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第1章:愛を知りたい

【SIDE:日野美鶴】


 ナンパ男のせいで少し遅れて待ち合わせ場所の居酒屋に到着した。

 ……訂正、道にも迷いました。

 何とか約束の時間内には間に合ったからいい。

 私を待ってくれていた茉莉や他のメンバーと合流する。

 だけど、すぐにアクシデントが発生。

 

「え?場所が分からないの?」

 

 茉莉に電話がかかってきて、どうやら新入生の子のグループが遅れているらしい。

 せっかくの新入生の歓迎会なのに、新入生が来ないのも意味がない。

 

「ちょっと迎えに行ってくるわ。美鶴は他の子と話していて」

 

 異文化の研究サークルは茉莉の誘いで何度も訪れた事もあり、顔なじみも多いのですぐに彼女達にも挨拶する。

 居酒屋の大きな一室を借り切った中には15人ほどが集まっていた。

 大学の中にはサークルがいくつもある。

 今の時期はどこもこうして新入生の歓迎が行われているはずだ。

 

「あら、美鶴さんも来たんだ?」

 

「はい、茉莉に誘われまして」

 

「そっか。美鶴さんも準レギュラーみたいなものだものね」

 

 サークルで具体的に活動をした事はないけど、茉莉に誘われる事はよくある。

 

「新入生は何人くらい入ったんですか?」

 

「今年は8人、女の子は2人で後の6人は男の子よ」

 

「へぇ、珍しいですね。このサークル、女の子の方が割合が多いのに」

 

 まぁ、そう言う事情だからこそ、茉莉が私を誘ったのだけど。

 恋愛なんてする気はあまりないけれど、してみてもいいかもしれない。

 私はいつしかそんな風に考えを変えていた。

 知り合いの人達と話をしていると、戻ってきた茉莉が私の隣に座る。

 

「お待たせ。皆を連れてきたわよ」

 

 まだ大学生になりたての男女が部屋へと入ってくる。

 その中に先ほど会ったばかりの男の子の姿を見つけた。

 

「あっ、貴方、さっきの……?」

 

「……?あぁ、先ほどの女の人ですか?このサークルの先輩だったんですね」

 

 落ち着いた声色の男の子、私は驚きながら彼の方をみつめる。

 私をナンパ男から助けてくれた彼がそこにはいた。

 ルックスはカッコいいけど、今時の感じじゃなくて古風なイメージを持つ。

 

「どうしたんだよ、蔵之介?こんな美人なお姉さんと知り合いか?」

 

「そういうわけではありませんよ。彼女とは先ほど、駅前で会っただけです」

 

 彼の友人らしい男の子はテンションが高そうなタイプの子だ。

 

「……さっきはありがとう。貴方のおかげで助かったわ」

 

「いえ。同じ大学の先輩だったとは知りませんでした」

 

 同世代の子と比べたらやはり彼は大人っぽい印象を受ける。

 

「あ、うん。私は3年の日野美鶴って言うの」

 

「貴方によく似合う綺麗な名前です。僕は大河内蔵之介(おおこうち くらのすけ)と言います。よろしくお願いします」

 

 THE・和風……まさに日本男子と言うか、古風なイメージ通りの名前だ。

 

「こら、そこ。勝手に自己紹介し合わない。これから歓迎会をするんだから、ふたりだけの雰囲気を作っちゃダメよ?」

 

 様子を見ていた茉莉にからかわれながら私達は席につく。

 彼女の計らいか、私の正面には大河内クンが座る。

 最初は新入生の自己紹介など、歓迎会らしいムードになる。

 それも飲み会が始まれば、それぞれが盛り上がる。

 

「どうも、俺は蔵之介の友人の久瀬直也(くぜ なおや)って言うんです。こいつとは高校時代からの親友なんですよ」

 

 私にそう言って笑う彼、隣の大河内クンはウーロン茶を飲みながら「親友?」と不思議そうな顔をしている。

 

「し、親友じゃないのか、俺達……?地味にショック!?」

 

「……まぁ、そうしておきましょうか」

 

「ひでぇ。日野先輩は蔵之介とどこで知り合ったんです?」

 

「ここに来るまでに少し変な人に絡まれていて、彼が助けてくれたのよ」

 

 そう言えば、あの時の彼は武道か何かしているような印象を受けた。

 あんなに簡単にナンパ男を追い返したんだもの。

 

「なるほど。蔵之介は武道もしてましたからね。こーみえて、かなり強いんですよ。並のヤンキーなんか相手にもなりません」

 

「……勝手な事を言わないでください」

 

「ふふっ。ホントに二人は仲がいいのね。それで、大河内クンは何か武道をしてたの?」

 

 私の質問に大河内クンはそっと視線をそらす。

 代わりに久瀬クンが答えてくれた。

 

「蔵之介の家は古くから代々続く旧家の血筋でものすごく古風な家柄なんですよねぇ。名前も和風ですけど、ずっと武道も教えられてきたらしくて……剣道、柔道、合気道とか何でもできるから強いんです」

 

「……幼い頃から父親に逆らえずに続けさせられていただけです」

 

「あのおやっさんには敵わないだろ。さすがに、何かと模造刀を振り回すあのおやっさんに逆らう気にはなれないと思うぞ」

 

 ……彼のお父さん、怖い人なのかしら?

