白池の微笑み
全校集会中、突然生徒達が持っている携帯電話が一斉に鳴りだした。
「な、なに?」
「びっくりしたーっ!」
「あれ…これ、学校からの一斉送信メール?」
この学校では諸連絡の手段の一つにメールを取り入れている。どうやら皆、そこからメールが送られてきたらしい。
俺は、白池先輩からきたのだが。
白池先輩が俺にくれたメールの内容は、
『侵入者発見、騒ぎを起こす』
だった。
他の生徒に送られてているメールは様々で、
『こんにちは』『俺たちの勝ち』『残念』などといった、一言が送られているらしい。
学校の連絡用メールは職員室から送ることができる。
多分、白池先輩が隙を見て送ったのだろう。
なぜ白池先輩がこんなことするのかはわからないが、とりあえず、俺はやることをやる。
俺は、先輩に電話をかけた。
そして電話が「呼び出し中」から「会話中」になっても、電話は放置しておく。
これにより、白池先輩は体育館の情報を携帯電話から入手可能になる。
そのころ、白池先輩は侵入してきた3人の生徒を尾行し、会話を盗み聞きしていた。
「狭い学校だな」
「ほんと。早く生徒会室行って、会長待ち伏せるわよ」
(なるほど。会長を闇討ちすると)
白池先輩は先回りして、生徒会室に盗聴器を仕掛ける。
その後すぐに、その場から離れた。
しばらくすると、盗聴器が聞いた音を伝えてくれるイヤホンから、侵入者たちの会話が聞こえてきた。
(よし。これで…)
これで侵入者の情報も、イヤホンから入手可能になる。
白池先輩は安堵の溜め息をついた。
(作戦は成功だね。あとは適当に放送流して、戦闘部を挑発する。それで生徒会室に向かわさせれば、終わる)
体育館の様子を、生徒会室の近くの教室から眺める。
数人の戦闘部たちが、体育館から職員室のある校舎に向かっていった。
(これで、僕がやったことも侵入者のせいになる。
情報の操作も、人間の行動操作もまあまあな感じかな…)
しかしそこで、白池先輩は顔をしかめた。
(けど…)
なんか、普通だよなー。
とでも、白池先輩は思ったのだろう。
この数秒後、白池先輩を除いた学校にいる全ての人間が大混乱に陥るのだった。
今でも、このとき白池先輩が何をしたのかは詳しくは教えてくれない。
そのうえ、俺自身も何が起こったのかもよく覚えていない。
ただ、機械音声による放送やメールの着信音、そしてその内容に、身の危険を感じたのは確かだ。
体育館に溢れた悲鳴のような声は、白池先輩や生徒会室にいる侵入者にも聞こえただろう。
そこで侵入者も異様な空気に気付き始め、密かに情報収集を始めようとしていた。
しかし白池先輩はそれを許さず、様々な誤情報をつぎ込みまくり、侵入者を散々走り回させる。
体育館は大混乱。
侵入者も大混乱。
さすがの俺でさえ、わけがわからなくなった。
しかしただ一つだけ、確かなことがある。
それは、白池先輩は今、とてつもなく嬉しそうに笑っているということ。
しかもその笑顔は、人で散々遊びまくった奴の笑顔とは思えない、穏やかで優しい笑顔。
これは本当にたちが悪い。
最初のメールから30分が経過したところで、侵入者と戦闘部が鉢合わせた。
侵入者は精神的にも疲れ果てていたため、あっさりと逃げたらしい。
あっさりと。つまり話し合いなどはせず。
よって、今日の白池先輩がやった遊びは全て、侵入者がやったというとで片付いた。
もちろんこの日の授業は中止。
放課後の部活も停止だったが、情報部は俺の寮の部屋でミーティングしていた。
「ったくなんなんだよ。今日の出来事は」
何も知らない香藤部長が溜め息をついた。
部長と同じくなにも知らない他の情報部員も、次々と同意する。
その中、苦笑いする俺。
そして嬉しそうに話し出す白池先輩。
…怒り狂う香藤部長。
「白池!てめぇやり過ぎだ!」
今となっては懐かしい、あの出来事。
真実を知っていても恐ろしく疲れた記憶がある。
なんだか白池先輩の才能について思い出すつもりが、悪口になった気がする。
俺は必死に生徒会からの依頼について思い出した。




