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激動の王都・3

「それにしても国立魔法研究所の連中の慌てっぷり、実に愉快でしたな隊長!」


「騎士団派は我々の所属ではありますが、ああも動揺している姿を見ると、こう、不謹慎にも痛快でありましたな」


「ははは、声が大きいぞ。聞かれでもしたら我々は大目玉だ」


 そんな部下たちの声を背にしながらレイン・ミィルゼムは謁見の間を辞し、正門に向かっていた。


 だがこのまま素直にネアンストールに帰還する予定ではない。


「お前たち、まだ気を抜くには早いぞ。これから我々は件の騎士団派と話を付けるのだからな」


 献上した試作品一式は国立魔法研究所へと運ばれ、解析のち量産体制に入る運びとなった。またそれによって反抗作戦は六ヶ月後に延期となり、時期を合わせての三方面同時作戦が決定。ほぼ思い描いた形となっていた。


 また戦力増強によって騎士団派が大きく力を持つことになり、それを齎したネアンストール防衛軍は莫大な貸しを作ることになった。


 レイン個人としても直接出向くという行動による恩着せをしており、子爵家としては小さくない貸しを作ることに成功したと言える。


 ではこれから何をするのか。


 これから魔王軍との激しい攻防が展開される。その十分な準備を行うため、騎士団派と魔法使い陣営の間にある軋轢を解消する試みを行うのだ。


 もちろんレイン一人の力で団結を生み出すことは不可能。だが一石を投じるくらいのことはできる。


「来たな」


 進む先、柱の裏から複数の人影が歩み出てきた。


 筆頭騎士グラスト・アームストロング。目当ての人物に気を引き締める。




 この時、この二人の会話が世界の時計を一つ進めることになる。そして本来交わるはずでは無かった幾人もの運命がにわかに動き始める。









 国立魔法研究所。


 国家の威信を賭け、世界をリードする魔法技術を手にするため設立された由緒正しい国家機関である。


 魔王軍によって名だたる大国が滅びていく中、それに対抗する力を生み出そうと躍起になっており、今や世界最高の技術機関と呼ばれて……いた。


 そう、過去形である。


「ふおおおぉぉぉう! なるほどなるほど、魔力回路をこのように接続すれば魔法陣を分散配置できるのであるか!」


「然り然り。聖光領域のような複雑な魔法陣をここまで丁寧に分割配置するとはよほど魔法陣への理解が深いに違いない」


「注目すべきはこちらもそうだぞ。魔法銀の性質をここまで解析し発揮するとはなんたる聡明さ。魔法銀のみで作られた大剣など前代未聞だ」


「しかも武具に刻印魔法を組み込んでしまうとは。一体、ネアンストールの技術部というのはどれだけ進んだ技術を持っているのであろうか」


 今やネアンストールで生み出される技術の数々が国立魔法研究所を圧倒しており、世界最高の称号を返上せねばならなくなっていた。


 だが彼らはまだ知らなかった。


 彼らを圧倒する技術を生み出したのがネアンストール防衛軍の技術部でもなく、まだ成人したばかりのたった一人の少年によるものであることを。


 そして彼らの中でネアンストールより要請されていたいくつかの案件が繋がっていく。


「では金属の種類による耐久強化効率の検査、それに蓄魔力型魔法石の作成方法の公開依頼。これらも新たな技術に必要なのであろうか」


「そういえば人材の派遣依頼もありましたな。()()()()()でも放り込んでお茶を濁す予定ではありましたが……」


「我々は解析と研究に総力を上げなければならないのだ、人材を引き抜かれてはたまらん。予定通り()()()()()を送ればいい」


「優秀ではありますが、いかんせん歯止めの効かない暴走娘ですからな。組織としては手に負えない余剰人員でしょうし、私も賛成ですよ」


「しかし先方が良い顔をしないのでは?」


「それについては問題ないだろう。何せ魔法使い筆頭とは血縁関係にある。これを断ることなどできんさ」


「ああ、なるほど。では我々は安心して職務に励めるわけですな」




 こうしてまた一つの運命が曲がっていく。


 激動の王都は少しずつ、しかし確実に大きな変革を迎え始めていた。

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