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突き進む者たち・2

 明くる日から俺はロックラック親方に頼み込み、研究時間に多く時間を割くことを認めて貰った。


「なんかあっさり許可されたな」


「そりゃあれだ、親方は例の研究に夢中だからな。一刻も早く成果を出したいから小僧に構ってる暇がねえんだ」


 答えたのはロックラック工房の一番弟子ガジウィルさんだ。俺の研究の手伝いをしてくれる良い兄貴分である。


「ああ、なるほど」


 考えてみれば親方に魔法銀の鍛造の研究をお願いしていたんだ。というかその完成待ちの装備案が積み上げられて行っているくらい。


「やっぱり結構難しいんですかね?」


「いや。大まかな鍛造法は確立しているそうだ。問題は反りを出す方法と焼き入れの温度だな」


「ああ、確か鉄なら水に入れて急冷するんでしたっけ。その温度次第で出来が変わるから最重要項目になっているとかいないとか?」


「その通りだ。ちなみに昔は手を入れて温度を盗もうとした弟子が怒った師匠に腕ごとぶった斬られたこともあったらしい」


 なんか日本でも聞いたような話だな。どこの世界でもやることが同じなら似たようなことが起こるもんだな。


「けど温度次第なら数打てばなんとかなるのでは? 材料はいくらでも手に入るから問題ないし、親方が苦戦するとは思えませんが」


「ああ。鍛錬時の性質崩壊も安定化の刻印を台座に施すことで解決させ、すでに試作の直剣も打っている。すぐに解決できる……と思うのだが」


 そう言って頭を掻くと、溜め息混じりに小声で話してくれた。


「小僧に上を行かれたくないようでな、満足いく出来になるまで完成じゃないと躍起になってるのさ」


「わお。すごいプライドですね。これは相当良い結果が出そうだ」


「……つくづく大物だな。負けたくない、悔しい、とかそういう感情は無いのか?」


「え。……うーん、どうなんでしょうね。自分では分かりませんけど、あんまり気にしてない、ような気がします」


「そうかい。大したヤツだよ、小僧」


「それはどうも?」


 よく分からないけど評価されているらしい。何故だ。


 ただ魔法銀の鍛造法はもう少しで完成するらしいのは朗報だろう。後は待てばいい。


 そしてこっちはこっちで三日以内に完成させたい装備がある。


「では今日も新装備の開発と行きましょう! すでに研究したい装備は決めてますんで」


「ほう。言ってみろ」


「はい。前に作った『聖光領域』搭載のアーマー、あれの軽量版を作ろうと思います」


 前のはラインさん向けの重鎧だったから高い性能を持たせるのもできたし、出力も期待できた。けど当然ながら軽鎧を使う戦士もいるわけで、そういう人用のライトアーマーを開発したいのだ。


