第20話
「あんたが強いのはわかったよ。けど、それって拳法ってやつだろ? 俺は将来専業冒険者になって稼ぎてーんだ。素手で強くなっても意味ないんじゃないの?」
立ち上がったノーズはばつが悪そうにいった。
「武器がいいならそっちも教えてあげるよ。けど基本は無手ね。武器なんていつ壊れるか、なくなっちゃうかわかったもんじゃないでしょ。武器はあくまで便利道具であって強さの本質じゃないからね。そういう意味じゃ、魔法も一緒」
「あの! 魔法も教えてもらえるんですか!」
それまでいかにもやる気がないと言った様子だったトリスが急に意気込んで聞いてきた。
「魔法には興味あるんだ。まあ魔法も使えるのは使えるんだけど……これは無手で魔法に対抗する練習をするためだからあんまり実用性はないよ?」
マズルカ流では魔法を重視していないが、敵は当然のように魔法を使ってくる。なので修行の過程で自分たちも魔法を使う必要がでてくるのだ。
「それはどういうことなんですか?」
トリスは興味津々のようなので、ニルマは付き合うことにした。魔法がきっかけでもマズルカ流に関心をもってくれるならそれでいいかと思ったのだ。
「魔法ってのは直接人間が使うことはできない。なので魔法が使える存在と契約して使う。このあたりは知ってる?」
「いえ。なんとなく凄いことができるんだと思ってたぐらいです」
憧れているだけで、トリスは詳しく知らないようだった。
「この契約できる存在とか、契約方法ってのが魔法使いたちの秘伝なわけよ。これはそう簡単には知ることができない。捕まえて聞き出そうとしても、自殺しちゃうレベルね」
現在の魔法使いがどうなっているのかはわからないが、ホワイトローズのレオノーラと話をした感じだとさほど変わってはいないはずだ。
「……聞き出そうとしたことあるんですね……」
ザマーが若干後ずさっていた。
「別に拷問とかしようとしたわけじゃないよ? で、その契約方法がよくわかんないけど、魔法を使うにはどうしたらいいか。契約先が教えてくれないなら、契約元に直接聞けばいいんじゃ? てのがマズルカの魔法なわけよ」
「よくわからないです……」
「うーん。見せるにも今、契約全部切れてるらしいからな……あ、そうだ!」
ニルマは右手を振り、何かを掴んだ。
そのあたりを漂っていた炎の精霊だ。
「ほとんどの人間が使ってるのは精霊魔法らしいので、これで説明するね」
それは体長50センチほどの、燃えさかる炎に包まれた少女だった。
ニルマは精霊の首を掴んでいるのだ。
「私が抑えこんで干渉してるから姿が見えるね。こーゆーのがそこらへんをうようよしてます」
「マジかよ……」
ノーズたちは後ずさっていた。いきなりこんな非日常な代物を見せつけられるとは思っていなかったのだろう。
「精霊っていうとすごそうな気がするけど、こんなん幽霊と似たようなもんなので、幽霊つかめるならこっちもつかめます」
「普通は幽霊をつかめないので当たり前みたいに話を進めないでもらえないですかね?」
『え、いや、なに! 急に! 妾を精霊王の眷属と知っての狼藉か!』
「なんか言ってるけど気にしなくてもいいよ。で、契約なんですがオリジナルがいるならそんな面倒なことしなくても、こいつにそのまま使わせればいいです。呪文を唱えます」
ニルマはあたりを見回した。
燃やすつもりのゴミがあるようなのでそれを対象にすることにした。精霊をゴミへと向けたのだ。
「名も無き取るに足らぬ塵のごとき精霊よ、我に跪き頭を垂れよ。さすれば我が力をくれてやる。その矮小な才でもって我に仕え、我が願いを叶えるがいい。聖女ニルマの名において命じる。我が魔力を喰らい、あのゴミを燃やすぐらいのちょうどいい感じの炎を放て」
すると、精霊から小さな火の欠片が飛び出す。それはゴミにぶつかり、ちろちろと火をあげはじめた。
ニルマが手を離すと、囚われていた精霊は慌てて放れていった。
「よそは知らないけど、うちの呪文は基本、上から目線です」
『くっそぉ! 覚えておれよ! 精霊王様に言いつけるからな!』
「で。捕まえといたら契約もできるんだけど……私は契約方法をよく覚えてないのでできない。とこんな感じ」
それに大体の場合は魔法を使うより殴ったほうが早いので、わざわざ契約するのも面倒なだけだった。
「なんの参考にもなりませんね、これ。真似できる人いるんですか?」
ザマーが呆れていた。
「これを教えようってわけじゃないからね。実用性ないのはわかったでしょ」
「……教えてもらえないんですか?」
トリスはあからさまに落胆していた。
「そんなに魔法がいいの? じゃあ魔法使いを紹介するけど、それはまた今度ね。まずはマズルカ流をやってもらうから」
ホワイトローズのレオノーラあたりに頼めばいいだろうとニルマは気楽に考えていた。
「それをやればトリスに魔法を教えてくれるんだな?」
「そのうちね。魔法を使うにしてもやっといて損はないよ。魔力を扱うのも気を扱うのも身体を動かすのも似たようなもんだから」
「なんか大雑把で不安になるんですよね……この人」
ザマーが何か言っているが、ニルマは無視した。
「じゃあとりあえず最初の一歩。私のことは先生と呼ぶこと。あんた、とかじゃなくてね」
「はい、先生」
そう言うのは、これまで寝ぼけた様子だったカリンだった。
「そういえば、カリンさんは修行頑張るって張り切ってましたね」
思い出したのかザマーが言う。海に出かけるまえにそんな話をしていたのだ。
「頑張って神官になる!」
「よし! じゃあさっそく修行をはじめるよ!」
ニルマは勢いだけで話を進めた。
「はい!」
子供たちがそろって返事をする。どうやらその気になったようだった。




