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ワタシは貴方とイキテイク  作者: 水瀬 葉月
Black flower which blooms in the space
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22/59

覚醒~fear~

「なんでまたこんな時に…」


 ユウナとの話は纏まってない。サラは眠りについたまま何かに苦しめられている。心の余裕もなければ肉体的なゆとりも許されないってことか。


「イリア」


 見上げるユウナの瞳に幾つもの想いが感じ取れる。揺るがず、そして同時に刹那げな寂しさを思わせる。柔らかくサラの手を包む右手と固く握りしめた左手。二つのコントラストがユウナの心情をより一層俺に感じさせる。


「サラを頼む」


 身悶えるサラを一瞥した後、そう言い残して部屋を去った。


 格納庫に辿り着くと、すでにノーランとブルーノがパイロットスーツに着替えて待っていた。


「来たな。状況を確認するぞ。アパレイユはなおこちらに向かって接近中だ。出迎えるしかないだろうな。残念なことに前回の戦闘から日が浅い。整備は不十分だ。がまあ、こんなところで殺られてやるわけにもいかん。二人とも、といってもイリアはまだ二回目だがな、今まで以上に気を引き締めていけよ」

「はい」

「了解です」

「よし。では準備に移れ」


 コックピットに乗り込み、サージを起動させる。機体状況は、70%ってところか。武装の充填は行われているけど、被弾した各所の修理が終わっていない。昨日みたいに戦っていたら間違いなく墜とされてしまうだろう。昨日の今日で技術が向上するわけでもない。まして、今回はユウナがいない。こちらの戦力は昨日の半分といっても過言ではない。ノーランは殺られるわけにはいかないと言っていたが……


 勝てるのか。これで。……いや、勝つしかないんだ。守らなくちゃ……


 でも


 思い出してしまう。つい先程、自分が達した結論を。あれに乗っているものが何なのか。


 どうしたって体に力が入る。気持ちが前のめりだから体も前のめりになってしまう。いけないと思うほど気持ちは逆しまに向いていく。


「しかし」

「え?」


 回線が開いたかと思うと、ポツリとノーランが呟いた。呆気にとられて、気の無い返事をしてしまった。


「それにしても、おかしなことが続いて起こるもんだ。お前、なにかに憑かれてるんじゃないか?」

「変なこと言わないでくださいよ」

「言いたくもなるさ。アパレイユがこんな周期で現れたことなんて無いんだ。しかも地球ではなく、俺たちを狙ってな。何か理由があるとしか考えられん」

「そう、ですね。でも私は」

「分かってるよ。何も、お前を疑ってるわけじゃない。ただ、この先何が起こるのか。いや、もう既に起きているのか。全く、予想もつかんだけだ」

「………」

「すまんな。ただの愚痴だ」

「いえ……」

「さて、敵さんを退治しに行きますかね」


 ぼやいた声とはまるで違う、はっきりとした確固たる声。それに少し、心が和らいだ。体の強張りもマシになった。


 あれは……そう、敵なんだ。人を滅ぼそうとする人類の敵。


ーーアパレイユとの距離、20000を切りました。パイロットはオペレータの指示に従い発進をお願いします。


「ファコン。発信準備完了。いつでもどうぞ」


 目を閉じ、思う。


 ノーランでさえも、迷う。不安が心にあったとしても、それを打ち破って戦場に出る。戦いに確実なんてない。それでも、勝ちにいく。いかなければならない。


「イリア・アーデルト。ファコン、出ます」


 宇宙の黒さが昨日よりも濃く感じる。心なしかどの星も遠く、霞んだ光に見える。それでもなお眩いほどに輝く二つの閃光。だからこそ際立つ二つの光明がこちらに近づいてくるのが見て取れた。


「いいか。倒せたらそれに越したことはないが、俺たちの本来の目的は地球に戻ることだ。追っ払うことができたらそれで俺達の勝ちだ。深追いはするなよ」

「了解です」


 もう少しでお互いの射程圏内に入る。独特の緊張感の下、ビームライフルを構え照準を合わせる。ビームライフルの有効射程はおよそ10000。実際に照準を合わせるとなると、さらに落ちるが牽制も兼ねて、10000を切ったら即座に打ち込む……


 モニターに表示される敵との距離を凝視する。現在15000。あと少し………?