 もちろん対象はツーヴァさんである。今はキングファングの皮鎧を使っていて防御力もあるのだが、やはり『聖光領域』が無いと戦闘力の向上は見込めない。


 それに“猛き土竜”のスルツカさんやセレスティーナさん、筋肉達磨も軽鎧だし、いずれは必要になるはずだ。


「スピード重視の軽戦士向けの防具、という認識で良いのか?」


「はい。出来る限り軽量にするので、防御力や『聖光領域』に関しては自前の魔力でなんとかしてもらう必要があるでしょうけど」


「なるほど、魔法銀の総量が減り、魔法陣も小型化するからか。自前でなんとかする、ということは出力重視で行くのか?」


「はい、威力向上の刻印で無理矢理出力を上げてしまおうかと。とはいえ重鎧の劣化になっちゃったら意味が無いんで、そこをどう工夫するかが肝ですね」


 完全下位互換だと価値が無いので、なんらかの決定的な強みが必要になる。しかし体積の問題からどうしても劣化になってしまうのは避けようがない。……さて。


「とりあえず工夫を考える前に雛形を作りましょう。現物を見ながらの方がきっと想像しやすいでしょうし」


「それもそうか。では小僧、今回は俺が補助してやる。やってみろ」


「了解です」






「とりあえず雛形は出来たわけですが」


「……性能は目も当てられんな。いや、確かに世に出せば誰もがこぞって手に入れようとする品にはなっているのだがな。どうも小僧の感覚が移ったらしい」


「はは、常に向上を目指すんですから満足より不満の方が良いんじゃないですかね」


「それもそうか。で、こいつをどう昇華させるかだが」


 目の前には至ってシンプルなデザインのライトメイルが仕上がっている。『聖光領域』を刻印し、威力向上の刻印と共に魔力回路を用いて分散配置を施している。これだけでも上級に近い身体強化を発揮できるだろう。


 だがこれでは足りない。今のままでは完全に重鎧の劣化でしかない。


「とりあえずこれの利点を挙げるなら軽さだな。当然だが、体積が小さい分だけ軽くなる」


「ええ。そして出力が低い分、重鎧より長く戦えますね」


 継戦能力の高さ、と言えば聞こえはいいが、やはり出力が低ければ強敵とは渡り合えない。ここだけは必ずどうにかしなければならない問題だ。


「いっそ劣化と割り切って使い勝手を優先するというのはどうだ」


「ん〜。たぶん国立魔法研究所とか軍の技術部なんかはその方向に走ると思うんですよね。ほら、『重量杖』なんかでもダウングレードしたのを生産してるじゃないですか。だから俺たちまで劣化品を作る必要はないと思うんですよね」


「(たぶんダウングレード版しか作れないんじゃないか?)それはそうだがな。だがやはり体積の問題を解決しないことには性能アップは難しい。そして体積アップはそのまま質量アップだ」


「うーん。体積を増やさないと魔法石の体積が増えない。刻印を大きくしようにも体積を増やさないと表面積は増えないわけで……」


 なんて面倒くさい問題なんだ。だからといって魔法陣を緻密にびっしり埋めたところで表面積の限界が性能の限界。


 やっぱり体積かぁ。


 …………ってあれ?


「体積を増やさないと表面積が増えないって……本当に?」


 よくよく考えてみればそれっておかしくないか。だって形や厚みによって同じ体積でも表面積は変わってくるし、本なんか体積が無いのに文字びっしりだ。


「どうした小僧」


「そうか、積層配置だ。ガジウィルさん、積層配置ですよ!」


「積層……?」


 例えば紙を束にする様に。魔法陣を刻んだ魔法銀を幾重にも重ねることで刻印面積を大きくしてやればいいのだ。


「つまりですね、薄い板を何重にも重ね合わせるんですよ。そうすれば同じ体積でもより大きな刻印面積を確保できます!」


「重ね合わせ……その手があったか! 確かにそれなら」


 思い立ったら即行動。俺たちは早速とばかりに生産に取り掛かる。


 元々鎧職人のガジウィルさんが本気で取り掛かれば簡易な薄鎧など朝飯前。それをパーツごとに重ねられるよう調整しながら都合コンマ三ミリ掛ける五枚の装甲板として構成した。


 形は先程のシンプルな鎧と同じにし、性能比較にはいる。


「どうです、ガジウィルさん」


「どうって言われてもな。あれだ、重鎧の時と同じだ」


「同じということは少なくとも上級レベルの身体強化は発動出来ている、と?」


「ああ。俺の身体強化では限界まで発揮出来なかった。間違いない」


 ガジウィルさんは『聖光領域』によってギリギリ上級レベルの身体強化を発揮できるのを確認している。都合良く上級チェッカーの役割を果たせるわけだ。


 となるとこれがどのくらいの効力を発揮できるかを確認しておかなければならないが。


「ひとまずこれはテストを兼ねて一旦持ち帰りますか。それで性能を確認してから再度改良を目指しましょう」


「そうだな。じゃあ今日のところは昨日の実験の続きでもするか?」


「それもいいんですけど、もう一つだけ作ってみたい装備があって」


「ほう、なんだ?」


「それはですねーーーー鞘です」

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