第3話:不屈の旗、不滅の絆 ①王道ファンタジー編『小さな村の自警団』
魔将の巨大な斧が、アルトの首めがけて空を切り裂く。 アルトは静かに目を閉じた。
――ドガァァァァァン!!!
突如、鼓膜をぶち破るような大爆音と地鳴りが響き渡った。 アルトの首に届くはずだった斧が、強烈な衝撃に弾かれて魔将の手からすっ飛んでいく。
「な、何事だ!?」 魔将が驚愕の声を上げる。 見れば、魔王城の堅牢な外壁が、外側から超大型の破城槌によって、粉々に打ち砕かれていた。もうもうと立ち込める爆煙。その向こうから、地平線を埋め尽くしていたはずの魔王軍の悲鳴と、それを圧倒する「人間の怒号」が聞こえてくる。
「……え?」 アルトが信じられない思いで目を開けると、爆煙を割って、一枚の錆びついた鉄盾が飛んできた。かつてアルトが見覚えのある、あの頼りない泥の村の盾だ。
「遅くなりました、アルト先生!」
煙の中から現れたのは、銀色に輝く頑丈な鎧に身を包んだ、一人の堂々たる青年剣士だった。その顔には、かつて怯えて木槍を握りしめていた面影が、確かに残っている。
「レム……!? どうして、お前がここに……!」
アルトの枯れかけた声が震える。
「あんたが言ったんだろ!『誰かが助けてくれるのを待つだけの人生を終わらせろ』ってな!」
レムは不敵に笑うと、腰の長剣を引き抜き、遥か天空へと突き上げた。
「レム自警団、総員突撃ィィィ!!! アルト先生の、退路を切り開け!!」
レムの号令とともに、崩落した壁の向こうから、怒濤の如く人間の軍勢がなだれ込んできた。 それはもう、農具を持った数人の村人ではない。アルトの教えである「不屈の精神」と「連携の極意」を国中に広め、大陸全土から志願者を募って数万規模にまで膨れ上がった、人類最強の民兵組織『レム自警団』だった。
「先生に教わった3人一組の陣形だ! 引くな、押し返せ!」
「アルトさんには指一本触れさせないぞ!」
かつてアルトに命を救われた若者たちが、今や一流の戦士となり、分厚い盾の壁を作って魔王軍の津波を力強く押し返していく。魔将たちが狼狽し、軍勢の統率が瞬く間に乱れていく。その光景はまさに、あの日の広場で行われた戦いの、壮大な再現だった。
レムはアルトの前に膝をつくと、優しく、だが力強くその肩を叩いた。 「あんたが俺たちに戦う勇気をくれた。だから今度は、俺たちが大英雄の盾になる。……さあ立ってくれ、アルト。俺たちの、世界の希望」
目の前で血を流しながらも、必死に自分を守ろうと戦う「かつて助けた人々」の背中。 それを見た瞬間、アルトの全身の細胞が、奇跡のように熱く沸き立った。絶望で凍りついていた心に、あの日以上の、もっと大きくて消えない業火が灯る。
「……ああ、そうだ。俺は、まだ負けてない……!」
アルトは血を拭い、地面に突き刺さっていた聖剣の柄を、強く、強く握り締めた。 身体の痛みなど、もう疾うに忘れていた。
「みんな、待たせたな! 反撃の狼煙を上げろ!!」
大英雄の復活の咆哮が、魔王城を激しく揺るがすのだった。
次回からまた別の物語が始まります^^




