香藤の特技
今回のような他校の情報収集では、潜入捜査は出来るだけ行いたい。
潜入捜査は見つかるリスクは高いが、情報の信頼性も高い。
つまり、ハイリスク・ハイリターン。
香藤部長もそれは重々承知している。
そのため、潜入捜査の許可は確実に出す。
『香藤勇雅』。
情報部部長の2年生。いつもムスッとした堅い表情をしているが、根は優しい。
何よりこの俺や、白池先輩という曲者をまとめあげている。
そんな部長を、情報部員はみんな信頼し慕っている。
ただその反面、部活一の問題児でもあったりする。
香藤部長は、いつも隠して持ち歩いているノートパソコンを開く。
そして何の迷いもなく、ふたつの高校の情報を得るために、クラッキングを始めた。
『クラッキング』とは簡単に言うと、コンピューターシステムを悪用し、暗証番号や秘密にしている情報を盗み見する技術。
これは、完全なる違法。
そこで皆様、おわかりでしょうか?
そうです。
そうなんです。
私こと奏寺生有が、風紀委員に捕まってはいけない最大の理由。
この香藤部長にあったりします。
確かに他の部員もそれなりのことを行っておりますが、この部長のクラッキングは特に厄介なんです。
そんな俺に構わず、部長は第二高校と第三高校の年間行事予定と、見取り図を手に入れた。
そんな情報ならクラッキングせずとも、ホームページから分かるのでは?
と思ってしまうが、学校同士で抗争があるこのあたりでは、そういった情報は伏せられる。
例の白池先輩の遊びとなった全校集会も、伏せられていたはずだが、どこからか情報が漏れたらしい。
本来あってはならないことだ。
白池先輩は画面に映る情報を見ると、にやりと笑う。
「了解。この情報が正しいものか確かめるために、やっぱり僕が行ってくるよ」
「…おい、奏寺」
「…なんでしょうか、部長」
部長の言いたいことは聞かなくてもわかる。
俺は二つの高校の見取り図を完全に暗記した。
その後、生徒会の依頼の話をしていると、いつの間にか情報部員が全員集まっていた。
ちなみに情報部は全員で5人いる。
俺以外は全員2年生だが、厳しい上下関係は面倒だからと、堅苦しい雰囲気は無い。
だからこそ、香藤部長で遊んだりできるのだ。
とりあえず他校への潜入は、俺と白池先輩で行うことに決まった。
大きな依頼の話が終わると、部員は今日収穫した情報を話し出す。
俺自身は情報収集をする機会が少ないため、皆が集めた情報を聞き込む。
情報の内容に驚いたり笑ったり、とても穏やかな時間が流れた。
俺は、この時間がとても好きだ。
しかし、そんな時間はあっという間に過ぎてしまう。
情報部員は各自、自分の部屋に戻っていった。
「……」
俺は特にやることは無い。
すぐに就寝した。