表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
90/146

二人の厄介児・12

 モッチーが帰った後、“猛き土竜”の拠点ではスルツカ用の試作品をテーブルに並べて観察が行われていた。


 鎧やガントレットは以前にも見ているので、主に杖鞘と魔法剣がメインだ。


「ふむ。以前にラインやツーヴァが持っておるのを見たが、魔法石を取り付けず取り回しに不安の無い魔法剣というのはなんとも不思議なものじゃのう」


「そうですね。やはり魔法剣とは柄頭の魔法石を如何に傷付けずに振るうかが問われていましたから、その難点が解消されたというだけでも革命的だと言えますね」


 ノルンやセレスティーナにとっては見た目が普通の鉄剣と変わらないこの魔法剣は違和感が拭えない。


 スルツカに与えられた魔法剣は見た目は両刃のロングソードだ。片刃と違い刻印可能面積が少ないため出力を魔力許容量増加に頼っており、最大威力を発揮するためには相応の大量の魔力を込める必要がある。


 とはいえ『エンチャント・シャープネス』と『耐久強化』が施されているため切断力と耐久力の両方に高い能力を発揮するので、技量次第でかなり広い範囲の相手と渡り合えるだろう。その点では純粋な剣としての強化がなされていると言って良い。


 それに軽鎧は威力向上にウェイトを寄せることで消費魔力低減を目指している。魔力消費を考慮してバランスを取ったのだろう。


 最大能力はその分抑えられているが、元々スルツカは身体能力が高く技量に優れる。十分に対応できるはずだ。


「刻印を変えることで使用者に合わせて自由に能力を変えることができる。やはり便利な物じゃのう。これまでは品質だけが判断基準だったんじゃが、これからはそれ以上に自分に合った装備を選んでいく必要があるのじゃろうな」


「ふひっ。末端はまだまだ先の話なの。ミーナたちは運が良いなの」


「そうじゃのう。“赤撃”がモッチー殿を連れてきた時は何故このような少年を、と心配したのじゃが今となってみればこれ以上無いほどの慧眼じゃったのじゃな」


「ふひっ。最高の青田買いだったなの」


 モッチーは冒険者としては駆け出しでFランクモンスターですら危うい程度の実力。だが鍛治師、魔法石技師としては世界の最先端を突き進むまさにオーバーランクな存在だ。その影響力は軍のみに留まらず国の舵取りにすら影響を及ぼすほどになっている。


 “赤撃”もまさかここまでの結果を出すとは思っていなかった。ティアーネと相性が良かったのと、せめて実戦で使えるような装備が作れるようになればという程度の期待しか無かった。実際、魔法石の内部刻印を発明した時は度肝を抜かれたという。


 すでにパーティーメンバーとして誼を結んだ“赤撃”はこれから先の更なる飛躍は約束されたようなもの。そしてそのモッチーとコンタクトを取りたい冒険者たちは多く、すでに水面化で動きがあると聞く。


 “猛き土竜”も良好な関係を結んでいるとはいえ、これから先に縁が切れないとも限らない。それを繋ぎ止めておくことはこれからの冒険者生命にとって重要なことになる。


 その点、すでに“赤撃”に渡りをつけているミーナはそれを見据えての行動だったのだろう。個人的にもモッチーを気に入っている節がある。


 “先導者”のノルンとしては弟子が巣立とうとしているのは嬉しいことだ。ミーナは自分の力でパーティーを決めて行動している。しかし頭が痛いことに他の弟子たちにはそれが無い。


 自分が弟子たちの進路を勝手に決めてしまうことは出来ない。あくまで自らが決めることだ。


「あの、スルツカさん。少し魔法剣を振ってみても良いですか?」


「構わない」


 了解を取ってセレスティーナが魔法剣片手に裏口から外に出る。庭で素振りをするのだろう。


 残った面子の視線は杖鞘に向かう。


「ふひっ。相変わらずモッチーは変なことを考えるなの。どうせこの鞘も手を入れまくって真似できないクオリティになってるなの」


 そう言って鞘の内側を覗き込んだミーナが怪訝な顔をする。ノルンが横から覗いてこれまた首を捻った。


「ちょっと貸しなさい」


 命令口調で取り上げたのはキャンベル侯爵家四女のレナリィ・キャンベルだ。ミーナの友人であり、国立魔法アカデミーを卒業後に王立魔法研究所へ入る。その後ネアンストールにてモッチーの補佐についたという。


