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守護獣様は苦労性  作者: 丸メガネ
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遅くなりましたが明けましておめでとうございます。

これからもよろしくお願いしますね( `・∀・´)ノヨロシク


 ――なんて言ってみたけど実のところは偶然だろう。複合魔術は難易度が高く、今の二人では狙ってできるようなものではない。単にタイミングが克ち合って偶々発動したに過ぎない。

 でもいいじゃんいいじゃん。こんなご都合なら大歓迎だ。

 理由なんて後付けでいいんだよ。結果なんてのは行動の後についてくる足跡みたいなもんだ。それを説明したところで結局はこじ付けで、結局は蛇足になってしまう。都合のいいように捉える解釈、結果論でしかないんだから。



 そうこうしてる内に炎は収まり、黒く日焼けした魔獣だけが残った。


『バ、かな…………けほ…………』


 こんがり焼けた魔獣は香ばしい匂いを放ちながら横倒れになる。その風体は豚の丸焼きのようで食欲を誘う。


 ……………………いやいや食わないよ! 言葉を話す生き物を食べるとか倫理的にも感覚的にもアウトだから! だったら素直に豚肉を食うって!


 無意識に垂れるよだれを拭って意識を強く持つ。獣の姿になった今のままでは野生が前に出てしまう。油断するとついつい齧りつきたくなってしまう。

 (かぶり)を振って自重する。帰ったら城の料理長に豚肉料理を作ってもらおう。


『無様だな魔獣』


 今晩のメニューを念頭に置きながら、辛うじて意識を保っている魔獣に歩み寄る。


『散々扱き下ろしていた人間に倒される気分はどうだ? さぞ新鮮なことだろう』


『き……キサ、マ……』


『お前の敗因は相手を甘く見過ぎたことだ。神獣である我でも(かな)わない人間に、無知無学、未熟浅慮なお前が太刀打ちできるはずもあるまいに。そんな明々白々なことも見抜けないからお前は魔獣なんだ』


 お膳立ては俺がしたが彼彼女が立っていて、倒れているのは魔獣だ。この構図は紛れもなく事実であり覆すことのできない確かな結果なのだ。野生に身を置いているのならそれがどういう意味を持つかくらいは判るだろう。

 だが魔獣は納得できないのか、焼けた喉で未だ何かを言い募ろうとする。


『ガッ……こ、な…………み……い』


 それでいい。今直ぐに理解しろとも認めろとも言わないさ。

 ただ人間は弱くとも弱くない。それだけ学べば十分だ。


『お前は我が守護する国を荒らした。このまま幻獣界に帰れると思わないことだ。償いは然るべき期間、然るべき場所で償ってもらう。覚悟しておくことだ』


 魔獣の処遇に関しては目途……というか宛はある。

 変態の相手は変態に。その場にいようが居まいが害悪にしかならない狸にこいつの面倒を見させてやる。

 いつもいつも面倒を呼び寄せるストーカーに、ストーカーされる苦しみを思い知らせてやるには適任だ。

 そして帝国で教育させ、マトモになったらうちで引き取って百年ほど扱き使ってやればいいだろう。

 冒険者や騎士団でも手が回らない場所の見回りとか、砦建設の石材運びとか。いくらでも仕事はある。騎士団の訓練相手とか面白いかもしれない。


 そうと決まれば善は急げだ。このまま考えているだけで、捕らぬ狸の皮算用になってしまっては笑い話にもならない。さっそく帰って宰相と話を詰めよう。そうしよう。



 っと、念のため、魔獣には今後ちょっかいを出さないように釘を刺しておかねば。


『――良かったな。うちの子が一人でも命を落としてたら、お前は対話する暇もなく八つ裂きになってたぞ』


 耳元でそう囁いてやれば魔獣の身体は面白いぐらい硬直し、傍目に見ても脂汗をかいていた。

 そのせいで匂いが強まり溢れる肉汁のような芳醇な香りが鼻を衝く……………………ジュルリ。



 美味しそうな……間違えた。怯える魔獣をそのままに、俺は巨体を動かし方向を変え、全力を出して疲弊しているアルとルナに向き直った。

 二人は安堵からか、それとも魔獣を倒せた嬉しさからか、喜色満面で俺に駆け寄ろうとしていた。


『何か、弁明の言葉はあるか』


 そんな二人に俺は冷たく、無感情に、突き放すような声音で詰問した。

 嬉しそうに駆け寄ろうとした二人の足が止まる。


『我はお前たちに亮介と美野里のお目付け役を命じていたはずだ。未だこの世界の危険性を理解していない二人を支え、自立した生活を送れるように補助をしろとな。それがどうしてこんな場所にいる』


