反英語学習戦線
紳士淑女の皆々様! 『英語』はお好きかな?
私は大嫌いだし憎んでいる! ふぁっ◯ゆー!
どのくらい英語を憎んでいるかというと、高校受験が終わったその日の内に中学英語教材一切合切を弟と共に庭先で燃やす程度。(教材を燃やしている最中、ご近所さんに通報されかけたし数週間近隣が焦げ臭かったという最悪なオチまでついてくる)
中学が終われば英語と縁が切れる、なんてことはなく中学以上に密接な関係を求めてくる。ただでさえ数学くんと殺意渦巻く泥沼関係にあるというのに、これ以上参戦者を増やさんで欲しい。
英語からの戦略的撤退を続けていた私だが、輩がいよいよ退路を塞ぎにやってきた。
補習&再テストである。
*
蝉の声響く放課後、特別教室にて己が座した机に暴力を振るう。
「いざさらば、我が華の高校生活!」
月例テストで多少赤い点数を取っただけなのに、放課後にひっ捕らえ補習という名の身体的拘束を強いるとはどういう了見か。国連の子どもの権利条約に悖る行為ではないか。
不当な英語教育を断固拒否する!
「図書委員ちゃん、全部口から出てるぅー」
地獄の補習を耐え忍んだ同志たるギャゥ子(愛称)の間延びした声がゆるく響く。テストの答案を一個ズレて回答しちゃった抜け作さんであり、以前私が主催したエロ同人百人一首大会の栄えある優勝者である。
彼女は配布されたプリントで顔を扇いでいる。
プリントに刻印されしは20の英単語。明日の放課後補習は小テストであり、ここから15単語出るとのことである。
「鬼の所業と云わざるを得ない……」
恨みと憎しみを込めてプリントを握りしめる。もちろん気は晴れない。しわくちゃな紙だけが残る。
「まじめに勉強しよ? テスト合格しないと補習伸びるんだからさー」
「フッ、その考え、短絡的でがんすな!」
私を元気づけようとするギャゥ(愛称)を、分厚い眼鏡をかけたマッシュヘア男子が冷笑した。
「真面目に勉強した結果、補習になってしまったぼくは勉強したとて合格できないでがんす!」
「本当に気の毒」
「何が悪いんだろーね」
眼鏡男子は放課後も遅くまで学校図書館で勉強、教員からのおぼえもめでたいが、成績は低空飛行の不思議くんだ。それでもめげずに勉学に励む好漢である。
「補習になると自分がしたい勉強時間が確保できなくて困るでがんす」
「まっじめぇ」
「向上心のかまたり」
補習を受けているメンツは以上3名。本来であればもっと受けるべき輩はあまたいるものの、悠然とサボタージュをかましている。そう、補習を受けるだけでも上澄みなのだこの高校では。
「かくなる上は、やるしかないでががんすよ」
眼鏡男子の口元が怪しく動く。「カンニング」。彼は確かにそうくちびるを動かした。
「お天道様に顔向けできないようなことをするだなんて!」
「散々たる成績のせいで親に顔向けできないでがんす。今更お天道様に顔向けできなくとも一緒がががんす」
「本当に可哀想」
「あめちゃんあげるよー」
飴ちゃんを噛み砕きながら手にマッキーで英単語を書き始める眼鏡男子、せっかくだからとルーズリーフに英単語の反復練習を始めるギャ(愛称)。健気にも英語という敵性言語と向き合うふたりに涙を禁じ得ない。英語などという言語を学ばんとならぬ世に誰がした。
世界を呪う私に天啓が舞い降りる。
「……英語圏を打ち滅ぼせば、英語を学ばなくて済むのか……?」
「新鮮な征服動機がんす」
「英語使う人かわいそう」
私は机の角を爪弾き思索を深めていく。
「私ひとりの力で英語圏を破壊し尽くすのは不可能だ……。しかし皆の友情パワーで……具体的には国家権力があれば……増税で……」
「霞ヶ関に殴り込むでがんすな!」
「増税って言わなかった?」
「私は日本の頂点に立ち、この腐った世を変えて見せる!」
「志は立派だねー」
「腐りかけが一番美味しいでがんす」
私は最近覚えたWebサーフィン裏ルート、アプリ内広告からインターネッツに接続を試みる。
「どしたん?」
「総理大臣のなり方ってググってる」
「総理大臣RTAがあったりするでがんす?」
「総理大臣は多様すぎて再現性ないな……。官僚でいいや」
「図書委員ちゃん無礼で笑う」
「官僚って世界征服できるがんすか?」
インターネッツのAI君を見、私の血の気は引いていく。いつのまにか私の机に集まっていた2人に残酷な事実を伝えねばならぬ。
「官僚、とんでもなく勉強せねばなれぬらしい……!」
「だろうねぇ」
「知ってたでがんす」
思わず机を拳で殴る。涙が止まらない。
世界征服すら学歴主義化してしまった。
「どこまで行っても勉強から逃れられないというのか……! ばかでもできる世界征服みたいな方法論はないのか? 需要あるぞ、私に!」
「ばかだと征服したあと統治できないんじゃね?」
「ばかでも賢い人の傀儡になればいいでがんすよ」
世界を覆い尽くさんとするメリトクラシーに反旗を翻る猛者はいないのか。祖先が草葉の陰でゲボ吐いているぞ。
教室のうしろから扉が開かれる音がした。生徒会会計監査の仕事を終え、私を迎えに来た学友である。
「勉強なさいこのおばか」
学友の美点は私の友であり続けてくれる点であり、欠点は正論で人を殴りがちな点である。
*
ほのぼの後日談。
エロ同人百人一首大会第一回優勝者の(愛称)は休み時間も使ってコツコツ勉強、順当に満点合格した。
眼鏡男子君は手のひらに英単語を転写するに飽き足らず、全身に英単語を書き記し登校。耳の裏まで書き込む執念に感服せぬ者はいなかった。英単語を消しての試験となったが、全身に何度も英単語を書き写す反復学習のおかげで現代版耳なし芳一も文句なしの合格。
「カンニングすれば満点を取れるがんす!」と誤学習しており、これには教員も苦笑い。
めでたしめでたし。
……私か?
私は普通に勉強しなくて普通に落第した。
完
ここまで読んでくださりありがとうございます!
おかげ様で日間ランキングに乗れました! 重ねて感謝申し上げます。
ブクマ感想評価、よろしくお願いします!
次回以降は不定期に、隔週火曜日に投稿できたらなぁ、と考えております。
またぜひ読んでくださいね。




