突き進む者たち
「旨い酒とAランクへの昇格に! 乾杯!!」
「「「乾杯!!」」」
俺たち“赤撃”は見事にAランクへの昇格試験に合格し、拠点で打ち上げを行なっている。
そもそもすでにAランクと比べてもぶっちぎりの実力になっている皆なわけだから、試験内容である『三日以内にAランクモンスターを二体討伐する』ことなんて発見さえできれば朝飯前なのだ。
身分証であるギルドカードもAランクに上書きされ、ついに名実共にネアンストールのトップに躍り出たわけである。
「とは言っても俺はまだFランクだけどな」
「ん。モッチー不参加」
「普段からな〜。てか俺個人の実績もないから当然だな!」
月一の狩りでランクが上がるほど冒険者ギルドも柔じゃないってことだな、うん。
まあぶっちゃけEランクへの昇格すらまだまだ先だろう。一体いつになることやら。
いつも通り酒飲み三人衆を見ながらティアーネと並んで食事していると、入り口がノックされる。ツーヴァさんが対応し、姿を見せたのは“猛き土竜”の面々だ。
「おう、ライン。Aランクに昇格っつうんで祝いに来てやったぞ。酒寄越せや」
「ほっほ。まずはおめでとう、じゃな。ところでまた芳醇な酒の匂いがするのう?」
筋肉達磨の“狼藉者のウルズ”に、“先導者”ノルンさん、そして斥候スルツカさん、美少女剣士セレスティーナさん、そしてたかり屋……ならぬヒーラーのミーナ。一同総出だ。
彼らの訪問に上機嫌のラインさんが酒樽を持ち上げて笑みを見せる。
「おおっ、よく来たな。何を隠そうこいつはロシナンテ伯爵領名産の古酒、『鬼の涙』だ。香りも味も酒精も強いクセになる名酒だぞ」
「ほっほっほ。『鬼の涙』とはまた珍しい酒を手に入れたものじゃのう。生涯で一度、飲めるか否かの品じゃて」
「ふひっ。ミィルゼム子爵家がロシナンテ伯爵家の寄子なの」
「なるほどのう。ではかの英雄レイン・ミィルゼムからの贈り物といったところかのう」
うわすげえ、ドンピシャで当てたよこの二人。頭良すぎるだろビビるわ。
確かにこれは試作武具一式の礼としてレインさんから贈られたものだ。ちなみにゲイルノートさんからも前と同じ二種の酒樽を貰っている。
早速とばかりに二人と筋肉達磨が御相伴に預かり、遠慮がちながらセレスティーナさんも酒に手を伸ばす。
しかし珍しいことにスルツカさんが壁に寄り掛からず俺の前の席に着いた。
「モッチー。少しいいか」
「え、はい。珍しいですね、スルツカさんが座るのも」
「聞きたいことがある」
「なんでしょう?」
なんだか随分と性急な話し方をするんだな。珍しいタイプの人だ。
「見合う武具が売っていない。要求する性能を備えた物がない。どれを試しても合わない」
すげえ直球というか話し下手? まあ通じるからいいけどさ。
「それってつまり武具を作れってことですかね?」
「違う。俺に見合う武具が何かを聞きたい」
「へ?」
おいおい、そんなこと戦闘の素人に聞くのか。ノルンさんとかタイプ的に似てそうなツーヴァさんあたりに聞く方が建設的だろうに。
とは言ってもスルツカさんの戦いぶりなんてほとんど知らない。前に合同で狩りに行った時は意識して無かったし、戦争のときは逃げるのに必死で見るどころじゃなかった。
「そうは言われてもスルツカさんの能力とかスタイルが分からないので俺には何とも言えませんよ」
「速度には自信がある。刃物、鈍器、盾、魔法、どれにおいてもそれなりにこなせる」
「…………それで?」
「他に何か?」
おいおい、それでどう考察しろと。じゃあ何か、全部できるなら全部持てとでも言わせたいのか。一体俺を何だと思っているんだ。
とはいえ真面目に考えないと失礼だしなぁ。せめて戦闘の様子を観察しないと何も言えないんだが。
てかそれならまた合同で狩りに行って見せてもらえばいいのか。
「それなら一度、狩りに同行して色々と見せてもらえませんか。俺の意見が参考になるかは分かりませんけど」
「了解した。感謝する」
そう言うと席を立っていつものように壁に寄りかかってしまう。……おいおい、会話を切るのも早いなぁ。
苦笑していると、早くもほんのり顔を赤らめているノルンさんが向かいにやってきた。