「アパレイユ両機距離15000で停止。動く気配、ありません」

「近づいてこない……?どういうことだ?」


 ミシェルがいち早く異常に気付き、状況を報告する。モニターに映し出されるアパレイユの姿を観察する。アパレイユは暗闇の中、ただ光を放つだけで何もしていない。その光がいつも以上に明るいと気づいてから、その結論に辿り着くまでにそう、時間は掛からなかった。


「不味い!あれは!」


 最初に声を上げたのはブルーノだった。一瞬にして、最大加速しアパレイユに迫ろうとする。


 アパレイユは今までと何ら変わらないように、見える。だがそれは見た目だけの話だ。束ねられていく光。圧縮されていくエネルギー。あれが新武装であることは明白だった。


「ちっ!そういうことか。ダリウス!ジェスト!今すぐ回避行動をとれ!!」


 それに呼応してノーランも動き出す。二人とも的確で迅速な判断。それでもきっと遅すぎた。


「駄目です!間に合わない……!!」


 アパレイユの頭部から巨大な青白いビームが射出された。前線で戦っている彼等でさえ知らなかった新武装。射線上の障害物をすべて薙ぎ払い進むそれは触れただけで全てを溶解してしまうほどの熱量を秘めていた。そして、超高エネルギーのそれは、俺たちではなく、背後の船を狙っていた。何も出来ぬままただ放たれた光の束を見送り、遅れて聞こえてきたのは、激しい爆発音だった。


「左推力部にダメージ甚大。航行、困難です」


 緊迫した艦内を彷彿とさせる声がコックピット内にも響き渡る。


「絶対に二射目を撃たせるな!その時点で俺たちの負けだぞ!」

「分かってます…!」

「は、はい!」


 焦燥感が体を支配する。敵との間にある絶対的な距離。一機が二射目のチャージを始め、もう一機が俺たちの足止めをするべくビームサーベルを抜刀し、近付いてきた。今すぐにでもチャージを止めさせないといけないのに、もう一機の動きに翻弄されて全く手出しが出来ない。


「くっ……何だこの動きは」


 ノーランの苦悶が漏れる。アパレイユの動きが変則的すぎる。近付いたかと思うと、離れる。離れたかと思うと、ビームライフルの雨を降り注ぐ。


 しかも軌道がとぐろを巻くようで、読めない。目まぐるしく動く敵に三人とも弄ばれている。


 ユウナがいれば……そう思わずにはいられなかった。ブルーノの機体は接近戦向け、俺とノーランの機体は中距離向け。射撃戦を得意とするユウナがいないとこんなにもやりづらいなんて……


 けど、ユウナはいない。その原因を作ったのは俺だ。


 俺が………俺が何とかしないと。


 焦れば焦るほど、視界が狭まっていく。集中しているようで、てんで周りが見えていない。ビームライフルは悉くが宙を斬り、けれど敵の攻撃は確実に俺を捉える。


 どうにかしないと……。二射目のエネルギーチャージがどれくらいかかるか分からないんだ。早くしないと……早くしないと……!


「仕方ない……ブルーノ!イリア!」


 見失いかけていた自分を、ノーランの呼び掛けで取り戻す。熱しきった頭が少しずつ冷えていく。


「突っ込め。三人同時に行くぞ」

「了解しました」


 ブルーノは快諾しているけど、何の説明も無いと、ただの特攻になってしまう。時間が残されていないのを承知で、言葉の意図を伺いたてる。


「大佐、あの…」

「絶対に止まるなよ。一人でも止まったら意味がなくなるからな。敵の狙いを三人に分散させる」

「最優先は奥のアパレイユだ。そこに向けて最短距離で行け」

「一人が集中的に狙われたら…?」

「射撃でフォローはしてもいい。けど、速度は落とさず、だ。照準を合わせるのは至難の技だな」

「俺に当てるなよ」


 ブルーノの皮肉に、少しホッとする。まだそれを言える余裕があるということだ。希望がないわけじゃないんだ。なら、きっとやれる。


「気を付けます!」

「気合いは十分だな。……行きます!」

「行くぞ!」


 真っ直ぐ突っ込んでいくブルーノとノーランの背中を追いかける。最大出力が一番大きいのは俺のファコンだ。俺は二人のフォロー何か出来ない。なら、一番早く辿り着いてチャージを止めてみせる。


「うおおおおおお」


加速し、先頭に躍り出る。敵の狙いが俺に向けられる。止めれるものなら止めてみろ…!来い!!


「はああああ」


ビームライフルを片手に、シールドを構えつつ突進する。ある程度の被弾は覚悟の上だ。こいつの視線を俺に釘付けする…!!


