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二人の厄介児・13

 ネアンストール防衛軍魔法使い筆頭執務室。


「で、どうだった?」


 問いかけたのは魔法使い筆頭ゲイルノート・アスフォルテ。椅子に浅く腰掛け、机に乗り出すかのように腕を乗せている。


 向かいに立つのは魔法使い次席レイン・ミィルゼム。こちらは口元に薄く笑みを浮かべ、浮ついた気分を隠そうともしない。


「随分と愉快な代物だったさ。あの()()()()()とやらは」


「ほう」


「なんせ中級魔法のフレイム・ストライクで例の盾の防御結界をぶち抜くときた。確かに杖の性能は無視できない要素だが、それを差っ引いても貫通力の増加は顕著と言える。実用性など考えるまでもないね」


「やはりか。想定していたとはいえ喜ばしい限りだな。早速王立魔法研究所に結果を送って以後の研究を引き継がせるか」


 モッチーが発案したドリルのような魔法。それがレナリィの手で魔法術式に組み込まれ、いくつかの魔法が試験的に作成された。


 それを試験運用して性能評価を行なっていたが、話を聞きつけたレインも参加し好奇心を満たしていたのである。


 とはいえ全ての魔法をレナリィ一人にやらせるのは時間がかかる。その上、研究させたい魔法は数が多い。……これは主にモッチーからの要請のせいであるが。


 そこで苦肉の策として一定の成果が出た時点で多くの研究者を抱える王立魔法研究所に丸投げするという荒技を行おうというのだ。ただ王立魔法研究所にとっては明確に成果が見えている内容なので歓迎されるという利点はある。先のネアンストールからの数々の技術提供……ほとんど全てがモッチーからのであるが、それによって王立魔法研究所としてはいち早く成果を出して立場を回復したいという思惑があるのだ。


「それで開発者様はまだ来ないのかい?」


「すでに人を遣っているのだがな。あれは一つのことに集中すると周りが見えなくなる欠点がある。話を聞かせるのに難儀しているのだろうよ」


 そう言って苦笑を浮かべ、すぐに別のことに思い至って更に深くなった。


 モッチーも似たようなところがある、と。程度の差こそあれど。


 そのことにレインも思い至り、場になんとも言えない空気が漂う。


「それで姪御殿は筆頭殿から見てどうなんだ? 王立魔法研究所に入るくらいだ、それなりの才能はあるんだろう」


「ああ。あれは研究者としてならば希有な才能の持ち主だ。仮に魔法使いに生まれていたならばお前の立場を脅かしているだろうよ」


「ほほう、聞き捨てならないと言いたいところだが頼もしいね。少年に付けるには不足が無い」


「そうだな。あれで仲良くやってくれるなら言うこともないんだがな。……ままならん」


「相性が悪いか?」


「うむ。どうやらレナリィの方が一方的に意識している様子だったな。嫉妬でもしたのかもしれん」


 出会ったばかりでモッチーも困惑した様子だった。それに昔から人付き合いに難がある性格である。十分に考えられた。


「嫉妬ねえ……強いな、心が」


「そう思うか」


「ああ。闘争心の現れだろう? 少年相手に対抗しようなんてよっぽど自信があるか馬鹿のどちらかでしか無いからな」


 そもそも技術部の連中が早々に匙を投げるような相手。トップレベルなどではなくまさに人外の領域にいるのだ。普通の人間なら闘争心など芽生えないし敵対しようとも思わない。


 つまり自分ならば超えられるという確固たる自信に裏打ちされていなければ対抗心など燃やさないのだ。


 ……ちなみにお世辞も多少は含まれている。


 そうこうしているうちに廊下から足音が聞こえてきた。小さく高い音からしてレナリィだろう。


 果たしてノックして入室してきたのは予想通りの人物。金髪縦ロールの侯爵家令嬢だ。


 だがゲイルノートは彼女を見てわずか動揺してしまう。


 見間違いか? ……いや、そんなはずは無い。どういうことだ?


 内心の疑問を抑え、努めて平静を装う。


「どうだレナリィ、研究は順調か?」


「はい、伯父様。()()()()()に関しては時間さえ頂ければ全ての魔法に適用可能です」


「うむ、流石だな。だがすでに結果が見えていることに時間を取らせるのは浪費であると判断させてもらった。ついては残りの作業については王立魔法研究所に委託する。異存はあるか?」


 ともすれば成果を取り上げるような所業である。不満や不快が現れてもなんらおかしくは無い。


 だがレナリィの表情は明るく輝いた。


「良いのですか伯父様!? 正直言いますと単純な作業に飽き飽きしていたのです!」


「そうか、ならば良い。今回呼んだのは今後研究してもらいたい案があるからだ。ここにその一覧が記されている。これらの内容について吟味し、優先順位を立てて取り掛かってもらいたい」


 机の上に束ねてあった資料をレナリィの前にスライドさせる。


 これはモッチーから提示された魔法・魔法陣の開発要望と、それを技術部と実践部隊の双方からの視点で評価した内容が記されている。ただしあくまで判断材料の一つであり、優先順位は記されていない。


 レナリィは資料を手に取ると食い入るように目を通していく。


 やはりだ、間違いない。レナリィは()()()()()()()()()()()


 時間にして十数分だろうか。驚異的な集中力で読み続け、思考を続ける彼女を二人はジッと待つ。周りが見えないほど一心不乱になるのはモッチーで慣れたものだ、文句を言うこともない。


