08
石斧を持った小ぶりのバーヴァリアンが、崖の上から現れて集団で飛び降りてくる。
「来たぞ!」
「南の崖からもやってきてる!!」
レーダー手が機材を覗き込んで周りに叫び、それに応えてクローンたちが銃を向ける。
けたたましい銃撃戦のなか、赤緑の火線が周囲に張り巡らされるがバーヴァリアンの方はまったく怯まない。
中には死んだクローンの武器を拾い上げて棍棒のごとく振り回してくる者もいる。
ミサイルバンドルウォーカーがけたたましい砲撃音を響かせ、足下の小物を狙い撃つ。
黒い煙を漂わせながら大物バーヴァリアン族の一体が膝を崩して沈黙し、その影から飛び出して来た小物のバーヴァリアンがバンドルウォーカーの足に飛びついた。
「あのピグミータイプを狙え!」
見覚えのある指揮官が指をさし、重機銃を構えたクローン兵が肘撃ちでバーヴァリアンを狙う。
ガトリング砲が重く高速回転を始めてすぐに火を噴く。見えないほどの連続火線がバーヴァリアンの体を貫いて、ピグミータイプと呼ばれる小物はミサイルバンドルの脚から離れた。
ウオーンとバンドルウォーカーが機械音を鳴らして脚を動かす。そこへ、二体目のバーヴァリアンが……ビガーと呼ばれる新型の大物だ。平手を、指を大きく広げてバンドルウォーカーの砲台を思い切りひっぱたいた。
『うわー!!!!!!』
電子的なノイズを響かせながら、砲台の中からパイロットらしき兵の体と鉄材が吹き飛んで地面に……
「おい! 何をぼうっとしている!!」
「はっ!?」
ソノイは、肩を力強く引き込まれてはっとした。
「惚けてどうした!! ここが戦場だと忘れたか!?」
「ゆ……え、ユウヤさん!」
赤い肩章を着けた背の低いクローン兵が、ソノイを荒野の窪みに引き込んで頭を押さえ込んでくる。
頭上には先ほどの、あの輸送機だ。あまりにも高度が高すぎるのか、さっきからほとんど違わない場所を飛んでいるようにみえる。
「見えるか」
「な何を?」
「あなたの目はどこを見ているんだ、あそこだ!」
ユウヤ少尉は脇に放ってあった味方の遠望用ヴァイノキュラーを手に取ると、ソノイの目に無理やり押し込んできた。
見れば高硬度に、何かパラシュートで吊り下げられたものが見える。
三機だ。形はよく見えないが、何か翼のような物が生えているように見える。
しかし航空機にしては何か妙だ。
「うっぷぷっ、見えます! いや見えてるからもうっ!!」
ソノイは無理やりユウヤ少尉の手からヴァイノキュラーを奪い取り直すと、もう一度空を見あげた。
距離、およそ千。
「味方の戦闘は味方に任せる、あなたの任務は我々味方部隊の後方支援だ。以後は防衛中隊長が指揮をする」
「……ちょっと待って」
ソノイはヴァイノキュラーを外すとソノイを振り向いた。
ノイズの走る画面の向こうで、何かがパラシュートを切り捨てて勢いよく地上に落ちだしたのだ。
「あれに私が乗るって言うの?」
「それ以外に貴女に何ができるんですか?」
「なにって……」
トラックを持ち上げて、円陣に迫る敵バーヴァリアンの大型タイプが拳を振りあげた。
ソノイは振り返って頭を抱え、ユウヤはチッと舌打ちをして拳銃を撃ちまくる。
荒野の風は冷たい。そのユウヤ少尉の拳銃弾がバーヴァリアンの目玉に直撃し、巨人バーヴァリアン族はうめき声を上げて数歩よろめいた。
「急げ! 今ならまだ間に合う、落下地点まで走るんだ!」
「貴方は!?」
「後から追いつく! さあ早く!! 二体来い!!」
ソノイはユウヤ少尉に強く肩を押され、一瞬戸惑いながらも荒野を走りだした。
最初の数歩は重かった。しかし徐々に、走る先にいるものが何なのか分かってきてその走り方も軽やかになっていく。
すぐ後ろについて走る仲間のクローンに銃を取られ、もっと早くはしれと催促された。
ソノイは全速力で走った。
「キュケー!」
「ギャー!!」
崖から、複数体のバーヴァリアンたちが飛び出してくる。
それも今までの奴らとは違う、何かのタンクを背負っているような小さな兵隊だ。
『マタ走ンナキャイケナイノカヨー』
『変ナコトボヤイテルトぼすに怒ラレルゾー!』
マスク越しに小さな兵士が呟いて、ソノイと一緒に落下物の方へと走り始めた。