 俺は俺を見上げる二人に対して怒っているのだ。

 既に起こってしまった事とはいえ、今回の件は未然に防ぐことは確実にできていた。できるはずだった。

 それなのにこのような危険に巻き込まれ、直面してしまったのは二人の職務怠慢に他ならない。


『我は何か問題があった時、例えそれが些細なことでも我を頼るようにと言い含めておいたはずだ。そして決して無茶をしないようにとも。――にもかかわらず、どうしてお前たちはここにいるのだ』


 ようやく事態を呑み込めたのか、俺の言いたいことを理解したのか、表情を暗くして視線を逸らす。

 黙り込んで俯いてしまった二人に俺は甘くしない。


『黙っていてはわからない。我はどうしてだと訊いている。――それとも、お前たちにとって我の言葉など、答えるに値しないほど軽薄なものか』


「違います! そのようなことは断じてありません!」


『ならば言いなさい。我はお前たちの口から訊きたいのだ』


 大人として賢い問い詰め方ではないとわかっているが、今回の事案は容易に看過していい案件ではない。

 二人はまだまだ子供だが既にこの国では成人と認められ、責任ある立場にいる。軽率な行いをしても許される時間は過ぎたのだ。

 説明しろと言われても、目の前にいる俺が怒っているのだから説明しづらいだろう。でも自分たちが何をしたのか、どういう行動に出たのかを理解させるには本人に直接言わせた方が効果的だ。


「実は……」


 恐る恐ると話し出した内容に耳を傾けて経緯を把握していく。

 少しでも民の生活に貢献したかった。役目を深読みした。成長した姿を見せたかった。認めてもらいたかった。簡単に言ってしまうとそんなところだ。

 言葉を濁してはいたが、アフロになって白目を剥いている亮介に唆されたのだと俺は睨んでいる。たぶん間違ってないだろう。


「私の、責任です。一度失敗したにもかかわらず、同じ過ちをまた繰り返してしまいました……。かつて温情ある処置を受けておきながらこの失態。……どのような処罰でも甘んじて受ける所存です」


「わたくしもです。利己的な考えを優先させ、命じられた任務を蔑ろにし、あまつさえ守護獣様の御手を煩わせてしまうとは……弁明のしようがありません……」


 折り目正しく頭を下げた二人だが……まったくもってその通りである。どんな事情があったにせよ俺はこの事を許すつもりは無い。

 俺の到着がもう少し遅ければ、危なかった。冗談ではなく、本気で命を失うところだったのだ。

 冒険者の魔物討伐とは遊びではない。命を賭けた苦肉の生存競争なのだ。それを覚悟もなく軽い気持ちで考えられたのでは、血と汗を流している冒険者たちが報われないではないか。


『軽率だったと理解できたのは重畳。だが此度の行いは看過して良い領分を容易く飛び越えている。我の荒れ荒む胸中をさらけ出せたのならどれほど痛快なことか。お前たちは我だけではない、お前たちが積み重ねてきた実績による信用も、お前たちを信じ、期待を寄せて任を命じた王の信頼すらも裏切ったのだ。――それがどれだけ罪なことか、胸に刻み肝に銘じよ』


「はい……」

「申し訳ございませんでした……」


 どれだけ善行をつんだ聖人であっても、たった一つの過ちで全てを無に帰すことだってある。

 人の心とは移ろいやすい。だから成長し、歳を重ねていくにつれて思慮を身に着けなければならない。だから大人になると言葉に重みがあり、深みが増すのだ。


 俺は怒ると同時に、失望していた。

 二人が自分たちを軽んじたことにも、周囲の気持ちを考えてくれなかったことにも、俺は、失望を隠せないでいた。





















 なんてなっ! 

