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第18章:小悪魔な彼女《前編》

【SIDE:日野大河】


 梨紅ちゃんとデートをするのはこれで3度目である。

 彼女いない歴=人生の俺にとって、これほど回数を重ねた相手は少ない。

というより、女友達と遊びに行くという事以外で、こうしてデートという形をとるのは初めてと言ってもいい。

ファーストデートは参考書を買いに行くと言う名目、セカンドデートは喫茶店でお茶しただけ。

 今回でようやく本格的なデートをする。

 

「今回行くアクアリウムって私、実は来たことないんだよね」

 

 デート当日、待ち合わせの場所に10分早く来た俺以上に早く待っていた梨紅ちゃん。

 彼女はこの街に住んでいるのだから一度くらいは行った場所だと思っていた。

 

「そうなんだ?魚は嫌い?」

 

「いかにもデートスポットってところに友達同士ではいかないでしょ?だから、先生が連れてきてくれたのはすごく嬉しい」

 

 姉ちゃんには「ありきたりな場所でいいの?」と疑問符をつけられていたが、何とか場所選びは成功した様子だ。

 

「郊外にあるからバスで行かなくちゃいけないんだ」

 

 駅前にあるバスに乗り込んで20分後、俺達は目的地である水族館へとつく。

 日曜日という事もあり、家族連れも多い。

 

「ねぇ、先生……気になる事を質問してもいい?」

 

「気になること?」

 

「先生って、恋人は今までひとりもいなかったのは知ってるけど、デートはしたことがあるの?」

 

 その辺が気になるのか、梨紅ちゃんは「どう?」と尋ねる。

 

「梨紅ちゃんはデート慣れしてそうだ」

 

「わ、私は……男の人とデートしたのは初めてじゃないけど、慣れてもいない」

 

「今時の子だから普通なんだろうな」

 

 俺の若い頃(3年くらい前)を思い出して俺はその頃、どうだったかを思い出す。

 彼女が欲しくて頑張っていた時期だ、今以上に青春していたかもしれない。

 

「それで先生の経験は?」

 

「ノーコメントです」

 

 決して自分の過去に女の子とのデートが一回もなかったわけではない。

 ……いや、ホントだってば。

 


  

 

 館内に入ると水族館独特の雰囲気がある。

 入ってすぐに俺達を出迎えたのは大水槽と言われる大きな水槽だ。

 小魚やエイ、サメなどが群れる光景は海そのもの。

 梨紅ちゃんは俺の手を引きながら歩く。

 

「綺麗~っ!先生、見てよ。すごくない?」

 

「あぁ。水族館なんて子供の頃以来だけど、迫力があるな」

 

 泳ぎまわるサメを間近で見ると、これも魚なんだと改めて感じる。

 

「サメって怖いから嫌い」

 

「梨紅ちゃんでも怖いものってあるんだ」

 

「さり気に失礼な事を言うよね、先生。私だって怖いものくらいあるわ」

 

 梨紅ちゃんは苦手なサメから目をそらして、他の魚に視線を向ける。

 

「一応、私だって女の子なんだからね?」

 

「分かってるよ」

 

 別に女の子らしくないとか言ったつもりはない。

 ただ、苦手なものってあまりなさそうな気がしたんだよな。

 

「魚って、水の中を泳ぎ舞われて楽しそう」

 

 ブルー一色の水槽を見つめながら彼女は言う。

 

「梨紅ちゃんは海が好きなのか?」

 

「海もそうだけど、泳ぐのが好き。夏になればよく海に行くの。こーみえて、私はスキューバダイビングの免許だって持ってる」

 

「へぇ、そうなんだ。そんなに海が好きなんて知らなかった」

 

 スキューバダイビングとか本格的だな。

 俺の地元は海に近かったから、よく海水浴程度はしていたがそこまではしない。

 まぁ、梨紅ちゃんって社長令嬢さんだし、きっと海辺に別荘とかあるんだろうな。

 大水槽を離れて俺達は別のコーナーへと向かう。

 

「先生はどんな魚が好きなの?」

 

「うーん。マグロとサーモン?あとはブリとか」

 

「それ、お寿司のネタじゃない!」

 

「冗談だよ、冗談。食べられる魚という意味では好きなのは事実だ。こういう水族館で好きな魚と言われたら……何だろうな?」

 

 俺は考えてみて、パンフレットでとある魚を見つけた。

 

「これなんてどうかな」

 

 俺が連れて来たのは深海魚コーナーだ。

 東京湾ってのは思った以上に深くて、深海魚がよくいるらしい。

 この間、テレビでその映像を見て興味があったのだ。

 

「深海の魚って地味だよ。暗い色したのばかり」

 

「確かに灰色の魚やカニばかりだな」

 

 まさに深海って言える魚がそこには展示されている。

 巨大なカニのタカアシガニ、水中で生きる巨大ダンゴムシのダイオウグソクムシ。

 目がなくキバがするどい魚、怖い系の魚が苦手な彼女は嫌そうだ。

 これは選択肢を間違えたかも。

 

「光が届かないからよく目が退化した魚が多いって言うよね」

 

「……カニとかエビとかばかりじゃん。私はあんまり好きじゃないなぁ。暗い魚よりも派手で可愛い魚とかの方がいい。あっ、別に先生が“地味”とか言ったわけじゃないよ?」

 

 言い直されると余計に俺がおっさんっぽいのかと気にするじゃないか。

 何気に年齢には敏感になりはじめているお年頃です。

 年下相手にしていると余計にそう感じるんだよね。

 

「それなら、梨紅ちゃんの好きな魚はなんなのさ?」

 

「……私?えっと、その、笑ったりしない?」

 

「俺がいつ梨紅ちゃんの嫌な事をした?少しくらいは信じて欲しいな」

 

 俺なりに梨紅ちゃんの嫌がることはしていないつもりだ。

 何だかんだで俺にとっての彼女は可愛い妹みたいな女の子なのだから。

 

「いつも先生には意地悪されてるし」

 

「……してない、してない」

 

「それじゃ、笑わないと信じてみる。大河先生、ついてきて」

 

 デートらしい雰囲気で彼女が案内したのはクラゲ専門のコーナーだった。

 これは意外というか、幻想的な空間がそこには広がっている。

 

「……クラゲ?」

 

「そうなの。私はクラゲが好きなんだ」

 

 海月、水母……クラゲは確かに綺麗な生き物だ。

 透き通った身体に形も独特で綺麗な種類のクラゲだと発光したりもする。

 

「クラゲのどういう所が好きなんだ?」

 

「透明でぷよぷよしてるところが可愛いじゃない」

 

 ……言ってる事は何となく分かるが。

 あちらこちらの水槽に浮かぶクラゲ。

 別に嫌いというわけじゃないが、どうにも好きになれる要素がない。

 触手を漂わせてふわふわと浮かぶ生き物に俺は不思議としか思えない。

 

「幻想的っていうか、綺麗でしょ?先生もそう思うよね?」

 

「あー、うん」

 

 彼女のご機嫌を損ねないように俺は曖昧な返事で誤魔化す。

 クラゲ好きか……見た目が綺麗な種類なら好きと言われてもおかしくないが、見た目グロテスクな深海系のクラゲを知ってる俺はどうにも好きになれないな。

 楽しそうに水槽のクラゲを眺める梨紅ちゃん、これはこれでいいか。

 いつのまにかデートらしくなってきたので俺も満足していた。

 

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