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第14章:ビターチョコレート

【SIDE:桐原梨紅】


 気分浮かれるバレンタインデーのはずだったのに思わぬ大ピンチだったりします。

 ビターチョコが苦手だという大河先生(可憐さん情報)。

 それなのに買ってしまったビターチョコレート。

 迷った時にもし嫌いだったらどうしようと悩んでいたけど、的中しちゃうなんて。

 でも、先生が悪いんだよ、せっかく聞こうとしていたのにあんなことしてるし。

 代わりのものを買いに行く時間もなく、私はこの日を迎えていた。

 今日は家庭教師の日なので、私はどうしようもできずに諦めることにする。

 仕方ないよ、嫌いなら謝ることにしよう。

 

「こんばんは、梨紅ちゃん。宿題やってきた?」

 

「うん……やってるよ」

 

「ん?何か元気ないけど、どうかしたのか?」

 

 テンション下がり気味の私に先生は心配そうに言うので、「何でもない」と誤魔化す。

 私が気分沈んでいちゃダメだよね。

 さて、チョコ問題はともかく、大河先生のおかげで私もちょっとは数学ができるようになってきた。

 難しいのは相変わらずでも、やる気の意味では先生がいるから向上中。

 何事もする気がなければ始まらない。

 

「この公式だと、当てはめていくと……できたわ」

 

「いい感じじゃないか。これだと近々ある小テストでも良い点取れそうだな」

 

 先生が作ったテストの最中、私は答え合わせのために先生にプリントを渡す。

 家庭教師を始めてから苦手科目だった数学でも手ごたえを感じ始めている。

 正直、数学嫌いの自分がここまでできるとは思っていなかったの。

 この調子ならば近日中にある数学の小テストでもいい結果が出せそう。

 

「ねぇ、先生。もし、次のテストでいい点が取れたら?」

 

「……取れたら、何?」

 

 何で疑問で返されるのかしら。

 先生って本当に鈍いわよね。

 男の人って何でこうも鈍いのかなぁ、そりゃ鋭ければいいってものじゃないけど。

 

「もうっ、大河先生っ。こういう家庭教師のシチュなら良い点取ったらご褒美に何かしてくれるってよくあるでしょ?」

 

「あー、そういう展開か。……ご褒美ねぇ?」

 

 先生は「うーん」と腕を組んで考える素振りを見せる。

 男の人ならもっと積極的に動いてくれてもいいと思うけど、先生はヘタレだから許してあげる。

 

「……良い点取れたら何かして欲しいな」

 

「エサで釣るか。それで点数があがるのなら、考えてみてもいいけど。具体的にどういう事をしてほしい?」

 

 やった、大河先生がこちらの誘いに乗って来た。

 こういう場合はもちろん、アレでしょ。

 

「……き」

 

「先に言っておくけど、漫画とかでよくあるデートとかキスとかはなしの方向で」

 

「す……とかまだ言ってないのに。冗談ですよ、別にご褒美なんていりませんよ。どうせ、私じゃ取れるはずないからっ」

 

 先に言われてしまったので拗ねる。

 ツーンと唇を尖らせながら拗ねていたら、先生がため息をつきながら、

 

「いきなりやる気ダウンって……。あのなぁ、梨紅ちゃん。俺は家庭教師なの。結果出ないと意味ないんだからさぁ」

 

「それは嫌だけど、先生がやる気を奪ったんでしょ」

 

「分かった。そう言うのならば、もし次のテストで60点以上取れたら……」

 

「取れたら何をしてくれるの?」

 

 私が期待に満ちた視線を彼に向ける。

 先生は「そんな目で見ないでくれ」と苦笑いする。

 

「そうだな。どこか遊びにでも行こうか。連れて行ってあげるよ」

 

「デート?それってデート?」

 

「“遊び”に連れて行ってあげると言ってます」

 

 そんな改めて言い直さなくてもいいじゃない。

 物は言い様ってことで、表現が変わっても意味は大して変わっていない。

 ある程度仲のいい男女が一緒に遊びに行く事はデートと呼んでもいい。

 

「よしっ、デートしてくれるなら頑張るわ」

 

「……今の段階で60点でも取れるかな?」

 

 ちなみに前の私の点数は20点でした。

 数学なんて大嫌いだったから仕方ない。

 60点なんて点数は数学に限ってはここ数年、見たことないかも。

 

「私は1ヶ月前の私とは違うのよ」

 

「だといいけどね。さて、それじゃ答え合わせの点数を発表します」

 

「今回は良い手ごたえあったから八割は越えたでしょ?」

 

「残念、40点でした。これだと60点はまだまだ遠そうだね」

 

 ……頑張るよ、えぇ、頑張りますよ。

 見てなさいよ、大河先生。

 この私が本気を出せばどれだけすごいか思い知らせてあげるわ。

 

 

 

 

 本日の授業も終了、私は終わった後に先生にバレンタインのチョコを手渡す。

 内容が内容だけにできる限りは先延ばしにしたかったの、うぅ。

 せっかくのイベントなのに気が重いって……。

 

「はい、先生。バレンタインデーの本命チョコ、あ・げ・るっ(はぁと)」

 

「本命って言われて渡されたのは初めてだ」

 

「えへへっ。嬉しいでしょ?人生初だものね?」

 

「嬉しいというか悔しい。何でこの年になるまで本命チョコをもらったことがなかったんだ。……人生って難しいです」

 

