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二人の厄介児・11

「どうもこんにちは〜。スルツカさんいますか?」


「こんちには、モッチーさん。ちょっと呼んできますね」


 “猛き土竜”の拠点を訪れた俺は大和撫子風巨乳美少女のセレスティーナさんに迎えられて居間に通された。


 すぐにスルツカさんが顔を見せ、パーティーの面々も続々と集まってくる。


 その中に予想外の人間もいた。


 ミーナと共に姿を見せたのは目付きの鋭い金髪縦ロールの美少女、レナリィ・キャンベルだ。


 え、なんでいるの?


 内心で疑問に思ったが、ミーナの友人だったと思い至って納得する。護衛の人たちの姿は見えないが、一人で来たのだろうか。随分と腰が軽いようだ。


「ほほ、今日は一体どのような用向きかの? スルツカにということは前に言っていた装備のことかの」


「そうなんですよ、ノルンさん。とりあえず試作品が完成したので渡しに来ました」


「ほう、それは楽しみじゃのう。どれスルツカ、早速身に付けてみてくれんかの」


「了解した」


 俺はテーブルの上に持ってきた装備一式を広げる。


 皆がそれぞれ興味津々で見守る中、スルツカさんが一つずつ身に付けていく。事前に採寸はしてあるからサイズに問題はないはず。


 それを食い入るように見るのはレナリィさんだ。何かを呟くように口を動かしては頷いたり首を振ったりしている。おそらくどんな性能なのか分析しようとしているのだろう。


 一通り身に付けたスルツカさんは魔法剣の抜き差しや重さ、ガントレットの収まり具合を丹念にチェックしている。この辺りは身体の動かし方に影響があるからじっくりと入念に行なっている。


「さて、モッチー殿。そろそろ装備の説明をしてもらえんかの」


「了解です。では最初に軽鎧から。これはツーヴァさんと同じく防御を捨て、『聖光領域』の発動に特化した設計になっています。また、威力向上を重視することで消費魔力低減を目指してあり、持久戦向けとなっています」


「ほう。ということは最大出力は低めになっておるのかの?」


「はい。攻撃を避けるのは技量に頼る部分があるのでそこはスルツカさん次第と言えますね。とはいえ決して低いわけではありませんけど」


 そもそも使用している魔法石の体積に比例して魔力許容量などの各数値も上昇しているのだ。軽鎧ほどの体積ならば無視できないほどには恩恵がある。


 そしてガントレットは前に渡した試作品から多少の改良を加えた一品で使い勝手はほぼ同じだ。表面積を増やすために少し大型化した程度。


 魔法剣に関しても魔法銀を使っているので魔法石を取り付けていないため、取り回しに苦心することはない。普通の鉄剣に比べて多少重さがあるがレベル相応の筋力があれば振るうのに支障はないだろう。身体強化があるから尚更だ。


「それで今回、一番試して欲しいのはこの鞘なんです。先っぽに魔法石を取り付けてあるので分かると思いますけど、杖の機能を持たせています。性能は『重量杖』の六割程度で最大出力に特化してます。ただ取り回しについては実際に試してみないことにはなんとも言えません」


「六割じゃと……? それだけでも破格の性能ではないか。そのような物を用意してもらえるとは本に有り難いことじゃのう。スルツカよ、せっかくの好意じゃ、抜かるでないぞ」


「最善を尽くす」


 魔法でも剣でもかなり高いクオリティを発揮するスルツカさんならあらゆる場面で鬼のような強さを発揮してくれるに違いない。


 流石に魔法や剣に特化した人に比べたら劣るのは仕方がないが、総合的な戦闘力と対応力は勝るとも劣らないはず。


 後はスルツカさんに合うかどうかだろう。


 だがそこに冷や水を浴びせる者がいた。


「欠陥品じゃないのよ」


 シン、と場が静まり返る。


 発言したのはレナリィさんだ。ジッと装備を見つめている。代わりに言葉を続けたのはミーナだ。


「ふひっ、組み合わせが悪いなの」


「組み合わせ?」


「ふひっ、魔法剣を鞘に入れたままだと魔法が使えないなの」


 そもそも魔法剣で魔法を使えないのは魔法剣に内蔵されている魔法陣と魔力回路に魔力の流れを奪われてしまい、発動しようとする魔法が乱されてしまうからだ。


 ならば杖鞘の中に魔法剣が納められている状態だと当然、魔法剣に魔力の流れを奪われてしまうことになる。つまり抜刀状態でしか魔法が使えないのだ。


「なるほど……つまり普通の鉄剣じゃないと駄目なんだな。けどそれだと攻撃力がちょっと心配なんだよなぁ」


 そもそも魔物は硬い。エンチャントや耐久強化が無ければまともにやり合うことはできないのだ。それが高ランクの魔物になればなお顕著になる。だから魔法剣という選択肢は外すに外せない。


