1 疑わしきは罰せよ
「らっしゃっせー」
入店してきた客を横目にマガジンに弾を込める。
時刻は深夜1時を過ぎようとしていた。
今日は久々のワンオペで憂鬱な気持ちだったが幸いいつもより客が少ない。
この時間俺以外シフトが入っていないのも、客が少ないのもこの辺りが警戒区域に入ったからだ。
あのクソ店長、勝手にシフト変えやがって。
今日はないはずだろうが。
弾を込め終わったマガジンを拳銃に戻してカウンターの下に隠す。
そうこうしているうちにさっきの客が会計するためにこちらにやってきた。
スーツ姿の客は死んだような顔をしながら商品と一枚の身分証を出してきた。
これから帰るのかこれから出社なのか。
どちらにせよご苦労なことである。
身分証に貼られた顔写真と目の前の顔を見比べる。
うーんまあ大体同じか。
身分証に書かれたバーコードを読み取るとレジとは別に設置された機械のモニターに、いくつかの情報が示された。
その情報とは客についての情報である。
性別、生年月日、国籍、住所、職業といったものが閲覧できる。
客は神様と言うが今じゃこっちが真の意味で神様である。
名前は木下純一郎で性別は男、年齢は……なるほどね。
その文字を見た瞬間に、隠した銃に手をかける。
「まだですか?」
「え?ああうん。木下さんで間違いないですよね」
「はい。そうですけど」
馬鹿だなーこいつ。
こんなやつに入り込みやがってさ。
モニターには赤文字で死亡済みと表示されている。
ちらりと薬室を確認した後に客、いや客に似た化け物野郎の顔に銃口を向け、奴が反応する隙も与えずにトリガーを引く。
頭蓋が割れ、ピンク色の脳みそが辺りに飛び散る。
だがなお彼は平然とその場に立っている。
男はニヤリと不気味に笑う。
「人間風情がふざけた真似を」
その時、腹部から黒くて不気味なほどに細長い二本の腕が飛び出る。
それはいきなり自らの体を引き裂き始めた。
店内に広がる吐き気を催す嫌な匂いと共に、その化け物の全身が露わになる。
三メートルを超えている身長に、それに不釣り合いなほどに細長い手足。
人の顔を模したような頭部は醜く歪んでいる。
「うへぇ気持ち悪りぃ」
その言葉は化け物の気に触れたようで勢いよくこちらに飛びかかってきた。
ただ一心不乱に爪を立てて腕を振りかぶる。
こちらも何もしないわけにはいかない。
キレたおかげで出来た大きな隙に乗じて再度銃弾を放つ。
化け物に放った銃弾三発が全て頭部に当たる。
次の瞬間、化け物の頭部の上半分が抉り取られるようにしてなくなっていた。
これには流石に奴も死んだようでだらりと腕が垂れ下がりその場に倒れた。
このタイプは動きは速いが単調だから読みやすい。
肌もペラッペラな紙装甲だからすぐ死ぬ。
いわゆる雑魚である。
この仕事を始めてばっかなら今ので最悪死んでるだろうが、あんなもの何十体と倒してきたのだ。
そこまでやれば流石に慣れる。
「一体目討伐と」
それよりもっとめんどくさいのはこいつの後処理である。
体を突き破りやがるせいでゴミが増えて増えてたまったもんじゃない。
とりあえず裏から袋とモップを持ってくることにした。
―――
数十分かけてようやく店内が綺麗になった。
店的にはあれだろうが幸いなことに客は一人も来なかった。
この仕事をし始めて2年と少し。
死体処理も完全に作業と化してしまった。
袋に詰めて床を拭き、扉を開けて換気する。
そしたら死体を外にある専用の金属製で車ぐらいのサイズの馬鹿デカゴミ箱に入れるためにゴミ箱の前まで引きずる。
この袋、一見ただのビニール製の真っ黒なゴミ袋に見えるがこんな重い物を詰めても破れるどころか引き延ばされる気配すらない。
一体どんなもの使ってるんだろうか。
ダイアル式の鍵を外して蓋を開けてみると中から今にも溢れそうなパンパンに詰められた袋が現れる。
「ったく回収日いつだよ。今日かよ、これ入るか?」
袋を持ち上げてゴミ箱に積みあげ、体重をかけながら力ずくで蓋を閉める。
みちみちと気持ち悪い音を立てつつも何とか閉めることができた。
回収部隊が来るのは大体六時だったか?
店の前に置かれた灰皿の前に立ち、煙草に火をつける。
全く、物騒な世の中になったものだこと。
元はと言えばあいつら化け物「マンイーター」のせいだ。
四十年かそんくらい前だったか?
最初はぶよぶよした肉塊みたいな見た目だったくせに急激な進化をして、いろいろ種類はいるが大体今の形になったらしい。
しかも襲うのは人間だけだと言う。
まるで人間っていうウイルスを駆除するための地球の免疫細胞みたいだ。
最近ではさっきのあれみたいに人に化けたりするからもっとタチが悪い。
あれのせいで会計に一々身分証明証見せろだ何だをしなくちゃならねぇ。
本当にやめてほしいね。
俺は煙草を揉み消した。




