第40話 透ちゃんと海に行ったよ!
「あー!今日もいい天気ー!!いい絵が描けそう!!」
青空を見上げながら、小春はぐーっと背伸びをした。
柔らかな風が、髪をふわりと揺らす。
「水瀬さーん」
「ん?」
振り返ると、少しだけ遠慮がちな笑顔。
「あれー?透ちゃんだー!!どうしたの??」
「見かけたので、声をかけてしまいました」
少しだけ照れたように視線を逸らす。
「あはは!嬉しいなー!!透ちゃんから話しかけてくれてー!」
ぱっと明るく笑う。
その反応に、透も少しだけ安心したように微笑んだ。
「あ、そうだ水瀬さん」
「なーにー??」
少しだけ間を置く。
言葉を選ぶように。
「海はお好きですか?」
「海ー!?勿論大好きだよ!!よく絵を描きにいくもん!!透ちゃんも好きなのー??」
「はい。あの……よかったら」
一瞬だけ迷う。
それから、静かに続けた。
「一緒に行きませんか。その、二人で」
「行くいく!!」
即答だった。
「いつ行くー??」
ぱあっと表情が明るくなる透。
「今はシーズン外なので、人が少ないんです」
「絵や写真を撮るのに良いかなって」
「さっすが透ちゃんだね!!」
ぴょん、と軽く跳ねる。
「楽しみだなー!透ちゃんとお出かけらんらんらーん♪」
(もっと、意識してもらえるように……)
小さく拳を握る。
(頑張ろう)
⸻
放課後。
静かな海。
人の気配はほとんどなく、波の音だけが広がっていた。
「水瀬さん、足元気をつけてくださいね」
そっと手が差し出される。
ぱしっ
迷いなく握る小春。
「ふふ、握手になっちゃいました」
「違ったー??」
「いえ、ふふ」
自然に指先を絡めるようにして、手を引く形へと変える。
「まだ少し肌寒いですね」
「そうだねー!!」
ぴたっ
「うわっ!?み、水瀬さん!?」
後ろから、ぎゅー。
「どうかな??あったかい??」
背中越しの体温。
突然の距離。
透の思考が一瞬止まる。
(あったかい……けど)
(色々と、近いです)
「ふふ、はい。あったかいです」
やんわりと距離を整える。
そのまま、手を取った。
「こっちの方が歩きやすいですから」
「確かにー!!」
手をぶんぶん振りながら歩く。
「頭いいね透ちゃん!!るんるんるーん♪」
(あー……)
(全然ときめいてくれないや)
苦笑い。
(僕の押し弱いかな)
(もっと鬼塚さんみたいにするべき?)
「透ちゃん!!みてみてー!!」
「あ、はい!」
指差した先。
波が光を反射して、きらきらと輝いていた。
「あの波!銀色みたーい!!透ちゃんカラーー!!」
「僕の色……」
(僕のこと、考えてくれてる)
じんわりと胸が温かくなる。
「はぁ!!描きたくなってきた!!」
「描く描くぞーーー!!」
ぱっと手が離れる。
小春は走っていき、スケッチブックを取り出した。
真剣な表情。
さらさらと、迷いのない筆の動き。
透は、そっと自分の手を見る。
(離れちゃった)
少しだけ寂しい。
(僕のこと、1番にしてほしい)
(絵よりも)
小さく首を振る。
(でも)
(それじゃあ水瀬さんじゃなくなるよね)
風が吹く。
ポニーテールが揺れる。
星の髪飾りが、小さく光った。
夕日が差し込み、
静かに絵を描く小春の姿を照らしている。
透はそっとカメラを構えた。
声はかけない。
邪魔もしない。
パシャ
小さなシャッター音。
写真を確認することもなく、
ただ、小春を見つめていた。
(……綺麗)
しばらくして。
「透ちゃーーん!!みてみてーー!」
完成した絵を持って駆け寄る。
「わあ!!凄い……」
波の迫力。
光の表現。
揺れる色彩。
「光と影のバランスが絶妙で、ここなんて本当に……」
思わず言葉が増える。
「透ちゃんありがとー!!」
嬉しそうに笑う。
「透ちゃんは私の絵、大事に見てくれるから大好き!!」
「ふふ、そうですか?」
「水瀬さんの絵が魅力的なだけですよ」
「ええー!!そうかなー!!」
くるっと回る。
「えへへ、嬉しいなー!!ありがとうーー!!」
変わらない笑顔。
変わらない距離。
変わらない温度。
でも。
確実に、心は動いている。
(変わらない君)
(でも、だからこそ——)
静かに、
深く、
落ちていく。
波の音が、静かに響いていた。
海って、
やっぱり綺麗だな。
そう思った、
こはちゃんだった。
貴重なお時間ありがとうございました!




