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第7章:傍にいて

【SIDE:日野美鶴】


 変質者に追われて恐怖を抱いた私は、偶然にも居合わせた大河内クンに救われた。

 彼は繁華街から帰って来るところだったらしい。

 私はファミレスに行くのを彼にも付き添ってもらう。

 

「ありがとう、大河内クン。本当に助かったわ」

 

「いえ、先輩が無事でよかったですよ。あの男が噂になっている犯人ですか?」

 

「そうだと思う。今年の初めくらいから変質者が歩いているってよく聞いてたけど、本当に会うなんて思いもしていなかった」

 

 女の一人歩きには要注意、と警察から言われている通りだった。

 私は注文していたオムライスを食べながら、

 

「……怖かった、と認めたくないわ」

 

 恐怖を思い出す。

 ただ人に背後を歩かれただけなのに。

 やはり、変質者というカテゴリの人間だからこその恐怖なのかしら。

 大河内クンはコーヒーカップに口をつける。

 もちろん、私のおごりで彼にはお礼をしたかった。

 

「先輩はとても美人ですから、狙われても仕方がありません。これからは気を付けてください。何かあれば僕も協力します」

 

 大河内クンの言葉は嬉しくありつつも、あの変態に追われるのは嫌な気持ちだ。

 

「……私、あんな変態なんて自分で倒せるとか思ってたのよ。それなのに相手に追いまわされただけで震えたの。あんなの初めてですごく苦痛だったわ」

 

「日野先輩も女性なんですから当然です。それが普通なんですよ」

 

 相変わらずの落ち着いた声に私は食事を続けながらも気が楽になる。

 大河内クンの存在が私には安堵できる。

 

「ああいう輩は許せませんね。警察は動かないんですか?」

 

「警戒はしてくれて、パトロールはしてくれているの。でも、捕まらないのよね」

 

 かれこれ、4ヶ月以上も捕まらずに被害者だけは増えている。

 本当に性質が悪い変態に打つ手はない。

 

「……」

 

「……」

 

 そこでお互いに無言になってしまう。

 私達は偶然の再会に変質者というハプニングがあって、忘れていたのだけども、ただいま、微妙な関係になっていた。

 夕方会った時に一緒にいた女性は誰なの?

 特別そうな相手がいると言う事は驚きだったもの。

 どちらから切り出せばいいのか分からず。

 仕方なく、私から彼に話をしてみることに。

 

「……夕方の時の女の子、可愛かったわよね。大河内クンの恋人だったの?」

 

「あ、いえ、あの子は……」

 

「同じ大学の同級生?それとも恋人?」

 

 彼女の正体が知りたい。

 でも、もしも肯定されたらと思うとドキッとする。

 

「彼女は日野先輩が想像されている関係とは違います。言うならば女友達というものですよ。高校からずっと一緒で、親しい相手ではありますが、恋人ではないんです」

 

「友達以上恋人未満?」

 

 家庭教師の生徒、華奈が言っていたような関係?

 きっかけひとつで関係が変わってしまうような……。

 だけど、彼は思わぬ事を言うんだ。

 

「違います。彼女には既に恋人がいます。久瀬を覚えていますか?」

 

「あぁ、久瀬クン。覚えているわよ」

 

 飲み会の時にいた調子のよかった男の子だ。

 大河内クンとは対称的なのに仲がよかったんだよね。

 

「あの子は久瀬の恋人なんですよ。名前は河合愛奈。愛奈さんとは住んでいるアパートも同じで、今日は彼女の付き添いで繁華街に一緒にいただけです。久瀬も心配症で、彼女は美人ですから他の男に声をかけられないようにと虫よけ代わりでもあったんです」

 

 彼は苦笑を浮かべながら言った。

 久瀬クンか、恋人がいるって話はしていた気がする。

 

「そうだったんだ。3人とも一緒のアパートに住んでいるの?」

 

「はい。隣同士ですよ。久瀬と愛奈さんは同棲もしていないので」

 

「恋人同士なら同棲してしまえばいいんじゃないの?」

 

「住んでいるアパートが学生向けの一部屋だけのタイプですから。ふたりで暮らすとなると広い部屋も借りなくてはいけないでしょう。それに自分の時間が欲しいから別々に暮らしていると言っていました」

 

 私も大河と同居しているけど、広めの部屋を借りなくちゃいけない。

 そう考えると、学生向けのアパートだと家賃も安いし、敷金も礼金も低い。

 普通に暮らすだけならそちらでもいいのかもしれない。

 

「あれ?その愛奈さんって人は?」

 

「駅前のお店で久瀬がアルバイトをしているんです。そのお店に送ってきました」

 

「そういうことか。ふーん、付き合ってはいなかったのね」

 

 何だか私が勝手に考えていただけみたい。

 

「でも、あれだけ親しそうなら久瀬クンとじゃなくて、大河内クンと付き合う可能性もあったりして?一緒の高校だったんでしょう?向こうもまんざらじゃないって態度だったものね」

 

「それは、まぁ……」

 

 彼にしては珍しく言葉を詰まらせる。

 ……ん、何でそこに引っかかるの?

 

「過去にそう言う雰囲気がなかったわけではありませんよ。実際に彼女の気持ちがこちらに向いた事もありますが、最後は久瀬を選んだ。それだけの関係です」

 

「……それって大河内クンは告白されたということ?」

 

「明確にされていなくても人の想いを感じる事はできます」

 

「ふーん。それで大河内クンの方もその気だった?」

 

 私は気になりつつも、さりげなく尋ねてみる。

 彼は首を横に振りながら、否定する。

 

「残念ながら、そういうものではありませんでした。あいにくと、好みタイプではなかった事もありますが、久瀬が彼女に一目ぼれをして、恋愛をし続けてたのも知っていたので、彼女の気持ちを久世に向けさせるようにしたんですよ」

 

「……友達思いなんだね。ちなみに大河内クンの好みと言うのはどういう女の子?」

 

 私の問いに彼は少し照れくさそうに言う。

 

「穏やかで気品のある大和撫子のような女の子でしょうか。中々、いませんけどね」

 

 純和風な大河内クンにはぴったりなイメージ。

 多分、そう言う子が隣にいてこそ、よく合いそう。

 ……私みたいなタイプは全然正反対じゃない。

 彼の好みと違うのは残念だけど、それがすべてじゃないはず。

 

「大河内クンってどういう恋愛をしたいの?」

 

「……僕は女性との交際経験もありませんから具体的にどうと言われてもいまいち、想像できないんですが。そうですね、好きになった人の傍にいたい、その人の時間を自分の物にしてしまいたい。そういうタイプなのではないでしょうか」

 

「へぇ、大河内クンって純愛系なんだ」

 

 束縛と言うよりも傍にいたいだけかもしれない。

 そうやって大事にされる相手になれたら……。

 私はいつのまにか、彼の事が気になり始めている自分にハッとする。

 今、その誰かを自分に当てはめそうになっていた。

 

「……傍にいて、か。あのさ、大河内クン。例えば、何だけども」

 

 私は彼に自分でも思いもよらない言葉を告げていたんだ。

 

「――私でも、傍にいたいとか思ってくれたりするのかな?」

 

 彼は私の顔を見て、驚いたような顔をしていた。

 分かってる、言ってる自分が一番びっくりしているから。

 彼の好意を知りたい、彼に愛されてみたい。

 いつしか、私の中にあった彼への興味は好意へと変わりつつあった。

 片思い程度の恋愛経験しかない私が初めて自ら積極的に動き出したの――。

 

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