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守護獣様は苦労性  作者: 丸メガネ
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16

投稿する時間がバラバラでごめんなさい(´・ω・`)

「人の生き様を侮辱した罪は、お前自身が嘲笑される立場となって償え」


 一陣の風が吹き、一瞬で刈り取った獲物が鼻先を流れていく。後に残るのは丸裸にされた魔獣。

 ピンク色の肌を露出させ、哀愁を誘う哀れな出で立ち。冬になれば風邪を引くのは間違いないだろう。

 あら、意外とスリム。


『おっ俺様の自慢の体毛がァ!!』


「ははっバーカバーカ! 調子に乗ってるからそういう目に合うんだよ! 誰が老いぼれだ。俺は神獣の中でも比較的若い個体なんぞこのクソガキが!」


 野生に身を置く幻獣にとって体毛や鱗は、外敵から身を護る鎧であると同時に誇りでもある。魔術程度なら容易く弾いてしまう頑強さ頑丈さは神聖視されているのだ。

 俺もその例に洩れず、艶のあるフワサラな毛皮をかなり気に入っている。毛繕いだって欠かしたことはない。


『俺様の、俺様の体毛がっ……』


 涙目になりながら身体を隠そうとしている魔獣は、人間でいうところの服を剝ぎ取られたに等しい羞恥心に悶えているということだ。


『こんな姿はとてもではないが見せられない……』


 このまま牡丹鍋にしてやってもいいが……そうなると、作り終えたあとに食さなければいけなくなってしまう。それは勘弁なのでこれくらいで勘弁してやろうかと思う。俺的に言葉を話す生命体(ナマモノ)を食べるのはNGなのだ。


 幻獣としての尊厳を奪われて、指をさされて笑われろ。それが軽率な行いをした者の末路だ。



 ……つーかさ、そもそもの話、こいつは本当に俺を()る気あったのか?

 だったらせめて王都までは人化して来いよ。そうすれば発見されることもなく、騎士団に喧嘩を売る必要もなかった。

 どっちみち俺に挑むなら結果は変わらなかったが、よけいな戦闘を避けて余力を残しておく事ぐらいはできただろう。


 ………まあ、俺としても、こんなやつと同じだと言われるのは、甚だ不本意ではあるのだが、仮にも、同族であるし、年長者でもあるし、ここら辺で、俺が歩み寄ってやるのも、吝かではない、と、思わないでもないわけよ。


「――それで、お前の目的って何なんだよ。俺を殺して幻獣の自由とやらを取り戻せたとして、そこから先のビジョンを考えていたのか? 俺も鬼じゃない。何か止むに止まれない理由があったなら、耳を傾けない訳じゃない」


 厳粛な空気を漂わせ、真面目な声音で問いかける。


「話してみないか? 俺たちは同族だ。安請け合いはできないが、可能性なら十二分にあると思うんだ。ここまできて共存しようとは言わない。ただ、もしかしたら共生ならできる道もあるかも知れない。お前からしたら気に入らないだろうけど、俺は安易にその可能性を捨てたくないんだ」


 幻獣とは強さに重きを置く種族だ。俺との実力差を理解した今なら一考の余地が生まれているかもしれない。そうすれば、素直に聞き入れてくれる余地も生まれてくるはずだ。

 うちの子たちを傷つけたことは許さないし許せないし許すつもりもない。

 だが、だからといって無暗矢鱈と争っていては敵を増やす一方だ。どこかでブレーキをかけなけなければならない。戦闘が終了した今ならばと、そう思った。


『この老害が戯言を……!』


 そんな俺の願い虚しく、魔獣は羞恥に悶えながら敵意の籠った視線を向けてくる。

 全身の体毛を奪ったのは俺なので仕方ないというか……当たり前のことなのだが、それを物悲しく感じてしまうのは俺もまた我儘だからだろう。


『幻獣としての誇りを忘れ、自由を忘れ、堕落し、欲におぼれた人間に尻尾を振るキサマを俺様は認めない。どれだけ実力があろうとも、俺様は俺様を辱めたキサマを許さない! 今はまだキサマが上かも知れないが、いずれ俺様が思い知らせてくれる!』


 なにより! と魔獣。


『――何が同族だ。その同族を、守護獣などというまやかしに縛り付けている貴様が言っても薄ら寒いだけではないか! 違うというのなら今すぐにでもタヌ子さんを解放しろ! して見せろ! あの方は、人間如きの国に縛られて良い幻獣ではないのだ!!』


