(39) ~ 彼女は、今
「……まさか、ここで貴方と競うことになるとは思いませんでしたわ」
二年前、入学試験のときにオズが思っていたとおり、ぐっと大人びた姿に成長したシャーリーンは、より冷たく透き通った美貌の女性となっていた。杖の代わりにシンプルながら細やかな装飾の施された扇を手にしており、同じグループの訓練兵たちも、誰より彼女を守るような布陣を敷いている。
「二年ちょっとぶりだもんなあ、話をするのも」
「貴方は相変わらずの話し方ですわね。気が抜けます」
対戦領域の点検を教官たちがしている間、隣り合わせで終わるのを待っていたオズたちとシャーリーンたちは、互いを盗み見ながらぴりぴりしていたが、一人のんびりした空気を出しているオズに、シャーリーンが話しかけてきたのだ。
二年前と変わらず、シャーリーンの美貌や立ち振る舞いに関わらず、気安く話しかけてくるオズに対してシャーリーンは苦笑を浮かべた。昔は平民風情が、と苛立つだけだったが、様々な身分の人間が所属する魔法学校での生活の中、他の平民たちとの交流の中で彼のように接してくれる人間はとても貴重なことに気づけたのだ。
密かに、平民の友人同士の会話のようなやりとりに喜びを感じているシャーリーンだったが、訓練兵や魔法学校生たちは「なんだこいつは」といった視線を遠慮無くオズにぶつけていた。
「少し、空気が柔らかくなったんじゃない? 平民の友達とか出来たの?」
「あら、よく分かりましたわね。貴方ほど軽く話しかけてくる者はいませんけれど、ともに食事などをする者はずいぶん増えましたわ」
「……その人付き合いスキル、ゼルティアのヤツにも見習ってほしいよ」
「ゼルティア、ああ、ノーステラの三男ですか。貴方のクラスでずいぶん横柄なことをしているらしいですわね。貴族としての優美な振る舞いを忘れるなんて、嘆かわしいことです」
そう言って、シャーリーンは軽く扇を開き揺らす。そよ風が彼女の柔らかな髪を背中へ運ぶ。
「まあ、そんな者のことなどどうでもよろしいですわ。……そろそろのようですし」
彼女の視線の先で、教官たちがそれぞれ点検完了の合図を手で送っていた。シャーリーンはオズに向き直ると、真剣な顔をして宣戦布告する。
「私、この学校生活の中で努力を惜しまなかったつもりですわ。それこそ、創設以来の天才などと呼ばれている貴方にもひけをとらないのではと言われるほどに。……それでは、互いに本気で参りましょう」
そう言って、彼女はグループメンバーを引き連れ、自分の陣地へと向かっていく。
残されたグループの中で、シャーリーンの方を見たまま動かないオズに、ジーノとフィナがおそるおそる声をかける。
「おい、オズ……シャーリーン様にあんな風に言われちまって、お前どうすんだよ?」
「あの方の魔法、綺麗なだけじゃないはずだったよね……オズくん……」
「……ふふっ」
そこで、彼らの耳に届いたのは、笑い声。
オズは、酷く面白そうに、口元を押さえながら笑っていた。
「お、オズ?」
「ふ、ふふ、本気、本気ねえ……やっていいものかな?」
「え?」
彼の言葉に、なにか不穏なものを感じたグループメンバーは、互いに顔を見合わせて不安そうな顔を見つけるのだった。
ゼルティアと違い、平民だと見下すようなことはせず、ゆっくりと距離を詰めていったシャーリーンは、高慢令嬢のような姿に成長しつつも優しい女性になってきています。
オズの問題児時期には、いろいろと彼に落胆することもありましたが、更正してからは魔法の成績について純粋なライバルとして見るようになってきました。
そして、オズほど彼女に馴れ馴れしく接する生徒は他にいませんw




