(37) ~ レイルの準決勝【後編】
「……一直線だな。威力は悪くないが、わかりやすい」
ぼそりと呟かれたドルグの評価は、誰の耳にも入らない。
歩行の体勢から前傾したドルグは、かわすどころか向かってくる炎の渦にむけて突っ込んだ。わずかに熱波が彼の鎧を焦がすが、一瞬で炎をやり過ごした彼は、ゼルティアたちが動揺している隙に駆け込み、素早く当て身を食らわせる。
「……む」
体勢を整える暇も無く気を失わせられたゼルティアたちの中で、もっとも旗の近くにいた最後の一人に近寄る寸前、空気の流れが妙なことに気付きドルグは飛び退く。微妙に歪んでいる風景を見て、彼……レイルと旗の周りに結界が張られていることに気付いた。
「ほう」
「……!」
レイルは目の前に立っているドルグの前でかがみ込んだまま、小刻みに震えていた。
(け、結界、用意していたのはいいけど……! これからどうすれば……!?)
ドルグは動かないまま、レイルのことを無表情で見下ろしている。もはや、残っているのはレイルのみ、この場にいる誰もが、彼が自分でメダルを外して試合は終わると考えていた。
(でも、でも!)
今までの試合では、ゼルティアや他の魔法学校生の影に隠れて、慌てないように、慌てないようにと魔法の準備ばかりしていた。そのためこうして向き合ってみても、もしも自分が戦うことになったらと考えていたシナリオはすべて脳内から吹っ飛んでしまった。
(オズくん……!)
一瞬、目が泳ぐ。
すると、あっさりと心の中で呼んだ人物を見つけることが出来た。
金色の双眸と目があって……彼は、笑うでもなく、目をそらすでもなく、ただ静かに頷く。
そこでレイルは動いた。
「む?」
突然ぼこりとうごめいた地面に驚いた様子のドルグは、ずぶずぶとめり込んでいく自分の両足を見て、もう一度レイルに目を向ける。
結界を発動させていた彼は、いつの間にか地面にシンプルな魔法陣を描いており、同時に二つの魔法を発動させていた。
(厄介な)
ドルグは内心、最も気をつけるべき術師を間違えたな、と思いながらようやく剣に手を伸ばす。そのまま引き抜こうとして、がちりと違和感を感じ視線を落とす。抜こうとしていた片手剣は、鍔と鞘の部分が氷に覆われており、無理に引き抜くのはさすがのドルグも一苦労しそうだった。
「うわっ、なんだこれ!?」
「沈むぞ!?」
と、なかなか決着がつかないことをいぶかしんでか、ドルグと同じグループの後衛たちが近づいてきた。しかし、エリアの半分を超えたあたりで戸惑いの声とともにその場を動かなくなる。否、動けなくなっていた。彼らもまた、底なし沼のような魔法に捕まったらしい。
「……君は、軍属希望か」
「え?」
静かな声に問いかけられて、レイルは一瞬きょとんとする。だが、すぐに目の前の剣士から問われたのだと気付くと、慌てて首を横に振った。
「い、い、いえ! ぼ、僕は、魔法具が作りたくて!」
「そうか、だが、炎の魔法を使った者より筋が良い」
「え」
「だが、やはり素直すぎる」
そう言って、ドルグはかすかに笑った。鞘ごと剣を腰から外し、一閃する。
彼の剣が目の前を通り過ぎた……その光景を見ることも無く、額に強い衝撃を受けたレイルは後ろにのけぞり、気を失った。
小技をいくつも使える点で、柔軟な攻め方ができたレイルの方が評価されました。レベルを上げて魔力で特攻、だったゼルティアはあんまり興味もたれてませんw
決勝戦に出るのは、ドルグたちのグループになりました。
次こそ、オズVSシャーリーンです。