 ウソウソ、これくらいで俺が失望なんてするわけないだろうが。

 そりゃ二人が自分の身を軽んじたことには一言物申したいし、もうちょっと俺とか周囲の気持ちを考えて欲しいってのもそうなんだけどさ。

 失望ってのより、悲しいってのが正直なところだな。


 結果的には褒められたことじゃないけどこいつらはこいつらなりに考え、行動を起こした。自分たちなりに良くしようと頑張ったのだ。それ自体は、その努力は、褒めて然るべき素晴らしいことじゃないか。


 俺が失望したとすれば、それは俺自信にだな。

 責任があるとすれば、それはやっぱり俺にだろうな。


 『銀毛の宿り木』の親父さんに任せるとき、丸投げにするのではなく、ある程度の事情を話して協力を得るべきだったのだ。

 亮介と美野里が装備している武器や防具は親父さんが昔贔屓にしていた『鉄魂槌』という店の物だった。あそこは一見さんお断りだから、おそらく親父さんが紹介したのだろう。

 四人には雑務依頼だけを受けさせると事情を説明していれば紹介などしなかっただろうし、別の店で装備を整えたとしても止めてくれただろう。

 年長者として言わなければならなかったとはいえ、偉そうに言っても、結局のところ責任は俺に帰結する。

 ほんと、手際の悪さも考えの足りなさも平和ボケして緩んでいる自分自身にも嫌気が差してしまう。



 二人は反省して今後同じ過ちを繰り返すことはしないだろう。

 だったら話はこれで終わりだ。

 まだまだ言いたいことや言わなければならないことは多く、後悔も尽きないが、それは帰って身体を休めてからゆっくりすればいい。

 自分のことを棚に上げにするのもしかりつけるのもこれでお終い。

 やることもやるべきことも多いのだし早く城に帰らなければ。


 と、その前に、アルの傷を何とかしてやろうと思う。


『アルバート、こっちに来なさい』


 落ち込んでいるアルバートを呼び寄せようとしたが、ビクビクと、どこか覚悟を決めたように一歩を踏むので苦笑してしまう。


『そう怯えずとも良い。我はもう怒ってはいない。ただ傷の手当てをするだけだ。余計なお世話かも知れんが、軽傷とは言え放置もできないのでな、お前が傷を負っていては城の者も心配する』


 そして近寄ったアルの傷をペロリと一舐め。


「――っつ?!」


 驚いて目を見開いていたアルに優しく微笑んでやる。――狐顔だけど。


『これで城に帰る頃には治っているだろう』


 一応言っとくけどバッチくないからね?

 俺が舐めた箇所は消毒され痛みが引き、更には自己治癒力が高まり傷の治りが早まるのだ。

 大切なのは唾液ではなく舐めるという行為。

 この世界では治癒魔法はあっても回復魔術は存在していない。いや、存在していないというか、まだ術式化できていないと言った方が正確だ。


 なので、おかげで、そのせいで、水仕事などをしている使用人たちにはあかぎれを舐めさせられ、ハンドクリーム代わりに使われてしまっている。学園で俺の正体が伝わってからは特にだ。


 俺も抵抗したのだが……油揚げを素手で差し出されてその隙に――とか、キツネうどんのスープを手で掬われてその拍子に――とか。

 剛の者では、舐めてくれればたまご入り油揚げ巾着をあげるよ――なんて直接交渉してくるやつもいる。

 そんなの、勝てるわけないじゃないか。


 汚い。人間汚い。



 あっ、関係ないんだけど、(うま)いと(きたな)いってなんか似てるよね。



 ……ごめん、それだけ。




 俺が馬鹿なことに思考を裂いていると、恐縮しているアルを押し退けて、ルナが「あっあの!」と背筋を伸ばして挙手をする。


『どうしたのだ?』


「守護獣様! あの、善ろしければ、わたくしにも……その、治療行為を……」


 ルナがモジモジ、あるいはクネクネしながら、恥ずかしそうにそう言った。


『ん? お前は疲労はしているようだが傷はないだろう』


 上から下まで確認するが……血の匂いもしないし、やはり外傷を負ってはいなかった。

 あっいや、少しだけ唇を切っているようだ。

 でもそれも軽微だし、場所が場所だけに舐めるわけにもいかない。守護獣とはいえ、治療行為とはいえ、貞操観念の強い貴族令嬢の唇を奪うわけにもいかない。ルナもそれは望んでいないだろう。

