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61 第1章:漆黒の過去(愛華と黒木の出会い)

第3巻『泥沼の最終決戦・完全崩壊編』


第1節:仕組まれた出会い


欲望と虚飾が渦巻く夜の街、六本木。幾重にも重なるネオンの光が雨に濡れたアスファルトを眩しく照らし出す中で、その高級会員制クラブ『ヴェルクシェリア』は、政財界のトップや裏社会を操るフィクサーたちが夜な夜な密会を重ねる絶対的な聖域であった。


当時の愛華は、まだ何者でもなかった。

名ばかりの駆け出しモデルとして芸能事務所に所属しながら、実態は画像SNSで見映えのする高級ホテルやブランド品をひけらかし、パパ活まがいのギャラ飲みで日銭を稼ぐだけの、虚栄心に満ちた一人の若い女に過ぎなかった。


「愛華ちゃん、今日のメインのお客様は本当に凄い大物だからね。言葉遣い一つ、視線一つでも絶対に粗相のないように頼むよ。しくじったらこの業界で生きていけなくなるから」


店長が蒼白な顔で何度も念を押し、愛華を最奥にあるVIP専用のプライベートルームへと案内した。重厚な防音扉が開かれた瞬間、部屋を支配していたのは華やかな喧騒ではなく、息をのむような圧倒的な圧迫感と、立ち込める高級シガーの香りだった。


部屋の最深部、革張りの重厚なソファにどかっと腰を下ろしていた男――それこそが、暗黒のフィクサーであり、巨大 IT ホールディングスを率いる絶対的権力者・黒木宗一郎であった。


仕立の良い暗紺色のスーツを纏い、白髪交じりの髪をオールバックに整えたその姿には、数多の人間を金と権力で支配し、歯向かう者を徹底的に踏みにじってきた男だけが醸し出す、冷酷無比な覇気が満ち溢れていた。周囲には取り巻きの政治家や大手企業の幹部たちが平伏するように控え、黒木の一言一言に怯えながら頷いている。


「初めまして……愛華と申します」


愛華はいつものように、男たちの欲望を刺激する可憐で控えめな笑みを浮かべ、黒木の傍らへと腰を下ろした。これまで数々の富裕層や実業家を相手にし、自分の美貌と媚態で男たちを骨抜きにしてきた愛華には、ある種の絶対的な自信があった。どんなに気難しい男であっても、甘い声と上目遣いで甘えれば、容易く自分の意のままに操れると信じ切っていたのだ。


しかし、その浅はかな計算は、黒木がゆっくりと視線をこちらに向けた瞬間に完膚なきまでに打ち砕かれた。


黒木の切れ上がった鋭い瞳が、愛華の顔から全身へと走る。その視線は、女としての魅力を評価するような生優しいものでは決してなかった。まるでセカンドハンズのオークションで品物の価値を査定するかのような、徹底的に冷徹で、血の通わない眼光であった。


「……フッ。なるほどな」


黒木は短く鼻で笑うと、手元の上質なロックグラスを傾け、氷をカラリと鳴らした。


「顔立ちも悪くないが、何よりその瞳が良い。内に秘めた底なしの貪欲さと、他者を踏み台にしてでも上に登り詰めようとする醜い野心が隠しきれておらん。……実に扱いやすい、いい器(小道具)だ」


その言葉に、愛華の背筋を冷たい汗が伝い落ちた。

自分がこれまで隠し通してきた強欲さや虚栄心の真実を、この男は初対面のわずか数秒で見抜き、嘲笑ってみせたのだ。恐怖で声が凍りつく愛華に対し、黒木は細く固い指先で彼女のアゴを掬い上げ、逃げ場を塞ぐように至近距離で見つめ返した。


「娘よ。お前が欲しがっている高級ブランドや、SNSで見せびらかす程度のちっぽけな贅沢など、世の中の真の『富』から見れば塵芥に過ぎん。……本物の権力と、一一生遊んで暮らせる巨額の金。その味を知りたくはないか?」


黒木の低く重厚な声が、愛華の脳髄を直接揺さぶった。

彼が差し出したスマートフォンの画面には、愛華が一生かかっても目にしたことのないような、数十億、数百億円という天文学的な資産データや、政財界を裏から動かす極秘の契約書群が映し出されていた。


それは、愛華がこれまで出会ってきた中小企業の社長や小金持ちの男たちが提示する『お小遣い』とは桁が違いすぎる、本物の支配者だけが所有する巨大な王国の姿であった。


「黒木……様……」


愛華の瞳から恐怖が消え去り、代わりに底知れぬ狂おしい「陶酔」と「歓喜」が溢れ出した。

黒木の持つ絶対的なパワー、他者の人生を一言で狂わせる権力、そして世界を支配する巨額の資金力――それらすべてが、愛華の浅はかな魂を瞬時に呑み込んでいった。


この男に服従し、この男の忠実な犬となることこそが、自分がこの世の頂点へと登り詰める唯一の道なのだと、彼女は確信したのである。


「私を……私を、黒木様の思うがままにお使いくださいませ。何でも……何でもいたしますわ」


愛華は膝を折り、大理石の床に平伏しながら、黒木のピカピカに磨き上げられた革靴に自らの額を擦り付けた。


「良い返事だ、愛華」


黒木は冷ややかな笑みを浮かべ、愛華の頭を愛玩動物のように乱暴になで上げた。


「では、近いうちに最初の『任務』を与えるとしよう。」


こうして、愛華と黒木宗一郎との泥沼の出会いであった。

後に前世の俺(佐藤一真)を地獄へ突き落とし、病死に見せかけて毒殺する恐ろしい完全犯罪のシナリオは、すべてこの六本木の夜、仕組まれた出会いから始まったのだった。

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