「…………」


 数巡、静寂と言う名の間があいて、魔獣の発言を理解していく。

 ……は? なに言ってんだこいつ。そう思ってしまった俺に罪はない。


「んん~? 話しが見えないんだが……つまりはどういうこと? ってかどういう経緯、ってかお前はタヌ子の関係者?」


『キサマが馴れ馴れしくタヌ子さんを呼び捨てにするな! あの方はいずれ俺様の隣に立つべき麗しの君なのだぞ!』


「いや知らねーし好きにしろよ。――じゃなくて、どうしてそれが今回の事と繋がるんだよ」


 まさかあのクソ狸が魔獣をけしかけた張本人じゃないだろうな? だったら簡便ならんぞ。遊びにしても度が過ぎている。

 温厚なコン吉さんとはいえ本気でシメちゃうぞ。


『知れた事。キサマに強制され、無理やり守護獣などにされて囚われているタヌ子さんをこの俺様が救い出すためだ。――嗚呼、可哀想ななタヌ子さん。心優しく慈悲深いあの方が、キサマのような悪漢に従わねばならぬとは……。言葉巧みに騙されて、漬け込まれるようにして祀り上げられた。――キサマにタヌ子さんの気持ちが分かるかッ! 自由を縛られて、毎夜のように心を痛めているであろうあの方の辛さが、苦しさが! 純粋で優しい故に逆らえない無念さが!』


「……」


 誰だよそれ。絶対にそれタヌ子じゃないだろ。狸違いだろ。


「タヌ子……さんが、それを言ったのか?」


 タヌ子と言いかけて、魔獣が睨んでくるので慌てて訂正した。

 まさかこんな日が来るなんて。なんで俺があいつをさん付けで呼ばにゃならんのだ。


『ふんっ、俺様ほどのオスとなれば、好いたメスの気持ちなど言われずとも分かるのだ。あの方は待っておられる。救いの手が伸ばされるその時を。暗闇の中でひたすら屈辱に耐え――この俺様を待っておられるのだ!』


「…………」


 えっマジかよ、こいつも恋愛脳なのかよ! 

 ヤべーよ。しかもかなり悪質のだよ。

 類は友を呼ぶというが、変態(ストーカー)変態(ストーカー)を呼びやがった。


「…………」


 もはや言葉もない。堂々と言い切った魔獣の姿に戦慄すら覚える。


 幻獣は人間ほどそういったものに興味はない。それは寿命が果てしなく長く、子孫を残そうとする本能が希薄だからだ。

 まったくない訳ではないのだが、人類に比べてしまうとやはり意識が薄く感じてしまう。

 だから幻獣の数は少ないし、希少性が高いのだ。

 ……色に狂う稀有な幻獣など、タヌ子以外にもいたんだな。


「えっとな、なんか勘違いしてると思うんだが、あいつが守護獣やってんのは別に俺が強制したわけじゃないからな? 人類大好き~なんて理由じゃないのはそうなんだけど、あいつはあいつで、自分の意志で過去の皇帝と契約してんだよ。俺としてはむしろ辞職……というよりさっさと殉職すればいいと思ってる。割と本気で死ねばいいと思ってるぞ」


『タヌ子さんを気安く『あいつ』呼ばわりするな殺すぞっ!』


「えぇ…………」


 にべもない返答に俺氏困惑。

 また? またなのか? またまたこんな手合いなのか?

 人の話も聞かずに先走る。

 も~~本当の本気でそういうのいいから。頼むからそんなことで国を巻き込まないでくれよ。


「はぁ~~…………」


 独善的な恋愛ってのはホント性質(たち)が悪い。

 俺としてはどんどん産めや増やせの精神を推奨するんだけどさ、健全謙虚堅実に励んで欲しいわけよ。

 恋や愛で他人を巻き込むのはやっぱ違うと思うわけよ。


「あ~~なんだ。お前が帝国の守護獣に恋慕を寄せているのはわかった。その気持ちは大切なものだ。幻獣が感じ入ることの少ない、とても、とても大切なものだ。大切にするといい」