 やがてレナリィが資料を閉じたことで間が生まれた。


「どうだレナリィ?」


「非常に興味深い内容ですわ。実現できれば大きな変革が生まれるものから実用性を疑うものまでありますが、だからこそどのように使用するのか興味を惹かれます。ただ画一的に順位を判断するだけでは想定外の見落としが生まれる可能性があるでしょう」


「ふむ」


 技術部からの報告と一致する内容だ。自ら目を通して感じた感想とも一致する。


「ですがいくつか最優先で取り掛かるべき案が見受けられますね。特にこの()()()()()()()。一見すると性能を落とすことと同義に見受けられますが、魔法石の内部刻印の性質を考慮すればむしろ全体的な性能向上に繋がるでしょう。それに鎧や鞘には魔法陣の分散配置が採用されていますが、魔法陣そのものが小型化すれば配置や構造により自由が効きますわ」


 魔法陣は重ね掛けできるという大きな利点があり、魔法陣の無駄を削ぎ落として小型化ができればその分だけ重ね掛けできる余裕が生まれることになる。


 また複雑な魔法陣であればあるほど縮小化が難しい。『聖光領域』が特にそれだ。それゆえ鎧に組み込むのも容易ではなく、分散して配置しなければとても全体を刻み込むことなどできない。それゆえ小型化は至上命題とも言える。


 こと魔法陣に至っては小は大を兼ねるのだ。


 そしてレナリィはもう数個最優先項目を選び出す。それらは納得できるものもあれば首を傾げるものもあった。


 だがそのことが逆にゲイルノートに確信を抱かせる。


 レナリィに任せるのが妥当であると。


「この中には一人で行うには大変なものもあるだろう。それらについては王立魔法研究所に委託するゆえリストアップしておいてくれ。もちろん優先順位も忘れずにな」


「はい、伯父様。お任せください!」


 資料を抱え、嬉々として退室していく姪を見送る。


 随分な浮かれようだ。研究課題が余程に興味を惹かれる内容だったのだろう。


 ……その発案者であるモッチーに対しても同じように接してくれると良いのだが。


 ゲイルノートは苦笑しつつもレナリィに任せることに不安は無かった。王立魔法研究所にとって厄介払いだったことは理解しているが、むしろ最適な人材を送ってくれたことに感謝すらしていた。


「なあ筆頭殿」


 そんなゲイルノートにずっと沈黙を保っていた魔法使い次席のレイン・ミィルゼムが問い掛ける。


「なんだ?」


「姪御殿だが……何かあったのか? 随分と驚いていたみたいだが」


 どうやら見抜かれていたらしい。それなりに付き合いの長い二人だ、むしろそれくらいは容易に分かると言うものか。


「……俺の固有スキル、『真眼』だが」


「人や物の才能や潜在能力を見抜くスキルか」


「ああ。それを活かして俺は英才教育論を唱えた」


「覚えているさ。才能とは能力の限界。そして才能はおおよそ十歳程度で固定される。だからそれまでに如何に才能を伸ばす教育ができるかが将来を決める、だったか」


 ゲイルノートの無二の才能である『真眼』スキル。それによって人を観察した結果、十歳前後で才能の成長が止まることが確認された。


 才能とは能力の限界。つまりどれだけ努力をしても才能の無い人間は才能のある人間には決して届かない。そんな残酷な現実を直視できたゲイルノートは如何に才能を高い水準まで伸ばすかを重視した。それが幼少期からの英才教育である。


 とにかく才能を限界まで伸ばし、その後努力によって才能を限界まで引き出す。それこそが最適な教育である、と。


 そしてその考え方は国中に広まり、今や上は王族から下は平民に至るまで子育てに心血を注ぐ。もう十年もすれば明確に結果に現れてくるだろう。


「そしてレナリィだがな」


「俺と同じくらいの才能があるんだろう?」


「いや。()()()()()()


「…………はあ??」


「今この時も才能が伸びている。驚異的なスピードでな」


 レナリィがここに来た時、明らかに前よりも才気の輝きが増していた。そしてそれは資料に目を通している間もずっとだ。


「才能の成長が止まって無いのか?」


「いや。確かにレナリィは十一の時に才能の伸びが止まった。先日ここで顔を合わせた時も変わっていなかったことは確かだ」


「だが実際に成長しているんだろう」


「ああ。……一つ可能性がある。モッチーだ」


「少年か? 少年がどう関係するんだ?」


「レナリィの才能が伸びたのは資料に目を通している時。資料に記載されているのはモッチーの発想だ。つまり、レナリィはモッチーの異常な発想力に触れることで才能を開花させている。……どうだ?」


「……なるほどねえ。少年の才能は後にも先にも現れる事はないほどのレベル。それに触発された。確かに筋は通る」


「となるとだ。才能の成長が十歳前後というのも間違いなのかもしれん。要検証だな」


「もしくは少年の存在が異常なだけかもしれんがな」


「ははっ、確かにその方が納得できるな」


 何せ才能の大きさ、発想力、謎の固有スキル『鍛治師』、全属性(オールマイティ)。常識の埒外にいるような存在なのだ。他人の才能に影響を与えても驚きは無い。


 新しい魔法術式。レナリィの成長。そして突き進み続けるモッチー。


 上手く回っている。少しは竜討伐への希望が見えてきたかもしれない。


 二人が頷き合う中、廊下からドタバタと慌ただしい足音が近づいてくる。


 バタン、と乱暴にドアが開け放たれ、先ほど退室したレナリィが姿を見せた。


「おい、レナリィ。ノックくらい……」


「伯父様、これですわ!!」


 ゲイルノートの言葉を遮るように声を張り上げたレナリィが資料を広げる。




 そして続くレナリィの言葉に二人の魔法使いは揃って目を見開くのだった。

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