3 悪魔との取引
店に着いた頃には日は完全に上り切っていた。
大きな商店街から外れた人気の少ない雑居ビルの地下に彼の店はある。
路肩に車を停めて地下へと続く階段を下る。
まだ店は開いていないようだった。
金属製の扉を力強く叩く。
すると中から何かたくさんの物音と共に足音が聞こえてきたのち勢いよく扉が開いた。
「うおっ!もうちょい周りに気を付けろよまじで」
体に勢いよくドアがぶつかりそうだったのをギリギリでかわす。
「すまんな。ほら入って」
改造屋のマーカスの後ろをついていく。
彼は一見ただの好青年だが四肢から脊髄に至るまで、体の七割以上が機装に置き換わっている。
普通のやつがそんなに体を改造すると機装を操作するだけでその負荷で神経が焼き切れる。
だがそれでも平然と生活しているガチの変態野郎である。
「で、ヤバいやつってなんなんだ。お前がそこまでいうんだからよっぽどのものなんだよな」
「こいつだ」
自分の腰ほどまである大きさの箱が二つあった。
「ん?どっち?」
彼にそう尋ねるのきょとんとした顔で答える。
「え?ああこれセットで一つ。上半身用と下半身用」
「一旦見せてくんない」
「ああいいぜ」
すると彼は箱の上部を慎重に開けた。
かなりの低温で保存されていたようで白い冷たい空気が開けた途端から漏れ出した。
彼は中身を持ち上げ自慢気に見せびらかす。
「ほら。どうよこれ」
両腕と胸部と脊髄の部品が一体となった真っ黒な機装が現れた。
こんなものカタログでも闇市でも見たことがない。
どこの製品だ?
「すげえな。こんなのどこで手に入れた」
「なんかオークションで中身わからないし開けられない箱が二つ売りに出てたのよ。それ買って色々したらこれが出てきたってわけ」
「ほーん、すげぇじゃん。なんでこんなの俺にみせるんだ?自分につければいいじゃん。それか商品として売るとか」
「俺これつけれるほど体余ってないしさ。売るにしても安全性とかの面で問題がありすぎて買い手が付かん」
取り出した機装を箱に戻しながら彼はそういう。
「いや俺も無理よ」
「やっぱ?あんたも結構負荷高いのつけてるじゃん。それに仕事も結構危ないだろ?これありゃ余裕じゃね?それに危なそうならすぐ外すし、交換用の負荷軽めの機装もこっちで用意する」
「そんな簡単な話じゃない。たかが知れてる程度だぜ?……ったく、考えさせてくれ」
「了解、いつでも来いよ」
―――
翔太は店から出ていった。
椅子に座り目を閉じてゆっくり呼吸する。
するとようやく体に走る緊張感が和らいでいった。
「くそっ。俺はなんであんな話に乗ったんだよ!」
力任せに机を叩く。
すると机は見たことない形にひしゃげた。
時は二週間前に遡る。
―――
「お前らなんの真似だ」
黒い鎧のような機装男が俺の喉元に銃口を突き立てている。
俺は自分で言うのもなんだが人よりも遥かに強い力を持っているはずだ。
マンイーターだってほとんどの種を単独で討伐できるし傭兵として長い期間汚れ仕事を担ってきた。
だがさっき赤子の手を捻るかのように容易く抑えられた。
「クククッずいぶん威勢がいいが声が震えてるぞ?」
彼の喉から機械音声のような低い声が発せられる。
頬を冷や汗が伝っていくのを感じる。
「斗真もういい下がれ」
「了解」
後ろに立っていた女性がそう言うと彼は銃をしまい、お前なんかいつでも殺せると言わんばかりの態度で下がっていった。
「先ほどは部下が失礼したね。こうでもしないと話を聞いてくれないと思ってね。私どもはこう言うものでして」
彼女はそう言いながら胡散臭い笑顔を浮かべながら名刺を差し出してきた。
「神代工業先端機装開発部?日本の大企業のお偉いさんがこんなとこになんのようだ」
「我々のことを知っていただいているなんて感激だ。一つ確認を取りたいんだがいいかな?」
「なんだよ」
彼女は後ろに視線を送るとその部下と思われる人物が端末を持ってきた。
「この方に心当たりは?」
「は?あいつが何かしたのかよ」
端末には俺の幼馴染であり太客でもある上野翔太の姿が映されていた。