「えっ何あれ!? 何あれ!!」
『ンンー、聞キ慣レナイ声ダナー』
ソノイの声に、小さなマスクの兵士が反応して顔を傾ける。走りながら……その顔は宇宙人みたいだった。
『アッ! 女ダ!』
『ウソ女!?』
『オンナァー? ナニソレェ?』
しぱしぱと併走している小さな宇宙人たちはソノイを見ると、突然目をまん丸にして驚いて立ち止まる。
『ホントダ女ダ!!』
『ウソナンデ!?』
立ち止まったところを、名無しのクローンが立ち止まって銃を撃つ。
「さあ行って! ソノイ少尉あなたの戦場はあっちだ!」
「!!」
クローンの言葉を後ろに聞いて、ソノイはさらに荒野を走った。その背後で、赤い目のバーヴァリアンがクローン兵に飛びついていく。
あのマスクをした宇宙人や、巨人族、自分たちを襲ってきた獣脚の化け物はそれぞれ違う生き物だと、ソノイは走りながら思うのだった。
目の前に、三体分の影が薄く広がる。
「フッ、ハッ……ここか? いや違う、もう少し……」
ソノイは少し走った先の平野で立ち止まり、青い空を見あげた。
輸送機はすでに遠くの空まで過ぎ去っており、黒い点のような物が複数空に見える。
ヴァイノキュラーを手に持って空を見あげると、その黒い点の距離は先ほどよりもかなり近づいてきていた。
「もうあと……2……いや、3……」
ヴァイノキュラーを顔にあてがって空を見ていると、突然黒い点が巨大化する。
ドン!!!
「!!??」
……と、かなり近くに何かが着地し、砂埃をまき散らしながらソノイの目の前に鎮座した。
「……これ、は?」
見れば、見たこともないような何か手足の付いた何かの……何かだ。
新型のファイターにも見えなくないが、脚と腕がそれぞれ下と両脇に付いている。
パワードスーツにも見えなくもないが、それにしては大きすぎる。
……コクピット?
『自分のプレゼント箱までたどり着いたか、ソノイ少尉』
ガッとどこからか声がして、ソノイはびっくりして自分のヴァイノキュラーを握りしめた。
無線機内蔵型か。驚かすな。
『ソノイ少尉、どうした生きてるか?』
遠くにも同じような荷物が着落してそれに駆け込んでいる人影が見える。
ソノイは眉をひそめてヴァイノキュラーに声をかけた。
「はい生きてます。これ、私が乗るんですか?」
『お気に召さないか? ユウヤ少尉は何と言っていたんだ?』
「まだ何も」
地面に降りてきた輸送機からのお荷物は三つ。一つはグレイヴが駆け込んで、コックピットを開いて飛び乗っている。
遠目に見ても分かるような鮮やかな青線のコマンド兵士は、ソノイを振り向くと大きく腕を振ってきた。
その向こう側では、同じような機体に飛び乗っている誰かがいる。肩章が付いているからユウヤだろう。クローンは、遠目に見たら誰が誰なのかさっぱり分からない。
『なにも聞いていない?』
『取り急ぎだったので』
『そうか。次からは、新人にも分かりやすいよう説明もするのを心がけろ』
『イエッサー』
バンバンと、人影の一つが追っ手に向かって銃を撃つ。追っ手はもちろん、生き残りのバーヴァリアンだ。
振り向けば自分にも追っ手が差し迫っている。さっきの二人は死んだのか?
『それでソノイ少尉』
ソノイは一歩退いて護身用の拳銃を抜くと、ヴァイノキュラーを握りしめて一歩下がった。
すると今度は、このパワードスーツじみたでかい戦闘機の上部がスライドして何かが飛び出てくる。
『乗り方は、アー、分かるか?』
「わからないと死ぬんですね?」
『そうだ。話が早いな。使い方は彼女に直接聞くといい』
「はい分かりました!」
彼女ってだれだよ。どこに乗ればいいんだよ。
何も分からなかったが、ソノイはとにかく今うごいた何かを目指して懸命に機体をよじ登ることにした。
降ってきた物がなんであるのかとか、これにどうやって乗り込むのかとか動かすのかとかは、よく分からないがとにかく全部後だ。
ソノイは拳銃を一発撃っては敵の脚を止めて、よじ登ってはまた拳銃を撃つ。
機体の大きさは高さ7メートルほどはあった。同種のエアクラフトにしてはかなり大きい方だ。
どちらかというとスペースエアクラフトとか、スペースファイターの方に外見は近い。
なのになんで手足が生えている?