 先に言った通り幻獣の寿命は長く、果てのない生を傍受している。だがそれは謳歌しているとイコールではない。

 寿命が長く、永いため、生きるのにダレて飽きてしまう者も少なからず存在している。心が擦り切れて、硬質化し、感情が揺れ動かなくなってしまう者も確かにいるのだ。

 そんな中で、何かに情熱を注げられるという目の前の魔獣は、とても幸せ者なのだろうと、そう思う。


「お前に人類を好きになれなんて言わない。俺の勝手な都合でそれを押し付けるのはちょっと違うしな。誰にだって好き嫌いがあって然るべきだと俺も思う。――でもな、せめて、歩み寄ろうとすることを否定しないで欲しい。世界にはお前以外にも生きているやつらがいるんだ。今まで、すれ違いや不知不識で傷つけ合い、理不尽や不条理を味わった過去の偉人たちが築き上げてきた偉業を、全否定するような、そんなことは言わないで欲しいし、やらないで欲しい」


 過去に生きた者たちを、その生き様を、なかったことのように振舞われるのは、とても悲しい。


「想い人に向けるような、とまでは言わない。だけどせめて、花を愛でるような広い心で、慈しみや温かい寛大な心をもって接してみてくれないか? いきなりは無理でもちょっとずつ、ちょっとずつでもいいから相手を知ろうとする努力をしてみてくれないか?」


 努力を強要するというのも変な話だが、互いが互いに歩み寄ろとすることこそが、分かり合うための最優先重要事項だと俺は信じている。


『くだらん』


 珍しくシリアスに、そして下手に乞うたつもりだったが、魔獣はそう言って俺の話を切って捨てる。


『要領も得ないつまらんことをダラダラと。人間を花のように愛でろだと? どちらも俺様に踏みつぶされるだけの無価値な存在ではないか。何故幻獣であり強者である俺様が、そのような吹けば消えるくだらんモノのために気を揉まねばならない。弱き者は強き者に蹂躙される。弱肉強食こそが世界に生きる者にとっての真理だ。――だが、そうだな。そういう意味では人間と花を同価値に見てやっている』


「はぁ……ヤダねヤダね。花の何たるかもわからないなんて。帝国の狸だって風情を楽しむ心は持っている。お前ほど狭量じゃないぞ」


 花は散る。風が吹けば花弁を揺らして香りを放ちながらあっさり散っていく。

 それを弱いと捉えるのなら、そうなのだろう。

 文字通り、吹けば吹き飛んでしまうというのもその通りだ。


 でも花はまた咲くんだ。なんど散っても、なんど枯れようとも。

 月日が流れ、季節が巡れば何度だって美しい花を咲かすのだ。

 それを無価値というのなら、その健気さを弱者と評するのなら、それは認識が甘いと言わざるを得ない。

 世界の『理』に干渉する魔法を所持していながら、この魔獣には何も見えていない。


「……」


『今回は俺様が負けということで引いてやる。だがッ! 次にまみえるその時こそ、キサマに幻獣の何たるかを思い知らせてやる! 首を洗って待っていろ!』


 そう言って踵を返す魔獣を見ながら、ある種の切なさと遣る瀬なさを感じながら、感じ入っていた。


 これは、仕方がないのだろう。ままならない事に遭遇する機会なんて、生きていればいくらでもある。むしろ多すぎて手に余るほどだ。それを一つ一つ数えていては、キリがない。

 だから、俺も俺の判断で行動しよう。互いに納得できなければ後は対立するしかない。ならば自分勝手に押し付け合い、勝手気ままに主張しよう。互いの身勝手をぶつけようじゃないか。


「アルバート! ルナフォード!」


 俺の呼びかけに、背後で固まっていた二人は硬い声で応えた。

 俺は続けて問いかける。


「魔術はまだ編めるか?」


「はい。魔獣に魔術は効果がなかったので余力は十分に残っています」


「わたくしも大丈夫ですわ」


 旅人コンラリアンが実は守護獣コン吉だった。その驚愕に、予想もしていなかったまさかの事態に、訊きたいことがあるだろうに。それでも堪えて何も訊かず、素直に応えてくれることがありがたい。


「よし、そんじゃ二人とも、あのストーカー気質な変態に思う存分魔術を叩き込んでやれ。丸裸になった今の魔獣ならどこに当てても大当たりだ」


『なッ……!』


「なに驚いてんだよ。お前が言ったんだろ? 弱者は強者に蹂躙される。弱肉強食こそがこの世の真理だって。今この場に追いて一番の弱者はお前だ、魔獣」


 すっかり見逃されると思ってた魔獣のアホ面がちょっと面白い。

 つーかさ、俺ってば見逃すなんて一言も言ってないよ?

