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二の打ち要らずの神滅聖女 〜五千年後に目覚めた聖女は、最強の続きをすることにした〜  作者: 藤孝剛志
2章

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第2話

 経験則から、この世には魂と呼べるようなものが存在しているとされている。

 魂は肉体から離れて存在できるものではなく、死ねば天に還るとされていた。


「この幽霊っぽいものってなんなんですかね?」


 ザマーにもなんとなく見えているらしいそれらは、屋敷の中を逃げ惑っていた。


「魂も、気合いでこの世に留まることは可能だったりするんだけど」

「しょっぱなからうさんくさいですね。気合ってなんだよって話ですよ」

「で、可能ではあるんだけどそうなると、その力をほとんど、この世に留まることだけに使うようなことになっちゃうのね。ちょっとでも気を抜くとぼやけて、拡散しちゃうような。そうなると余計なことを考えてる余裕はないわけ」

「ということは、彼らにはまともな思考能力はないと」

「そう。恨みだとか怨念だとかで無理矢理この世にしがみついていて、しがみつくためにはそれ以外のことを考えることができなくなる。で、どんどんこじらせていって、こんなことになっちゃうわけよ」


 ニルマには、それらがとても哀れな存在に見えていた。

 だが、そうはいってもこうなってしまってはそれらが元人間であろうと関係はない。

 この世に未練を残した人間のなれの果てなど害獣と同程度の存在でしかなかった。


「ざっくりまとめると幽霊はほぼ悪霊ってことですかね」

「まあ、そうだね。修業を積んだ魔法使いとか聖職者とかなら幽霊になっても比較的ましな状態だけど」

「彼ら、ニルマ様をむちゃくちゃ怖れてるようですが、外には逃げないんですね」

「それがねー。大抵の幽霊って場所とセットなのよ。この世に存在するためには自我を保ち続ける必要があるんだけど、何もなしではそれも難しい。なのでなにか目印になる場所をよすがにしてるってわけ。だからまあ、悪霊を祓うだけなら屋敷を解体すればOKなんだけど」


 だが、今回はそういうわけにはいかない。ニルマはこの屋敷に住むつもりだからだ。

 なのでニルマは、そこらにいる悪霊やら怨霊やらを殴りつけ、握り潰し、蹴り飛ばしていた。


「えーと、幽霊がそーゆーものだというのはわかりましたが、なんで殴れるんですか?」

「幽霊ってのは害があるわけで、それは人間に影響を及ぼせるからでしょ?」

「ですね。無害であるなら怖れる必要はありませんし」

「だったら、こっちだって相手に害を及ぼせるでしょ?」

「雑な理屈だな!」

「まあ、こっちの霊体で相手の霊体を殴ってるだけだから、そんな難しいものじゃないよ」


 宗派によって解釈は異なるが、マズルカでは人は、魂、霊体、物質の三要素で構成されているとされていた。

 魂を霊体が覆っていて、霊体を通して物質である肉体を操っているとしている。

 幽霊が物を動かしたり、人に危害を加えられるのは、霊体を通してなのだ。

 物質と霊体の関係は一方的なもので、物質から霊体への干渉はできない。

 だが、霊体同士での干渉はできる。霊体を意識して操ることができるなら、霊体を殴るなど簡単なことだった。


『ぎゃあああああああ!』

『ひいいいいぃいいぃ!』


 エントランスホールにいる悪霊をニルマはあらかた片付けた。


「で、それなんなんですか?」

「ん? 敵多いし、振り回してぶつけるのに便利かなって」


 ニルマは、ぼんやりとした姿の悪霊を両手に持っていた。

 首のあたりを掴んで保持しているのだ。


『ぐえぇぇぇ……』

『おぼぼぼ……』


 悪霊がうめき声をあげるが、その声にはまるで力がない。

 ニルマが、ホールの中ほどにある階段を上り始めると、周囲から悪霊共が殺到してきた。

 それらは恐怖を覚えないほどに知性が摩耗しているらしい。

 ニルマは、両手に持つ悪霊を振り回した。


『ぎゃあああああ!』

『あがががが』


 ニルマは、次々に現れる悪霊に悪霊を叩きつけた。

 悪霊は悲鳴を上げて、その存在を散らしていく。

 持っていた悪霊が消滅したなら、別の悪霊を掴んで新たに武器にしながら、階段を上っていった。

 そうやって二階にたどり着くと、廊下の先に人影が見えた。

 白いドレスを着た、少しうつむくようにしている少女だ。


「女の子!? でも、ここには誰も住んでないはずでは」

「あれも幽霊だね」

「……みたいですね」


 少女が顔を上げると、その顔が醜く崩れ始めた。

 頬の肉が腐り落ち、白骨をのぞかせる。眼球がこぼれ落ち、そこからは血があふれ出した。

 純白だったドレスはたちまち血に染まり、瞬く間に風化してボロボロになっていく。

 そして、少女は低く不気味な声で唸りだした。


『ううぅぅうううぅううう――ってこわっ! え? なんなの? なんなのこれ!?』

「喋れるのもいるんですね」

「たまにいるね」


 ニルマは、首が折れてぐったりとした様子の悪霊を掴み、床に倒れている悪霊を踏みしめていた。

 悪霊側から見れば、恐ろしい光景なのかもしれない。


「あれがボスかな? 仕留めれば問題解決?」

「幽霊にボスとかそーゆーのいるんですか」

「ここまで大量だと、それを統率してるやつとかいそうだし」

『ひいいいぃ!』


 少女の姿が消える。

 同時にニルマの姿も消えていた。瞬時に間合いを詰め、少女がいた位置にまで移動したのだ。

 ニルマは掴んでいた悪霊を捨て、何もない空間に手を伸ばしていた。

 すると、消えたはずの少女の姿が浮かび上がってきた。

 ニルマの手は、少女の首根っこをつかんでいるのだ。


『あの……すみません……少しお話を聞いていただいてもいいでしょうか……?』

「いいよ」


 ニルマが手を話す。

 少女の霊はその場に崩れ落ち、途端に咳き込みはじめた。


「幽霊ってなんなんですかね……ほんと……」


 ザマーがつぶやく。

 少女の姿は、最初の美しい状態に戻っていた。 

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