「すまんのう、スルツカはどうも他人とのコミュニケーションが苦手での」
「ああ、気にしてないから大丈夫ですよ。それよりノルンさんがアドバイスしてあげないんですか?」
「儂は根っからの魔法使いじゃからの。近接戦闘は門外漢じゃて、どうしても、の」
「そうなんですか? 『先導者』って呼ばれてるくらいだし、幅広く指導してると思ってましたよ」
俺の疑問に、ノルンさんは持ってきていたコップで『鬼の涙』をグイッと嚥下する。
「ふい〜、美味い酒はまこと百薬の長じゃて。……儂は自らの限界を悟っておるからの。戦闘技能、という部分については才ある者に教えられるほどの能力などありゃせんわい。じゃがの、知識と心構えは別じゃ。誰もが努力次第で貯め込み、身に付けることができる」
「知識と心構え、ですか」
「そうじゃ。知識によって魔物に備え、心構えによって実力を発揮する。本来なら経験によって身に付けていくものではあるのじゃが、せっかく才を持って生まれた者たちが道半ばで命を落としてしまうのは偲びなくての」
無謀に走ったり、知識不足によって咄嗟の対応に失敗したり。そうやって死傷者が後をたたない現実があり、ギルドでも初心冒険者に指導を行うなど対策を行なっている。
しかしことネアンストールなどの最前線においては相手の情報も無く突発的な戦闘に陥り易い。故に知識と経験、心構え、そういった戦闘技能外の能力が重視されるのである。
「そうそう、スルツカについてじゃったの。スルツカはとても器用での。何をさせても十人並み以上なのじゃが、それ故に突出した部分が無い。斥候を教えておるのもそれが出来るから、というのが一番大きい理由じゃな」
斥候は器用さ、冷静さ、知識、経験、あらゆる技能を磨き上げなければ一流にはなれない。特にパーティー全体の命を預かる重要なポジションであるため、優秀な斥候こそ最も引く手数多となる。
故にスルツカに斥候の技能を指導しているが、ここで一つ問題が発生する。
なんでも出来てしまうのだ。
前衛職に混じって剣を振るっても、後衛職に混じって魔法を放っても、そつなくこなせてしまう。どこにポジションを定めても勿体ない人材なのである。
さらに当人にはどこを務めるのかについて意思を持っていない。指示されたポジションをこなすだけなのだ。
「そんなスルツカじゃが、モッチー殿ならばもしかすると最適な答えを導けるかもしれんの」
「いや、買い被りすぎでは。俺、戦闘は素人ですよ?」
「ほっほっほ。キッカケなどどこに転がっているのかわからぬものじゃて。それを拾えれば幸運、という程度じゃから難しく考える必要などありゃせんぞ」
そう言ってノルンさんは再び酒樽の方へと戻っていく。
「これ、お主らもっと味わって飲まぬか! せっかくの良酒が勿体無いではないか!」
「はーっはっは、ノルン爺、早い者勝ちだぞ!」
「美味すぎるのが駄目なんだ。我慢なんて無理だな!」
大騒ぎを始める大人組に対して、モッチーは困惑顔で飯をつつくしかない。
期待してくれるのは嬉しいけど、さすがにFランクのペーペーがBランクの熟練者にアドバイス出来ることなんて無いだろうに。
そんな悩みだったが、ふと目に入った人物と目が合って一旦脇に退けられることになる。
“赤撃”きってのイケメン万能お兄さん、ツーヴァさんだ。
そういえばツーヴァさんの装備ってまだ一つも作ってないな。……いい加減にあれ、研究した方が良さそうだ。
とりあえず次の休みまでにプロトタイプを仕上げておきたいけど。
「そういえば次の休みっていつだっけか」
「ん。四日後」
答えは隣の美少女から返ってきた。
青と緑のつぶらな瞳が期待のこもった表情で見上げてきている。
「よく覚えてるなあ。……四日後か、さて間に合うかどうか」
「また新しい装備?」
「おう。完成させて実地で検証だな!」
「ん。一緒」
ティアーネと拳をコツンと合わせてお互い笑い合う。
明日から超特急のデスマーチになりそうだけど、みんなの驚く顔も見たいから頑張らなくちゃな。
…………その前にこれから繰り広げられるであろう地獄の酒宴を耐えなければならないのだが。




