第9章:意外な問題
【SIDE:大河内蔵之介】
大学の学食での食事中のことだった。
「……久瀬、貴方に質問があります」
「んー?何だ?」
「デートと言うのはどういう場所でするのが理想的なのだと思いますか?」
僕の発言に目の前にいた久瀬と愛奈さんが唖然とした表情を見せた。
そこまで驚かれるようなことではない。
「ねぇ、久瀬ちゃん。私、蔵ちゃんの口から変な言葉を聞いた気がする」
「ははっ。愛奈。どうやら俺もだ。おっ、あれか。ゲームの話か。携帯ゲームの恋愛ものにハマってるとか?そういう話題か?」
「……なぜに二次元だと断定するのでしょう。現実の女性とのデートの話です。貴方がたは恋人なのだから、参考まで聞いてみただけなのですが」
さらに硬直する久瀬。
僕の親友でありながらその態度はどうなのだろう?
「え?だ、誰とデートなの、蔵ちゃん!?」
「そうだぞ、俺、そんなの聞いてないし」
「……だから、今、話しているんですが」
ふたりの驚きように多少呆れつつも、僕は彼らに問う。
「色々と考えたのですが、どうにも自分一人で解決できる問題ではなさそうです」
「デートか。ついに大河内にもそんな相手が出来たんだなぁ」
「相手はもしかしてあの人なの?」
「あの人?愛奈は誰か知ってるのか?」
愛奈さんは僕に「あの人だよね?」と問いかける。
彼女の言うあの人は日野先輩で間違いない
「大学の美人の先輩らしいよ。名前は確か、日野先輩だっけ?」
「な、なぁに!?あの日野先輩が相手だというのか!?」
「……久瀬、驚きすぎです」
「そりゃ、驚くだろう!?あの超絶美人をモノにするとは何とも羨ましい。この野郎、いいところどりしやがって。俺もあんな美人とでーとしてみ……ハッ、お、落ち着け、愛奈。これは、その……」
久瀬の顔色が青ざめる、愛奈さんの怒りを買ったせいだろう。
「――久瀬ちゃんの浮気者っ!」
「ぎゃふんっ」
この2人に相談したのは間違いだったのだろうか。
数分後、落ち着きを取り戻したふたりからの提案。
頬を叩かれて顔を赤くする久瀬。
自業自得しか言いようがない。
そんな彼を放って愛奈さんはある提案をする。
「デートなら良い場所があるよ」
彼女が僕に差し出したのは『絵画展』のチケットだった。
「これって美術館のものですか?」
「そう。先輩からもらったけど、私は興味ないし」
「……美術館とは、人を選びますよね」
僕は面白そうだが、彼女はどうだろうか?
「その辺は大丈夫だって。雰囲気さえ作ればOK」
「愛奈は適当すぎ。そんなに簡単に女が喜ぶなら、苦労なんてしな……ぎゃー!?」
「久瀬ちゃんはお黙り」
今日の愛奈さんはどこか機嫌が悪いようだ。
下手に逆らうと久瀬のようになる。
「蔵ちゃん。初デート、楽しんできてね。先輩と上手く行く事を応援してるよ」
「ありがとうございます。それにしても、この歳で初デートとは……」
自分ではそのようなつもりはなかったのに。
改めて考えると交際はおろか、デートらしいデートも特別な相手とした事がない。
「蔵ちゃんは真面目だもん。しょうがないよ」
「高校時代に遊んでおくべきでしたか」
「やだ。蔵ちゃんからそう言う発言聞きたくないなぁ。久瀬ちゃんみたいな事を言わないでよ。こらっ、久瀬ちゃん。蔵ちゃんに悪影響を与えるな」
その恋人は既にノックダウン中。
愛奈さんのそう言う手の早さは高校時代から変わっていない。
「でも、蔵ちゃんもデートするなんて、なんか複雑かも」
「……そうですか?」
「だって、あの蔵ちゃんがだよ?硬派を絵に描いたようなタイプなのに」
「僕だって人に恋愛をする事もありますよ」
愛奈さんにとってはそれが信じられないらしい。
「まぁ、そう言う事なら協力してあげる。ほら、久瀬ちゃんも」
「……人を足蹴にしておいてよく言う。分かったよ、蔵之介の恋を応援してやるさ」
友人達の力を借りて、僕はデートの話をする。
経験不足は仕方ないので、ある程度は参考になる意見をもうおう。
それにしても、自分がこういう風にデートや恋愛のことに悩むようになるなんて。
僕自身が信じられていないのも事実だった。