「それなら鉄剣にして自分でエンチャントをかけるのはどうかな。それなら悪く無さそうだけど」


 皆の視線がスルツカさんに向かう。


「問題無い。だが混戦時に魔法を構築する余裕が無い可能性がある」


「剣士は常に身体強化を行なっていますから。切り結びながら魔法を同時発動するのは容易ではありませんよ。その点、魔法剣だと魔力を込めるだけなので負担はほとんどありません」


 セレスティーナさんの説明を聞いてああ、と納得する。


 剣士は常に敵と身体強化と二つのことを同時に意識しているのだ。それがさらにタスクが増えると追いつかないのだろう。


 もちろん状況に余裕がある時はそうではないが、混戦時にジリ貧になるのは如何にも不味い。


 ということは混戦時には魔法を使うのも難しいと言えるだろう。


「それだと欠陥でもそこまで障害にならないような気がするんですけど。ぶっちゃけ抜刀してれば魔法は使えるし、どうしても納刀したまま魔法を使いたいって場面はないんじゃ」


「そうですね。剣を持っていたら魔法が使えない、なんてこともありませんし」


 そうなると問題は取り回しの部分になる。要は使い勝手だ。


 せっかくの試作品、そういった部分も検証していかなければ。


「ではとりあえずのところは使い勝手その他諸々を検証していただくと言うことで。スルツカさん、何かあればどんどん言って下さい」


「分かった。恩に着る」


 ひとまずはこんなところか。後はスルツカさんの要望に合わせて変えていけばいい。


 これでもう残っているタスクはセレスティーナさんの装備だけか。これはロックラック親方の完成待ちだ。


 そうだな、一度進捗を聞いてみよう。それに刀の鍛造も練習しておかないといけない。……やることが減らないな。


 あ、でもセレスティーナさんってまだ普通の軽鎧だったっけ。『聖光領域』搭載アーマーだけでも先に作っておいた方がいいかもしれない。そうしないと今の合同パーティーでついて行けなくなるかもしれないし。


 ……うん、そうだな。ひとまず全員の装備を揃えておくのも良いかもしれない。装備がある人と無い人で戦力の差があり過ぎるし。


 それを話したらノルンさんやセレスティーナさんに酷く恐縮されてしまった。気を使うなと言われたけど、装備は命がかかってるんだし、性能が高くて困ることなんて無い。安全マージンを取ることにもなる。


 だから押し通させてもらった。少々強引に了承を得た。


「すまんのう、モッチー殿。これほどの恩、如何にして返せば良いのやら……」


「本当にありがとうございます。私たちで出来ることならなんでもしますからいつでも言って下さい」


 くすぐったいというかなんというか。ここまで喜んで貰えると素直に嬉しいな。


「ふひっ。装備に見合った活躍をするのが一番の礼なの」


「そうそう。ってミーナ、それ俺が言う台詞……」


「ふひっ。気にするななの。ミーナとモッチーの仲なの」


「おう。だからそれも俺の台詞な」


 いつも通りと言えばいつも通りなやり取りにノルンさんやセレスティーナさんが笑みを浮かべる。


 まあなんだかんだでミーナはムードメーカーなんだ。こういう時に場を和ませてくれるのはとても助かる……のだが。


 なんでレナリィさんはものすごく厳しい目で睨み付けてくるんだよ。俺が何したってんだ。なんだよ突然ぶん殴る上にやたらと敵視する女心って。意味不明だわ説明してくれよホント。


 それにウルズさんもさっきから一言も喋ってない。いつもなら頓珍漢なこと言ってノルンさんに呆れられたりするんだが、今日はずっと装備を見て黙ってる。こっちも謎だ。何があったんだ。


 もしかしたら“猛き土竜”の中で何かあったのかもしれない。たぶんそのうちいつも通りに戻るだろう。


 気になることが残りつつ、俺は“猛き土竜”の拠点をお暇した。

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