 だとすれば考えられる可能性は一つだけ。


『すまないが我では疲労までは取り去ってやることができないのだ。疲れているだろうが城に帰るまでは我慢しなさい』


 申し訳なさそうに謝ると「そう、ですか……」と、肩を落とすルナ。アルが不憫そうな視線を送っていた。

 すまんな。神獣とはいえ万能ではないのだ。俺にもできる事とできない事がある。


 亮介にしても同様だ。俺では髪形を元に戻してやることはできない。

 頭の中も外も俺にはどうすることもできないのだ。


 ………………なんかこれ、字面にするとまるで亮介が手遅れみたいな感じになるな。



 最後に、帰る前に、二人にこれだけは言っておきたかった。


『無事でよかった。死んでしまってはこうしてしかりつけてやることもできない』


 狐の巨体で慈しむように、包み込むように、抱き締める。


 二人は学園を卒業してから精力的に執務や仕事に励んでくれていた。日増しに成長しているのも俺は良く知っている。

 それなのに、こんなところで死んでしまっては、悲しいじゃないか。どうにもこうにも、どうしようもないじゃないか。


 激情と言うにはあまりに穏やかで、安堵と言うにはあまりに苛烈なこの気持ち。


『――二人とも、よく頑張ったな』


 伝わるかはわからない。

 魔獣に相対している姿を見たとき、戦っている姿を見たとき、俺の心境がどれほど恐怖に彩られていたのか。冷水をかけられたように全身が震え、心臓が止まるかと思った。

 そして間に合ったときにどれほど安堵したことか。失わずに済んだことが本当に嬉しかった。

 伝わってくる体温を感じながらこの喜びが少しでも伝わればいいと、そう思った。


『さぁ帰ろう。お前たちには言いたい小言がまだまだ山のようにある。城に帰ったらお説教をするから心しておきなさい』


 二人を見れば、離れることを名残惜しそうだったので多少なりとも効果はあったのかもしれない。

 ――そう思ってしまうのは自惚れが過ぎるだろうか。


「はっはい!」

「……どこまでも、喜んで……」


 顔を真っ赤に染める二人を見て俺の顔が綻ぶのを感じる。本当に、手間が掛かって、どうしようもなく可愛い子たちである。

 これを素でやっているなら相当の人誑し――もとい、狐誑しだ。

 こんな顔をされては放っておけないではないか。


 俺は尻尾で亮介と美野里を背に乗せて、アルとルナにも乗るように指示を出す。気を失っているので落ちないように押さえておいてもらう。


『しっかりと掴まっているのだぞ』


 四人が乗ったのを確認し、放置していた魔獣も尻尾で拘束する。こいつにも後で説教をしてその後は帝国のタヌ子に押し付けてやる。

さあ、帰っても忙しくなる。報告をして方々(ほうぼう)に謝って回らねばならない。

 面倒で、大変で、気が重くなる数々が待っている。


 ――でも、こんな守護獣生活も案外悪くないと思えるのは、俺がどうしようもなくこいつらのことが好きだからなのだろう。


 俺は愛着はあっても執着はしない。

 人と獣の領域を越えた関係。これは領分ではなく性分の話しだ。


 それでも、これからも、俺はこいつらと成長し、時には間違いながら生きていく。


 仕方がない。だって俺は守護獣なのだから。

 守護しながら見守っていくのは本分なのだから。


 今までも、そしていつまでも。

 望まれる限り、俺はこいつらの守護獣であり続けようじゃないか。


 仕方がない。だってやっぱり俺は『守護獣』なのだから。








年末に間に合いませんでしたけど、あっさりとこれで完結とさせていただきます。

まだまだ亮介や美野里の今後、他国の守護獣や出したいキャラクターなど、書きたいことが数多くあるのでこれからも投稿はしていきますが、他にも書きたい作品があるのでペースは落ちると思います。


これまで応援してくださった皆様、本当にありがとうございました!

そしてこれからも読んでいただけると幸いです!


ではでは。

皆様にコン吉と油揚げの祝福があらんことを( `ー´)ノ

(´・ω・`)またね

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