表情を見せる彼は何ともいえずにいる。

 私は小テストの問題のプリントを手渡して「採点よろしく」と言葉を続ける。

 週2回の家庭教師の時間は勉強は嫌いだけど、先生と一緒にいられるのでこの時間は好きだ。

 

「さて、問題の方はっと……うむ、9割は埋まってるようだ。ここからどうなるかだな」

 

「無視しないでよ。採点しながらでいいから聞いて、先生」

 

「俺は今、ものすごく忙しいから無理。大人しくしておきなさい」

 

 先生の反応が冷たい、妙に私の扱いに慣れてきたというか。

 答え合わせをする彼に私はへこたれずに話しかける。

 

「私、先生のこと、かなり気にいってるの。いえ、大好きだと言ってもいいわ」

 

「それは光栄だ。はい、これ間違い。次は公式ミスで間違い。さらに……はぁ、まだまだダメか」

 

「嘘っ!?そんなに間違えてるの?」

 

 数学問題は公式がどうのこうのと難しいから嫌いだ。

 

「って、話をそらさないでよ。こう見えて、結構真剣なんだけど?」

 

「こちらも家庭教師と言うお仕事中だ。梨紅ちゃん、その辺を考えてくれ」

 

「別に週に2時間、遊び放題でも私はいいのに」

 

「お母さんの紗代さんがその台詞を聞いたなら嘆くからやめてくれ。ただでさえ、娘を心配してくれるいいお母さんなのに。次の3学期のテストである程度成績をあげてくれないと俺のクビにも関わらるからな」

 

 それは普通に困るので頑張ろう、ママは敵に回すと厄介なの。

 ママもこの私が家庭教師をつけたくらいで簡単に成績が上がるなんて考えていないはずだけどね。

 

「結果をすぐに求めちゃいけないと私は思うの」

 

「それは結果が出る可能性があっての話だよ。勉強しないで成績UPするなら家庭教師なんていらないわけで……。あっ、何か凹んでる?」

 

「別に。拗ねてるだけ。先生って真面目だなって」

 

「話があるなら、終わってから聞くから。採点終了、結果は……宿題追加だな」

 

「ふえぇーん」

 

 小テストは100点中35点でした、まだまだ頑張らないとダメらしい。

 というわけで、家庭教師が終わってから本題に入ることにする。

 家庭教師の後は少しだけ先生は雑談に付き合ってくれるの。

 普段は携帯電話使ったりして連絡取るけど、彼も他のアルバイトがあるらしくて忙しいせいかあんまりちゃんとお話できない。

 だから、ゆっくりと個人的な話ができるこの時間が私は好き。

 

「明日で冬休みも終わりだね。大学も冬休みは終わり?」

 

「あぁ。でも、春休みは長いらしい。大学ってのは学校にもよるが、大抵、1年のうち4ヶ月程度は何もないからな。うちの大学だと夏休みと春休みは2ヶ月ずつあるそうだ。春休みは旅行にでもいくかな」

 

 大学は高校とは全然違うんだよね。

 私にはまだ高校も遠い話なので実感はゼロだけど。

 

「お休みたくさんって何だか羨ましいような話ね」

 

「それだけ休みがあっても暇な気もするが。俺も夏休みはアルバイトで金稼ぎしてただけだったから。実家にも帰らないし」

 

「先生って確か実家は地方に住んでいるんだっけ?」

 

「そうだ。電車は都会と違って30分に1本とかだぜ。乗り過ごしたら終わりだ。市街も寂れてるから、不便で仕方ない。それに比べて都会は最高だな。都会になれたネズミは田舎のネズミには戻れないキモチが良く分かる」

 

 それ、何かの童話の話だっけ?

 私は生まれも育ちも都会の方なのでいまいち想像もできない。

 

「でも、先生って有名大学に通ってるから地元でも優秀だったんじゃないの?」

 

「一応、進学校だから。俺と同じ高校から入学した生徒は何人かいるし、特別優秀だったわけじゃない。それなりに努力はしたけどな。梨紅ちゃんも将来のために勉強しなさい、というわけだ」

 

 私の将来の夢は獣医さんだったりする。

 家で飼ってるチワワが病気になった時に獣医のすごさに感動したの。

 私もなりたいなって憧れ程度だけど考えてはいるんだ。

 

「それはおいといて。本題に入ってもいい?」

 

「おっと、そろそろ帰る時間だ……おじゃましました」

 

「待って。約束が違うでしょ、先生!」

 

 いきなり帰ろうとする先生の服をつかむと2人してバランスを崩してしまう。

 

「おわっ!?」

 

「きゃぅっ!?」

 

 かろうじて先生が耐えてくれたので私は彼に抱きつく形になった。

 これはこれでラッキー。

 思わぬハプニングで先生の体温を肌で感じることができる。

 

「大丈夫か、梨紅ちゃん……?」

 

「私は大丈夫だけど?」

 

「……それはよかった。だったら、離してくれると助かるんだけど?」

 

 何だか照れてる様子の先生。

 男の人の身体って体格もよくて女の子とは全然違うんだ。

 

「大河先生。さっきの質問に答えてよ。私に興味をもってくれない?」

 

 私が先生を意識するように彼にも私と同じ意識をしてほしい。

 

「あのなぁ、梨紅ちゃん。俺と何歳離れていると思うんだ?」

 

「たった5歳程度じゃない。自分でいうのもアレだけど、美人だと自負してる。将来は絶対に魅力溢れる女になると思うの」

 

「それならその将来に期待するということで」

 

 彼は私を引き離すと頭を撫でるようにして触れる。

 

「年上好きってのはいいけどさ。梨紅ちゃんも自分に合った相手を探しなさい」

 

 完全に私の事は眼中になし。

 ここまで興味なしと態度に出されると私もムッとする。

 

「そういう事言うんだ、大河先生?」

 

 絶対に私を意識させたくて、その頬に軽くキスをする。

 少し背伸びをしてから頬に触れる唇。

 

「り、梨紅ちゃん!?」

 

「大河先生は私を怒らせたの。意地でも私のものにしてあげる」

 

 頬を押さえて硬直状態の彼に私は言い放つ。

 簡単に手に入るモノに価値もなければ興味もない。

 相手がこちらに興味ないというのならば振り向かせて興味を持たせる。

 逆にそっちの方が燃えてくる性質なの、見てなさいよ、大河先生。

 私の本気ってやつを先生に見せてあげるわ。

 

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