 うちの子を散々痛めつけておいて、どうしてこのまま帰れると思うのか。神経を疑うぞ。

 勘違いしているようだが、ここまでの問答は魔獣に向けた温情でしかないのだ。同じ幻獣として反省の機会を与えたに過ぎない。

 国に刃を向けておいて、そのまま帰れると思うなど考えが甘すぎる。俺は行動には責任を取らせる狐なのだ。


 魔獣が弱肉強食を掲げるのならば、俺もその精神に乗っ取り、この世の真理というやつに従おうじゃないか。

 これから行うのは躾という名の報復になるけど……相手は殺されても文句が言えない魔獣だしいいよね?


 大丈夫、体毛が刈られピンク色の肌を露出しているとはいえ強靭な幻獣なのだ。死にはしない。ただちょっとばかり痛いだろうけど。

 いやね、俺としては殺し合いなんて嫌いだし、できればしたくないけどさ。

 俺も幻獣なのよ。例に違わず強さに重きを置く神獣なのよさ。競争や戦い自体は否定しないんだよね、これが。

 喧嘩と花火は人の華って言うじゃん。

 ん? 違うか?

 いやいや、まあ、それも言わぬが花ってことで。


「あの魔獣は我ら《赤の王国》に仇名した。対話を望んだ騎士団に狂刃を向け、王国に不利益を与えて混乱を招き、あまつさえ我らが誇りに唾を吐き捨てた」


 俺はそれっぱく一転して厳粛な雰囲気を醸し出す。ついでに威厳を出すため、美しく艶やかなでフワサラで自慢な最高の毛皮を魔獣に見せびらかすようにして守護獣としての姿に戻った。

 そう、体毛を失った魔獣に対する当てつけであり完全な嫌がらせだ。


『アルバート、そしてルナフォード。お前たちもあの魔獣に好き放題やられたんだ、我が許す、存分に仕返ししてやると良い』


 振り返って爽やかな笑みでそう言えば――狐顔だが――アルは最初戸惑ったような顔をして、すぐに王太子の顔になる。

 自国が乏しめられたのだ。内心では腸が煮えくり返っていたのだろう。亮介と美野里を傷つけられた恨みもあるのかもしれない。

 そしてルナは……鬱憤が溜まってたのか初めからギラギラと眼に闘志を燃やしていた。ギンギンギラギラだ。奇麗に笑っているのにちょっと怖い。王太子であるアルよりも怒っているように見えるのはなんでだろう? 魔獣に個人的な恨みでもあるのか?


『――ただ、もしもお前たちが俺の気持ちを汲んで、尚且つ自国の騎士に華を持たせてくれるというのであれば、騎士たちが残した魔獣の傷を基盤としてくれたら幸いだ』


 身体を覆う体毛を失った魔獣なら魔術を当てればそれなりに痛いだろう。

 だが今の二人では『痛っ!』程度の効果しか望めない。

 でも肩の傷口を狙えば『痛ッ! ちょっまッ! マジで待って!』ぐらいはいけると思う。


 撤退した騎士たちも、自分たちがつけた傷で魔獣を追い返せたとなれば面目が立つ。

 なにこれナイスアイディア。

 俺は自画自賛する。


『俺様を舐めくさるのも大概にしろッ! 幻獣であるキサマならまだしもこんな人間如きに――』


「【ネガフレイル】!」「【カルラホルン】!」


『ぎゃぁあああああああああああああああああああ!!』


 口上を遮られた魔獣の絶叫が木霊する。

 アルの編んだ術式から炎が昇り、ルナが放った風の魔術と混ざり合いワンランク上の複合魔術へと昇華した。

竜巻のような渦状に燃え上がる大火。その火力は視界を赤く染め触れる物全てを燃やし尽くす。

 それは単純な足し算では表せない人類の力。

 人は弱い。幻獣からすれば取るに足らない存在だろう。だが、それは個人だった時の話だ。人類の素晴らしいところは手を取り合ったとき真に発揮される。不特定多数で事態に取り掛かれば変数式のように様要を変え、その振り幅は予測の範囲を容易に逸脱させる。

 もしも人類の英知があるとするならば、人類の金言があるとするならば、それは『一緒にやろうぜっ!』という、小学生でも知っているような言葉に集約されている。

 二人の放った一撃は、協力することでいくらでも効果を上乗せできる――それを如実に表しているようだった。





一方その頃《緑の帝国》


「ハックションッ!! ……はっ! いまコン吉様が妾を呼んだ気がする!」






適当に題名を決めたのでそろそろ変えようかしら。

何か案があれば是非教えてください|д゜)



あっ、あと年が明けます。

皆さん年越しソバには油揚げを乗せましょう!

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