第3話 状況把握
ここは恐らく異世界です。
時代情報の断裂がある、人類滅亡したり復興したりした記録が微妙にある、数グループにおいて歴史のズレが確認された、月が二個ある、古い廃墟になりかけの航宙移民船に多次元航行した記録がある。理解が追いつかない情報に翻弄されて狼狽える。認めたくはないが軍艦が歩いていたんだ。俺はオーバーテクノロジーの塊を見てるので驚きはしない。必死に心を落ち着かせている。これらだって、ありえる事かもしれないと考えていた。
ちなみにIDについてだが冷凍睡眠前にすでに登録されているらしい。体の数箇所にとても小さい金属片がある、触ってもわからないやつがだ。そいつの情報を入出力して仮想通貨データや個人認識IDデータとして必要な情報の管理をする、基本的には手の甲にあるヤツを使うらしい。
この世界の一般的なテクノロジーはだいたい20xx年辺りのレベルだが情報的損失、取扱える人間の有無等と様々な問題で現在色々と不具合を起こして技術損失が発生している。特に空を飛ぶ事に対して異常が起こるらしい、技術的な問題もあるが何故か飛行することが出来ない。ちなみに気球の様なものでも浮遊する事は不可能だそうだ。
そして時代的にイレギュラーな技術や物がある。つまり、オーバーテクノロジーが存在している。細かい事は調査中との事で話してくれなかった。だが、いくつかを教えてくれた。言語関連がその一つだ、冷凍睡眠の覚醒の段階で処理されるらしい。自動人形や人格搭載型AI、パワードスーツ、エネルギー障壁、重力制御、暗号化通信技術、等々……とりあえず、使える事を知っていることが大事なんだそうだ。もの凄い興味がそそられるが世界の不思議はお預けだ。
そして、人類にとって幸運な事は生存権を保障されている強固な壁のある都市があることだ、それも複数。いくつかの都市はお互いに協力して人類の生活圏を広げている。
都市は動力炉、自動工場、特別プラントによるオーバーテクノロジー群によって生活は支えられている。必要物資は定期的に都市から供給される、食料や水さえもだ。だが人々はわけのわからないモノに頼り切る事を良しとせず、主目標を生存の確保、副目標に技術復興を理念として都市の方向性を定め、運営している。
この都市の場合は生産技術者が多く集まり、偶然に地下水源が発見された為、地下農業プラントを作り自給自足体制を作り上げた。
安全と生活が保障され、しばらくすると都市の外に目が向けられた。理由としては目覚めた人が彷徨い遺跡に迷いこむも何らかの形で都市の人間に救助されたり、遺構放浪の末に自力で都市にたどり着くことがあったからだ。
目覚め彷徨った者の中に技術的遺産を入手する事があった。そして、その中にまれにオーバーテクノロジーもあった。それらはどれも人類にとって有益であった。
だが外には脅威が存在し、人類に敵対する自動機械、生物、正体不明のものが存在して、日々人類の生存を脅かしていることも分かった。自然環境も牙を剥く事があり、アノーマリーと呼ばれる現象が不可思議な自然現象を起こすこともある。ちなみに歩行軍艦は中立的存在で基本的にこちらから手を出さなければ危険はないそうだ。
現在は探索の時代であり、人類はめげずに頑張りましょう。
こんな内容を愉快な映像と市長のアドリブ解説によって理解させられる目にあった。
途中に休憩を入れつつも荒唐無稽の解説は終わりを告げた。
数ヶ月前にポップコーンと飲み物を用意して、のんきに馬鹿笑いしながら見た映画がこんな内容だった。あの時は太古の昔に思えてきた。
「じゃ、ID登録するね、ちょっとお手を拝借」
市長は俺の手に胸から取り出したペン状のものをあてがった、数秒の抜けたbgmが流れて止まった。
「登録終了っと! あとは忘れないうちにアミちゃんの連絡先をっと! ついでに私のもっと、これで端末から連絡ができるよ」
「ありがとう、何か分からない事や困ったことがあったら連絡する」
「通信はなかなか出れないけどメールなら後で返すから、そんな感じでよろしく」
「今日の予定はあと組合宿の案内で終わりだけど何か質問ある?」
「あとは生計を立てる方法かな?」
「それは明日の予定だね、初期生活資金が口座に入ってるから、そんなに困らないと思う」
「とても助かる、あとは与えられた情報を受入れる心の作業しますか」
「前向きで大変結構!! それでは宿に行くとしますか」
宿はこの建物の隣だそうだ、外に出るとあたりは暗くなり月が2個出ていた。
「本当に月が出てる」
「天文学者さんはあの軌道では存在することが出来ないはずだとか悩んでるみたい、でも私は好き、綺麗でしょ」
「確かに綺麗だ。でも、なんか見た目的に大きくない? 」
「まだ、確認取れてないんだよね、研究所でも時々議論してる」
しばらく見とれていたが市長に促され宿に入った、宿と書かれた看板の建物がすぐそばにあった。
市長が俺の方を向き、かしこまった動きで言った。
「市長であり宿のオーナーです、改めましていらっしゃいませ。えーっと、202だね、君の部屋」
挨拶の後、携帯端末で部屋を確認していた。
「オーナー? なんで市長が? オーナー?」
「これは趣味でやってます、いい雰囲気の宿でしょ、ついでにさっき見た映像は私が作りました。更にすごいでしょ」
市長はドヤ顔で腰に手を添えてポーズを決めた。
「スゴイ デスネ ジッサイ スゴイデス」
この都市は人手不足なのか? それともこの市長がスーパーなのかと呆れた考えがよぎるが市長は立続けに言う。
「今日は休暇で息抜きできたから楽しかったよ、仕事したかったのに皆に休めって言われてさ」
「楽しんで頂けたら何よりです」
「それでは私は事務所に戻りますので、何かあったら宿の管理人に聞いてね、それではまた明日」
景気のいい笑顔とさよならの仕草をして彼女は去っていった。
この素晴らしくもぶっとんだ情報をかみ締める心の作業に入ろう。
これは中々の地獄だな……そう思いながら重い足取りで部屋に向かった。