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序章:悪魔も恋がしたい?

【SIDE:日野美鶴】


 日野美鶴(ひの みつる)、20歳。

 地元を離れて東京に出てきた私は教育大学に通い、家庭教師のアルバイトをする普通の大学生。

 私はある事に悩んでいた。

 彼氏と彼女、恋人がいるのは大学生にもなれば普通のことだ。

 私だって全く男性と縁がなかったわけじゃない。

 高校時代はともかく、大学に入ってからも何人も男とは親しくなった。

 けれど、結局、それが恋に結びつく事はなく。

 気がつけば大学3年生の春を迎えていた。

 

「はぁ……」

 

 ただいま、大学の講義中。

 と言っても、既に残り時間も少なく教授の雑談に話が言っていた。

 私はため息をつくと友人の篠宮茉莉(しのみや まつり)が不思議そうな顔をする。

 

「どうしたの、美鶴?」

 

「弟に先を越されたの。私が応援した事もあるけど、実際に先を越されると凹むわ」

 

「弟って大河(たいが)クン?」

 

「そうよ。うちの大河。最近、彼女ができちゃったの」

 

 大河は私の弟で、今年で大学2年になる。

 うちの大学と違うけれど、近くの大学のために今は一緒に暮らしている。

 

「……あー、そういうこと。美鶴ってブラコンだし」

 

「違うってば。それは誤解。茉莉は私の事をどう見てるわけ?」

 

「弟を溺愛しているお姉ちゃん?わざわざ一緒に暮らすほど仲がいいものね?」

 

「……違うのに。大河はただの男避け。それ以上でもそれ以下でもない」

 

 大河と一緒に暮らしている理由は、経済的に親の負担も少なくてすむ事と男と暮らす事での安心感など、いろいろとメリットが多い。

 それに何よりも独り暮らしは寂しいから嫌いだ。

 去年の1年間、誰もいない部屋の寂しさを感じたもの。

 

「大河クンにも彼女ができたんだ?いいじゃん、あの子、カッコいいしモテるでしょ?相手はどこの女子大生?向こうの大学?それともうちの大学だったり?」

 

「……現役の女子中学生」

 

「は?え、えっと、それは冗談よね?」

 

「それが冗談じゃないの」

 

 弟の交際相手はまだ中学3年生と歳が離れている。

 一般的に歳の差が離れている交際はあまりいいイメージはない。

 

「大河クンってロリな人?」

 

「違うわよ。家庭教師している女の子に前から口説かれていて、最近になって大河の方がようやく乗り気になって、交際に発展したわけ」

 

「ということで、美鶴は凹んでいるのね。大好きな弟を取られちゃったから」

 

「……だから、凹んでないって」

 

 本当に凹んでいるわけじゃない。

 大河に彼女を作るように仕向けたのは私でもある。

 相手の子と親しくなり、彼女なら大河を任せられると思い、応援した。

 

「美鶴も負けてられないって、ようやく彼氏でも作る気になった?」

 

「そうね。この年でまともな恋愛の一つもしていないのは寂しく思えてきたわ」

 

「今まで合コンとか開いても全然、反応してこなかったのに?」

 

 茉莉や他の子からも合コンの誘いはこれまでも何度もあった。

 実際に行った事もあるけれど、ちゃんとまともな恋愛に発展した事は一度もない。 

 私にその気がなかったのもある。

 

「そろそろ、私も恋くらいしてみようかな、と……」

 

「あら、ホントに珍しい。美鶴がそういう発言をするなんて。何なら合コンでもセッティングしてあげましょうか?」

 

「……うーん。合コンは好きじゃないわ」

 

 ああいう、いかにも男を選びに来ました的なノリは苦手だ。

 こういう考え方が私のダメな所でもあるんだけど。

 

「恋愛って無理に焦らなくてもいいじゃない?」

 

「甘いわね、美鶴。そーやって、のんびりとしているから男の一人もできないのよ」

 

「うぐっ。そう言う事を言われても……合コンって何か怖いのよ」

 

 慣れていない事もあるけれど、適当な相手とは付き合いたくない。

 いかにもガっついている男は嫌いだもの。

 

「美鶴って、気が強いワリには男の子が苦手よねぇ」

 

「……返す言葉もないわ」

 

「ブラコンだから、他の子にも興味がなかったものね。分かったわ、ちょっと私なりに美鶴の事を考えてあげるから」

 

 茉莉は恋愛慣れしているから任せてもいいと思う。

 そうやって話をしているうちに教授も授業を終えてしまう。

 春の訪れは私にも何か変化を与えてくれるのかしら?