 私としては先生がこれまで誰にもモテなかった方が不思議なんだ。

 容姿抜群、性格は一部ヘタレだけど基本的には面倒見が良くて優しい……普通ならモテるはずなんだけどなぁ。

 いい友達として最適なキャラクターとして人気はありそう。

 

「でも、義理チョコはいっぱいもらってきたでしょ?」

 

「人生で義理と書いて渡されたチョコを貰う人の気持ちが分かる?辛いぜ、あれは」

 

「……何て言いながらも、先生って仲がいい女の人とかいるじゃない。可憐さんは?」

 

「今日、チョコをもらったぞ。思いっきり義理っぽい箱でお返し期待と言われた。安物チョコで倍返しって言われてもな」

 

 全くもらえない人よりはマシだと思う。

 それにしても、可憐さんもあげたんだ。

 うーん、あの人って実は先生に気があるんじゃないの?

 未だにその疑問だけは払拭できていないのよね、どうなんだろ?

 

「その点を考えれば私のは本命チョコだから喜んでくれていいんだよ?」

 

「あー、嬉しいですね。本当に嬉しい(棒読み)」

 

「……ふんっ。いいわよ、別に本気にしてもらえなくても」

 

 バレンタインくらいで先生を落とせると思ってない。

 年上の先生攻略には時間をかけてゆっくりと落とすつもりなの。

 だから、その程度では凹まないと決めている、私は辛抱強い女の子なのよ。

 

「本命はさておき、チョコをくれたのは嬉しいんだ。さっそく、ひとつもらおっかな」

 

「ここで食べちゃうの?」

 

「え?ダメなのか?」

 

「い、いいけど……」

 

 中身が先生の苦手なビターチョコだけに反応はあまり見たくない。

 うぅ、嫌な反応されたら私が辛いじゃない。

 先生はラッピングされた箱を開けて中身を見る。

 真っ黒いチョコ、見た目からしてビターチョコって感じがする。

 甘さ控えめ、苦いチョコレートは男性好み……のはずなのに、リサーチ不足で大失敗。

 

「いただきます」

 

 先生がチョコをつまんで口に入れる。

 もうダメだ、私への好感度ダウンかもしれない!?

 

「あぅあぅ、ごめんなさい~っ!?」

 

「……ん?何が?美味しいチョコじゃないか。ありがとう、梨紅ちゃん」

 

「あれ?……美味しい?」

 

 ビターチョコが苦手と聞いてたはずの先生だけど、普通に食べてくれている。

 

「これぞ、大人の味ってやつだな。よく考えて見たら、バレンタインデーでチョコをもらえる男って普通に幸せだよね。もらえるだけ幸せ、ありがたく思わないといけない。梨紅ちゃんがくれたチョコ、嬉しいよ」

 

「……大河先生」

 

 まさか喜んでもらえるとは思ってもいなくて、こちらも嬉しくなる。

 でも、ビターだけど大丈夫だったのかな?

 美鶴さんと違って、可憐さんは私に嘘をつくような人じゃないっぽい。

 私はその事に疑問を抱きながらも、不安が消えてホッとしていた。

 何とか危機は乗り越えられたみたい。

 よしっ、気分を一新させてデートのために小テスト、頑張ろうっと。

 


  

 

 ……。

 その後、大河は自宅に帰り遅めの夕食をとっていた。

 リビングにやってきた美鶴はテーブルに置いていたチョコを見て、不思議そうに言った。

 

「これって梨紅さんにもらったチョコ?可愛いじゃない、好かれてるわねぇ……あら?」

 

「そうだけど、それがどうかした?」

 

「ん。見た目が思いっきりビターチョコだけど、アンタ苦手じゃなかったっけ?甘いチョコじゃないとダメでしょ」

 

「……別に。わざわざ選んでくれたものを苦手だなんて思わないよ」

 

 大河はそう言いながら「苦いなぁ」と苦笑しつつもそのチョコを食べる。

 彼がビターチョコが苦手なのは変わらないが、梨紅からもらったものを拒むつもりはないらしい。

 

「へぇ、男の子だね、大河って……。案外いい奴だったのね」

 

「今まで姉ちゃんにどう見られていたのか気になる」

 

「そんなことはどうでもいいの。はい、これ」

 

 美鶴が大河にチョコの箱を手渡してくる。

 

「何と!?美鶴姉ちゃんからバレンタインチョコ!?」

 

「……そんなわけないでしょ。何で弟なんかにお金だして高いチョコを買ってあげなきゃいけないの?買いに行くのも面倒だっての。あっ、チ●ルチョコでいいなら部屋にあるけど、いる?」

 

「ですよねぇ。安物チョコはいらないや。だとしたら、これは何?」

 

「妹から愛のこもったバレンタインチョコ。さっき宅配便で届いたのよ。あの子もお兄ちゃんっ子ね。わざわざチョコをこっちに送ってくるなんて。電話でお礼でも言っておきなさい」

 

 大河は「そうするよ」と頷いて、その箱を受け取った。

 

「ちなみ聞くけど、美鶴姉ちゃん。今年は誰かに本命チョコあげた?」

 

 大河の質問に美鶴は満面の笑みで彼に言った。

 

「――それってどうしても聞きたい質問かしら?」

 

「いえ、何でもないです。さ、さぁて、妹からのチョコは何かな~?」

 

 姉の笑顔にビビる大河はそれ以上は何も聞かずに、妹からのチョコレートの箱を開封するのだった。

  

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