「があああああ」


左肩、頭部に被弾する。けれどまだまだ終わりじゃない。戦闘不能になるには早すぎる!加速を維持して接近する。激突し、機体に衝撃がはしる。敵機にしがみついて離さない。二人の道を抉じ開ける。


「ノーラン大佐!ブルーノ少佐!!」

「よくやった」

「上出来だ」


二つの光彩が、通りすぎる。双牙となりて、アパレイユの喉元に迫る。アパレイユは何の反応も示さない。


「そこだ!」

「はあ!」


全く同じタイミングでビームライフルを放つ二人。捉えられるはずのその光線は、掠れた音を響かせるだけだった。


「ちっ」

「援護します。大佐!」


ビームライフルをかわされ、ノーランが突撃する。ブルーノがビームライフルで後援する。


「うっ…ぐう」


駄目だ…!俺の足止めも限界が近い。内側から物凄い力で、腕を振りほどこうとする。関節が軋みをあげる。さっきからずっとアラートが鳴り続けている。このままだと…


「え」


…急に力が弱まる。何があったのかと目の前のアパレイユを見上げる。いや、見上げるまでもなかった。激しい光がアパレイユの頭に集まっていく。


「……!!」


早すぎた。気付いたときには射たれていた。船を狙ったものとは比べられないけれど、速度も威力もサージに向けられるものにしては強すぎた。チャージしないで、この威力……どうして、こんなにも技術の差があるんだ。


「ぐあああああ」

「くっ……!!」


二人の痛苦が聞こえる。二人の腕を持ってしても、被弾は避けられなかった。もう、ほとんど戦闘不能だった。


攻撃の策は塞がれた。


アパレイユを包む光はいよいよ激しくなっていく。


「これは……」


 絶望の光が辺りを照らす。はち切れんばかりに増幅されたエネルギーは圧縮され、俺たちに死の宣告を告げる。


 駄目なのか……何か、打つ手は。


 全てを諦めたその瞬間。


 光が光を塗り潰した。


 背後から、放たれた一筋のビームライフルは確実にアパレイユの頭部を捉えていた。


 発射直前のエネルギーは暴発し、アパレイユは激しい光とともに爆散した。


「なんだっ!?」

「あの機体……ユウナ?」

「おい、ユウナなに考えてる!その怪我じゃ」

「……イリア、殺すモノ。ユウナ、傷つけるモノ」


 通信越しに聞こえてきた声。衝撃で頭が真っ白になる。起こるはずのない現象。けれど実際に起きてしまった現実。


「この、声」

「全部、全部、全部!いなくなれぇぇぇええ」

「サラ!!」

「ああああああああ!!」


 断末魔にも似た絶叫とともに、アパレイユへと駆けるサラ。その姿は本来の操縦士が駆るそれとはまったく異なっていた。()()、鈍い光を放っていたのだ。


 どうして、ウィユに乗っているのか。何で操縦できるのか。ユウナはどうなっているのか。疑問は止めどなく溢れる。それに思考が支配されそうになるのを懸命に堪える。


「おい、どうなってるイリア?」

「分かりませんよ!!とにかく、助けに入らないと………」

「いや、待て。なんだあれは…」

「えっ……」


 斬り結ぶ二つの閃光。荒れ狂う暴風のように猛々しく、されどステージを舞うバレリーナのように美しい。サラは、アパレイユを圧倒していた。俺たちに援護の隙など与えない洗練された動き。決してギリギリの戦いではない。偶然、攻撃が当たっているのではない。寸でのところで避けているのではない。まるで相手の動きを、未来を予測しているかの如く、敵の攻撃は放たれる前に止められる。そして、サラの攻撃は、その全てが敵に吸い寄せられる。為す術もなく切り刻まれるアパレイユ。自爆するまもなく、敵はその姿を塵へと変えた。


 その戦闘中、常に聞こえてきたのはサラの悲鳴だった。それは俺が知っているサラからは想像も出来ないものだ。サラの感情的な声を聞いたのはこれが二度目だった。出会った時に感じた激しい怯えとは違う。これは、何なんだ。


 戦闘が終わり、サラの悲鳴は嗚咽に変わっていた。宇宙でただひとり、孤独にうちひしがれている。そんなある筈のない寂しさを思わせる。


「イリア……ァ…ぁああ」

「サラ……」


 自分をもて甘して、サラは泣いている。自分さえも知らない自分を、サラは見せつけられている。それに戸惑い、焦り、苦しむ。自分が何をしていたのか、何を思っていたのか、分からないのに。


 何て、声をかけてやればいいか、分からない。


 聞こえてくる慟哭の涙。通信というあまりに近すぎて遠い距離。声が聞こえる。そのことが、今はどうしようもなくもどかしかった。


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