 彼女は鞘の内側をジッと覗くと少々眉を潜め、しばらく無言で睨み付けている。


「効率が悪いわ。勿体ない」


 ポツン、と呟いた言葉にノルンやミーナが首を捻った。


 モッチーの刻印技術は遥か高いレベルにあり、国や軍の技術者でさえ模倣することができないという。レナリィにしても同様のはずだ。


 杖鞘の内部には魔力回路が複雑に絡み合っていて容易に全体像を読み取れない形になっている。そこから一体何を読み取ったというのか。


「ふひっ。勿体ぶってないで説明しろなの」


「魔力回路の接続の仕方よ。繋ぎ方は正しいけど意味を持った繋ぎ方じゃないわ。やり方を変えれば魔力回路同士で余剰効果を持たせて性能を上げることができるわ」


「ふひっ。魔力回路は魔力供給をコントロールする役目じゃなかったなの? 余剰効果を持たせて何の意味があるなの」


 そもそも魔力回路は複数の魔法陣へ正しく魔力を配分するためのものだ。すでに正常に機能しているものを更に強化することに意味は無い。それならば他の機能の強化に目を向けるべきだろう。


 だがレナリィは首を振る。


「魔力回路をただの魔力の導線にしておくのは勿体無いのよ。複数の魔法陣への魔力供給が正しく行われるのだから()()()()()()()()に組み込んだ魔法陣にも適用されるわ。なら魔力回路内にも魔法陣が入るよう繋ぎ方を考えるべきではなくて?」


 ただ魔法陣を繋ぐだけの機能にするのではなく、そのものにも魔法陣を入れることで全体の性能を底上げする。


 なるほど、鞘を刀身の収納具ではなく他の効果を持たせることと発想は同じか。


 ノルンはモッチーと同じ考え方を示したレナリィに感心する。若さゆえなのか才能ゆえなのかは分からないが発想力は共に似ているのかもしれない。補佐を任されたのもその辺りが理由なのだろうと推測した。


 実際は厄介払いで飛ばされてきただけなのだがノルンが知る由も無いことである。


「ふひっ。モッチーみたいなこと言うなの。なんだかんだで相性良いなの」


「やめなさいよ! ……うう、鳥肌が立ってきたわ」


「ふひっ。モッチーもご愁傷様なの」


 くつくつ笑うミーナにノルンが苦笑いになる。


 平凡を自覚するノルンにとって侯爵家の息女は天上の存在に近い。それゆえ何の遠慮もなく不躾な対応をする姿は空恐ろしい様に映っていた。レナリィが訪問してくることも驚天同地だが、言葉を交わすことなど恐れ多くてできないでいる。


 おそらくセレスティーナが素振りをと外へ出たのはこの場から離れるためだったのだろう。


 その点、馬鹿弟子のウルズが何も喋らないのは僥倖と言えた。気分を害されて揉め事になるのは目に見えていたからだ。


 このウルズ、様子がおかしくなったのは竜との遭遇戦からだ。より正確には“赤撃”とミーナが生還したのを知ってからだった。


 恐怖に駆られ、役立たずと生かされ、そして自身が居ずとも彼らは竜から生還した。そのことがウルズにとって衝撃的な出来事だったのだ。


 ウルズはずっとラインをライバル視してきた。年も同じで冒険者ランクも同じ。張り合うことを楽しんできたのだ。


 しかしモッチーが現れてから全てが変わった。


 ラインら“赤撃”は瞬く間にAランクに駆け上がり、Aランクモンスターすらタイマンで屠るようになった。そして今、“猛き土竜”はミーナが皆を引っ張っている。


 共通するのはモッチーから装備を授けられたこと。たったそれだけのことなのに自分とは遠く離れた場所へ行ってしまった。


 そして今、ウルズは悩んでいる。おそらく自らの壁を破ろうとしているのだろう。


 ノルンは遅れてやってきた弟子の成長を内心では喜んでいた。


 手のかかる弟子ではあったが、それだけに感慨もひとしおである。願わくば一角の冒険者として大成して欲しいものだ。


 ウルズ、ミーナ、スルツカ、セレスティーナ。最後の弟子となるだろう彼らの前途をノルンはただただ祝するのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