 

 

 

 

「……新入生歓迎会?」

 

「そうよ。うちのサークルの歓迎会。それに美鶴も来てみない?」

 

「……何で、私が?」

 

 数日後、茉莉が誘ってきたのは新入生歓迎のコンパだった。

 外国文化の研究をするサークル。

 私は基本的には家庭教師をしているのでどこのサークルもしていない。

 気さくな人が多いので、時折、サークルに遊びに行く程度の付き合いはあるけども。

 

「今回、新入生の子が結構入ってくれたの。男の子よ、男の子。合コンと違って、美鶴もそう言う場に慣れる事から始めればいい。心配しなくても、名義だけ美鶴もサークルに入ってる事にすればいい」

 

「茉莉……?」

 

「そんなに心配そうな顔をしなくてもいいわよ?いつもの傍若無人、女王様っぷりが様になる美鶴はどこに行ったの?」

 

「……そんな私は最初からどこにもいないわっ」

 

 普段から私がどんな目で見られているのが気になる発言。

 確かに性格は良い方ではないけど、乱暴な事もない。

 

「はいはい。そんな些細な事はいいの。きっかけさえ、あれば美鶴も進展できるはず」

 

 気が乗らないけれど、こういうのも、経験って言うし。

 私自身も変わらなくちゃいけないんだ。

 私はその提案を受け入れて新入生歓迎のコンパに出て見る事にした。

 いい出会いでもあればいいんだけど。

 

 

 

 

「んー、美鶴姉ちゃん。どこかに出かけるのか?」

 

 家に帰って用意をしていると弟の大河がテレビを見ていた。

 彼もアルバイトをいくつか掛け持ちしているので平日にこうして会うのは珍しい。

 実際に同じ部屋に住んでいても、朝くらいしか平日は顔を会わさないもの。

 

「今年は去年と違って3人から1人に家庭教師の人数も減らしたから暇もあるの」

 

 去年はお金も貯めたくてちょっと無理してバイトを頑張っていた。

 無事に3人とも志望校に合格してくれて、一安心した。

 今年は去年ほど無理はせずに、自分のペースで家庭教師のアルバイトもしたい。

 

「ふーん。化粧とかちゃんと決めて、誰かとデートとか?」

 

「似たようなものかも。大河は今日はバイトはないの?」

 

「今日は焼き肉屋のバイトが休みだからな。これから梨紅ちゃんとご飯でも食べてこようかなって思ってる」

 

 梨紅(りく)さんは大河の恋人で中学生の女の子。

 とても可愛らしい子で、大河も梨紅さんに惹かれて付き合い始めた。

 

「最近、会っていないけど仲良くしているの?」

 

「当然。付き合い初めてまだ2週間ほどだけど、付き合って見て分かった事がある」

 

「分かった事って何なの?」

 

「恋愛って楽しい物だってことだよ。梨紅ちゃんの事を好きになってみて、俺もちゃんと彼女の事を考えるようになったし」

 

 ヘタレの大河も、ずいぶんと男らしい顔つきになってきた。

 梨紅ちゃんが彼を変えた、それは喜ぶべき事なんだろうけど、寂しさもある。

 こうやって自分の手から離れていくのは……。

 

「姉ちゃん?」

 

「……何でもないわ。今日は遅くなるかもしれないから戸締りはしておいて」

 

「了解。お酒はあんまり飲みすぎるなよ?姉ちゃん、酔うとひどいからな」

 

 私は「善処するわ」と彼に告げて、家から出る事にした。

 

 

 

 

 お店までは歩いて15分程度、駅前の居酒屋だ。

 茉莉が与えてくれた機会を無駄にしないように私も頑張ろう。

 ……と、思っていたのだけど、すぐに問題が発生する。

 

「だからさぁ、これから一緒に遊ばないって誘ってるわけ?分かる?」

 

「分かりたくないし、分かる気もない。これから予定があるの。どいてくれない?」

 

 駅前で私は鬱陶しいナンパ野郎に捕まっていた。

 普段ならぶっ飛ばしてでも相手にしないけども、今日は着ている服もあって、乱暴に状況を乗り越えられない。

 彼を何とかしようと困っていると、私の前に別の男が現れる。

 その彼は私を男から引き離すと凛とした態度で言い放つ。

 

「彼女も困ってるようですし、やめてあげたらどうですか?」

 

「あん?何だよ、お前は……?」

 

「あまりにも無理やりな貴方の態度が目に付いたので」

 

 どうやら、私を助けてくれているらしい。

 私は彼の背後に隠れるようにしていた。

 歳は私よりも下かしら?

 どこか幼さを残した顔つきだけど、体格はスポーツでもしているのが立派なもの。

 

「てめぇ、横からいきなり出てきて勝手な事を言ってるんじゃないぜ」

 

 グッとつかみかかろうとするナンパ男、その腕を逆に掴む彼は静かに威圧する。

 

「暴力は嫌いですよ、僕は……」

 

「な、何だ、こいつ力が強い!?……くっ、やってられねぇな」

 

 力強く握られたのか、腕を抑えてナンパ男は逃げだすように去っていく。

 軽く掴まれてた服を直すと、彼は私に優しい声で言うのだ。

 

「大丈夫ですか?」

 

「どうも、ありがとう。面倒をかけてしまったけど、おかげで助かったわ。しつこくて困っていたの」

 

 私がそう言うと彼は「何もなくてよかったですね」と微笑む。

 その優しい笑顔に私は心をグッと掴まれる感覚に陥る。

 初めてかもしれない、男の子の笑顔に心を惹かれたのは……。

 

「今度からは気を付けてくださいね。貴方はとても綺麗ですから」

 

「……え?あ、ありがとう」

 

 そう言われて照れる私の前から立ち去る彼の後姿を私は見つめ続ける。

 それが私と彼の最初の出会い、もう一度会ってみたいと思えた相手との出会いだった――。

 

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