 家庭のしつけが厳しいから、こんなにもしっかりしているんだ。

 性格も落ち着いているし、座る姿勢も様になる。

 今時、こんな古風な男の子も中々いない気がする。

 

「大河内クンの家ってもしかして、お屋敷だったりして?」

 

「そーなんですよ。大きな和風屋敷ですよ。こいつ、自宅じゃ普段着が着物ですから。どこまで古風なイメージ通りだって初めは驚きましたよ。嫌味がないくらいに純和風な奴なんですよね」

 

「へぇ、そうなの?和服って大河内クンにすごく似合いそうね」

 

「……久瀬、変な事を言わないでください」

 

 大河内クンが困った顔をするのが可愛い。

 そう言う所は歳相応な感じがする。

 

「美鶴、頼んでいたチューハイ来たわよ」

 

「ありがとう」

 

 茉莉からお酒を受け取ると彼女は小声で私に言う。

 

「ほぅ、大河内狙い?いいじゃない、あの子、大人しいから美鶴には相性よさそう」

 

「え?へ、変な事を言わないでよ。私はそういうつもりじゃ……」

 

「美鶴は出会いを求めにここに来たんでしょうが。いいからお近づきしちゃいなさい。私が協力してあげるから。任せて」

 

 そう言った茉莉はいきなり彼らに私の事を話し出す。

 

「大河内って確か駅から北の方に住んでたわよね?」

 

「えぇ、今借りているアパートはそちらですが。それが何か?」

 

「美鶴もその近くに住んでるのよ」

 

 彼の話を聞くと、確かに私の家から1分ほどの間近なアパートに住んでいる事が分かる。

 あの辺は学生向けのアパートが多いけど、そんなに近くに住んでいるんだ。

 

「そのマンションなら近くをよく通りますから、知っていますよ」

 

「ご近所同士、仲良くしてあげて。美鶴も後輩クンの面倒を見てあげてよ」

 

「……えっと、まぁ、何かあれば相談くらいには乗るわ」

 

 私は何だか気恥ずかしくなってお酒を飲むペースを早める。

 お酒はあまり強くないので、酔わないようにしないと……。

 

「日野先輩、質問いいですか?」

 

 久瀬クンは調子のいい口調で私にある質問をしてくる。

 

「先輩って付き合ってる恋人とかいたりするんですか?」

 

 私は思わずむせそうになるのをこらえる。

 うぐっ、人が気にしているのに……。

 

「久瀬。そのような事は聞くことじゃないでしょう。それに貴方には恋人がいたはずでは?」

 

「あははっ。いるにはいるけど、それとこれとは別じゃん?」

 

「久瀬クンは恋人がいるんだ?」

 

「蔵之介と同じく高校が同じだった子なんですけどね。もう4年目に突入です。同じ大学に通ってるんですよ」

 

 照れくさそうに笑う久世クンは恋愛をしている顔をしていた。

 

「……大河内クンは恋人はいないの?」

 

「僕はいませんよ。女性に興味がないわけではありませんが、特には今は恋愛に興味はありません」

 

「顔だけはいいからモテるんですけど、すぐに堅苦しい性格で女の子に飽きられるんですよ。その性格さえ、直せばなぁ」

 

 いかにも硬派な彼は普通の子にはハードルが高そうだ。

 

「それで、結局、日野先輩には付き合っている人はいるんですか?」

 

 私の代わりに勝手に茉莉が答えてしまう。

 

「美鶴には同居相手ならいるけどね」

 

「ちょ、ちょっと、茉莉!?何を勝手に……」

 

「だって、大河クンと仲いいじゃない」

 

 大河は弟であって、恋人ではないので誤解されたくはない。

 

「へぇ、やっぱりそう言う相手がいるんですねぇ。そりゃ、日野先輩、かなり美人だから普通だと思いますけど」

 

 私はすぐに誤解を解こうとするけれど、運ばれてきた料理のおかげでタイミングを外してしまう。

 大河内クンは特に気にすることない様子だ。

 もうっ、変な事を言わないで欲しいのに。

 私はこれ以上、変な事を言わないように茉莉を他の子に押し付けておくことにする。

 久瀬クンも別の子達の方へと行ってしまい、大河内クンとふたりだけになる。

 料理を黙々と食べる寡黙な彼。

 私は緊張をしながらも、話題を何とか探そうとする。

 

「……箸の使い方、上手だね?それもお父さんの教育?」

 

「えぇ、そうですね。嫌と言うほど礼儀作法は小さな頃から教え込まれました。僕には兄がいるんですが、彼はもっと厳しく教え込まれていましたよ。僕はまだマシな方ですが、それでも自然と身体が覚えてしまっているんです」

 

 箸の持ち方一つを見て分かるけど、正座の仕方から姿勢まで彼は本当に礼儀が正しい。

 そういうのが様になるのは傍目に思うほど簡単な事じゃないはず。

 

「大変だったんだ?」

 

「どうでしょう。昔は嫌に思う事もありましたが、今は別に……。礼儀をきっちりと教育してくれた事の意味は理解していますから。礼儀作法がしっかりとできていないと格好が悪いと思います」

 

 穏やかに微笑む彼に私は見惚れてしまっていた。

 それは私の中で大河内クンと言う男の子を意識し始めたきっかけになる――。

 

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